はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません 作:何を書けばいいんだ
デスティニーのコクピットでシン・アスカは息を整えながら戦況を見極めていた。
彼はミレニアムと共にファウンデーション艦隊の注意を引く囮役を務めていた。
ブラストインパルスを駆るルナマリアの活躍によりファウンデーションの戦力は激減し、寡兵であった彼らにも些かの余裕も生まれる。
しかしそんな小休止を突き破る漆黒の機体が四機、まっすぐ突き進んでくる。
「ブラックナイツが来るよ!」
「奴らにビームは効かない、ルナマリアとアグネスは援護だ!」
新手の出現にいち早く気づいたヒルダが警告を飛ばすと共にシンはデスティニーのアロンダイトを構えながら先頭切ってブラックナイトスコードルドラたちと相対する。
「何よ出しゃばっちゃって」
「私はソードで行くわ! アグネス、露払い頼んだわよ」
「はぁ!? インパルスなんて型落ちでやるつもりとか正気!?」
喚くアグネスを無視してルナマリアは対艦刀であるエクスカリバーを携えデスティニーの援護に向かう。
確かにインパルスは最新鋭機と比較すると性能的に劣るのは否めないが、それでも高いポテンシャルを持っているのは間違いない。
ルナマリア自身も不利は承知だが彼女が渡り歩いてきた戦場はいつでも不利な状況だった、つまりこんなものは慣れっこというわけだ。
『おまえらホンット学習しねえバカ! 俺たちに勝てるわけねえのによォ!』
『キャハハ、また墜としてあげる』
ブラックナイツのグリフィンとリデラードは対艦刀片手に自身に向かってくるシンとルナマリアを嘲笑う。
彼らは己の能力と機体の優位性を絶対的なものだと確信していた、そしてそれは間違っていない。
ブラックナイトスコードの性能は当代最強と言っても過言ではなくパイロットを務めるアコードもそれと同じく世界最高峰。
相手は所詮ただのコーディネーター……彼らアコードと違って特別な存在ではなく、機体すらもこの時代に於いては凡庸の域に片足を踏み入れようとしている。
けれどシンは己に向かってくる四機の黒騎士を相手に何ら気負うこともなく構えていた。
無論、彼自身は彼我の戦力差を正確に捉えている。
数的不利、機体性能の不利、特異な能力を持つパイロット能力としての不利。
それら全てを理解した上でシンは自分なら勝てると不思議な確信を持っていた。
今の彼には頼れる仲間がついている、恋人のルナマリア、頼れる先輩のヒルダ、いけ好かないが腕前はそれなりに認めているアグネス、そしてデスティニー……ただの乗機や愛機に留まらない相棒とも半身とも言える機体。
「今度は負けない……ッ! デスティニーさえあればお前らなんかに!」
アロンダイトとレールガンを片手に保持しながらデスティニーはルドラと交差、互いに向き直り格闘戦へと移行する。
持ち前の連携でデスティニーを囲い込み押しつぶそうとするルドラ達、あらゆる攻撃が必殺でありながら僚機への援護を兼ねた牽制という並みのパイロットでは数瞬とすら持たない荒れ狂う海の如き攻勢をシンは冷静にいなし乗り越えていく。
そして間隙を縫うようにルドラたちに一撃、お手本のようなヒット&アウェイ戦法で逆に翻弄すらしていた。
『なんだ……! コイツ……っ!?』
エルドアでシンと対峙したアコード、グリフィンが思わずとばかりに呟いた。
ジャスティスに乗っていた時とはあまりに動きが違う、あの時は自分の攻撃を捌くので精一杯だった敵が今では自分を含め四人の攻撃を凌ぎきっているのだ、困惑するのも無理はない。
業を煮やした彼らはここでアコードの能力である読心を使いデスティニーの動きを見切ろうとするが――
『思考が読めないっ!』
『コイツ考えていないのか!?』
読心と併せて二機の連携で片を付けようとしたリューとダニエルは驚愕の声を上げた。
シン・アスカの心は正しく無我の境地、ただの反射……あるいは本能のみで戦っていたのだ。
これはまさしくシンの為に製造されたデスティニーだからこそできる芸当である、パイロットの感覚と機体のレスポンスに一切の誤差がないからこそのもの。
結果、見えたはずのシンの動きが見切れず動きにブレが生まれた二人のルドラにデスティニーが吸い込まれるかのように接近、パルマフィオキーナ掌部ビーム砲で以てして腕部をもぎ取っていく。
『クッ……! だがこの程度ッ!』
アコードたち四人の中でもまとめ役を務めるリューはテレパシーを用いて兄弟たちと共に体勢を立て直そうとする。
確かに想像を超える強さのシンが誤算だったのは間違いない、しかし依然として四機で一機を取り囲んでいる彼らの方が依然として有利なのには間違いないのだ。
冷静にデスティニーの隙を突けるように陣形を整えていくブラックナイツ、だがそこに切り込む赤き機体が。
「でぇえええい!」
エクスカリバーを振りかぶり斬りかかるその機体はインパルス。
この戦場においてはやや力不足感のある機体だが、対艦刀の威力はフェムテク装甲を持つルドラをしても脅威と言わざるを得ない。
『インパルスか……!』
不意打ちとはいえこの程度は避けるのがアコード、インパルスを駆るルナマリアも想定はしていたのか慌てる様子もなく斬り抜ける形で距離を空けようとする。
これが普通の戦いであれば機動力に勝るルドラがインパルスに追い縋りそのまま撃墜となるわけだが。
「ルナァ!」
乱入で一瞬気が逸れたルドラにレールガンが叩き込まれた。
デスティニーが目を光らせているこの場ではインパルスに構っている余裕などアコードたちには存在しない。
さりとて虎視眈々と一撃必殺を狙うインパルスの存在を意識の外にやるのも危険、このジレンマが彼らを縛り付ける。
この戦況にシンはほくそ笑む。
彼らの役割はファウンデーションの主力部隊を少数精鋭で釘付けにすること。
ブラックナイツの大半を完全に抑え込みそのうえ優位を保ってすらいることは望外の戦果と言ってもいいだろう。
このままでいい、シンはそう判断した。この調子で足止めをしつつ敵を削っていけば確実に勝利が手に入ると彼はわかっていた。
しかしそんな彼に一本の通信が入る。
『お兄ちゃんッ! 聞こえる!?』
「マユか!? いったいどうしたんだ!」
聞こえてくる声は妹であるマユのもの。
その切羽詰まった声色に彼はただ事ではないと悟る。
『フリーダムがブラックナイツに足止めされててレクイエムに近づけないの! このままじゃオーブが……! お願いお兄ちゃん、オーブを守ってッ!』
「キラさんが……!?」
本来の計画ではフリーダムがレクイエムの防衛艦隊を突破し破壊を試みることになっていた。
しかしそれができないとなるとオーブが焼き払われる未来が確定することとなる。
ラクス・クラインを救出してこちらに向かってきているアスラン・ザラに託すという手もあるが……シンはそれを良しとするような男ではない。
彼の脳裏によぎったのは在りし日の記憶、戦火に包まれた故郷で成すすべもなく全てを失うこととなった苦々しき過去。
シンは守りたかったのだ……平和と、そして普通に生きているだけの無辜の人々たちを。
ヤヌアリウス……モスクワ……レクイエムは多くの人々を焼き払ってきた、それこそかつてのアスカ一家のような人々たちが何の前触れもなく一瞬で虐殺されたのだ。
「大丈夫だ!」
もうあんなことが起こってはいけない、起こしてはいけない、彼はそのために軍人を志した。
「絶対にレクイエムを撃たせたりなんかしない! オーブは俺が守って見せるッ!」
シンはそう宣言するや否やデスティニーの出力を全開まで引き上げる。
ここまでは時間稼ぎに徹していた彼だがこれからは違う、全力で突破してレクイエムの発射を阻止する時間との勝負となる。
関節部に負荷が掛かり赤熱するかのように発光したデスティニーは先ほどまでのじわじわと敵の戦闘力を削る戦いとは打って変わって、シン本来の一撃必殺を志した大胆不敵なものへと変貌した。
『コイツっ!? また動きが……!?』
猛烈な勢いで突進するデスティニーがダニエルが操るルドラの腕を斬り飛ばす。
周囲の兄弟たちの援護や妨害すらまるで無いもののようにぬるりとすり抜けていくその姿にリューは焦りを禁じ得ない。
本来なら既にこの場の制圧は済んでおり、自分たちは戦力を分散したコンパスとオーブ軍の掃討に取り掛かっているはずなのだ。
であるにもかかわらずこの苦戦、役割を果たすことを至上価値としている彼らアコードにとってそれは何物にも代えがたいストレスへとなる。
とにかくデスティニー……アレを墜としさえすれば全てが上手くいくはず。
そう考えたリューは縦横無尽に暴れまわるシンに翻弄され狼狽しつつある兄弟を宥め今度こそ力を合わせるべくテレパシーを送ろうとするがその矢先――思いもよらぬ方向から飛んできた高出力ビームが彼のルドラを大きく揺さぶった。
『おのれっ、ジャスティスかっ!』
下手人に目をやるとそこにいたのは真紅の機体、イモータルジャスティス。
周囲の雑兵を蹴散らしたアグネスが戻ってきたのだ。
「なによ全然効いてないじゃない。マユのやつ嘘ついたわね!」
「せいぜい妨害が関の山だって言ってたでしょ。ちゃんと話を聞いときなさいよアグネス」
彼女はビームを直撃させたのにも関わらず損傷すらしないルドラにぼやくが、そこに苛立ちはなく軽い口調である。
相手の質はどうあれスコアを稼いだことで機嫌が良くなっているようだ。
そんな調子のいいアグネスと対照的に苦々しい表情を浮かべるのがアコードたちである。
イモータルジャスティスはライジングフリーダムと並ぶ高性能機、決して軽く見ていい機体ではない。
そんな相手がこの苦境に増援として現れたのだ、いかに自負心の強いアコードであろうとそろそろ危機感を覚える頃合いだろう。
『こうなればシンクロ・アタックだ! 行きますよ!』
『『『了解』』』
状況を打開すべくリューは兄弟たちに号令をかけた。
四人の精神を完全に同調させることで一瞬のラグすら生まれぬ人間離れした連携を実現する戦法だ。
彼らがやろうとしていることは単純、これからシンの精神に干渉して動きを鈍らせる、そしてその瞬間を四人で突き撃墜するというものである。
この戦場を我が物顔で荒らしまわっているデスティニーさえいなければ後はアコードの独壇場となる、故に彼らはチャンスを逃すまいと最大限の集中を注ぐ。
『闇に堕ちろ! シン・アスカァ!』
示し合わせた通り、グリフィンがシンの精神奥深くに潜行し揺さぶりにかかった。
そして精神を一体化させている三人も同様にシンの内面を垣間見る。
……そこは言うなれば苦しみと絶望の坩堝であった、硝煙と血の匂い漂う死が充満した空間、シンの奥底に沈殿した闇とはそういうものだった。
シンにとっての地獄が始まったのは彼がまだ十四歳の時。
普通の少年として家族らと平和に生き、ただただこの日常が続くのだろうと漠然と信じていた彼であったが……世界は彼を裏切った。
戦火に焼かれる故郷、飛び交う殺意に引き裂かれ無残な物体へと変貌した愛する家族、そして全てを失ったことを悟り慟哭の叫びをあげたあの日。
けれども、彼は前に進もうとした。
戦争に立ち向かい平和な世界を守るためザフトのパイロットとしてその身を戦火に投じたのだ。
悲しみを乗り越え新天地で努力を重ね、掛け替えのない戦友と胸を張れる立場を得た彼は再び巻き起こった動乱の中で己の力を活かそうと奮起した。
もっともそれで変えられるほど世界は甘くなかったのだが……。
戦場から戦場へ、戦いに次ぐ戦い、それでも拡大し続け激しさを増していく戦火。
どうすれば止められるのか、その答えもわからぬまま精神をすり減らし続け怒りに飲まれていく少年。
心を交わし合い守ると誓った少女を守り切れず、心の内で憎からず思っていた故郷を焼く側に回り、共に戦場を駆け抜けた親友をも失って彼は失意と涙に沈むことになった。
結局のところ……彼の足搔きは報われたとは言い難いものだったのかもしれない。
しかし……それでも、絶望の中にも希望はあった。
たしかにステラを守ることはできなかった、だが道具として使い潰されようとしていた彼女の最期に寄り添い救いを与えることはできた。
たしかに彼はかつて己が忌み嫌った誰かの故郷を焼き、泣かせる側へと成り果てたかもしれない、それでも彼の八面六臂の奮戦に助けられたものはいた。
友と臨んだ最後の戦い、何が正しい選択だったのか、考えども未だにその答えは出ない、ただレイとの友情に応えるべく戦ったことだけには後悔はなかった。
失うことの多い人生であったが……それだけではなかったのだ。
そして戦い続けた果てに、もう二度と帰ってこないと内心で認めていた家族と過ごした幸せな日々、その一欠片だけでも取り戻すことができた。
『なんだ……!?』
暗黒の中を揺蕩っていたリューは動揺を露わにした。
一寸先も見えない闇の中に燦然と輝く光がリューの視界にポツリポツリと浮かび上がっていく。
その光こそがシンの心を支える希望だ、どのような苦難に見舞われようともコレがある限り彼が折れることは決してない。
……でていけ……
『声……だと……?』
誰もいない精神空間、その中で確かに木霊する何者かの声。
……シンの中から……出ていけッ……!!
強まる語気に比例するかのように増す光から逃れようと顔を背けるも徒労に終わる。
『うっ、うわぁああああああ!!』
光の奔流に押し流され苦悶の声を上げるリュー、気が付けば彼は現実の空間へと戻っていた。
未だ光に眩む目をしばたたかせていると眼前にディスティニーが迫る。
『っ……!?』
リューは驚愕したままルドラを操りディスティニーに斬りかかりその機体を両断した……かに思えたが、どういうわけかその姿は霧散し消え去った。
『奴が消えた……!? ありえない……!!』
動揺を隠しきれない彼は兄弟たちの思考を通して戦況の把握に努める。
だがリューに感じ取れたのは神出鬼没のデスティニーにリューと同じく翻弄される兄弟たちの混乱だけだ。
『どうなってるのコレ!?』
『何が起こってるんだ、クソッ!!』
『知らないよ! こんな武器!?』
急転直下の事態に陥ったアコードたちはひとまず別々の方向に飛び回ることで時間を稼ごうとする。
この状況においては悪くない判断である。
凡その射撃兵装を無効化するFT装甲と他の追従を許さぬ機動性を併せ持つルドラはただ動くだけで絶対的な防御力を有することができる。
その証拠にルナマリアとアグネスは攻めあぐねていた。
インパルスでは追いつけずジャスティスのビームは弾かれ、しかもここからビームマントから分身を展開して撹乱までしてくるのだ、普通ならこれだけで手の打ちようがなくなるというもの。
もっとも、この男シン・アスカはその程度で凌げるような相手ではなかった。
高速戦闘はシンの十八番だ、残像で撹乱したところで彼の目にはルドラの動きが良く視えていた。
「そんな寝ぼけた分身が通用するかッ!」
声高に言いながらシンはデスティニーの真価を発揮させる。
今までの動きが何だったのかというような超機動で既にアコードたちはその機影を捉えることすらできなくなっていた。
そして……
「分身はッ! こうやるんだァ!!」
その宣言と共にデスティニーが夥しい数の分身を展開、一斉にルドラを取り囲む。
『な……これは!?』
視界を覆い尽くさんばかりの光景にアコードたちは驚き戸惑い動きを止めてしまう。
そう、最後の命綱であった機動力を失ってしまったのだ。
「あいつらの、仇ーッ!!」
真っ先に動いたのはヒルダ・ハーケンだった。
ベテランである彼女はその豊富な経験からルドラの移動先を予測しながら虎視眈々と待ち構えていたのだ。
そして迷いなく振るわれたゲルググの重斬槍がリデラードの乗機を切り裂いた。
『ヒッ、いやぁああああ!?』
FT装甲はその強固さで機体が両断される事態は防いだ……しかしそれは恐怖を長引かせただけであった。
悲鳴と共に爆炎に飲まれるリデラード、その絶命の慟哭は精神を同調していた兄弟たちにも波紋する。
『リデルーーッ!!!』
『あ、あぁ……!?』
『いやだぁあああ!!』
崩壊。
茫然自失となったアコードたち、その隙を見逃すほどコンパスは甘くない。
「アハハ、そーれもう一機」
無防備な状態になったリュー機にジャスティスのシールドブーメランが突き刺さる、撃墜数が増えたことに喜んだアグネスが笑い声をあげた。
「私だってやれるんだから!」
その言葉と共に全速で突進するインパルスのエクスカリバーがダニエル機のコックピットを貫通する。
かつてあのフリーダムをも打ち破った技はFT装甲を物ともせずにルドラを撃墜した。
瞬く間に撃ち減らされるアコード、残ったのはグリフィン一人……
「お前だけは絶対に……!」
シンの鋭い眼光が緑色のルドラを睨みつける。
デスティニーがフラッシュエッジを投擲し、その両腕を奪う。
更にアロンダイトすらも投げつけ両脚を斬り落とした。
達磨状態のルドラに向かってシンは突き進む。
「許すもんかァーーーッッッ!!!」
パルマを起動しそのままルドラのコックピットに手刀を叩きこむ。
打ち付けられるビーム粒子とPS装甲による衝撃がルドラを砕きその内部を蒸発させ破壊した。
全てのルドラが撃墜され束の間の静寂が訪れた。
だがシンにはまだやるべきことがある。
「ルナ、デュートリオンビームを! それとフォースに換装しろ、レクイエムを破壊する!」