はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません 作:何を書けばいいんだ
「バカな……っ! なぜだッ! どうしてこうなった!? 我らの計画は完璧だったはずだ!!」
ファウンデーション宰相、オルフェ・ラム・タオの絶叫がコックピット内に木霊した。
彼の眼に映っているのはレクイエムから火柱が立ち昇る光景、彼らの切り札であり計画の要がまさに破壊された瞬間だった。
オルフェの内心が怒りと動揺、そして焦燥感に満たされる。
ここからどうする、どうやって巻き返す、使命を果たすのにどういう道順を辿ればいい? 彼の聡明な頭脳がフル回転し望む未来図を描こうとする。
だが……聡明だからこそ現実を直視せざるを得ない。
既に自分たちは詰んでいるのだと。
結局の所、レクイエムという暴力装置がなければ何も始まらないのだ。
仮に今ここで奇跡が起きてラクス・クラインの心を手に入れキラ・ヤマトを抹殺してこの場を切り抜けたとしても、この後押し寄せてくるであろう蒙昧なナチュラルと革新を拒む保守的なコーディネイターの大群による波状攻撃で蹂躙されることになる。
片腕にも等しかったシュラはレクイエム崩壊に気を取られた隙を突かれ敗北、母であり創造主でもあったアウラとは既に連絡が取れなくなっていた。
いったいどこで計画が狂ってしまったのか……。
無意味と知りつつもオルフェはここまでのことを思い返す。
エルドアでのコンパス強襲、そしてモスクワへのレクイエム照射、ここまでは上手くいっていた。
けれどそれ以降、レクイエムの照準を無理やりミレニアムに変更してからが問題だった。
ファウンデーションの主力艦隊を差し向けたコンパス残党とザフトクーデター軍が守るレクイエムに進行したオーブ艦隊。
これらの反攻はかねてから予測していたものであり撃滅する算段はついていたはずだったのだが……同じアコードの兄弟でありファウンデーション軍の中核を担うブラックナイツの大半を送り込んだのにも関わらず異様な粘りを見せるどころか逆に圧倒してくるデスティニー、そしてどこから拾ってきたのかデストロイなんてものまで投入してくるオーブ軍によってオルフェの計算は完全に破綻してしまった。
特にデストロイ、後々使い潰すつもりだったとはいえファウンデーションの泣き所である数的不利を補っていたザフト艦隊を圧倒的殲滅力で瓦解させたあの機体はまさに厄災としか言えなかった。
これのせいでオルフェは早々に艦隊指揮を放棄しレクイエムのカバーに赴く必要が生まれてしまったのだ。
彼らの転落はそこを起点として始まったと言っても過言ではない……優秀な指揮官の抜けたファウンデーション艦隊は統制を欠き、ミレニアムとその旗下のMS隊に余裕を与えブラックナイツの壊滅と女王のアウラ・マハ・ハイバルの座乗艦であるグルヴェイグの轟沈まで招いてしまう。
少数精鋭が故に戦力の一角を喪失するとそこから巻き返す暇すらなく一気に突き崩される。
その結果がこれである、もうオルフェとイングリットしか残っていない。
『オルフェ、イングリット。もうやめましょう、これ以上の戦いに意味などありません』
ラクス・クラインからの通信がオルフェの神経を苛立たせる。
彼にとってラクスとは己と運命を同じくする者、それこそ運命共同体といってもいい存在である。
だがそんな彼女が運命に逆らい、自分たちと対立し、のうのうと勝ち馬に乗ろうとしている。
キラ・ヤマトという忌々しい失敗作を隣に侍らせ訳知り顔で上から自分たちに物事を説こうとするその姿は今のオルフェにとっては悍ましい悪女にも見えた。
「何をいまさら……! 使命を投げ出したばかりか自分より劣った者たちに囲まれ崇拝されて、いまもこうして知ったような顔で我らを見下している! あなたはさぞや気分がいいことだろうなっ!」
それは八つ当たりとも、負け惜しみとも言えるものだった。
もうオルフェは内心ではラクスが自分のものになるなんてことは考えられなかった。
ならばせめてそのラクスが傲慢で、冷酷で、自分が心から求める価値すらない存在だと貶めなければやってられなかったのだ。
「私の背負っているものなど何も知らぬ癖にッ!! あなたは世界ではなくただ自分の欲望を優先している! なんと身勝手で冷たい女だ! 馬鹿どもが戦い続け滅びようとも一向に構わぬということかっ!」
激情を吐き捨てながらオルフェはフリーダムに突貫する。
ただただ無意味な攻撃。
ある種、惰性の戦いを彼は引き延ばす。
武装の多くを失ったカルラとプラウドディフェンダーにドッキングした上に各種武装も万全なフリーダムでは、いかにオルフェが優れたパイロットだとしても押し切れず逆にあしらわれてしまう。
全てがままならない状態で、ラクスの落ち着いた窘めるような声がカルラのコックピットに響く。
『オルフェ。あなたが私のことをどう評しようとも構いません。私とあなたは互いのことを何も知らないのですから……。けれど……私は誰かを自身より劣っていると考えたことはありません、命に優れている劣っているなどないのです。誰もが誰かにとって尊い存在です』
「なら……! ならばなぜ我らは……! なぜ私は愛されない!?」
誰もが誰かにとって尊い存在、ラクスの言にオルフェはこれまでの人生を振り返る。
それから彼はそれが欺瞞に過ぎないと切り捨てた、オルフェがオルフェとして尊ばれたことなどただの一度もない。
尊ばれていたのはファウンデーション宰相、アコードの長兄で世界を導くオルフェ・ラム・タオとしての能力で、彼自身の人格や思想なんてものは気にもされていなかった。
『いいえ、必ず誰かがあなたを見ています。あなたの辿った軌跡、ここに至った苦悩を理解してくれる誰かが……それは、あまりに近すぎて気づいていないだけなのかもしれません』
こちらに寄り添うような声色。
けれどオルフェにとってはそれすら通じない。
彼にとって最大の理解者というのはラクス・クラインと定められているのだ、そしてその彼女がこちらを拒絶した以上、彼にはラクスの語りはただ耳触りがいいだけの綺麗事でしかない。
「そのような綺麗事……っ! 私にはあなたが必要だったのだ!」
『オルフェ……!』
アコードにとっての存在意義とは使命を果たすこと、それができないのであればその生に意味はない。
そしてオルフェの使命はラクスと共に争いの絶えない世界を正し平和をもたらすこと、ただその為だけに産まれ、生きてきた。
「人の愚かさゆえに我らは生まれた……ッ! 誰も彼も平和だ平等だと口にしながら他者に変わることを要求し、決して自ら変わろうとはしない!」
『そんなことはない!』
オルフェの物言いをキラが真っ向から否定する……が今さらそれで止まるわけもなく。
「だからいつの時代にも争いは絶えない! 恨みを忘れず、破滅に瀕しているというのに目先の損得や思い込みに憑りつかれ足を引っ張り合う……! みんな愚か者だっ!! 導くものが必要なのだ! この終わらない分断と流血を終わらせる! その為に我らが生み出されたのだ! なのになぜ世界は我らを拒む!? どうして差し出された手を払いのける!?」
慟哭にも等しいオルフェの血を吐くような言葉。
自分たちのやることに対して反発が起こるのはわかっていた、それでもやがて最後は彼らの正しさが受け入れられるのだと信じていた。
だから耐えた、世界を導くに足る存在へと自身を昇華する道のりに。
失敗すれば全てを失う、アコードといえど心ある人でしかない、母から送られた恵まれた才能があったとしてもプレッシャーはあった。
それでもやがていつかは、と報われることを信じて兄弟たちを励まし、必要な技能を会得し、運命の人と踊ること夢見てダンスの練習をした。
そしてその努力の日々は水泡に帰そうとしていた。
『人は必要から生まれるのではありません。愛から生まれるのです!』
「ならば必要から生まれた我らはなんだというのだ!?」
フリーダムのディスラプターでカルラの左腕がもぎ取られる。
この決闘の結果がどうであろうと結末は変わらない、無意味な戦いだ、オルフェの人生のように。
オルフェが過ごした二十年の歳月、彼が積み重ねた全てが消え去る。
「こんなことなら……! こんな結末に至るのであったなら……!! 生まれるべきではなかったのだッ! なぜ我らを作ったっ! 何も残せず、誰にも顧みられることなく無意味に消えるだと!? ふざけるなぁー!!」
「もうやめて……! オルフェ!」
「……!? イングリット……?」
発狂したように呪詛を吐き始めたオルフェ。
その見苦しいとも言える姿に耐えきれなかったイングリットがシートから身を乗り出し彼を後ろから抱きしめた。
「もういい、もういいのよオルフェ……私は、知っているから……」
「イングリット……?」
一瞬呆気に取られ、彼は精神を同調させ彼女の内心に手を伸ばす。
そこで感じたのは暖かく、彼自身の精神に寄り添おうとする優しい感情。
ふとオルフェはラクスの言葉を思い返した、誰かが自分のことを見てくれているという言葉を。
「イングリット……まさか……お前なのか……?」
「……」
無言でイングリットはオルフェに顔をうずめる、それで十分だった。
アコードとして心を読む必要すらない。
操縦桿を握り締めていたオルフェの手から力が抜ける、さきほどまで胸中で燃え盛っていた激情が鎮火したのか今のオルフェには覇気はなくただ力なく項垂れていた。
ラクスの言った通りであった、もっと早くにこれを知れたのならまた違った未来があったのかもしれない。
けれど、もはや事ここに至ったならば取り返しはつかない、だがやりようによっては少しはマシな結末を迎えられるかもしれない。
そう考えたオルフェは僅かに逡巡した後、戦場全体に通信を送った。
「ファウンデーション宰相オルフェ・ラム・タオからコンパス総裁ラクス・クラインへ降伏の申し入れをしたい」
『降伏を受け入れます。これ以上の流血を私たちは望みません』
依然としてコンパスの活動は凍結されている。
すなわちこの宣言に公的な意味はない、だが戦う意味を失った兵士たちにとってこれらのやり取りは戦いの手を止めるのには十分な効力を発揮した。
「此度の戦いはファウンデーション王国女王アウラ・マハ・ハイバル、そして宰相である私の主導によって起こされたものだ。ゆえにその全責任はアウラと私が負うものであり、両名の指揮下にあった者たちは命に従ったに過ぎず罪はない。どうか彼らには寛大な処置を願いたい」
「オルフェ? いったい何を……」
全責任を負う、その宣言に不穏なものを感じたイングリットが動揺を露わにする。
「イングリット……お前だけでも生きろ。そして……覚えていてくれ、私という人間がいたということを」
「そんな……!? オルフェ……いや……あなたのいない世界なんて……! お願い、私もあなたと一緒に――」
「ダメだっ! わかってくれ! 私が生きた証、押し付けることになってしまうが……もうお前しかいないんだ」
縋るようなオルフェの態度にイングリットは黙りこくってしまった。
やり方は間違っていたのかもしれないがそれでも世界を良くしようと生きた男がいた、そんな自分の存在を遺したいというほんのちょっとした我儘。
惚れた弱みを持つイングリットに断ることができるはずもない。
このやり取りを聞きラクスはおもむろに隣に座るキラへと顔を向ける。
『キラ……』
『うん、いいと思うよ』
ただの一言、それに対してキラもただ穏やかにほほ笑みながら一言。
今の二人はこれだけでも通じ合うことができる。
そうして互いに考えていることは同じだと確認したラクスはオルフェに通告する。
『あなたのおっしゃる通り、ただ命じられるままに戦った兵士に過度な責め苦を負わせるようなことはないはずです。しかし今度のことはあまりにも事態が大きくなりすぎました、あなたが世界にもたらした混乱と扇動、これらを収拾するにはアコードのオルフェ・ラム・タオは討たれなければなりません』
「いまさらジタバタするつもりはない、そちらの指示に従おう」
「オルフェ……!」
そうしてフリーダムがカルラへと接近、互いのコックピットを解放しイングリットを脱出させる。
『さあイングリットさん』
「でも……」
『大丈夫ですわ、こちらへ』
撤退の信号弾がレクイエム周辺宙域を彩る中で乗り換えは速やかに行われた。
そして……捜索隊が訪れた時、その場には大破したカルラの残骸が漂うだけでそれを行ったフリーダム、そしてその搭乗者であったキラやラクスの姿はなく忽然と姿を消してしまっていた。
暫くの探索の後、彼らは行方不明とされた……フリーダムに乗せたはずのアコードと共に。