はーい、マユで~す! でもごめんなさい、いまマユは生体CPUになってるのでお話しできません 作:何を書けばいいんだ
ブルーコスモスの拠点にて生体CPUの管理主任を務めている中年男性、サイモン・エドワースは今日もいつもやっている通り、基地に配備されている二体の生体CPUのパラメータを眺めていた。
椅子に座り端末に向かう彼の顔には深い皺が刻み込まれ、澱み疲れ切った眼がひっそりと暗い部屋の中に浮かび上がる。
以前は連合軍の技術者として可もなく不可もない仕事振りを見せていた彼だがとある事件からブルーコスモスに転身、コーディネーターの排斥活動にのめりこんだ。
その事件とは連合内でも未だ語られることもあるザフトのパナマ侵攻作戦である。
これは連合軍の保有するマスドライバー破壊を目論んだザフトによる攻勢で、ザフト部隊は勝利を収めたあと降伏してきた連合軍を一方的に虐殺した。
そこでサイモンは軍に志願した息子を失い、コーディネーターへの復讐を誓ったのだ。
自身の薬物や人体に関するスキルを売り込み第81独立機動群……ファントムペインに研究者として就任、そこで彼は戦災孤児を選りすぐりコーディネーターを殺戮するための生体CPUを数多く生み出す事業に従事した。
彼にとってエクステンデッドというのは道半ばで斃れた息子の戦争を代行するもの、要するにもう戦えなくなった息子の代わりに敵と戦わせるための道具である。
己の子がそれを望んでいるかなどサイモンの知るところではないが……兵士としての権利も認められずに殺害された子供の最期に意味を、成果が欲しかったのだ。
彼が覗く端末に表示される生体CPUのデータはすべて良好、十分使用に耐えうるという結果を出している。
この二人は現在のブルーコスモスが保有している数少ないエクステンデッドの中でも優秀な部類の者たちだ、いかに彼らを生き永らえさせ戦い続けさせるかで今後成し遂げられることが決まってくると言っても過言ではない。
サイモンが口元に手を当て思案を巡らしていると扉の音声端末から入室を求める声が響いた。
「入りたまえ」
許可と共に入ってきたのはサイモンの部下で同じく生体CPUの管理を任されている男だ。
サイモンは椅子を回して彼の方に向き直り口を開く。
「どうかね、あの二人の様子は」
「ぐっすり眠っていますよ、今のところ精神状態も安定しているようです」
「そうか……」
サイモンはふぅと息をついた後、部下に発言を促すように目配りをした。
彼がなぜ訪ねてきたのかを聞かねばならない。
「上からγ-グリフェプタンの効果時間延長を求められています、今後はより高い継戦能力が要求されるとか」
「うぅむ……過度な強化は生体CPUの使用可能期間を削ることになるのだがな、だが仕方があるまい、これも大義のためか」
「そうですね、青き清浄なる世界のために必要なことです。空のバケモノを駆逐するためにはあらゆる手段を講じる必要があります。特に今のような状況では」
ロゴスという巨大な後ろ盾を失ったブルーコスモスはまさしく斜陽の組織となっていた。
今はまだ彼らの遺産とでも言うべき武力と影響力で食いつないでいるが、消費するばかりではやがてはそれも底をつく。
「一昔前はいいように扱っていた生体CPUを生かすことに苦心することになるとは。世の流れというのは気まぐれなものだ」
「確かに今は我々にとって向かい風が吹いているようなものですね。でもこんな時だから私たちが奮起し、世界に正しき考えを啓発すべきなんです。コーディネイターがのさばる世界なんて考えるだけでゾッとしますから」
眉間に皺を寄せた部下はそのあとひとしきりその内に秘めた思想を披露し、退室した。
部屋で一人になったサイモンは端末に向き直り
「ふん、何が青き清浄なる世界のためにだ、バカバカしい」
そう吐き捨てるように言った、彼にとって大事なのはコーディネーターへの復讐、そこに大義と言えるようなものはない。
彼は自身がドス黒い欲望で動いていることで理解していたし、それが間違っていることだとも解っていた、ただ世界の在り方に対する不服の出力の仕方がこうだというだけである。
「子供を失った憎しみを子供を使って晴らすか。変わらんな……ナチュラルも……コーディネーターも……過去に囚われたものというのは」
サイモンはふとBTWの直後に南アメリカ合衆国のフォルタレザ市で発生したジンによる無差別テロ事件を思い出していた、あの事件も年端のいかない子供を使ったものだったなと心の中で自嘲する。
彼は端末を操作して自身が管理している生体CPUの詳細な情報を表示した。
画面に映るのは一人の少女写真、メリー・ゴーランドのものだ。
彼女は分類としてはエクステンデッドとされているが実態は異なる、ブーステッドマンからエクステンデッドに移行するための技術試験用に調達されたモルモットだ。
過去のプロフィールは抹消済み、だがサイモンは断片的にではあるが彼女の素性を知っていた。
それはなぜか、彼が■■・■■■をメリーに作り変える現場に居合わせていたからだ。
本来であれば生体CPUに加工される子供たちの情報はその作業の担当者であっても知りえないものである。
だがメリーは試験が終われば廃棄される予定の検体に過ぎない、得てして人は意義のない仕事に対してはおざなりになる。
どうせすぐ無用の長物になる物体に一々手間暇をかける必要があるのだろうか?
そういった意識が彼女への対応をお粗末なものにした、メリー・ゴーランドなどという遊びでつけられた名前もその一環だ。
まあ凄惨な実験を行うことになった科学者が故意にふざけることで罪悪感を紛らわせるという目的も多分に含まれていたが。
とにもかくにもそういう事情でサイモンはメリーについて多少の素性を知っていた。
彼女がオーブ出身のコーディネーターであること、連合軍によるオーブのマスドライバー接収――オーブ解放作戦――による戦災被害者であること、そこで戦闘の余波に巻き込まれ両親が死亡、庇護者を失い宙ぶらりんの立場となったことと政権消滅の混乱に便乗したブルーコスモスの工作部隊によって秘密裏に運び込まれたということ……。
「イレギュラーか……」
彼女は他の似たような立場の子供たちと同じく実験の最中に肉体の負荷に耐えかねて死亡しそのまま処分されるはずだったが驚異的な生命力でこれを生還。
核兵器の解禁に伴い急速な戦力拡充に追われていたブルーコスモスは彼女を正規の新型生体CPU、エクステンデッドの第一世代として運用すると結論付けたというわけだ。
だが戦争はそのすぐ後に終結、戦間期により洗練された技術で以て生産されたエクステンデッド達の台頭によりメリーは半ば予備役のような立場に追いやられ裏方に回されたものの、こうしてブルーコスモスが弱体化したところにこれ幸いと引っ張り出されて使われている。
彼女の生体CPUとしての完成度は高いとは言い難い、そもそも未完成の技術を完成させるための被験体だったのだから当然だろう、施された処置もまばらで十全な強化が為されていない個体だ。
しかし、にもかかわらず彼女の戦闘能力は極めて高いと数値は告げていた。
元々の素養があったのだろう、そこに不完全ではあっても生体CPUとしての強化が行われ、ブルーコスモスの訓練プログラムが加わる。
日常においては規定の訓練や身体的トレーニングを真面目にこなし、生体CPUによく見られるような攻撃性の発露は極めて少ない。
待機命令中はボーっと佇んでおり時折ブロックワードを発動したものに類似した恐慌状態に陥るものの反抗的な態度は取らず命令にも従順、淡々と……しかし苛烈な攻撃で敵を撃破する姿はかのストライクを彷彿とさせた。
並みのコーディネーターではまるで相手にならないまさに逸材、それがこのメリー・ゴーランドという不適格品への評価だった。
「彼女たちは一体いつまで持つだろうか、二人ともコンディションは良い、そもそも強化の幅が少ないのだから当然か……だが……」
サイモンは部屋の一角で光を放つ情報端末に目を向けた。
そこではあのカガリ・ユラ・アスハが中心に立ち、その両隣に大西洋連邦のフォスター大統領とプラントのラメント議長が手を取り合いスカンジナビア王国の立ち合いの元、世界平和監視機構コンパスの設立を宣言していた。