マイン「実はそんなにタツミの事好きじゃないんでしょ?」エスデス「貴様、何を言ってる!」
〇死者が集まるおしゃれなバー。
ヘブンズリバーを切り盛りする元将軍のリヴァ
今日はエスデスとマインが運悪く相席しており、ふたりはカウンターに並んで飲んでいた。
そして女子トークは恋バナに突入して、マインの心無い言葉にエスデスが大きな声を上げたところから始まる。
エスデス「ワタシはちゃんとタツミのことが好きだ!」
マイン 「あら、怒るってことは図星かしら?」
リヴァ 「おふたり様、店内での帝具戦はおやめください」
エスデス「ふん、本編で運よくメインヒロインの座をもらったからと言って調子に乗ったものだな!」
マイン 「ホントのこと言ったまでよ」
リヴァ「仕方ありませんね。では『舌戦』で決着を着けましょう。お題は『エスデス様は本当にタツミ様を好きなのか?』でよろしいですか?」
マイン 「オーケーよ」
エスデス「ふん、異存ない」
ふたりともパネルに書き込み中。
エスデス「まったく、なんでこんな無意味なことを……」
マイン 「手加減しないわよ」
リヴァ 「では御二人とも、一斉にパネルを表にしてください」
エスデス『四六時中タツミの事を考えているほど好き、人混みに入るとタツミを探してしまうくらい好き、最終回で一緒に爆砕するほど好き。つまりワタシはタツミが好き』
マイン『結局はわが身可愛さでタツミを選べなかったので、実はそれほど好きではない』
リヴァ 「これはこれは、意見が分かれましたね」
エスデス「アニメ本編の中盤においてワタシがいかにタツミの事を好きだったかが刻銘に描かれていたはずだ。もはや疑いようもあるまい」
マイン「まぁたしかに。途中まではあんたがタツミの事が好きな感じは伝わってきたわね」
エスデス「……やけに含みのある言い方じゃないか」
マイン 「ええそうよ」
エスデス「ほう、聞こうじゃないか」
マイン「まず、なんであんたはタツミを支配しようとするのよ?」
エスデス「好きだから、ではダメなのか?」
マイン「ダメ、それって結局のところ支配欲よね? タツミを自分の思うがままにしたいだけでしょ? 犬や猫、おもちゃと同じよ。寂しさを紛らわせたいだけよ」
エスデス「いや、ワタシは男としてタツミをちゃんと愛するつもりだったのだ。支配もするが、将軍の夫としてちゃんと……」
マイン「けど、振り向かせられなかった」
エスデス「……」
マイン「あんたのやり方、乱暴だけど悪くないわ。うまく本音が言えないあたしにとっては羨ましいくらいよ。けどね、相手の気持ちを理解できず、ただ力任せに従えようとしても折れないやつっているもんよ」
エスデス「……それが、タツミか」
マイン「あのベッドシーンでタツミの為に主義主張を変えられなかったあんたの『好き』は所詮その程度のものよ。結局は自分が可愛いのよ」
エスデス「……」
リヴァ「しかし、タツミ様を拷問して主義主張を変えさせることもかなったでしょうに、それしなかったエスデス様の恋心もまた本物ではないでしょうか」
エスデス「……リヴァ、いいことを言うではないか!」
マイン「ちょっとマスター、なに口出してんのよ!」
リヴァ「失礼、独り言が大きすぎました」
マイン「(M)こんにゃろう、絶対わざとだわ」
マインはノンアルコールビールを飲み干す。
エスデスはじっと手にした酒の表面に移る自分の顔を見てため息をついていた。
リヴァはマインの空になったグラスにノンアルコールビールを注ぎ込む。
マイン「そもそも、なんであんたはタツミのお願いを聞いてやらなかったの?」
エスデス「お願い? なんの話しだ?」
マイン「少なくともあんたがベッドルームに引っ張り込んだとき、あいつは喜んでたわ。けど、あの時にタツミの希望通りなぜナイトレイドに来なかったの?」
エスデス「ワタシは帝国の将軍だぞ、貴様は何を言っている」
マイン「将軍だろうがなんだろうが、好きなら出来るでしょ?」
エスデス「わからんやつだ。アニメ本編でも言った通り、ワタシがタツミに染められるのではない、タツミがワタシに染められるんだ。それ以外は認めん」
マイン「でも好きなんでしょ?」
エスデス「そうだ、だから面と向かった敵対宣言に対してもビンタ一発で済ませたし、ちゃんと消毒もした。好きだからこそあの程度で許せたのだ、他の奴ならあの場で処刑確定だったのにだ」
マイン「……スケールがぶっ飛びすぎる譲歩ね」
エスデス「すべては純真無垢な笑顔のタツミが好きだから……好きだから告白も初夜で済ませたのだ。ワタシがタツミを好きでいることなど、明白ではないか」
マイン「(M)こいつ、思ったよりもタツミのこと好きなのね」
マインはしばらく考える。
そして、沈黙を破るマイン。
マイン「結果として、あんたは駆け落ちしてでもタツミとの恋を選ぶほど好きじゃなかったのよね」
エスデス「……なに?」
マイン「将軍の地位も、己のわがままも捨てられない。その程度なのよ、あんたの『好き』って気持ちは」
エスデス「……そう、かもしれん」
リヴァ「好きな者が隣りで寝ている状況でありながら、焦ることなく夜這いしなかったエスデス様は大変立派でございました」
エスデス「……リヴァ」
マイン「ちょっとオーナー、邪魔しないでよ!」
リヴァ「はてさて、なんのことやら」
マイン「(M)そういえばこいつ、帝国の元将軍だったわね」
エスデス「そうだ、リヴァの言う通りだ。ワタシは断じて将軍の地位やわが身可愛さに突き放したのではない! あの時は時間をかけてタツミを虜にするつもりで―――」
マインのスマホが鳴る。
マインはスマホを取り出して操作する。
エスデスは気になっている。
エスデス「貴様、こんな時にだれとメールしている!」
マイン「タツミよ、『早くアジトに帰ってこないのか』ですって」
エスデス「た、タツミのメールだと!? よこせ!!」
マイン「いやよ! 直接本人から聞きなさい!」
エスデス「できることならとっくにやっている。だがタツミはワタシに教えてくれんのだ」
マイン「もしかして嫌われてるんじゃないの?」
エスデス「……くぅ」
マイン「あっれー、時間をかけて……なんだっけ? 忘れたからもう一回言ってくれるかしら?」
エスデス「……、……(言い返せなくて歯を噛みしめる)」
リヴァ「男という生き物は本当に好きな相手を前にすると素直になれない生き物なのです」
エスデス「リヴァ! 貴様という奴は!」
マイン「ちょっとマスター、あんたどっちの味方なのよ!」
リヴァ「私は困っている方の味方ですので」
マイン「(M)こいつ絶対エスデス寄りだわ」
マインはスマホを懐にしまう。
落ち着いたエスデスは酒を煽る。
リヴァがふたりに酒とノンアルコールビールを注ぐ。
ふたりは同時に煽り、飲み干す。
マイン「最後に、タツミが好きならなんで公開処刑しようとしたのよ? 普通なら助けた上にラブラブハッピーエンド狙うでしょ?」
エスデス「それは……タツミがワタシを拒絶したからだ」
マイン「あんたは乙女か! あのタイミングで駆け落ちすればメインヒロインの座は間違いなくあんたのものだったわよ」
エスデス「……ワタシも考えたさ。しかしあの場でタツミを逃がしたとして、タツミがワタシに惚れたとは考えづらい。あの時、タツミは完全に死を受け入れていたからな。仲間の死がよほど効いたのだろう」
マイン「……そうだったわね」
エスデス「だから貴様らナイトレイドが助けに来る可能性に賭けた。結果としてタツミは生き残ったのだから、ある意味ワタシの勝ちということだ」
マイン「(M)そこまで考えてたなんて……」
エスデス「しかしワタシは、自分のチカラで変えられないタツミを見捨てた。せめてワタシの手で殺してやろうという気持ちがあった。この湧き上がる気持ちは、好きとはまた違うのかもしれないな」
リヴァ「……エスデス様」
エスデス「もう、充分だろう。締めてくれリヴァ。ワタシの好きという気持ちなど、所詮―――」
マイン「―――でも、あんたは最後まで浮気しなかったわ」
エスデスが驚いた顔でマインの横顔を見る。
マインは独り言のようにつぶやく。
マイン「何度もタツミに振られようとも、決して浮気しなかった。探せば他にいくらでも相手がいたのによ。そこんとこ、あたしは評価してんのよね」
エスデス「……貴様」
マイン「だから、好きってことでいいんじゃない?」
リヴァは拍手する。
ヘブンズリバーにいる客全員が拍手。
エスデスは涙を堪えるので精一杯だった。
リヴァ「では結果を発表します。『エスデス様は生前死後含めてタツミ様のことが好き』ということでよろしいですか?」
エスデス「……ああ」
マイン「……好きにすれば?」
ヘブンズリバーの扉が開く。
タツミが入ってきた。
タツミ「マイン、あんまり遅いから迎えにきたぜ」
マイン「あ、タツミだ」
エスデス「え……タツミ?」
タツミ「(M)げ、エスデス!? なんでこんなところに! っていうかマインと相席って一体どういう状況だよ!?」
マイン「タツミ、ここに座んなさい」
タツミ「え?! マインなに言って……」
マイン「いいから! 『お座り』!」
タツミ「はい」
タツミはエスデスとマインの間に座る。
エスデスのしおらしい態度がおかしいことに気付く。
そして店内の視線が集まっていることの気になった。
リヴァが水を出す。
エスデス「……タツミ」
タツミ「は、はい! なんでございましょう!」
エスデス「ちょっと、その、頼みたいことがあるんだ……聞いてくれるか?」
タツミ「た、頼み事ですか?」
タツミ「(M)やべぇ、おれの幽霊ライフもここまでか」
エスデスはスマホを取り出す。
そしてタツミに突きだした。
エスデス「タツミの連絡先、教えてくれないか……?」
タツミ「れ、連絡先ですか?」
エスデス「……頼む」
タツミ「(M)えーっとこの場合は、マインのいる手前、断るべきなのか? いやでも凍りたくないしなぁ」
マイン「……連絡先くらい教えてやんなさいよ。あたしがその程度でへそを曲げる女だと思ってるわけ?」
タツミ「いや、そんなわけじゃ……」
タツミ「(M)あれ、なんか今日のマイン優しい……?」
タツミはスマホを取り出す。
そして操作のわからないエスデスの代わりに連絡先を入力した。
タツミがコールするとエスデスのスマホが揺れる。
エスデスのスマホにタツミの番号とメールアドレスが届いた。
エスデス「い、いいのか……?」
タツミ「生前はいろいろあったけど、別にエスデス本人が嫌いなわけじゃないし、なんかマインも世話になってたみたいだし、サンキューな」
エスデスは震える手でタツミからスマホを受け取る。
リヴァに液晶に写るタツミの連絡先を見せた。
エスデス「リ、リヴァ。ワタシはついにやったぞ!」
リヴァ「ご立派でございます! エスデス様!」
タツミ「なんなんだこの状況」
マイン「女にはいろいろあんのよバカ」
リヴァ「さぁ少年、飲もう。今日は私の奢りだ」
こうして、夜が更けていく。
三人は全員朝方まで呑み続けた。
数時間後、リヴァは三人を見届ける。
マイン「理由はどうあれ、タツミは、あたしを選んだってわけよ」
エスデス「ん~タツミ、タツミタツミタツミッ! ん~! ん~!」
タツミ「ふ、ふたりとも袖引っ張らないで! 裂ける、裂けちゃうから、くそこうなったらインクルシお?ってアッ―――――ッッ」
リヴァ「結局こうなったか」
おわり
素晴らしいリクエストをいただいたので、書きました。