「……終わった」
タバサは、少しだけ表情を歪めつつもイザベラの確実な死を確認すると、すぐにきびすを返す。
彼女の亡骸から逃れるように早足に歩きながらタバサは思う。
変わり果てたとはいえ、憎まれていたとはいえ、謀殺されそうになったとはいえ。
彼女は……イザベラは姉と慕う家族であった。
そのイザベラを完膚なきまでに殺してしまった。
タバサはすでにもっとも憎むべき相手を失っている。復讐もスッキリとしない形だがかなえられた。
もう殺し殺されるような戦いは嫌であったのに。
心優しい少女であるタバサにはこの戦いは、どこまでも不本意なものでしかなかった。
「……私のせい、かもしれない」
知らなかった、悪気はなかったとはいえ、イザベラを追い込みあんなになるまで、苦しめていた。
何もかもを捨ててでも殺したいほどに憎ませてしまった。
どんなことをしてでも殺したいほど憎む。
イザベラにとって、タバサはジョセフと同じであったのかもしれない。
あんなにも憎んだ仇と自分の姿が重なってしまう。
「でも、私は彼女を殺した」
もしかしたら自分は彼女に討たれてあげるべきであったのかもしれない。
今際の際に、ジョセフが自分を討つように述べたように。
「私は……ジョセフよりも……」
「勘違いするなっ!!」
「わたしはお前とは違う、わたしの戦いは、復讐のためなんかじゃないっ、わたしの気持ちはそんなものじゃないんだ!!」
「……っ!?」
驚愕。
一体今日何度目になるか分からない驚きを胸にタバサはイザベラの死体に振り返る。
そこにイザベラは立っていた。
身体中に氷の矢を生やし、胸に大穴を開け、片目はつぶれ、腹からは内臓ははみ出て、口は耳まで裂けている。
生ける屍となったイザベラの指に嵌められた指輪が光を放ち、彼女を包んでいた。
「……アンドバリの、指輪……!?」
「そうさ! わたしは魔女だ、最悪の魔女なのさ、この程度で死んでらんないんだよ!!」
水色の光が彼女の全身を覆い、ぼろぼろの肉体を稼動させる。
骨も筋肉もズタズタで物理的に動けるはずのない彼女の身体を水の精霊の力によって操り動かしている。
「死体は動いた。さあ、第三幕の始まりだよ」
そして三度、死闘は続く――
「ハァハァハァッ……」
タバサは疲労困憊の限界であった。
戦い続けてすでに数時間。
その経験と実力で、イザベラを何度も葬ってきた。
だが彼女は、その度に黄泉がえり、這い上がり、タバサに迫ってくる。
「……オオオオオオオオオオンンッッッッ!!!!」
化け物の咆哮が周囲をビリビリと震わせた。
今もそうだ。
死にながらも動き続けるイザベラの肉体をアイス・ストームにより凍結させて打ち砕き、その首も切り飛ばして、今度こそ勝負はついたと思った。
だが。
「エレーーーーーヌゥゥゥゥッッッ」
ところどころ腐敗したキメラドラゴン。
禁忌に手を染めたメイジによって生み出された異形の化け物と融合したイザベラが絶叫する。
その瞳はすでに何も写さない。
もはやろくな思考も理性もないのだろう。
その状態であっても、イザベラはタバサを覚えていた。
キメラドラゴンの制御をのっとり、タバサだけを狙う。
恐ろしい。
そこの知れないイザベラの執念にタバサは恐怖を覚える。
そこまで自分にこだわれるイザベラが怖い。
そこまで執着されることが怖い。
そして何より、そんなイザベラの姿が悲しくて仕方がなかった。
だから、絶対にイザベラを執念という呪いから解き放つことをタバサは決意した。
「今度こそ終わらせる。なにもかも、完膚なきまでに」
その瞬間、もはや勝敗は決した。
世界を脅かす邪悪は勇者によって滅ぼされ、世界は救われる。誰よりもイザベラがそれを望んでいるのだから。