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人々が皆、夜空を見上げていた。
星空に大きく映し出されている映像は、世界の存亡を賭けた戦い。
小柄な青髪の女の子が杖を片手に、禍々しい大鎌を振り回す凶悪なる魔女と戦っていた。
その様子は、おはなしで語られるような勇者と魔王の戦いのようであった。
卑劣な魔女の容赦のない攻撃のたびに、小柄な青髪の勇者は地を転がり、傷を負っていく。
――だが。
なんど倒されても、なんど傷つけられてもその女の子は決して諦めない。
何度でも立ち上がり、悪しき魔女に立ち向かっていく。
人々は皆、真剣な表情で固唾を呑んでそれを見守っていた。
卑劣な魔女は、己が勝利の暁には世界を滅ぼすと公言している。
小柄な青髪の勇者が負けることは、この世の終わりを意味した。
「がんばれっ!!」
こみ上げてくる気持ちを我慢できなくなったのか、一人の少年が天に向けて、声を上げる。
「そ、そうだっ、勝てっ、勝ってくれ!」
その声に触発されるように、大人たちも次々に応援の声をあげていく。
「あんなのに負けないで! 勇者さまっ!」
「頼むっ、世界を救ってくれぇー!!」
そこに分け隔てはなかった。
男も女も、子供も老人も、平民も貴族も、人間もエルフも。
トリステインでも。アルビオンでも。ゲルマニアでも。ガリアでも。クルデンホルフ大公国でも。エルフ領でも。
その日、ハルケギニア中の生きとし生けるものが同じ願いを天に祈った。
タバサという名の勇者の勝利。ただそれだけを。
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(あああぁ……)
ゆっくりと、浮遊感とともに、イザベラはすべてが終わっていくのを感じた。
もはやほとんど見えない目は、それでも、シャルロットの姿だけは写し続けていた。
(すまな、い……もっとまえに、すなおになれて、いたら……)
シャルロットは泣いていた。灰となって崩れ落ちる変わり果てたイザベラの姿を眺めて幼いころのように泣き崩れていた。
(優しいエレーヌ……わた、しの、エレ、ーヌ……)
この日、世界は勇者の手によって、滅びから救われた。
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タバサの勝利は、映像によってハルケギニア中に届いていた。
世界中がタバサの勝利に湧き、彼女を讃えた。
世界を救ったタバサは誰一人の反対も受けることなく、ガリアの女王となった。
なにせ、世界中にその名と顔を知られたもっとも新しい英雄譚の主人公なのだ。
そのことが全てを良い方向に進めた。
国民は喝采を上げ、貴族達は争うように忠誠を誓い、他国との関係も良好だ。
タバサが平和をもとめ、エルフが対話に応え、多くの人がそれを支持したことで、聖地への執着を持つロマリアもしばらくは動けなくなった。
大隆起の問題についても国と種族の垣根を越えて対策が協議されている。
何もかもが上手くいっていると言えた。
とはいえ、すべてがうまくいったわけではない。
国や種族のいがみ合いがすべて解決するはずもない。
利権の衝突や、感情的対立が全面的になくなることはない。
散発的な争いや紛争は今後も起こるだろう。
それでも、ハルケギニア全土で目撃された英雄譚と、
イザベラの遺言によりタバサに忠誠を誓ったガリア北花壇警護騎士団達は、タバサが望む平和を支え続けている。
タバサは、一日でも長くこの平和を保とうと思った。