イザベラとタバサ   作:haou

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わたしは何のために産まれてきたんだろう?

 

(いったい、わたしって……)

 

数分か、数時間か……ただひたすらに、こみ上げるままに泣きはらしていたイザベラは思った。

 

わたしは何のために産まれてきたのだろう。

苦しんで憎んで傷つけて嫌われて。

わたしも周囲もみんなまとめて不幸になっただけだ。

そんなわたしが存在する意義なんてあるのだろうか。

 

始祖が、この世界に害悪を撒き散らすためだけに……人々を傷つけるためだけに、わたしをこの世に遣わしたというのだろうか。

 

そうとしか思えない。

振り返ってみても、イザベラは我侭で傲慢で虚勢を張ってわめき散らしていたばかりだった。

ひたすらに他人を苛め虐げ見下し罵倒して……

 

「このまま……わたしは、終わっちゃうのか……」

「これからも、自分も周囲も傷つけ続けて……最後にシャルロットに殺されちゃうのかな……」

 

シャルロットがジョゼフへの復讐のために戦っていることは知っている。

その娘であり、酷い仕打ちを続けたわたしもきっと……復讐を果たした暁には、討たれてしまうのだろうと思っている。

だからこそ、シャルロットにひどい仕打ちをせずには、恐怖せずにはいられなかった。

 

「やだよ……そんなの、やだ……」

 

イザベラはそうつぶやいてみる。

だけど、それはきっと、叶わない。シャルロットが悲願を果たす日がくれば、わたしは終わってしまう。

自分ごときでは止められるとは思えない。あの父ジョゼフですら、物語の勇者みたいなシャルロットには敵わないだろう。

 

いずれその時がくれば、どうあがいても自分は死ぬしかない。

 

「いったい……わたしはなんだったんだろう。わたしはどうなりたかったんだろう?」

 

とくん。

そう考えるイザベラの脳裏に鮮烈に思い浮かぶのはシャルロットの雄姿。

 

自分が何を見て何を追いかけ何にすがっていたのか。答えなんて1つしかなかった。

 

(わたしは……わたしはきっと……)

 

どくんっ。

 

「あぁ……」

 

高まり強くなる鼓動とは裏腹に、イザベラは自らの身体から力が抜けていってしまうのを感じた。

胸が痛い。苦しい。モヤモヤして痛くて息苦しくて……今にも死んでしまいそう。

 

それは警鐘であった。イザベラの生存本能が必死に訴えているのだ。

 

これ以上考えてはいけない。

アイツから目をそらせッ、認めるなッ!

憎め、怒れ、恨めッ、アイツだけは絶対に認めるなッ!!

 

 

だが。

もはや、漏れ出した思考は止まらなかった。

いまさら、自分に嘘をつくことなど出来はしなかった。

 

あの憧憬を抱き、シャルロットを心のそこから認めてしまった時。

すべて分かって理解してしまったのだ。

 

「わたしはっ! シャルロットみたいになりたかった!!」

 

だからもう、イザベラは現実から目をそらさず、すべての現実を認めて、冷静に自分を見つめて思い返していく。

 

 

「シャルロットは昔から、すごい子だった……」

 

圧倒的な魔法の才能を持ち、英才といってよい頭のよさもあった。

それでいて心優しく純真で、周囲に温もりを与える太陽のような娘だった。

 

誰もが皆、彼女を褒め称えていた。

 

「わたしは、シャルロットみたいになりたくて、なれなかったんだ」

 

ドットクラスの中でも格段に劣るレベルでしかない魔法の才。

小狡さと小賢しさでしかない悪知恵が廻る程度の頭脳。

平凡以下の運動能力。

 

シャルロットに比べて、イザベラはあらゆる面で劣っていた。

 

「なぜわたしはシャルロットではなかったの? なぜシャルロットはわたしじゃなかったの?」

 

物心ついた頃、自分の限界と周囲の仕打ちに傷つききったイザベラはそんなことも思った。

 

シャルル叔父様なら、イザベラのような無能娘が生まれてきても、きっと優しく愛してくれただろう。

 

それとは逆に、いかにジョセフ父様であろうが、シャルロットみたいなできる子が生まれたら、きっと愛して可愛がっただろう。

 

そうなるべきだったんだ。そうなっていたら、誰もが不幸にならなかった。わたしは救われていたのに。

 

でも、現実を呪っても悲観しても、現実は変わらなかった。

 

「だからわたしはあの娘を憎んだ。憎まなければわたしは、耐えられなかったから……」

 

あの娘がすべて悪い、わたしは悪くない、あの娘がいなければわたしは大事にされたはず。

あの娘のせいで、周囲からの評価が低いだけ、わたしは無価値なんかじゃない。

 

「わたしはそうやって自分を醜く守っていたのに……」

 

「シャルロットは逆だった。いつも無邪気にわたしを慕ってくれた。ひねくれもので嫌われ者のわたしを姉様って呼んでくれていたんだ」

 

父はわたしを見てくれなかった。

母はわたしを疎み、顔を合わせるたびに、どうしてお前がシャルロットではないのかと嘆いた。

下働きの平民すらもわたしの陰口を叩いた。

 

でも、シャルロットだけはわたしが睨んでも冷たくしても、慕ってくれて仲良くしようとしてくれた。

落ち込んでいれば慰めようとしてくれて、魔法の練習に付き合おうとしてくれた。

 

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