「そうだ……その時にたしか……シャルロットと約束したんだっけ」
いつか、ふたりで力を合わせて、だいすきなおはなしに出てくるみたいな『イーヴァルディみたいな勇者さま』になろうねって。
悪い人をやっつけて、困ってる人たちをいっぱい助けてあげよう、ふたりの名前がおはなしの中に残るくらいに! って。
「シャルロットはもう、約束を守った」
すでにシャルロットは、理不尽にも残酷な現実にも耐えて、人々を助ける『勇者さま』へと至った。
なのに今のわたしは……『我侭な小娘』でしかない。
そしてこのままだとそれは永久に変わらず、無為に死ぬだけだ。
「このままじゃ、わたしは、うまれてきた意味がない」
「このままじゃ、シャルロットの従姉妹である資格がない!」
イザベラは泣き腫らした瞳で、そうつぶやく。
願望が胸の奥から湧いてきて、絶望の色に染められていた目に少しだけ生気が戻る。
「わたしは、シャルロットとの約束をまもりたい」
ゆっくりとかみ締める様にイザベラが言葉を続ける。
その瞳には、小さな決意の灯が生まれて初めてともっていた。
「シャルロットと一緒にっ、おとぎばなしに名前を残すような、すごい存在になりたいんだッ!」
心のままにそう叫ぶ。
そうだ。そうなんだ。わたしは確かにそれを目指してそうなりたいと願った。周囲も親も関係ないって思っていたのに。
しかしそれはもはや不可能だ。
今さらシャルロットに許しを乞うても、彼女と共に歩むことなど出来はしないだろう。
彼女にとってはイザベラは怨敵の娘であり、散々に自分を苛めぬいて死地に送りつづけた存在なのだから。
「わたしはバカだ。一番の望みから目をそらして、気付いたときには遅すぎた……」
「わたしなんかがあの子と一緒には……あれ?」
そこまで考え、生きる意志が萎みかけたところで、はっと気付く。
「え? あれっ?」
おはなしには……勇者と同じくらい大事な役どころがあったのではないか?
その役は勇者と並び立ち、対峙するというとても重要な役であったのではないか?
「ああッ!? あああああああッッッ……!!」
その『考え』を脳裏がよぎったとき、イザベラは雷に打たれたように、全身を震わせた。
「そうだ」
「そうじゃないかっ!!」
わたしが、この、イザベラ・ド・ガリアが……
「この世でいちばんの悪になれば?」
それはイザベラにとってとても甘美な思いつきであった。
勇者になったシャルロットにふさわしいほどの、世界を脅かす最悪の魔女となることが出来たなら!
「わたし達のおはなしが! ハルケギニア中で語られるッ!!」
シャルロット・エレーヌ・オルレアンとイザベラ・ド・ガリアの名と戦いが永遠にこの世界に記憶される。
その様子を思い浮かべたイザベラの背筋に、強烈な歓喜の痺れが走る。
「わかった」
そうつぶやいたイザベラは、自分の視界に光が満ちたような錯覚を覚えた。
「ついにわかったよ」
何故自分に魔法の才がなかったのか?
何故自分は矮小で傲慢で我侭で無能なのか?
何故自分は愛されず、周囲を憎んだのか?
それらにはすべてに意味があり、わたしは導かれていたんだ。
「それが私の道。わたしが生まれてきた意味なんだ……!!」
この『確信』は彼女にとってまさに神託であった。
「ああ、始祖よ! ……これまでの度重なる不敬の数々をどうかお許しください!」
イザベラは生まれてから今まで、始祖に呪いとうらみの言葉ばかりかけていた。
そのことを今彼女は猛省していた。
始祖は生まれたときからイザベラに明確な役目を与え、道を示してくださっていたのだ。
強くてすごくてかっこいい、あのシャルロットと対峙する敵というこの上ない役目を!
なんという不敬だろうか。イザベラは大仰に懺悔の言葉を吐いてその場に跪く。
もはや死は免れず、シャルロットと共に生きる道は、ない。
だが、わたしの生は、無駄なんかではない、無意味なんかじゃない。
それを示すすべは残され、託されている。
「私にこのような役目を与えてくださったことに感謝いたします」
イザベラは生まれて初めて、始祖ブリミルに心から感謝の祈りを捧げた。
己が使命を確信し、一心不乱に祈り続けるその姿は、まるで信心深い聖女のようであった。