「地下水。お前からみて正直なところをききたい」
「はっ。なんなりと」
プチトロワの謁見の間。そこでイザベラは地下水を呼びつけていた。
「あの人形……いや、シャルロットと今の私との力の差はどのくらいだ? 100回戦って私は何回勝てる?」
「そ、それはなんといいますか。まぁ。頑張ればきっと勝つことも出来なくもないのでは……」
本当のところを絶対には言えない質問をされ、地下水はしどろもどろに答える。
我ながら説得力のかけらないと思いつつ、この劣等感が一際強い癇癪姫に本当のことをいうこともできず困り果てた。
「私はね、嘘がきらいだよ地下水。特に見え透いた嘘でご機嫌取りをする奴がね」
「もう一度聞くよ。100回戦って何回勝てそうだい?」
「ふぅ。100戦100敗でしょう。天地がひっくり返ろうと勝つのは不可能です。1000回でも1万回でも同じことですな」
虚偽は許さないと言われ、やけくそ気味に地下水が答える。
一片の嘘もない、プロとしての冷徹な現実を述べた。
さて。癇癪を爆発させるであろう姫をどうなだめたものか。と地下水が逡巡していると、イザベラは愉快そうに笑い始める。
「はは、あはははははははっ! そうかい! わたしが1万人いようがアイツ1人に勝てはしないか。これは傑作だね! わたしはアイツの1万分の1以下ってことかい。ふふふあはは」
「まさに絶望的……絶対的な差があるわけだ! ふふふふ、そうさね、そうでないとダメだよ。それでこそだ!」
喚きも怒りもせずにただ愉快そうにするイザベラが不可解すぎて地下水はうろたえる。
もしやイザベラは劣等感のあまり心が壊れてしまったのかとまで疑ってしまう。
「えっと、まぁこればっかりはその。どうか気になさらずに。心を安らかにですな」
「それで、だ。戦闘のプロであるあんたはそう言うが私はそうは思わない」
「はぁ」
「そんな絶対を覆し、凡才が天才と並び立つ……偉業だとは思わないか? まさに革命的な出来事だよ」
「1年だ。1年で私はあいつの隣に立ってみせる。何が何でもそうなって見せなくてはいけないんだ」
絶対に無理だ。地下水は内心思う。この冷徹な現実世界には意志の力でどうにもならないことなど山のようにある。
イザベラは甘ったれた姫だ。本気を出せば世界を、現実を変えられると甘い考えを持っているのだろう。
たとえ一心不乱に必死で努力をしようが、どうしようもない現実の壁は存在するのだ。
努力が必ず報われるなどありえない。才能の差はどこまでも冷酷で絶対であるのだ。
「それは、また……しかしその」
「まぁ聞きな。これから1年で私はね……」
不適に笑みを浮かべるイザベラから語られるその計画。
それを聞いた地下水はまず唖然として愕然として驚愕した。
まず正気を疑い、次に説得をして、最後には柄にもなく説教までした。
しかし、彼の主は、己が死期を悟り決意を固めてしまっていた。
もはや何を言おうが彼女は意思を覆さない。
「…………」
地下水は確かに彼女の言う計画を実行すれば、無才のイザベラがあの天才に一矢を報いることはできるかもしれないと認めた。
だがそんなことに何の意味があるのだろう。
一瞬の閃光のように輝いて消えるのだと。憑き物が落ちたように清々しく語って笑うイザベラを見て、地下水は言いようもなく悲しかった。