「うっ……ぇぶっ……」
イザベラは、彼女専用に作られた化粧室で、涙を流しながら何度も何度も嘔吐していた。
胃の中が空っぽになって、酸っぱい胃液しか出なくなっても、吐き気は治まらず、えずき続けていた。
イザベラは所詮、ただの我侭な小娘だ。
心から楽しみながら、平然と無辜の命を刈り取ることなど出来はしない。
だが、彼女は殺した。
手始めに、軽い粗相をしたメイドを1人手打ちにした。
次に、ソレを目撃し、恐慌して騒いだメイドを2人、レビテーションで浮かべて窓の外に放り出してやった。
最後に、仲間の死におびえきったメイド達から戯れに犠牲者を3人選び、刃物を使ってじわじわと傷つけながら嬲り殺した。
どうにか、内心の動揺を悟られずに残虐な演技をやりきり、逃げるように化粧室へと駆け込んだが、そこで限界を迎えて、今に至っている。
自分の手に残った嫌な感触が、悲鳴が、肉と血の匂いが、忘れられない。
それらが脳裏にフラッシュバックするたびに、イザベラの心は折れそうだった。
「ちくしょうっ!!」
そんな情けない自分にイザベラは、張り手を見舞う。
今更止めるなんてできない、それだけは絶対にダメだ。
何を犠牲にしてでも、成し遂げると決めた。
すでに手を汚してしまい、引き返せないし、エレーヌとの約束は破れない。
だから、もっとだ。
まだ足りていない。こんな、こんなていたらくではシャルロットにまったくふさわしくない。
わたしは、まだあいつにふさわしいほどの悪になれてない。
あいつの相手は、こんな小物ではつとまらない。
ぐっと顔をあげて、鏡を見て歯を食いしばる。
無理やりに引き攣る頬を動かし、ニタリと笑みを浮かべてみせる。
ダメだ! もっと優雅に、もっと残虐にだ!!
そうだ、仕草は大きく。
大仰に、迫力を込めて。
暗示をかけるように、イザベラは鏡越しの自分に言い聞かせ、折れそうな心を鼓舞していく。
世界が我が物であるかのごとく振舞え。
見るものすべてに畏怖と恐怖を与えろ。
不吉と巨悪の象徴たれ。
漆黒の闇の中に咲き誇る大輪の花になるのだ。
「くふっ、ふふふっ、そうさ、やってやるっ! なってみせる!!」
狂ったように笑うと脳裏に次々と名案が浮かんでくる。
そうだ、美しい生娘の生き血を浴びて美を磨こう。
そうだ、妊婦の腹を割いて赤子もろとも惨殺してみせよう。
そうだ、仲睦まじい恋人達を殺し合わせてみよう。
そうだ、城下で平民に難癖をつけて残虐な拷問を見世物にしてやろう。
そうだ、世界中に吟遊詩人を放ってわたしの悪行を世界中に知らしめよう。
もっともっと力をつけよう。おぞましい呪いのアイテムを持ち、邪悪な異端の呪法を覚え、禍々しい武器を持とう。
「待ってなよエレーヌ! 絶対にあんたにふさわしくなってみせるから!!」
そう宣言したイザベラの震えと吐き気はもう完全に収まっていた。