「いやいやいや。率直に言って、驚きましたよ」
「絶対途中で音を上げると思いましたが、まさかやりきってしまわれるとは」
プチトロワの謁見の間で跪いているメイドが言葉を発する。
しかしそれは男の声だった。身体は間違いなく女だというのに男の声でイザベラに語りかけていた。
「しかも、これほどの強さになられるなんて想像もしなかった」
「そうかい、我ながら上出来だよ。これならあの娘にふさわしいはずさ」
「一年にも満たない期間でよくぞここまで……鍛錬を始めた際にはあの方に比する力量など不可能だと思いましたが……」
「まぁ、何もかも捨てたんだこれくらいにはならないと報われないってもんさ」
「それはたしかに。連日の過酷な鍛錬と並行して強化薬物の投与に魔法具や先住魔法による肉体改造……その上、得体の知れぬ異端の呪術の習得をしつつ、ミノタウロスや吸血鬼の血肉をも取り入れましたからな」
「いやはやよくぞ生きているものですよ。とっくに死んでいてもおかしくない」
「最初こんな無茶苦茶な計画を聞いた時は、ついに頭がおかしくなったのかと思いましたが……」
「そういえば元素の兄弟がこんなバカなことはやめるように言ってたね。大金を積んだから喜んで協力するもんかと思ったけど……」
「お前もそうだがみんなして案じてくれるなんてわたしも意外と人望があったんだねぇ」
「意外なんてとんでもない。イザベラ様は慕われておりますとも」
「はんっ! みえすいたおべっかはいらないよ。それより、例の件の首尾はどうだい? 問題ないだろうね?」
「ええそれはもちろん。主要各国への設置はすでに終えてあります。エルフ領は未だですが、元素の兄弟が向かっておりますので、数日中には例の装置の設置を終えるはずです」
「そうかい、それは重畳だ。元素の奴から報告が入り次第、おまえは愛しの勇者様にわたしからの招待状を渡してくるんだ。分かったら下がりな」
「了解」
そう言って"地下水"はその場を後にする。
彼の退室を見届け、イザベラは大きく息を吐いて、玉座の肘掛にもたれかかった。
「ぐっ……」
その額にはじっとりと大粒の汗がにじみ、その顔色は青い。
それは明らかにイザベラの体調が悪いことを示していた。
「つぅッ……!」
全身に走る痛みにイザベラは額をしかめる。
「……身体を隈なくいじくって、人間をやめたんだ。こうなることは当然か」
「まぁいいさ。来るべき日に全力さえだせれば……問題ないからね」
息を乱しながらイザベラは高鳴る胸を押さえて部屋に戻っていったのだった――