黒一色に塗りつぶされた城壁。
茨の蔦があちこちに絡みつき、血のような真っ赤な花を咲かせている。
そんな、魔王の居城のような威圧感をかもし出すプチトロワの中でタバサはイザベラと対峙していた。
「久しいねぇ、人形娘……元気だったかい?」
人骨と人皮で作られた禍々しい玉座に座り、侍女の生き血を注いだワイングラスをくるくると手でもてあそんでいる美女の名はイザベラ・ド・ガリア。
ジョセフの死後、配下の北花壇警護騎士団を使って電撃的にガリア王国の政府機能を奪い、その全権を掌握。
それと同時に世界中にばら撒いた火石とその起爆装置で、全世界を恐怖のどん底へ叩き落した最悪の魔女であった。
吸い込まれるような黒と、目も覚める鮮やかな朱のコントラストが禍々しいドレスを着て、胸元を大胆に覗かせている。
「…………」
イザベラがタバサの前に姿を見せなくなって一年あまり。
その間に彼女の様子はまったくの別人といっていいほどに様変わりしていた。
一瞬タバサの脳裏に偽者や操られているという可能性がよぎるが、その声は紛れもなく従姉妹のものだし、意識も明瞭そうで魔法やアイテムによる洗脳でもなさそうだ。
ならば、気まぐれか、乱心か。それならばやめさせればいいだけだ。とタバサは脳内で結論を出す。
「相変わらずだんまりかい? ふふ、あんたは変わらないねぇ」
そう言いながらイザベラはけだるそうな仕草で足を組み替え、乙女の血で喉を潤す。
「おい、キセルを寄越しな」
玉座のそばに控えていた生気のない侍女に空のワイングラスを押し付け、代わりにキセルを受け取る。
そして、ゆっくりとした優雅な動きで、すはぁーとキセルから紫煙をくゆらせた。
「……何のつもり?」
タバサが氷のように冷たい目でイザベラを見据えるが、イザベラは、顔色一つ変えず、微笑みをたたえて首をひねるだけだ。
「何がよ?」
上質な絹のように艶やかな青髪をかきあげるその仕草はまるで、極上の高級娼婦。一国の王をも手玉にとりそうな毒婦のソレだった。
イザベラはまだ20にも満たない歳でしかない。なのに、死の匂いを漂わせる魔性の色気と威厳をかもし出していた。
「とぼけないで……こんな馬鹿な真似はやめて」
呵呵とイザベラが笑う。
「そうだね、なにせあんたは勇者さまだ。世界の危機は見過ごせないだろうよ……くっくっく」
「わたしはね、こんな世界なんざどうなろうがどうでもいいんだよ。ただあんたをぶっ倒して、這い蹲らせて、命乞いをさせたいだけだ」
「……っ!」
それを聞いたタバサの瞳に怒気が宿る。
「そんな、ために……そんなことのために……?」
「そうさ! 綺麗な花火だっただろう?」
イザベラは、世界を脅す際、嘘や冗談ではない証として各国の都市を1つずつ灰にしていた。
「なんで……」
「ご託はもういいだろ、勇者さま。決着をつけようじゃないか」
イザベラがパチンと指を鳴らすと、玉座の一角を占めていた魔法装置が動き始める。
同時に、トリステイン、ロマリア、ガリア、アルビオン、ゲルマニア、クルデンホルフ、エルフ領、ハルケギニア中の上空にタバサとイザベラが対峙する玉座の様子が映し出される。
小国の国家予算並の莫大な金額をかけて、このためだけに作られたその魔法装置の映像に世界の人々は釘付けとなっているはずだ。
「さあ、世界の行く末をかけた決戦のはじまりだ」
イザベラがゆっくりと玉座の傍らに手を伸ばし、そこに立て掛けられている禍々しい意匠がこらされた大鎌を手にする。
それにあわせるように、タバサも父親の形見である杖を構えると。
イザベラが飛び掛るようにタバサに襲いかかった――