「最後だから」と世界滅亡の日に天才美少女から想いを告げられたけど、次の日起きたら普通に朝が来て気まずい   作:古野ジョン

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第3話 地球最後の弁明

「疲れた……」

 

 一日の授業を終えて理科室にやってきた俺は、へたり込むように椅子に座った。咲月の爆弾(に入っていた栄養剤)のせいで、先生もクラスの奴らもやたらエネルギッシュだったからな。振り回される俺の身にもなってほしいもんだ……。

 

「遅刻、非合理」

「ちょっ、ちょっと教室で休んでただけだよ……」

 

 横から現れた咲月は、なんだかご機嫌斜めだった。朝からあんな騒ぎを起こしておいて、まったく酷い後輩である。あれ、そういや他の部員がいない。

 

「咲月、みんなは?」

「外周」

「が、外周?」

「元気で仕方ないから走ってくるって」

「ここ科学部なんだけど!?」

 

 校舎の外がいつもより賑やかだと思ったけど、まさかうちの部員だとは思わなかった。科学部がムキムキになったところで、別にノーベル賞を受賞できるわけでもないんだけどな……。

 

「二人きり。話をするのにちょうどいい」

「そりゃ結構だけど。次から爆弾はよせよ」

「次は電磁波を使う。ワイヤレスで合理的」

「Wi-Fiの話はしてないんだけど」

 

 実際、こんな話をしにきたわけじゃない。兎にも角にも告白の話だ。

 

「……咲月、それより今朝の話の続きだよ。返事がどうとか」

「!」

 

 俺の言葉に、咲月は虚を突かれたように目を見開いた。しかしすぐに落ち着きを取り戻して、隣の椅子に腰を下ろす。ふと白衣に目をやると、やはり袖が薄茶色に染まっているのだった。……この世界が昨日と連続している証拠だな。

 

「そう、返事の話。聞かせて」

「でもさ、昨日は『忘れて』って――」

「『何を』忘れてとは言ってない。発言の曲解、よくない」

「えぇ……」

 

 なんだその澄ました顔は。天才クール美少女みたいな顔つきで屁理屈を言わないでほしい。いや、紛れもなく天才クール美少女ではあるんだけど。

 

「……わ、分かったよ。それで、何を言えばいいんだ」

「だから、返事。どうなの」

「えっと……」

 

 隣から咲月がのぞき込んでくるから、いつになく圧を感じる。しかし、返事と言われてもな。もちろん可愛い後輩だとは思っているけど、別に「好き」だってわけじゃない。……それで付き合うのは流石に不誠実だと思う。

 

「ごめん。嬉しくないわけじゃないんだけど、付き合うとかは出来ないかな……」

「……そっか」

 

 返事を聞くや否や、咲月はぷいっとそっぽを向いてしまった。やっぱり傷つけてしまったのだろうか。仕方がないとはいえ、申し訳ない気持ちになる。

 

「……」

 

 咲月は向こうを向いたまま何も話さない。俺もなんだかきまりが悪いような気がして、ついつい無言になってしまう。昨日で世界が終わるつもりで告白してきたのだろうから、少し気の毒ではある。

 

「えっと……咲月?」

「……振った女に声をかけるなんて、非合理」

「そっ、そうなんだけどさ。ちょっと聞きたいことがあって」

「なに?」

 

 頬杖をついた咲月が、なんとも気だるげに返事した。振っておいて言うのもなんだけど、これからもいつも通りに話したいとは思っているんだ。何か話題を出さないとな。

 

「結局さ、なんで地球は滅びなかったの?」

「……勇也くん、悪趣味」

「なんで!?」

「私の予測が間違ってたから、からかって遊ぶ気なんだ」

「ちっ、違うって!」

 

 まずい、咲月がへそを曲げてしまった気がする! 意外とお子ちゃまだから、拗ねられると厄介だし……早く機嫌を直さないと!

 

「いやっ、その……咲月が間違えるわけないと思ってさ!」

「えっ?」

「咲月はすっごく優秀だし、頭も良いから……予測を間違えるなんて信じられないんだよ!」

「へっ、へえ……」

 

 ちょっとわざとらしい褒め方かなと思ったけど、咲月はまんざらでもないみたいだ。相変わらずそっぽを向いているけど、後ろから見える耳たぶが……なんとなく赤に染まっている気がする。

 

「だからさ、頼むよ。なんで滅びなかったんだ?」

「……もっと」

「えっ、なに?」

「私のこと、もっと褒めてくれたら……」

 

 ……咲月って、こんなに単純な奴だったかな。いやいや、ここで立ち止まっちゃだめだ。今はとにかく咲月の魅力を挙げることにしよう。

 

「えっと……髪が綺麗なところとか。ぼさぼさにしないで整えればいいのにって思ってるよ」

「ほっ、他には……?」

「なんか……いちいち動きが可愛い。小動物みたい」

「かっ、かわっ……あとは?」

「なんだかんだ昔から懐いてくれてるからさ。そこも嬉しいかな」

「ふ、ふーん……」

 

 咲月の照れたような声色に、俺はほっと安堵する。これは……うまくいったのでは? 咲月様の機嫌が元通りに戻ったのでは? よかった、これできっと今まで通りに――

 

「……なのに、付き合ってくれないんだ」

「……うえっ!?」

 

 そっぽを向いていた咲月が、急に振り向いてきたと思えば――じゅ、銃を突きつけられてる!? なんだこれ!? SF映画に出てくる光線銃みたいだな!?

 

「ちょっ、冗談はよせって!! 危ないから!!」

「言ったでしょ。今度は電磁波を使うって」

「これっ、まさか――」

「勇也くんが受け入れないなら、昨日の告白はなかったことにする」

「記憶を消すつもりかよ!?」

 

 本当に光線銃だったのかよ!? そうか、ずっとそっぽを向いていたのは銃を準備していたのか……! いやいやマジで記憶消去だけは勘弁してくれって!

 

「大丈夫。痛くはない、ちょっと眩しいだけ」

「ちょっ……本気かよ!?」

「技適マークは取得してある。問題ない」

「電波法の心配はしてないんだけど!?」

 

 なんでこんな代物を認定してるんですか総務省さん!?

 

「消去範囲は昨日から。じゃあ、カウントダウンを――」

「まっ、待てって!」

「えっ?」

 

 昨日の記憶が消える。それで咲月は本当にいいんだろうか? 後悔しないのか?

 

「だって、昨日の記憶が消えたら……その……」

「なに。言い残すことがあるなら早く」

「そっ、そうじゃなくて! き……キスしてくれたのも忘れちゃうけど」

「!」

 

 咲月は目を見開き、あっという間に頬を紅潮させた。どうやら想定外だったらしく、銃を持ったままオロオロとしている。

 

「べっ……別に、そんなの……」

「俺は嫌だよ。せっかく咲月が勇気を出してくれたのに」

「ふ、振った女にそんなこと言うの……非合理……」

「考え直してくれよ。頼むからさ」

「……」

 

 わなわなと震えていた咲月だったが、ゆっくりと腕を下ろし始めた。しばらく何も言わずにいたが、絞り出すように……一言。

 

「……分かった。やめる」

「そっか、ありがとな」

「……」

 

 俺は安心して、ほっと胸をなでおろす。ああよかった。いくら昨日からの分だけとは言っても、記憶を消されるなんて――

 

「じゃあ、代わりに」

「ひっ!?!?」

 

 ちょっ、また突き付けられた!? 今度は何だよ!?

 

「なっ、やめてくれたんじゃなかったのかよ!?」

「今週末。どっか……連れてって」

「えっ?」

「私が懐くの、嬉しいって言った。断るの、非合理」

 

 ……なるほどな。付き合わなくてもいいから、一緒に遊びに行こうと誘われているのか。たしかに断る理由はないな。

 

「いいよ。久しぶりにどっか行こうか」

「……合理的判断、賢明」

 

 咲月は今度こそ銃を下ろし、白衣の胸ポケットにしまった。そしてゆっくりと立ち上がり、理科室の出口に向かって歩きだす。

 

「どこ行くんだよ」

「図書室。調べ物が出来た」

「そっか、気をつけて」

 

 扉を開けて出て行く咲月に手を振ると、俺はひとり取り残される。

 

 そういえば、地球が滅びなかった理由を聞きそびれたな。でもまあ、今度聞けばいいか。

 

 きっと、大した理由でもないだろうしな。

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