「最後だから」と世界滅亡の日に天才美少女から想いを告げられたけど、次の日起きたら普通に朝が来て気まずい 作:古野ジョン
「疲れた……」
一日の授業を終えて理科室にやってきた俺は、へたり込むように椅子に座った。咲月の爆弾(に入っていた栄養剤)のせいで、先生もクラスの奴らもやたらエネルギッシュだったからな。振り回される俺の身にもなってほしいもんだ……。
「遅刻、非合理」
「ちょっ、ちょっと教室で休んでただけだよ……」
横から現れた咲月は、なんだかご機嫌斜めだった。朝からあんな騒ぎを起こしておいて、まったく酷い後輩である。あれ、そういや他の部員がいない。
「咲月、みんなは?」
「外周」
「が、外周?」
「元気で仕方ないから走ってくるって」
「ここ科学部なんだけど!?」
校舎の外がいつもより賑やかだと思ったけど、まさかうちの部員だとは思わなかった。科学部がムキムキになったところで、別にノーベル賞を受賞できるわけでもないんだけどな……。
「二人きり。話をするのにちょうどいい」
「そりゃ結構だけど。次から爆弾はよせよ」
「次は電磁波を使う。ワイヤレスで合理的」
「Wi-Fiの話はしてないんだけど」
実際、こんな話をしにきたわけじゃない。兎にも角にも告白の話だ。
「……咲月、それより今朝の話の続きだよ。返事がどうとか」
「!」
俺の言葉に、咲月は虚を突かれたように目を見開いた。しかしすぐに落ち着きを取り戻して、隣の椅子に腰を下ろす。ふと白衣に目をやると、やはり袖が薄茶色に染まっているのだった。……この世界が昨日と連続している証拠だな。
「そう、返事の話。聞かせて」
「でもさ、昨日は『忘れて』って――」
「『何を』忘れてとは言ってない。発言の曲解、よくない」
「えぇ……」
なんだその澄ました顔は。天才クール美少女みたいな顔つきで屁理屈を言わないでほしい。いや、紛れもなく天才クール美少女ではあるんだけど。
「……わ、分かったよ。それで、何を言えばいいんだ」
「だから、返事。どうなの」
「えっと……」
隣から咲月がのぞき込んでくるから、いつになく圧を感じる。しかし、返事と言われてもな。もちろん可愛い後輩だとは思っているけど、別に「好き」だってわけじゃない。……それで付き合うのは流石に不誠実だと思う。
「ごめん。嬉しくないわけじゃないんだけど、付き合うとかは出来ないかな……」
「……そっか」
返事を聞くや否や、咲月はぷいっとそっぽを向いてしまった。やっぱり傷つけてしまったのだろうか。仕方がないとはいえ、申し訳ない気持ちになる。
「……」
咲月は向こうを向いたまま何も話さない。俺もなんだかきまりが悪いような気がして、ついつい無言になってしまう。昨日で世界が終わるつもりで告白してきたのだろうから、少し気の毒ではある。
「えっと……咲月?」
「……振った女に声をかけるなんて、非合理」
「そっ、そうなんだけどさ。ちょっと聞きたいことがあって」
「なに?」
頬杖をついた咲月が、なんとも気だるげに返事した。振っておいて言うのもなんだけど、これからもいつも通りに話したいとは思っているんだ。何か話題を出さないとな。
「結局さ、なんで地球は滅びなかったの?」
「……勇也くん、悪趣味」
「なんで!?」
「私の予測が間違ってたから、からかって遊ぶ気なんだ」
「ちっ、違うって!」
まずい、咲月がへそを曲げてしまった気がする! 意外とお子ちゃまだから、拗ねられると厄介だし……早く機嫌を直さないと!
「いやっ、その……咲月が間違えるわけないと思ってさ!」
「えっ?」
「咲月はすっごく優秀だし、頭も良いから……予測を間違えるなんて信じられないんだよ!」
「へっ、へえ……」
ちょっとわざとらしい褒め方かなと思ったけど、咲月はまんざらでもないみたいだ。相変わらずそっぽを向いているけど、後ろから見える耳たぶが……なんとなく赤に染まっている気がする。
「だからさ、頼むよ。なんで滅びなかったんだ?」
「……もっと」
「えっ、なに?」
「私のこと、もっと褒めてくれたら……」
……咲月って、こんなに単純な奴だったかな。いやいや、ここで立ち止まっちゃだめだ。今はとにかく咲月の魅力を挙げることにしよう。
「えっと……髪が綺麗なところとか。ぼさぼさにしないで整えればいいのにって思ってるよ」
「ほっ、他には……?」
「なんか……いちいち動きが可愛い。小動物みたい」
「かっ、かわっ……あとは?」
「なんだかんだ昔から懐いてくれてるからさ。そこも嬉しいかな」
「ふ、ふーん……」
咲月の照れたような声色に、俺はほっと安堵する。これは……うまくいったのでは? 咲月様の機嫌が元通りに戻ったのでは? よかった、これできっと今まで通りに――
「……なのに、付き合ってくれないんだ」
「……うえっ!?」
そっぽを向いていた咲月が、急に振り向いてきたと思えば――じゅ、銃を突きつけられてる!? なんだこれ!? SF映画に出てくる光線銃みたいだな!?
「ちょっ、冗談はよせって!! 危ないから!!」
「言ったでしょ。今度は電磁波を使うって」
「これっ、まさか――」
「勇也くんが受け入れないなら、昨日の告白はなかったことにする」
「記憶を消すつもりかよ!?」
本当に光線銃だったのかよ!? そうか、ずっとそっぽを向いていたのは銃を準備していたのか……! いやいやマジで記憶消去だけは勘弁してくれって!
「大丈夫。痛くはない、ちょっと眩しいだけ」
「ちょっ……本気かよ!?」
「技適マークは取得してある。問題ない」
「電波法の心配はしてないんだけど!?」
なんでこんな代物を認定してるんですか総務省さん!?
「消去範囲は昨日から。じゃあ、カウントダウンを――」
「まっ、待てって!」
「えっ?」
昨日の記憶が消える。それで咲月は本当にいいんだろうか? 後悔しないのか?
「だって、昨日の記憶が消えたら……その……」
「なに。言い残すことがあるなら早く」
「そっ、そうじゃなくて! き……キスしてくれたのも忘れちゃうけど」
「!」
咲月は目を見開き、あっという間に頬を紅潮させた。どうやら想定外だったらしく、銃を持ったままオロオロとしている。
「べっ……別に、そんなの……」
「俺は嫌だよ。せっかく咲月が勇気を出してくれたのに」
「ふ、振った女にそんなこと言うの……非合理……」
「考え直してくれよ。頼むからさ」
「……」
わなわなと震えていた咲月だったが、ゆっくりと腕を下ろし始めた。しばらく何も言わずにいたが、絞り出すように……一言。
「……分かった。やめる」
「そっか、ありがとな」
「……」
俺は安心して、ほっと胸をなでおろす。ああよかった。いくら昨日からの分だけとは言っても、記憶を消されるなんて――
「じゃあ、代わりに」
「ひっ!?!?」
ちょっ、また突き付けられた!? 今度は何だよ!?
「なっ、やめてくれたんじゃなかったのかよ!?」
「今週末。どっか……連れてって」
「えっ?」
「私が懐くの、嬉しいって言った。断るの、非合理」
……なるほどな。付き合わなくてもいいから、一緒に遊びに行こうと誘われているのか。たしかに断る理由はないな。
「いいよ。久しぶりにどっか行こうか」
「……合理的判断、賢明」
咲月は今度こそ銃を下ろし、白衣の胸ポケットにしまった。そしてゆっくりと立ち上がり、理科室の出口に向かって歩きだす。
「どこ行くんだよ」
「図書室。調べ物が出来た」
「そっか、気をつけて」
扉を開けて出て行く咲月に手を振ると、俺はひとり取り残される。
そういえば、地球が滅びなかった理由を聞きそびれたな。でもまあ、今度聞けばいいか。
きっと、大した理由でもないだろうしな。