「最後だから」と世界滅亡の日に天才美少女から想いを告げられたけど、次の日起きたら普通に朝が来て気まずい   作:古野ジョン

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第4話 地球最後のファッションショー

「えーと、今の部員数が……」

 

 金曜の放課後、俺は理科室の椅子に座って書類仕事を行っていた。いちおう科学部の部長なので、こういう地味な仕事もこなさなければならないのだ。

 

「……勇也くん」

「あれ、帰ったんじゃなかったのか」

 

 理科室の入り口の方に顔を向けると、いつも通り白衣に身を包んだ咲月がカップを二つ持って立っていた。その上には湯気が立っていて、ほのかにコーヒーの匂いもする。

 

「お仕事、頑張ってるから。一緒に飲まない?」

「ありがとう。座りなよ」

「ん」

 

 着席を促すと、咲月はてくてくとこちらに歩いてきた。机を挟んで向かい側に座り、俺の方へとカップを寄せてくる。いつも通りのインスタントコーヒーだけど、やっぱりこういう気遣いは嬉しい。

 

「いただきます」

 

 俺がカップに口をつけると、咲月も白衣の袖越しにカップを持った。どうやら直接触るのは熱いらしい。普段は硫酸やら塩酸やらの物騒な試薬を平気な顔で扱っているのに、ちょっとギャップがあって可愛いな。

 

「……勇也くんが仕事してるのに、みんな先に帰った」

「別に手伝ってもらうこともないから。残ってもらう方が非合理だよ」

「業務量の偏りは人間関係に不和をもたらす。それも非合理」

 

 萌え袖でコーヒーを飲みながら、咲月は静かに答えた。咲月は表面的な合理性をなぞっているのではなく、もっと深く、本質的な何かを追い求めている気がする。それが何かを言語化するのは、俺には難しいけどな。

 

「でも咲月こそ、なんで残ってたの?」

「勇也くんと一緒にいたいだけ」

「そっ……そうか」

 

 動揺するあまり、危うくコーヒーを吹き出すところだった。真顔でこんなことを言われると、なんだかこっちが恥ずかしくなってしまうな……。

 

「でも、もう一個理由がある」

「ん、なに?」

「日曜、デート……だから」

「!」

 

 咲月は照れ臭そうに、ちらりと上目遣いでこちらの顔を見てきた。そうだ、一緒に出掛ける約束をしたんだったな。でも……それがどうして居残ることに繋がるんだろう。

 

「あれ、でも……どこに行くかは決めたじゃんか」

「違う。ずっと調べてたから、見てほしい」

「何を?」

「デートのときの、服……」

「服?」

 

 俺が首をかしげていると、咲月がすっと席を立った。いつの間にか右手には雑誌が、左手にはバーコードリーダーのようなものが握られている。

 

「何それ?」

「この端末で本の中身を読んで、空間に投影することが出来る」

「へえ……」

「勇也くん、ちょっと後ろ向いてて」

「? うん」

 

 指示に従い、俺は咲月に背を向けた。それにしても、咲月がファッションに興味を持つなんて思わなかったな。それだけ日曜に向けて気合を入れているというわけで……嬉しいような、プレッシャーを感じるような。

 

「ん、もういいよ」

「ああ」

 

 言われるがまま、何も考えずに元の姿勢に戻る。しかし、咲月の姿が見えた瞬間――その美しさに思わず息を呑み、言葉を失ってしまった。

 

「えっ……!?」

「どう、かな……」

 

 そこにいたのは、可憐な雰囲気をまとった一人の少女だった。淡い色のブラウスと黒いロングスカートが、細い身体によく似合っている。いつもはあどけなさを感じる顔立ちも、今はむしろ洒脱な風格を引き立たせているように見えた。

 

「勇也くんが好きそうな服、選んだ。……正解?」

 

 咲月はやや恥ずかしそうに頬をかき、片足に体重を預けるようにして立っている。いつもはぼさぼさな髪も綺麗に整っていて、本当に別人みたいだ。

 

「……うん。綺麗だよ、大人っぽくて」

「ん。図書室の雑誌、いっぱい読んだから」

「へえ……そっか」

 

 このIT全盛の時代に、随分と古典的な手法で情報を得ているんだな。きっと普段はファッションに興味なんて持っていないのだろうから、調べ方も分からないのかもしれない。……咲月なりに一所懸命に頑張ったんだな。

 

「ねえ」

「ん?」

 

 思わず感慨にふけっていると、机越しに咲月が身を乗り出してきた。顔を突き合わせるように、じっと俺の目を見つめてくる。

 

「勇也くん。……私のこと、好きになった?」

「えっ?」

「綺麗で大人っぽいって言った。好きにならないなんて、非合理」

「えっとぉ……それは……」

 

 ……まずい、余計なことを言ったかもしれない。俺はあくまで咲月のことを振った立場なんだ。それで服装を褒めるなんて、都合の良い色男みたいだもんな。

 

「ん、どうなの」

「いやあ……何というか、まだ好きというわけじゃ……」

「勇也くんのスマホを解析して、好みのタイプとして蓋然性の高い服装を導き出した。私のことを好きになるのが自然」

「今とんでもないこと言わなかった!?」

「……やっぱり刺激が足りない。もっと、違うものを……」

 

 咲月はぶつぶつと何かを呟きながら、左手に握った端末を操作した。すると手品のように服装が変化して、今度は薄ピンク色のワンピースが現れる。

 

「えっ!?」

「これはあくまで映像。入力を変えれば結果も変わる」

「すっ、すげえ……」

「フリフリのワンピース。勇也くん、こういう清楚な子が好み」

「……う、うん」

「夢見がちで女子に怒られるタイプ」

「そんなひどいこと言わなくてもよくない!?」

 

 いくら合理主義者だからって物事をストレートに言うのは軋轢を生みそうですけど!? さっき人間関係の不和は非合理とか言ってませんでしたか!?

 

「じゃあ、次はこの服」

「えっ、地雷系!?」

「これはゴスロリ。勇也くん、不勉強」

「定義にうるさいのは理系の悪癖だぞ!」

「じゃあ、次はこれ」

「メイド服!?」

「勇也くんの電子書籍、メイドものが多かった」

「だから勝手に人のスマホ見るんじゃねえよ!?」

「勇也くんが好きって言うまで、やめないから――あっ」

「えっ?」

 

 咲月が不意に漏らした声に、思わず顔を上げる。……えっ? 咲月の服が消えた? まさか、ボタンを押し間違えて……映像を消してしまったのか? 上下お揃いの、子どもっぽい白い下着が――

 

「……勇也くん、おやすみ」

「ちょっ、それ記憶を消す銃じゃ――」

「おっ、おやすみ!」

「うおおおおおおっ!!!?!!?」

 

 ゼロ距離で発射された光線をなんとか避けつつ、俺は必死に逃げ惑う。この後、俺は下着姿の天才クール美少女に追い掛け回される羽目になり、書類仕事を進めることなどまるで出来なかったのであった……。

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