「最後だから」と世界滅亡の日に天才美少女から想いを告げられたけど、次の日起きたら普通に朝が来て気まずい 作:古野ジョン
『日本政府は緊急事態を宣言するとともに、各国首脳との連携を……』
『人類の生存は極めて絶望的であるとの見方が広がっており、各地では暴動も……』
『未確認物体は既に地球との衝突コースに乗っており、明日にも……』
……さっきから居間のテレビで流れているのは、現実感のないニュースばかり。人類が終わる、文明が終わる、地球が終わる。何度聞いても信じられない。
「あれ」
咲月がいない。隣に座ってテレビを観ていたはずなのに。こんな時にどこへ――
「勇也くん、じゃあね」
「え?」
何だ? どこから俺に声を掛けているんだ? どうして悲しそうなんだ? 応えてくれよ、さ――
「咲月っ!!」
「うわっ、びっくりした」
……目を覚ますと、ボックス席の向かい側に座っている咲月がビクっと反応した。自分の置かれた状況が分からず、周りをきょろきょろと見回してみると、車窓の外には流れる景色が見える。
「あれ……?」
「デート中に居眠り、非合理」
「えっと、ここ……」
「電車。今日、私とお出かけの日」
珍しく、咲月が不満そうにむーっと頬を膨らませていた。そうだ、思い出した。今日は日曜、咲月とデートに行く日。それで電車に乗って移動しているんだったな。
咲月は淡い色のブラウスに黒のロングスカートを身にまとっている。五月という時期にふさわしい、春らしい格好だ。こんな服装をしているの、
「やっぱりその服、似合ってるな。大人っぽいよ」
「……一昨日と同じ発言。勇也くんは再現性がある」
「え? 一昨日なんかあったっけ?」
「忘れているなら、気にしない」
一昨日って……金曜日か。つい最近のはずなのに、なぜかよく覚えてないんだよな。まだ物忘れするような年齢じゃないと思うんだけどな……。
それにしても、咲月と二人で出かけるなんて本当に久しぶりだな。小さい頃、一緒に近所の公園なんかに行くことはあったと思うけど。
咲月は窓際に頬杖をついて、いつも通りのすまし顔で風景を眺めている。綺麗な横顔だな。本当に……どうして、俺なんかを好いてくれたのだろう。
「咲月」
「ん、なに?」
「言いたくないならいいんだけどさ。……なんで、俺なんだ」
「好き、だから」
「そっ……そうじゃなくて。なんで俺を好きなのか知りたいんだよ」
「付き合ってくれないのに、デートには一緒に行ってくれるところが好き」
「怒ってる?」
「遊び人だなんて、思ってない」
「……なんかごめん」
咲月様がお怒りである。しかしまあ、俺だって不思議に思ってるさ。一緒にデートに行くことには何の抵抗も抱かないのに、どうして「好き」という感情が湧かないのか。……自分でも分からないんだよな。
「勇也くん」
「どうした?」
顔を上げると、咲月がいつの間にかじっと俺のことを見つめていた。何か言いたげな表情で、口をもごもごとしている。
「もし……もし、また地球が滅びそうになったら」
「えっ、滅ぶの?」
「仮定の話。また滅びそうになったとしたら、勇也くんはどうする?」
「どうするって……」
地球が滅ぶ(未遂)前日にも同じことを聞かれたな。その時は、友達とも話さないし好きな女子に告白なんてこともしないと答えた気がする。でも、今は……咲月が好意を打ち明けてくれたあとだからな。
「……咲月と一緒にいる、かな」
「本当?」
「咲月はそうして欲しいのかなって思うからさ。違う?」
「違わない。けど……」
「けど?」
「……なんでもない。やっぱりまだ、刺激が足りない」
刺激が足りない? 咲月は何の話をしているんだろう。……おっと、そろそろ駅に着くみたいだな。
「そろそろだよ、咲月。降りようか」
「ん、降りる」
俺が先に立ち上がってそっと手を差し伸べると、咲月はそれを掴んですっと席を立った。電車はゆっくりとホームに滑り込んでいき、徐々にスピードを落としていく。
「ねえ、勇也くん」
「ん?」
ドアの方に歩きだそうとした間際、再び話しかけられた。振り返ってみると、咲月はじっと俺の目を見つめている。
「なんだよ、急に」
「……勇也くんは優しすぎる」
「えっ」
「ん、なんでもない。ただ――」
電車が止まる。咲月は再び歩き出しつつ、俺の耳元にそっと顔を寄せて――言葉を発した。
「私にとっては、非合理」
降り立ったホームには、春らしい風が吹いていたのだった。