「ムグムグ…。うん、美味しい」
やっぱり好きだな〜、ジョウト地方の料理は。
なんか、ホッとする味なんだよね。僕の出身がジョウトだから当たり前だけど。
『チッキショウ〜!オイラも実態があれば好きなだけ食えたってのによ〜!』
そう言うけど、ピカさんってお金は持ってるのかな?悪いけど、僕も僕でカツカツな懐事情で旅してるから他ポケに奢ってあげれる余裕はないよ。
余程のことがない限り、もう一個の口座は使いたくないし。
「…そういえば、このお祭りって“光神さま”を讃えるための祭りなんだよね?さっきは聞きそびれたけど、君と例の神さまは関係があったりするの?」
多分、この町に祀られてる“光神さま”ってのは、ピカさん…そして彼のパートナーだったトレーナーだと思ってる。
それでも、普通の人間とポケモンがあんな怪物に対抗できるとは到底思えないけど。
『…概ねのオマエさんの考えてる通りだよ。オイラと相棒は100年前、この世界を襲った“災厄”と戦った。長い時間がかかった……けど、オイラたちは力を合わせて、やっとバケモンを追い詰めたんだ…』
ピカさんと言葉には明らかに含みがあった。コレまで得た情報を冷静に整理すれば、裏側にある“事情”を察するのはそう難しいことじゃない。
「この村に伝わってる伝承によれば、“
『まったくのデタラメだな。あんなバケモンを1つの土地に封印できるくらいなら、オイラたちは苦労しねェ。…流石に“神”なら話は別だが』
ピカさんは詳細を話したがらなかったけど、とりあえず地球の平和を取り戻すには相当の苦労と犠牲があったことだけは分かった。
もしかすると、生き残ってる人たちが当時のことを話したがらないのは、そこらへんが関係してるかもしれないね。
「……どうせなら、さっきの祠に何かお供え物をしようかな。ねぇピカさん、その相棒さんの好物とかって分かるかな?」
『おっ!流石はオイラが見込んだ男だぜッ!アイツは甘いモノが大好きでさ〜!』
相棒のことを話すピカさんの顔はどの話題よりも明るい。
それだけ、彼は相棒のことが大好きだったんだろうな…。
正直、ちょっと嫉妬しちゃうかも。僕はパートナーポケモンたちにそこまで慕われているか分からないからさ。
ヒュ~…
「ん?」
お供え物を買いに広場から移動しようとすると、空から何とも言えない音が聞こえる。
どうも、ピカさんの声と違ってこの音が聞こえるのは、僕だけじゃないようで、他のお客さんも空を見上げている。
「この音って…花火…?」
その音は決して、祭囃子の音でなければ、さっき見かけたコロトックの鳴き声でもない。
僕の知識で1番近い表現をするなら、
『花火が射出された音』ーーそれ以外の表現が思い浮かばないくらいには、まんまだった。
それでも少しおかしい。普通、花火ってのは空に向けて射出する物だろ?
けど……
明らかに音源は
「ーー!!! おいアル坊ッ!!!伏せろォォォォォォ!!!!!!」
ピカさんが大焦りで僕に何かを言った。けど、僕はそれに応えることはなかった。
だって……
漆黒の閃光が、僕の視界を覆い尽くしたから。
♦︎♦︎♦︎
長かった…。本当に永かった…。
アレから一体、どれだけの月日が経ったのだろう?
“あの時”の私は本当に非力だった。
ただ、憧れだった“あの人”の後ろを歩く事しか出来ず
命を懸けた説得すらも、“あの人”の心には響かなかった。
私が悪いんだ。私が弱かったから、“英雄”を見殺しにしてしまった。
もっと私が強かったら。
私が“英雄”と肩を並べて歩けていたら。
きっと、“あの人”は勝者となっていただろう。
だが、現実は違う。
“あの人”は本当に奮戦した。たった1人で誰の力も借りずに。
“英雄”はホウエンの
彼は成し遂げたのだ。
絶対である筈の“神”を殺すという偉大なる一歩を。
それでも、“英雄”は敗けた。
“生命の神”・ホウオウ
“輪廻転生の神”・ルギア
“時刻神”・ディアルガ
“時空神”・パルキア
“時逆神”・ギラティナ
そして……
“裏切り者”に。
彼の地に集結した“創世神”と“裏切り者”の共に手によって、無惨にも私の“憧れ”は殺された。
もう私には“あの人”の名前を思い出す事すら出来ない。
“英雄”の意志を継ぐ者の出現を恐れた“神”によって、彼に関する全ての記憶が抹消されたからだ。
それでも私は覚えている。
“あの人”との旅路にて見た美しい光景を。
海中に遺された古代遺跡。
宝玉の花が咲き誇る水晶の巨大樹。
“英雄”は旅人として旅路を開拓し、私に素晴らしい冒険を魅せてくれた。
忘れるものか。“あの人”との思い出を忘れる事など出来る筈もない。
だからこそ……ココからが“始まり”なのだ。
もう賽は投げられた。今更、後戻りは出来ないし、しようとも思わない。
聞こえているか?忌まわしき“神”共。
そして……
どこかで眠っている“裏切り者”の魂を継ぐ者よ。
コレは“逆襲”などではない。ましてや“宣戦布告”でもない。
私の計画は楽譜に。
犠牲者の悲鳴は演奏に。
かつてこの世界に存在していた“英雄”へ捧げる為の……
♦︎♦︎♦︎
『ーーい!!!ーーきろ…!!!目ーーれ…!!!』
漆黒に染まっていた筈の意識が、徐々に色を取り戻す。
ココはどこ?私は誰?そんな疑問すらも、どうでもよくなるくらい身体全体が痛い。
『いい加減…!目を覚ましやがれェェェェェ!!!!!』
「わーーーっ!?!?!?」
ビックリした!?なになに!!??耳に爆弾でも投げ込まれた!?それとも雷が直撃した!?
「・・・って!ピカさん!?急に大きな声を出してどうしたんだよ…!?」
『やっっっと目を覚ましやがったな!!!説明は後だ!今は一刻も早く、ココから逃げるぞ!!!』
「逃げる…?なんで…?ーーグッ!?」
刹那、僕の頭を強烈な頭痛が襲う。
「そ、そうだ…!黒い火の玉が落ちてきて…それから…!」
何故、僕は気を失ったのか。何故、今まで視界が暗闇に覆われていたのか。何故、周囲から
頭痛は解答タイム開始の合図となり、周囲の光景がその答えを示す。
「なに……コレ……?」
CEROや対象年齢なんて気にせずに率直に言わせて貰えば、僕の目に映っているのは“地獄絵図”だった。
数分前まで“光神さま”に祈りを捧げる場であった祭り会場は、見るも無惨な更地と化し。
数分前まで生命活動を行っていたであろう
「ウ…!オェェェェ……!!!」
胃に詰め込んでいた亡者の遺産が吐瀉物となって、口から吐き出される。
「ゲホ…!ゲホ…!」
無限に続く不快感により、吐き続ける最中。僕は
先に言っておくと、この怒りの矛先は地獄を生み出した“元凶”に対してじゃない。
“今”じゃなくて“過去”が原因でゲロった
『ーー!!! 隠れろアル坊ッ!
「アイツ…?」
『説明してる時間はねェ!!!とにかく隠れろッ!死にたくなきゃなッ!!!』
ピカさんに促されるがままに、恐らく元は古民家だったであろう瓦礫の山の裏に隠れた僕は、小さく顔を出してピカさんがココまで恐れている“謎の存在”を確認する。
『最っ悪だ…!!よりにもよって、このタイミングで復活しやがった…!!』
「なんだよ…!アレ…!?」
「ルゥ…!ロオォォォォォイ!!!!」
そこにいたのは“人”でも“ポケモン”でもない、そもそも生物ですら怪しいただの“バケモノ”だった。
全長はだいたい3m程、頭部はガルーラやガラガラを思わせる形状の骸骨が二対あり、全身はヘドロのようなドス黒いエネルギーで構成されている。
右側2本、左側2本、計4本の細長い腕にはそれぞれ先端に黒い炎が灯された骨を持っている。恐らく、それがヤツの獲物なんだろう。
その姿はまさに“悪魔”と形容するに相応しい。
夜道で遭遇したら怖いポケモンランキングには、いつもサマヨールやヨノワールがランクインしてるけど、コイツが参戦すれば殿堂入りは間違いないだろうね。
「ねぇ、ピカさん…。アレは一体なんなの…!?アイツが町の人を殺したのかい…!?」
『そうだ…!気絶する前に火の玉を見ただろ…?あの正体がアソコに居るバケモンだ…!』
ポケモンによる傷害事件自体はそう珍しい物じゃない。
人とポケモンに力に差がありすぎる以上、ポケモン側からすればじゃれついてるつもりでも人を傷つけてしまうことがある。
けど……。目の前のバケモノは違う。
コイツは明らかに“悪意”を持って、ココに現れた。
アレだけの大惨劇を引き起こしても、気怠げな歩き方で、まだ生存者がいないか執拗に確認しているのが良い証拠だ。
「助……けて……」
どうやってこの場から逃げるかーーそう考えている時、今にも消えそうな程に微かな声が助けを求めた。
コレが赤の他人だったら、思考を優先して聞き逃していただろう。けど、僕は……その声を知っていた。
「シオンちゃん…!?」
昼間に会った博物館館長の孫娘・シオンちゃん。
幸運なことに彼女はまだ生きてはいたけど、不幸なことに瓦礫の下敷きとなって動けなくなっている。
そして……彼女の不幸はまだ続く。
「ルロロロロ…!!!」
彼女の消えそうな声は“虐殺者”に届いてしまった。
生き物ですら怪しい存在に『者』を使うのは間違ってるかもしれないけど。
まだ14やそこらの少女の命の炎は、もはや風前の灯火であった。
「いや…!こないで…!」
そんな最悪な思考が脳裏を過ぎる。
ーー最悪だ。なんで僕はどこまで行っても自分のことしか考えられない?
この期に及んでも自分本位な考え方しかできない自分自身に対して腹が立つ。
ーー死ねよサクラギ・アルカ。ココで死のうよ?うん、それがいい。こんな最低な人間は最初からこの世に生きてちゃいけないんだ。
もう何度、自分に向かって『死ね』と言い続けただろう?百?千?万?……もう分かんないや。思い出そうとすることすら億劫になってくる。
ーーよくよく考えてみると、まったく同じだな。“
“
重なる光景は“
その周囲には、鉄屑の瓦礫が積み上がっている。
そして……
辛うじてあるべき形を保っている、人とポケモンの死体の山も。
ーー同じだ。よくよく考えてみなくても同じだった。本当は気づいていた筈なんだ。僕はただ目を向けたくなかっただけだ。自分が犯した逃れられない“罪”から。
“今”も“昔”も、同じ地獄の中心に僕は立っている。
崩壊した瓦礫の山を足場にして
命を散らした者たちを補強材にして
ーーコレが僕が見たかった景色なのか?
そうだ。“あの時”の僕はこの地獄を望んでいた。
全員、死ねばいいと思った。
明確な“悪意”だって持っていた。
だから、全てを捨てる覚悟で地獄の入り口へ足を踏み入れた。
慕ってくれた人たちも、ついて来てくれたパートナーたちも、
文字通り全てを切り捨てて。
ーーけど……その結末はどうだった?
……僕は逃げた。逃げてしまった。
アレだけ望んでいたことなのに。
罪を背負う覚悟を持っていたのに。
結局、全ては幻でしかなかった。
僕は…僕自身が恨めしい…!
ーーなら、また同じことを繰り返すのか?
今更、僕に選択する権利なんてあると思うのかい…?
ーー選択に権利など最初から存在しない。選択とは全ての生命に等しく与えられる
…前に進むのが怖い。過去と向き合うのが怖い。許されるのなら、今ココで消えてしまいたい。
ーーそれもまた一つの選択だ。ボクは否定もしないが、肯定もしない。ただ……
「ウオォォォォオオォォォ!!!」
“誰か”との長い対話を終えた僕は、気づいた時にはバケモノへ向かって走り出していた。
「ルロォ!?」
「コレでも…!喰らえェェェェェ!!!!!」
バケモノへ向かって投げたのは、偶然余っていたダークボール。今の時間帯はちょうど夜だ。
光に触れなければ触れない程、捕獲率が跳ね上がるこのボールならば、2〜3秒くらいは時間を稼げる筈…!その隙にシオンちゃんを助けるんだ…!
「ルゥ……ロオォォォォォ!!!」
バキッ!!!
「うっそ…!?」
完全に考えが甘かった。
デザインがちょっと賛否分かれるくらいしか欠点のないボールは、目の前のバケモノをポケモンだと認識しなかったようで、捕獲を試みることすらせずに棍棒によって叩き割られてしまった。
決死の時間稼ぎすらもおじゃんとなり、完全に無駄骨を折った僕。強いて言うなら、目の前のバケモノはポケモンですらないことが証明されたことくらいしか得た物がない。
『なにしてんだアル坊ッ!!!完全に狙いがオマエに方にいったぞッ!!!』
「それならそれで良いッ!!!」
既に覚悟を決めていた僕は、懐から2つのモンスターボールを取り出す。
もう何年もバトルはしてないし観てもない。僕もポケモンも大きく勘が鈍ってるだろう。
だけど…。今はただ、前に進み続けると決めたんだ!!!
「もう一度、僕に力を貸してッ!!!ガラガラ!!ポリゴン2!!」
ポンッ!!!
「ガララッ!!!」
「ポリリ〜!」
紅白のカプセルから飛び出したのは、僕のエースであるガラガラと縁の下の力持ちポリゴン2。
特にガラガラは、ただのガラガラじゃなくて、アローラ地方でしか見られないリージョンフォームと呼ばれる品種だ。
……それにしても、偶然かな?目の前のバケモノってどことなくガラガラに似てる気がするけど…。
「ウロロォォオオォォォ!!!」
僕が手持ちを出してことで敵意を感じ取ったのだろう。バケモノは天に向かって遠吠えを上げると、独特な
「ルゥ…!ロオォォォォォイ!!!」
「は、速い…!けど…!ポリゴン2ッ!“トリックルーム”だッ!!!」
「ポリィ!!!」
指示を理解したポリゴン2は長方形の領域を展開して、バケモノと彼らを現世から遮断する。その広さは公式戦のバトルコートキッカリ。コレで勝負の舞台は整った。
「ガラガラは“フレアドライブッ”!!!ポリゴン2は“トライアタック”で追撃してッ!絶対に反撃の隙を与えないでッ!!!」
「ガラッ!!!」
ズガーンッ!!!
蒼炎の炎を纏ったガラガラの突進が、バケモノの鳩尾に入る。間髪入れずに三色のビームが追撃する。
「ルロ……ッ!!?」
バケモノに知性があるかは分からないけど、今ごろは混乱している筈だ。
何せ、目の前の2匹のポケモンは自分よりも圧倒的に遅いにも関わらず、彼らの姿を捉えられないのだから。
当然、コレにはタネも仕掛けも存在する。といっても、“トリックルーム”がそのタネだけど。
“トリックルーム”は一定時間の間、世界の理を歪める技。最速は最遅に、最遅は最速に。
まさにエスパータイプらしい、現代の科学でも解き明かせないような不可思議な空間だ。
(ポリゴン2の持ち物は“しんかのきせき”…。だから“トリックルーム”の継続は時間は約5分…!どこまで耐え切れるか分からないけど、やれるところまでやってやる…!)
バケモノに攻撃が通じない訳じゃない。確実に体力は削られているみたいだし、この空間に適応できずにイラついている様子だ。
(いける…!このまま押し切れる…!)
一粒一粒はか弱い水滴も、永い年月を掛ければ硬い岩も削る。
けど、絶対に油断しちゃいけない。僕たちは吹けば飛ぶ紙切れのような存在だ。それこそ、一度でも技を出させれば一瞬にして焼き尽くされてしまうだろう。
(とりあえず動きは完封した…。次は…!)
アイコンタクトで現状維持をガラガラたちに伝えた僕は、彼らに戦闘を任せると動けないシオンちゃんを助けに向かう。
「アルカ…さん…」
よかった。まだ生きてる。瓦礫もそこまで積み上がってる訳じゃないから、ポケモンの手を借りればなんとかなる範囲だ。
「来て!トゲキッス!」
「キィーー!!!」
ボールからトゲキッスを出すと、即座に弱めの“ムーンフォース”を指示する。
知性が高くて優しいトゲキッスはキチンと僕の意向を汲み取り、ちょうどいい塩梅のムーンフォースでシオンちゃんを傷つけないように、瓦礫を吹き飛ばした。
「トゲキッス。シオンちゃんを近くの町まで連れて行ってあげて。出来れば、ポケモンセンターか交番近くにね」
「キッス!」
「ア、アルカさんはどうするの…?」
「…僕はココでなんとか時間を稼ぐよ。倒せばできなくても、ジュンサーさんたちが駆けつけるまでの時間くらいは稼げる筈さ」
根拠なんて無い。今は運良くバケモノが空間に適応できていないから上手くいってるだけで、時間が過ぎれば次も上手くいくかは分からない。
「ダメ…!あんなバケモノを相手にしてちゃ…殺されちゃう…!」
「……ゴメンねシオンちゃん。もう決めたことなんだ。トゲキッス、頼むよ」
「待って!!!」
これ以上、シオンちゃんに心配をかけさせないために強引に話を遮ったせいで案の定、暴れてるね。だけどキッスなら大丈夫。
彼女はこの程度で、体制を崩す程ヤワじゃない。
『おいアル坊ッ!!!ヤバいぜッ!!!バケモンが
「踊り…?」
ピカさんの焦った声を聞きつけて、急いで戦場へ戻る。
「ルッロ!!!ルッロ!!!ルーーー…!ロォーーン!!!」
確かに“
舞踊とバレエを混ぜたかのようなステップを刻みながらも、並行して演奏を行う姿はまさに“響く鬼”。
(“舞い”で思いつくのは“つるぎのまい”と“ちょうのまい”…。どちらも集中力や踊りがもたらす効力で一定のステータスを向上させる技だ…。なら、コレも…?)
僕の勘と経験が告げている。今すぐ“舞い”を止めなければ間違いなく取り返しのつかいないことが起こる…って。
「最大火力だガラガラッ!!!最高の“フレアドライブ”をバケモノの脳天に直撃させろォォォォ!!!!」
「ガラッ!!!ガーーーラァァァァ!!!!」
僕のガラガラの特性は“いしあたま”だから、何発“フレアドライブ”を放とうが反動ダメージを受けることは無い。
しかし、流石に今回は別だ。“ふといホネ”による攻撃力増強+“トリックルーム”による超加速+限界を超えた超火力…。
大ダメージが期待できるが、その分特性で補いきれない程の反動を負うだろう…。ゴメン…ガラガラ…!
「ガァーーラァァァァァァ!!!!」
今日最高のガラガラの一撃…。例え対象が厚さ数mの鉄壁だったとしても、彼の炎なら容易く溶かしてしまうだろう。そう思わせる程の熱気をガラガラは纏っていた。
「ルロッ!!!」
当然、バケモノは避けようとするがもう遅い。
まだ“トリックルーム”の効力は続いてる。すばやさが反転したこの空間じゃ、どんなに舞ってステータスを高めても無意味だよ!
「いっけェェェェェ!!!!!ガラガラァァァァァ!!!!!」
動きが鈍いバケモノの脳天に、ガラガラの脳天が直撃し、その速度と火力を以て、粉微塵に粉砕する。
筈だった。
「ガラァ…!!?」
ズガドーン!!!
「・・・え?」
おかしい。確かにガラガラの頭突きがバケモノの脳天を粉砕した筈だ。
だが、現実はどうだ?蒼炎の弾丸と化したガラガラは、“トリックルーム”を突き破り、僕の後方へ吹き飛ばされ、肝心のバケモノはまるで
「まさか…!
聞いたことがある。未知の生物であるポケモンも生物の範疇を超えない以上、技の効果には限界があると。
“トリックルーム”の場合、展開中に異常なまでにすばやさを高められると、領域が異常を起こして
では、
ただ……
逆転したすばやさが元に戻ってしまうだけだ。
(マズい…!ガラガラをボールに戻さないと…!いや…!ポリゴン2が先か…!?)
今日ほど、ポケモンバトルから離れていたことを後悔した日はない。
昔の僕だったら、間違いなく一切の躊躇なくポリゴン2を戻していただろうに、数年のブランクが
「ルロォ…!!!」
「ポリィィィィィ!!??」
僕の一瞬の判断ミスのせいで、今度はポリゴン2が棍棒の餌食となりガラガラと同じ方向へ吹き飛ばされた。
唯一の違うのは、ポリゴン2は空間を突き破らなかったこと。それもそうだ、展開した本ポケが瀕死状態に陥ったのだから。
「ルゥ…!ロオォォォォォイ!!!」
既に勝利を確信しているのだろう。バケモノは戦闘前とまったく同じ動作を行うと空に向かって勝ち鬨をあげた。
実際、その確信は正しい。唯一バケモノに通用する武器を持っていたポリゴン2は文字通り、“ひんし”ならぬ“瀕死”状態となっている以上、
「ルロォ…!!!」
勝ち鬨を終えたバケモノはドシドシとじならしのような重い足音を鳴らしながら、僕に近づく。
『何してやがる!?早く逃げろアル坊ッ!!!』
ピカさんは僕に『生きろ』と言ってくれるけど、もういいんだ。
コレで贖罪が終わったとは思えない。
それでも、“あの日”救えなかった命を救うことができた。
もう僕はそれだけで十分なんだ。
「ルゥ…!ロオォォォォォイ!!!」
『アル坊ォォォォ!!!!』
…最後に聞いてくれないかな?
僕は……ずっと“ヒーロー”に憧れていたんだ。
物語の中の“ヒーロー”はどんな状況でも諦めないし、どんなに追い詰められても絶対に勝利を掴むんだ。
そして、最後にはハッピーエンドを迎える。
僕も…そんな存在になりたかった。
けど……
「ジュピラ…!ルロォォォォォォイ!!!」
現実はあまりにも残酷で、あまりにも非情だ。
僕の目に映るのは、燃え盛る村と真紅の液体を地面にぶち撒けてピクリとも動かなくなった
その惨劇を引き起こした正体不明の
結局、僕は“何者”にも成れなかった。
称賛が欲しかった訳じゃない。
名声が欲しかった訳でもない。
ただ……
“理不尽な悪意”が跋扈するこの世界で、
“理不尽な善意”になりたかったんだ。
けどそれも失敗した。“理不尽な善意”に成るためには僕の覚悟はあまりにちっぽけだった。
何もかも中途半端にしか達成できなかった僕は、間違いなく地獄行きだろう。もしかすると、未練が残ってゴーストタイプのポケモンに生まれ変わるかもしれない。
それでもいい。初めから天国に逝けるだなんて思ってないから。
『チィッ!!!なんとかなれェェェェェ!!!!!』
ありがとうピカさん。今日会ったばかりの僕を心配してくれて。
いつの日か…。君と相棒が再会できる日を願っているよ…!
「バイバイ……ピカさん……!」
運命を受け入れた僕はそっと目を閉じる。
コレ以上、彼の顔を見てたら変な未練を遺してしまいそうだから。
……………
…………
………
……
…
「ルロッ!!?」
・・・アレ?おかしいな…?もうとっくに棍棒が振り下ろされてもおかしくない時間なのに、一向に死んだ気配がしないや…。
『バカヤロー…!こんなギリギリまで寝やがって…!』
試しに呼吸を止めてみる。うん、苦しい。
「ルロロ…!ルーーー…!」
試しに負傷した箇所を軽く触れてみる。うん、痛い。
…もう現実逃避するのはよそう。何でかは分からないけど、僕はまだ生きてる。
そもそも、バケモノの狼狽える声が聞こえた時点で予想外のことが起こったのは確実だし。
意を決した僕は目を開く。アレだけ逃げたかった地獄に再び戻って来る。
「大丈夫?」
目を開いた瞬間、太陽のように暖かくて、そよ風のように爽やかな声が耳に届く。
ハッキリ言おう。僕の目の前に現れた人物は文字通りの
水色を貴重として差し色に黄色が入った、ケープとパーカーを丁度足して2で割ったかのような独特な衣装…。
季節外れにも程がある、地面まで届く程に長い水色のマフラー…。
そして……
ピカチュウの顔が印刷されたお面を被っていた。
コレを不審者と呼ばずに何て言うんだろう?生憎なことにこの恰好で歩いてジュンサーさんに捕まらない町を僕は知らない。
それでも…だ。僕はこう思わずにはいられなかった。
(ああ……本物の“
ってね。
見てくれはヘンテコでも、その佇まいには……言葉や証拠を超えて確信させる“何か”があった。
「君は……?」
僕は…その名を一生忘れる事はないだろう。
「ボクはただの通りすがった“旅人”だよ。まっ、本職は“探究者”だけどね。けど、みんなにはこう呼んで欲しいなっ!」
100年の眠りから覚め、厄災と立ち向かう
最高で最強のヒーローの名を…。
「“ピカチュウ仮面”ってね!」
これまでの冒険を日記に記録しますか?
はい◀︎
いいえ
アルカは謎のヒーローとの出会いを日記に記録した!