魔法少女世界で俺のエンカテーブルがクール系に偏り過ぎてるんだが   作:TSから逃げるなぁぁ!!卑怯者おぉ!!

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 最近例のプリ◯ュアが流行ってるので魔法少女もの初投稿初回一万文字超えSPです。

 筆者は影響されやすいので、登場人物は皆さんがどっかで見た事あるキャラしてますが許してクレメンス…



魔法少女出現率:【ノーマル魔法少女:▲】【クール魔法少女:◎】

 

 『残念ながら今日最もアンラッキーなのは、乙女座の貴方……不運が連続して襲いかかるかも!?特に朝ご飯は1人で摂らず、皆と一緒に!運気を下げるジャンクフードを避けてね!!ラッキーカラーはブルーです!!』

 

 『では晴明さん、本日は大変お忙しい中、ゲストとしてお越し頂き本当にありがとうございました。』

 

 『本日出演させて頂いたのは、我が陰陽道おんみょうどうにおいて、この悪日あくにちに、最も避けるべき行為を注意するよう呼び掛ける為です。私はソーシャルメディアに疎く、もっと早くに告知が出来ていれば……情けないばかり……』

 『全国の皆様。特にジャンクフードの期限切れには細心の注意を払ってくだされ。』

 

 『『では、いってらっしゃ〜〜い!!』』

 

 俺はこのモーニングどきに、旅行でいない両親をよそにいつ買ったかは分からないがスーパーのワゴンに激安で投げ売りされていた、激辛インスタントラーメンをすすっていた。

 ブルーとはおおよそ真反対の真っ赤な香辛料たっぷりのスープ。

 賞味期限を確認すると6日前に切れていた。

 

 今日の俺は運勢最悪らしい。

 でもまあ、こういうのは大体が迷信だろう。

 

 

 「むつみさぁ、顔色悪い?」

 

 「顔色だけが悪い訳じゃないぞ。」

 

 期限切れのインスタントラーメンを朝食に摂って早速腹を下し気味の高校生、小野おのむつみ

 彼は東京都足立区にある都立の高等学校に通い、心配してくれる良い友達もそれなりにごく普通に日々を過ごしている。

 

 「紺太、今日は俺に近寄らない方が良いらしい、最下位の運勢で全部当てはまったから。多分迷信じゃ無かったわアレ」

 

 「んな事あるかよ。ほらほらうりうり」

 

 中性的な顔に八重歯が生えているので、面白がった同性の同学年にこうして顔をいじられてマスコットキャラじみた扱いを日々受けていた。

 

 「ははっ、精霊せいれいの顔。」

 

 「にゃめろ」ビヨーン

 

 やがて朝礼の時間になりクラスの担任が教室に入って来ると全員が席に着くが、左後ろ側に居る窓際の女子生徒2人は空に指を差していまだに騒ぎ立てる。

 

 「あれ、魔法少女…だよね?」

 

 「飛翔系の魔法少女だ。Bランク級だよ……」

 

 ◆

 

 私が精霊と契約を交わしてから魔法少女になって3年が経つ。

 

 自然発生や別次元からこの世界に襲い来る『魔物マヴィラン』との戦いの数々。

 

 その中で私は『中央魔法少女管轄機関』のプログラムによって長所を伸ばしてきた。

 私の空属性魔法は移動に長けていたから、探知魔法を鍛えて併せる事によって最大効率の探索を行えるようになった。

 

 だけど今日は私と探知結界魔法少女さんとの二段構えで索敵を行っている。本部の魔力観測機も全てフル稼働だ。

 

 世間一般的にこれはやり過ぎだと思われるかもしれない……しかしこれには理由がある。

 全国各地の占い師や陰陽に通ずる人達が一斉に『魔の災厄』が現れるとして騒ぎ立て始めたから。予言や思想なんかを商売としてるからネットではもっぱら胡散うさん臭いと噂されているが、魔力に関しての見解は侮れない。

 

 探索担当地区は足立区。でも今日に限って東京の空は静か過ぎる、殆どパタリと魔力が途絶えている。

 今、飛んでいて思うのは『嵐の前の静けさなんじゃ?』…そんな疑念。

 危機管理に訴えかけて来る。冷や汗が止まらない。でも確かな証拠が無い。

 

 「考え過ぎ…?」

 

 魔力の反応が無いのだから、それで良いハズなんだ。

 私の肩にぴょこんとくっついている相棒の精霊も、私の顔色が優れてないのに気付く。

 

 「大丈夫かッピ…?」

 

 「あはは、ごめんね……なんか意味も無く疑念がめぐっちゃってさ。疑心暗鬼ってやつ。」

 

 勘を基準にするなんてナンセンスだ。考えても仕方が無い、魔力反応って事実をもとに行動するべきなんだ。

 

 「皆の平和の為にも気張らなくっちゃね」

 

 ビシュッ

 

 「あぐっ!?」

 

 衝撃。空属性魔法を出力する為の魔力が一気にかき乱された、今、私、落ちてる…

 

 首筋からは鮮血が滴ってる、私の血が確かに空に舞ってる……いつ一撃を貰ったの……!?

 

 「どうっ…してぇっ……!?」

 

 私の感知魔法に狂いは無かった、なのに感知に掛からず。

 まさか、嘘…!ゲートからの出現じゃない……大気圏からの狙撃!?『レベルハイ・クラス』じゃ済まないよ!?

 

 「向かってくるッピィ!!」

 

 相棒は運良く攻撃を避けれたみたいだけど…私はダメだ……せめて貴方だけでも…!!

 

 ポスン

 

 「!!」

 

 落下が止まった。誰かの腕に抱き留められたんだ。

 仲間の魔法少女が来てくれた…?

 

 頭が重たいけど、せめて助けてくれたこの娘の顔は確認しなきゃ…!!

 

 「っ!…確か貴女は…『ハートの魔法少女』……!」

 

 「よく頑張ったね!後は私に任せて!」

 

 タレ目の柔らかな顔つきに似合わない、魔法少女界の超新星。短期間でランクを一気に上げた才能の塊。

 魔法少女歴はこっちが長いからライバル視してたけど……戦場に出てくれるだけでこんなにも安心出来るものなんだ。

 

 「ごめ…ん…」

 

 「おやすみなさい…ゆっくり休んで。」

 「治癒魔法は既に施してあるから、本部にこの娘のお迎えをお願い!」

 

 「あ、ありがとうだッピ!!」

 

 「よしっ……ポンスケ!魔物は?」

 

 「みゆり。ざっと見積もって『レベル大河エクストリーム』はある。今はかなり高度なステルス魔法を掛けて姿を消してるみたいだけど……精度の高さからそう時間は保たないハズだ。じきにもう一度姿を現すだろう。」

 

 「うわぁ…やっぱりそうなのね、警察と避難誘導の娘達大変になるよ…!!それに前に戦って分かったけど、だいぶバラつきがあるんだよねぇ『レベル大河』って……」

 

 「いやいや『レベル大河』を単独で相手出来るのは君を含めて機関にも数名程度でしょ。今まで無敗なんだし自信持って。」

 

 「ポンスケは精霊さんなのにサバサバし過ぎだよぉ!」

 「でも褒めてくれてありがとね。さ、いくよ!!」

 

 

 先程の飛行魔法少女が彼方に消え、今は朝礼の進行中だ。

 大体が担任に姿勢を向けて話を聞いてるけど、幾人かはさっきの魔法少女が通常時より低空飛行だの、高速運行であっただの、その様子が少しおかしかったのかザワつきを見せていた。俺達もその一部。

 

 「ねえねえ今日は厄日らしいですよ、睦くん。こういう日は邪教団の儀式が執り行われるに適した日なので、魔物の出現率大幅アップです。」

 

 「ほえー、それにしてもさっきの魔法少女ってステルスの魔法とかあったら掛けないのかな、真っ先に狙われそうだけど」

 

 「出来なくもないらしいですけど、確かステルスと併用するとジャミング魔力の影響で逆に自分の感知魔法が鈍っちゃうんですよ。ふふ。」

 

 このオタク少女ほど、俺は魔法少女の難しい事までは分からない。今さっきのも想定される状況から予測して雰囲気で喋ってて、あくまで話を合わせる為。

 

 かと言って魔法少女に人類は現在進行系で救われているので、完全な無関心じゃなくて恩義を感じる位の心はある。例えば、幾ら魔物相手にすげー魔法を披露してても見世物じゃないのでスマホで撮影せずにその場をさっと去る程度のマナーとか……だけども。

 

 兎にも角にも魔法少女は俺達の生活の生命線なのだ。

 

 「美咲さん。貴女、今日の3.4限目の合同授業で何時から大ホールに移動するか答えなさい。」

 

 そうこうしている内に、特に話を聞いてないと判断されたのか担任がオタク少女を指名してきた。

 

 「はひっ!?えっ、あっ!?あっあの…」

 

 「11:30だぞ。スクリーンで映像見るだけ。」

 

 「睦さん…こういう時の助言は無しになさい……」

 

 目論見が外れたのか担任は眼鏡の位置を直して溜息をつく。今のやり取りでクラス内の雰囲気も幾らか引き締まったようで全員がやっと担任へと姿勢を向けた。

 

 「では3.4限目は6時66分から大ホールに移動する事を忘れないように。以上です。」

 

 そしてクラス内の生徒全員が担任の異常な発言に耳を疑った。

 勿論俺も。

 

 「先生…今、何時って言いました…?6時…?」

 

 「何って、6時66分です。」

 「6時66分です。6時66分です6時66分6時6分6時66分6時66分6時666分6時66分666時66分6時66分6時66分666時66分6時66分66時66分6666666666666666666666666666666666666666666666666666666」

 

 悪魔にでも取り憑かれたように目をひん剥いて『6』を連呼し始めた担任に、誰も彼もが驚愕して思わず席を立つ。

 

 「皆!!慌てず教室の後方扉から脱出しろ!!」

 

 まず行動を起こしたのは筋骨隆々の委員長。大声で避難を指示し、最前席で担任の迫力に腰を抜かして動けない女子生徒を支える。

 

 「さ、さすまた…さすまたが無いから、これで行くしかない」

 

 俺は狂った担任に対して、机の四脚を向けて黒板に勢い良く打ちつけ拘束した。

 その時担任は黒いもやを口から吐き出して攻撃して来る。

 

 【コイツだ…!】

 

 黒い靄を少し吸い込んでしまい、何か幻聴が聞こえてきてしまった。だがそれだけ、身体に異常は無い。

 

 「睦!!」

 

 「早く別の先生を呼んで」

 

 パリパリパリィィィイインッッ!!

 

 俺が救援を頼もうとした瞬間。

 教室の窓が突然の暴風で、まさに平穏の破壊が始まったとでもばかりに全てがくまなく割れ、ガラスが吹きすさぶ。

 

 飛び散ったガラスには当たらずに済んだが、今度は先生が気を失ってその場にヘタリと倒れ込んでしまう。呼び掛けても意識は無く仕方が無いので背負い込む。

 

 だが教室を振り返ると、その場にうめき声を出しながらうずくまる生徒が2人。

 

 「ガラスが刺さったのか!?刺さったんだな!!」

 

 「睦、ごめん……」

 

 「痛っつぅぅ……!!」

 

 どちらも今日俺に積極的に関わってきた、俺の友人に、オタク少女。

 

 他には怪我人無し。

 まさか…不幸を分けたなんて事は……

 

 「睦、先生は俺に任せろ!!2人を任せられるか!?」

 

 委員長に担任を預けて俺は2人に肩を貸し、委員長と一緒に教室から退出する。

 

 「睦、足元に気をつけろ。廊下中もガラスが散乱してる。」

 

 「うん。それでこの後だけど体育館の地下シェルターまで向かった方が良いよな…?」

 

 「ああ。この状況からするに魔物の影響や攻撃を既に受けているかもしれん。魔法少女は間に合っていないという事だ。一刻も早く避難を……!!」

 

 極めて冷静な委員長が一緒に居てくれるから此方も平常心を保てているけど、他の同級生や友人なんかは協力を仰げない程に動揺して避難してしまった。他の教室でも同様の事が起きたのか『おかしも』など忘れて取り乱しながら廊下を走る生徒がほとんど。寧ろそれが普通かもしれない。

 そこらに散らばったガラスも相俟あいまって非常にカオスで危険な状態だ。

 

 そして。

 

 ウオオオオオオン!!ウオオオオオォォオン!!

 

 避難訓練時の警報など比にならない、更に物々しい不協和音のサイレン。

 街のそこかしこから轟々と鳴り響いてきた。

 

 「『レベル大河』だッ!!『レベル大河』出現のサイレンだあぁあッッ!!!」

 

 ほぼ絶叫の金切り声を上げた生徒のその言葉の意味を誰もが瞬時に理解する。俺だってそう。

 

 レベルは『アーリィミドラーハイ・クラス大河エクストリーム』の順にヤバかった筈だ。

 後もう一つ上のランクもあったハズだが、とにかく『レベル大河』は普段の生活における脅威レベルの中で最大の警戒を意味する。並の魔法少女では太刀打ち出来ない魔物の出現か、悪の組織が襲来したと推測出来、学園内の混乱は更に増した。

 

 「体育館に繋がる通路は混み合い過ぎてて逆に危ない!」

 

 「校庭って事ね!」

 

 人混みを掻き分け、なんとか校庭に出るとそこは雲に覆われたかのように影で塗り潰されいた。さっきまで快晴だったはずだよな……

 

 「すまない、睦…戻るぞ……」

 

 「どうした…」

 「!?」

 

 見上げると巨大な……恐らく蛾型の魔物が禍々しい模様の羽を打ちながら滞空していた。通常サイズが大体10mの魔物よりも更に10倍はデカい。

 生徒達は絶望に明け暮れて逃げる事すら忘れてその場で啜り泣いたり、言葉が通じるかも分からないのに命乞いをしたりと半狂乱状態。他の教師達も必死に怒鳴り声で戻るよう呼び掛けているが応じない。その場にいるだけで精神に異常をきたす魔物…素人でも分かる。コイツが『レベル大河』だ。

 

 だがこの瞬間、俺はそもそもそんな事を考えているべきでは無かった。

 

 ピシュッ

 

 「!?」

 

 蛾の魔物から俺に向かって何か射出された。

 2人を担いでいた為に、反応が遅れてしまい、それが眉のような糸だと気付く頃には脇に巻き付いて俺は宙に浮かんでいた。

 

 「睦ぃーーーッ!!」

 

 急速に同級生達の姿が遠退とおのいて行く。

 

 これは流石に死んだ。

 

 しかも宙に浮いているのは俺だけな所を見るに、ピンポイントで狙われたみたいだ。

 

 やっぱ運勢最悪だ今日は。

 

 「…!」

 

 死に際で色々冴えてたのか、俺の懐から何か出たのを見逃さずキャッチ出来た。

 ガラスだ。割れて鋭い形状になったガラスの端くれ。さっき教室の窓が勢い良く割れた時に入ったんだ。

 

 やるしかない。

 

 切れ端を入れると、ピッと音を立てて眉の糸が切れる。

 俺を食べるつもりだったのか分からないが、糸に毒の類は込められていないようだった。

 

 ここからが問題だ。10階建てのビル程の高さから落ちながら、一番近いイチョウの木の枝を掴む。枝が折れるのは当然の計算で次々に素早く枝を掴みながら落下速度を軽減して、最終的に柔道部の顧問で過去に全国1位を取った体育教師に本気で投げられる位の勢いまでとどめる事が出来た。

 

 「いたい…」

 

 今日食べた期限切れラーメンを衝撃の痛みで吐き出しそうになるが必死に堪えて、代わりに泣き言を言いながら蛾の魔物を見上げる。

 既に第2射、第3射の糸がこっちに向かって来ていた。そのまま前転して何とかイチョウの木で防げたが、なんとさっきの糸よりも強度を高めたのかバキバキと木の根ごとイチョウが持ち上がる。

 尚も蛾の魔物はその複眼で俺を見定めていた。

 

 明らかだった。これはもう俺にだけ完全に狙いを定めている。

 

 そして次の糸が射出された瞬間。

 

 ドオオォォオンッ!!

 

 蛾の魔物の下っ腹からピンクの光がほとばしぜる。何が起きたのか分からないが体勢を大きく崩して傾く蛾の魔物から視線を外さず腰を上げるが、さっきの落下の衝撃か少しふらついた。

 

 のを、誰かの柔らかい手が支えてくれた。

 

 「『ハートの魔法少女』、守屋みゆり見参!!」

 

 「みゆり、口上はそこまでに。アイツの体内魔力循環が急速になってるみたい。」

 

 「ポンスケってばぁ!こういう時は水を差さないでー!!!って遅れちゃってごめんね…何が原因かは分からないけど貴方が狙いみたいだし、ちゃちゃっと片付けちゃうから。」

 

 魔法少女。近くで戦闘や避難指示をしていたのを見た事はあるが、直接助けられたのは初めてだ。水色モフモフの小型獣は精霊だろうか。これも間近じゃ中々お目にかかれる事は無い。

 して、『ハートの魔法少女』と名乗ったか。可愛らしい二つ名と、ふんわりと広がった薄紅の長髪を携え柔和な顔つきながら魔物に相対する姿勢は及び腰じゃなく、堂々と胸を張って臨戦態勢を取っている。多分俺より年下だよな…?

 

 「でもまだ戦闘態勢に入り切れていない。やるなら今だ。」

 

 精霊がイメージカラー通りの爽やかイケボで開戦の合図を告げると、みゆりなる魔法少女はステッキを掲げて何やら詠唱し始める。

 

 「皆の平和を願う意志が、悪を討つ光を成す!!『正義の道標ビーコン・オブ・ジャスティス』!!!」

 

 先程と同様のピンクの光が蛾の魔物の腹部から発生し、その箇所が爆発する。

 

 「みゆり、光属性魔法がちゃんと乗るようになったね。天晴だよ。」

 

 「私が前におめかしした時にその言葉が欲しかったんだけどー!?」

 

 軽口を叩きながら、一発で一軒家1つを粉々に出来るようなエグい爆発をポンポン引き起こす構図に若干引く。

 流石にマナー無視で撮影するSNS大好き人間もスマホを置いて逃げる迫力と臨場感だろう。

 というか俺も逃げたい。

 

 「逃げた方が良いですか、邪魔になりそうですし…」

 

 「ううん!あの蛾の魔物、貴方に相当執着してるみたいだから下手に移動しないで!ここで私が仕留めます!!」

 「あと…応援が力になりますっ!」

 

 「お強いんすね」

 

 「えへへっ♪褒めてくれると嬉しいです!これを間近で披露すると魔法少女間でもみんな腰が引けちゃって褒めるどころじゃなくなっちゃって!よーし、街の人達との絆パワーで頑張るぞー!!」

 

 まあ、でしょうね。俺が動画サイトで見てた魔法少女達は大体近接武器とか弓と銃使ってたからそれ考えた時に、じかで爆発はだいぶワイルドだと思うの。

 それにしても蛾の魔物はあれだけの猛撃に対してまだ耐えている様子。

 退散するどころか、先程までの禍々しい茶色の紋様が紫に光り始めた。

 

 「来るっ!」

 

 先程まで冷静沈着そのものだった水色の精霊が声を少し荒くして忠告を言い放つ。するとその精霊は光の粒子になり、みゆりさんの身体にオーラのように纏われる。

 直後、蛾の魔物は紫に発光した紋様からドラ◯ンボールのグミ撃ちよろしく、多分1000は超えるだろう大量の曲射光線を降り注がせてきた。

 蛾の魔物さん、俺に対して滅茶苦茶手加減してくれてたやん。光線1000本に対して糸1本ってどんだけ舐めプしてくれてたんだよ。

 

 「思った以上にやるかも…!」

 

 みゆりさんの身体が突然浮遊し始め、蛾の魔物の腹部へ向けて突進。曲射光線は完全追尾式で全てが彼女を追い立てるが、構わずステッキをかざして詠唱を始めた。

 

 「願いは光の道標!多くの想いを一直線に、光の剣を成す!!『鋼の意志ウィル・オブ・スティール』!!!」

 

 蛾の魔物は此方からは見えないバリアらしきものを貼っていたようで、彼女の手中に現れた光り輝く剣を一瞬受け止めたが、すぐにバリバリと音を立てて崩れ落ちる。遂に腹部に光の剣が刺突され、そのまま蛾の魔物の身体の反対側までみゆりさんが突き抜けて風穴を開けて行った。

 

 「おぉー…」パチパチ

 

 半ば呆気にとられながら彼女に小さな拍手を送る。しかし彼女の仕事はまだ完了していなかったようで、ボロボロに崩れ落ちゆく蛾の魔物を先程の爆発魔法で完全に粉々にしてくれた。

 するとそのピンクの爆煙は降下してきて、学校の敷地内すらはみ出して周囲に流れ落ちる。

 吸い込んでも全く咳ごまないので問題無さそうだけど、みゆりさんもこっちに降下してくれたので一応聞いてみようか…

 

 「この煙は…?」

 

 「大丈夫、私の魔法は回復や状態異常除去に長けてるんだよ。ちょっと荒業だけどこのピンクの煙は回復と毒物除去が行き渡っている証。」

 

 「あの魔物は本来機関の魔法少女でも束にならないと扱いに困るレベルだった。体内に大量の毒素を含んでいたよ。光属性の魔法を常に乗せられるみゆりに感謝してくれ。」

 

 「もうポンスケ。感謝は催促するものじゃないのよ。」

 

 「取り敢えずお疲れ様でした。感謝してます。」

 

 魔法少女ペアの解説により、蛾の魔物がいかに危険だったかを改めて思い知る。

 

 「でも、すっごくつけ狙われてたね……蛾の魔物の魔力が常に貴方を向いてたよ。もしジャミング魔法を使われて姿を消されたり、気が散っていなかったらもっと苦戦してたかも……そこは本当に良かった!」

 

 「あー…参考になるか分かりませんが、今日の俺は運勢最悪だったみたいです。テレビでやってました。」

 

 「ふふっ。なら良かった。」

 

 「?」

 

 「私が貴方の悪運を祓えたみたいですから♪」

 

 「なるほどね…」

 

 年相応に無邪気に微笑むみゆりさんに再び頭を下げようとするが、隣の水色精霊の様子に違和感を覚える。

 水色にしてはやけに顔色が青い。

 いや…真っ青じゃね…?

 

 プゥゥゥン

 

 

 刹那、ノイズ混じりの汽笛とでも言うような不協和音が耳の左から右へ突き抜ける。

 

 気付けば、みゆりさんは目を点にしてその表情はみるみる内に凍りついていった。

 

 「え…と…?」

 

 [動クナ。]

 

 こいつ直接脳内に……!とばかりのテレパシーが何処からか伝わって来る。

 

 「み、みゆり、落ち着くんだ…!!」

 

 「……え…あ………え……!?」

 

 其れは既に俺の背後にいたらしい。息を乱し始めたみゆりさんの瞳の中には俺と、俺の首筋に形状変形したと思われる刃の腕を当てる全身を白いタイツで覆ったような皮膚の魔物かナニカか。

 人型と言っても腕も脚も長く、顔は髪など生えてなくツルツルで口や鼻すら見当たらない。目なんか縦に3つ並んでいる。

 ソイツはもう完全に上位存在的な強キャラじみた風体ふうていだった。

 唯一不自然だったのは既に結構な怪我を負っており、至る所に裂けた傷跡が見られ紫色の体液が滴っていた。

 

 [コイツハトアル事情デ貰ッテイク。]

 

 「ちょっ、なに」

 

 貰われる理由が分からない、俺はごく普通の一般家庭の生まれだ。恨みは買ってるか分からないが、少なくともこんな人外に喧嘩を売った覚えは無い。

 

 [オ前ハ、私ノ遣ワシタ眷属ヲ倒シ、私ヲ目デ追エル程度ノ実力ハアルミタイダカラ、ココデ処分スル。]

 

 「みゆりッッ!!逃げろッ逃げろオォッッ!!」

 

 「あっ…うっ……!」

 

 どうやら今回の全ての元凶であるらしいナニカ。

 彼女達ですら格の違いを感じたのか、攻撃に転じる事すら出来ていない……みゆりさんって、結構強い方に見えたけど……

 

 [コノ後、奴トノ闘イニオ前ガイルト気ガ散ル。]

 

 ナニカはもう片方の変形した腕を振り被って、彼女に一撃を見舞おうとした……が、止めた。

 

 [オ前、全然闘ウ気ガ無イナ。魔力ガ少シ高イッテダケデ私ノ見込ミ違イカ。ジャアナ。]

 

 「えっ嘘っマジで連れ去られる感じか…?」

 

 その時、みゆりさんが此方に向かってほぼほぼうめき声だけど何か呼び掛けようと声を振り絞ったが

 

 [オ前ヤッパ殺スカ?]

 

 素人でも『これ以上邪魔すんな』とばかりにナニカが殺気を出したのが分かる。ゾクリと冷たい感覚が全身を駆け巡る。でもこっちだって死に物狂いだ、必死に身をよじるものの脱出出来ない。

 

 [オ前、自分ノ正義ト、自分ノ命、ドッチ取ルノ?闘ウ気ガ有ルノ?無イノ?早クシロヨ]

 

 俺はみゆりさんの方を見遣る。

 

 彼女の先程の勇姿はもう全く微塵も残っていなかった。

 

 「あっ…あっ………あっ…………」ジョボボボボボ…

 

 女子の失禁というものを見たのは生まれて初めてだ。

 

 [ハッキリシナインナラ死ネ]

 

 遂に痺れを切らしたナニカが指先を銃型にしてみゆりさんに向けたその時。

 

 「ひぃっ!?ごめんなさいッ!!ごめんなさいぃッ!!」

 

 絶望の表情を浮かべながら、涙やら冷や汗やら小便やら、あらゆる所からだらしなく体液を垂れ流して彼女は俺をナニカに差し出した。

 

 

 正義の味方にも俺は見捨てられてしまった。

 風を切り高速移動するナニカの腋に抱えられていたが、勢い強い向かい風ですらショックを拭い切れない。

 

 ナニカは空中にて中指と人差し指を組み一種の儀式のように立てるとワープゲートのような三角の入り口が出現、空間が現実世界から一変し想像通りのおどろおどろしい絵の具を雑に混ぜた色合いのドロドロした空間がそこに広がっていた。

 

 コイツだけが知っている場所じゃ誰も助けに来れないだろう。ほぼチェックメイトだ。

 だが何か分からないまま死ぬのも人生無意味過ぎて嫌なので、俺はナニカに質問をぶつけた。

 

 「俺、なんで連れ去られてるんすか」

 

 [ホウ。問イヲカケテクレルト儀式ノ手間ガ省ケル。]

 [コノ者ハ疑問ヲ私ニブツケタ!私ハソノ答エヲ今ココニ開示スル!]

 [ソレハ『因果律ノ改変』ヲコノ者ヲ通シ開始!宇宙法則ヨ、私ニ加護ヲ!!]

 

 質問に対して、天井を仰いで高らかに宣言し始めるナニカ。

 儀式と言ったが、まさか俺の質問が合意の切っ掛けになってしまったのか。

 

 [オ前、邪気ガ溢レデテイル。因果律ニ干渉出来ルレベルデ運勢ガ最悪。私ハ今ヨリソレヲ利用シテ奴ノ息ノ根ヲ止メル。]

 

 命運を捻じ曲げる運の悪さってなんだよ。どんだけ今朝の行為タブーやったんや。タイミング悪く期限切れの麺食っただけで乱数調整したつもりないぞおい。

 

 [サテ…始メルカ。]

 

 ナニカは再び腕を刃状に変形。俺の眼前にまで刃が迫る。

 

 これから丁寧に顔を引き裂かれてしまうのだろうか。脳味噌を曝け出してしまうのだろうか。

 

 こんな所で人生の終点を迎えてしまうのか…?

 

 

 [ッ!!!]

 

 寸前で急にナニカが振り返った。

 

 背後には音も無く現れた、女性らしきシルエット。

 

 [オ前エェエエェェッッ!!]

 

 表情の機微が分からない顔の構造をしているのに、激しい咆哮と怒気であからさまに激昂していると分かるナニカ。

 

 その渾身の刃を振るおうとする前に

 

 パアァァァアンッッ!!

 

 ナニカの脇腹で黒い雷のような衝撃が炸裂して。

 

 そのまま吹っ飛び、空間内の壁に叩きつけられ完全消滅した。

 

 瞬殺だった。

 

 「……」

 

 「あ、その……ありがとう…?」

 

 多分、魔法少女だと思う。多分。

 目つきはキリリと厳格で、眼は大きめだが瞳孔の主張が強く威圧的だ。

 

 「見ないで。」

 

 「えっ」

 

 全ての者を敵視しているような鋭い眼光に威圧的な低い声が乗る。黒を基調としながら灰色も混じった髪型も七三分けで前髪が垂れて妖艶さを醸し出している。物凄く大人びた見た目だ。

 

 魔法少女……だよな?圧倒されて思わず後退あとずさる。

 黒を基調としたゴシックドレスに見えるが、下半身はミニスカートでスタイリッシュにも思える。そこは少女っぽいけど……

 

 ……その…なんていうかデカい。胸元がパックリ菱形に空いている。主張が強すぎる。90後半はあるバストだ。しかもホクロついてる。

 

 魔法少女ってより、魔女と例えた方が良いのか…?

 

 「これ以上胸を見ないで。さもないと眼球ごと潰す。」

 

 「その…」

 

 いや、初見じゃ無理だって。しかも貴女が腕組むから強調されて目が行くんだけど……でもまあ確かに救って貰った以上は、こっちも不貞を働く訳にはいかない。反省。

 

 言われた通りに目を瞑って、その女性の指示を待つ。

 

 トンッ

 

 「っ!?」

 

 「目を開けないでって言ったでしょ」

 

 いやいや額を小突かれたにしては、鋭い痛みが残ってるぞ…軽く脳震盪のうしんとう起こしてる……何か魔法を掛けたのか?

 

 「アンタ、忘却魔法が効かないのね。本当に面倒……アイツの魔力の残滓ざんしが邪魔過ぎる。」

 

 さっきのナニカの事か?いやそうとしか思えない。

 忘却魔法ってワードから、この娘は俺の記憶を消したいのだろうが、それがナニカの影響が強くて出来ないって事か…

 

 「!」

 

 よく見ると、両腕に怪我を負っているぞこの娘。

 しきりに胸元で腕を組んでいたのもこれを隠す為だったか。

 

 「見ないでって言ったでしょ」

 

 「いや、しかし…今すぐ処置が必要なんじゃ…」

 

 「素人はこれだから…赤の他人が私に心配を掛けないで。」

 「こんなハズじゃ無かった、クソッ………アンタにはこれから簡易的に封印式フォーミュラシールを刻む。私の事が口外出来ないように、記憶から抜き取られないように。」

 

 なんだ『封印式』って……

 

 先程の冷酷な表情に歯軋りが加わり、更に圧を出しながらズカズカと歩み寄って来るその娘。

 

 これ、逃げた方が良いのか…?

 

 決断する前に俺の心中を察したのか、その娘は瞬間移動と見まごう勢いで素早く俺の背後に回り込む。

 

 「ちょっと!?な、何をするつもりなんだ!?」

 

 「黙って処置を受けろって言ってるの。」

 

 後ろから左腕が伸ばされる、なんか指先が紫に光ってるんだけど…

 

 ビジュゥゥゥウ

 

 「ちょっ!?痛い!ゔぉおお!?」

 

 激痛が俺の胸をなぞっていく。麻酔無しで解剖されるってこんな気分だろうか。

 もう叫ぶ事しか出来ない、叫びでしか痛みを表現出来ない。

 

 「ゔぁアああァああ゛あ゛アァッ!!

 

 「腕の負傷さえなければ、こんな雑な封印式を曝け出しはしなかった…!」

 

 封印とやらがやっと…やっとこさ終了したのか彼女は俺をドンと突き放す。酷い扱いだ、この女……

 

 「く、くそ…何でこんな目に………」

 

 「もう2度と私の前に現れないで。」

 

 最後まで冷徹な姿勢を崩さず、ドロドロの空間が崩れて結構な高さから現実世界の路地裏ゴミ置き場に放り出されると、その女は建物間の壁を蹴り登って消えていってしまった。

 

 いいや!もし2度目に会う時は魔法ちゃんねるだねっ!!今から『【悲報】魔法少女さん、一般人相手に鬱憤を晴らしてしまう』を立ててやる!!

 

 「って無理か……本当にあの女に関するってなると、身体の…自由が……」

 

 さっきの封印とやらが本当に効いているみたいだ。あの女を思い浮かべる事は出来ても、口で喋ろうにも、情報を打ち出そうにも、身体が縛られたように動かなくなる。

 

 「取り敢えず、学校戻ろ…」

 

 クッションとなった積み重なるゴミ袋から這い出て、路地裏から日の当たる歩道へ出ようとした。

 

 「待ちなさい」

 

 ストンと足並みを揃えて、目の前に黒髪ロングストレートの少女が着地して来た。

 かなりの細身。上半身はスーツのようなフォーマルな服がピッチリと身体に張り付いてその流麗なラインを際立たせている。だがふわふわフリルのミニスカートである。また魔法少女っすか。

 

 「貴方、ここで何をしていたのかしら。」

 

 「色んな奴に襲われてました。」

 

 今、嘘をついて何事も無い風に立ち去る事など出来ないだろう。魔力の残滓とやらでバレるのがオチだ。それなら今この状況を逆に利用して良い方に持っていかなければ。

 

 「誤魔化さないのね。じゃあ何が起こったか簡潔に説明してもらえるかしら。」

 

 「朝、テレビを見て運勢最悪で、学校来たら魔物が襲来して最悪で、もっと強い魔物みたいなのに連れ去られて最悪で、最期に性格が最悪のまほッゥッ……」

 

 「……」

 

 やはり口外出来ない。

 この魔法少女が敵か味方かは分からないが、とにかく刻まれた封印式とやらの存在に気付いて貰って、解き方を教えて欲しいものだ。

 

 「まほゥッ、ウゥゥッ!!」

 

 つっかえるタイミングで俺は必死に胸を指差す。服はめくれないように仕込まれている、そもそも女の子の前で男が脱ぎ出す事も出来ないので、気付いて貰うまでは変な行動も出来ないけど。

 

 「封印式ね」

 

 やった。気付いてくれた。

 少女はファッションショーのキャットウォークみたいにツカツカと姿勢良く美しく歩み寄る。

 

 目の前まで来た彼女は非常に端正な顔つきで、ジト目のアンニュイさを感じさせる黒の瞳。

 しかし最近見られる細長い面持ちの美少女って訳ではない、案外丸っこい顔の形だ。

 かと言って無垢かと指摘されると、お面をそのまま貼り付けたような無機質な無表情故に幼くは見えない。

 

 「これは『東の魔法少女』の魔力、やはり彼女がヤツを倒したと見て良いわね。」

 

 そうそう。あのナニカをぶっ倒して俺に変なもの刻みやがった女です。すっごい察しが良いぞこの娘。

 

 「ウゥゥッウッウッ!」

 

 このまま解いて下さい。お願いします。伝われ。

 

 「自由に話して貰う為には、此方も久し振りに封印式を刻むしか無いわね。」

 「恐らくジャミング魔法を貫通して貴方に私の素の姿が見えている事だろうし、口外させない意味でもこの封印式を刻んだ魔法少女よりも強力で精巧な魔法式を刻むわ。」

 

 「…………」

 

 え?

 

 ◆

 

 「ゴォオオッン゛ォ゙ォ゙お゙お゙ッ!!

 

 「これでもかなり痛みは軽減させてる方だけど、貴方のような常人は耐えかねるようね。」

 

 本日2度目の封印式とやらの刻印。

 

 「うっ…うぅ……」

 

 「泣くほどだったかしら、私としてもかなり精神を使った作業だったのだけれど」

 

 確かにさっきよりはまだ治療している感があった。それでも麻酔無しで歯をドリルで削られている感覚だったぞ……ちょっともう体力が保たない。

 俺の基本的人権どこ…どこ…?

 

 「これで自由に喋れるようになった筈よ。私の質問に答えなさい」

 

 「こ、今度……今度にして………君の連絡先教えてくれるだけで良いから……」

 

 「私は孤独を好む魔法少女。馴れ合いはしないわ。淑女レディーに対して誘いを申し出たいなら、もっと相応しい時と場所を選ぶ事ね。さあ、この場で教えなさい」

 

 いやいや別に友達になろうとか、ナンパとかのつもりは無いからマジで。

 

 「10数えるわ。その間に起き上がれなければ別の魔法を使わせて貰う。精々踏ん張りなさい」

 

 「…………ひん」

 

 

 洗いざらい吐かされたのに、『あまり参考にならなかったわ』とか抜かされて解放された。

 人を何だと思っているんだ……

 

 街並みはよく行く場所だったので見覚えがあり、どうやら学校から3kmくらい離れた駅近くまで連れ去られていたらしい。

 先程の蛾の魔物については討伐報告が既に成されたようであり、スピーカーで危険度レベルの緩和が呼び掛けられていた。道行く人達は避難場所から戻って来て少しやつれている様子で、交通も魔物対応マニュアルの普及により早急に回復している。みんなみんな、元の生活に戻ろうとしていた。

 

 「学校に戻らなきゃな…」

 

 俺もいち早く日常に戻らなければならない。

 学校側も誘拐された俺の安否確認を行ってるだろうから、まずは警察に行って無事ですと連絡を入れなければ。

 

 「お兄さん…」

 

 「!」

 

 落ち着いた女性の声で呼び止められた。

 まさか……魔法少女!?

 

 振り向くと、もはや白に近い非常に薄い水色のツインテールを携えた、中学低学年くらいの女の子がポツンと立ち尽くしていた。

 

 「交番…どこ?皆と一緒だったんだけどはぐれちゃって……」

 

 目を泳がせながら戸惑っておずおずと尋ねてくる少女。黒のロリータスカートが目立つゴスロリファッションに、右脇には白いウサギの人形を抱えている。白に近い水色のツインテールだが毛先にかけてウェーブを巻いており艶を感じさせる…活発的なイメージを感じさせない。

 もしかすると箱入りの娘だったりして…?

 

 俺は絶賛別件中だったが蛾の魔物についてはそれはそれで、よほどの混乱だったんだろう。慣れない場所で怖い思いをしたならば、それは手を貸さねばならない。

 

 「うん。俺も丁度警察訪ねに行く所だったんだ。案内するね。」

 

 「ありがとう…」

 

 少女は礼を言うと、俺の隣に歩み寄って手を優しく握って来た。

 

 微笑ましい少女の挙動につい口の端が緩む。こんな俺でも頼りにしてくれるなら、嬉しい限りだ。

 

 【これはテレパシーだから誰にも聞こえていない。随分と立派な封印式が刻まれているのね…】

 

 はい。魔法少女。

 

 少女は俺の手をつたってテレパシーを送ってきやがった。今日マジで厄日やん

 

 いや待て、こういう手段を取ってくるって事はワンチャンただ単に恥ずかしがってる可能性も無きにしも非ずかもしれん。さっきの奴らみたいに話聞かずに封印式とやらを刻んでくるなんて野蛮な真似をするかどうか分からない。

 ここは俺もテレパシーで……

 

 【何れにしても、私の領域で随分と大胆な事をする魔法少女が居る…】

 

 …………

 なんかこっちから念を送れないんすけど…おーい…ちょっと聞こえてますかー

 

 【強く握り過ぎ、そうしても貴方の意思はテレパシーとして通じないから、だって一方通行だし……】

 

 はい?

 

 【もし、その封印式を刻んだ魔法少女に会ったら伝えておいて…】

 【今から刻む封印式は…私からの忠告だと。】

 

 なんだよおおおおおおおお

 もおおおおおおおおおおお

 またかよおおおおおおおおおおおおおお

 

 気付けば少女は黒の瞳を、目つきを細めて非常に色っぽく妖しくアメジスト色に光らせる。

 ……多分こっちが本性なのだろう

 

 

 「ウッ…ンッ……ンンッ!!ンッンッンッ」

 

 【もっと声は抑えた方が良い。女子と手を繋いで興奮している変態みたいに思われたくなければ…】

 

 あーくそくそ。くそうんち

 

 周囲に人の目線あるから叫べないし、かと言って腕から胸辺りに掛けて登ってくるような激痛に声を出すなと言うのも不利な話だから必死に堪えて喘ぎ声みたいになってるし。

 

 【はい、おしまい…】

 【あと助けを求めて叫ばなかったのは正解。私には魔力を隠す技術がある。そこだけは褒めてあげる…】

 

 駅の交番前まで来ると少女はパッと手を離しきびすを返して、幼女らしい振る舞いなど何処へ行ったのかしっかりとした足取りで街中の雑踏ざっとうに消えた。

 

 その後交番の前に立っていた警察の第一声が『迷子ですか?』であり、少女が俺を連れて来てくれた判定に理不尽な恥ずかしさを覚えながら、先ずは学校への連絡を最優先に無事である事を伝える。

 学生の身なので魔物災害時公衆接遇費を貸して貰い、駅前のロータリーでタクシーを借りようと思ったが、魔物の混乱直後もあって利用する人は多く、全て出払っており、電車で最も近い駅まで移動してから徒歩で学校に帰る事を決めた。

 

 「トイレ行こ…」

 

 緊張状態の連続から解き放たれたからか、なんか朝食った期限切れラーメンの便意が今になって出て来た…

 

 

 「ふぅ…」

 

 用を済ませ、ここに来てやっと安堵の溜息が自然と出る。

 立ち上がって水を流そうとレバーに手を掛けた。

 

 スッ

 

 個室トイレなのに背後で誰かの気配。

 

 もう考えなくても分かる。

 

 振り返るとそこには黒髪ショートヘアの美少女が居た。

 

 「…………」

 

 何も言わず無表情で、例に漏れずジト目で俺を見つめてくる。非常に無難で一般的な等身大の美少女。

 俺からも何も言えない。ここトイレだもの。男子トイレで女の子と喋ってたら事案だろ。

 

 「…………」

 

 それにしてもこの娘本当に喋らないな…

 

 「…………」

 

 取り敢えず身振り手振りで『ここにいちゃいけないよ』と伝えようとした。

 すると黄金色の大きな瞳を微かに揺らがせ、彼女は俺の胸に指を当てた。

 

 ジュウウウウ

 

 「ああああああああああああああ!!!!!

 

 本日4度目の封印式刻印。

 本当に今日は微かな希望すら1つも残ってない。

 いや、隣トイレに居た男性は俺が奇声を上げたのに『随分出るんだな…』と比較的好意的な解釈をしてくれたのは救いだったか。

 

 

 俺はあれから学校に顔を出して同級生達に何事も無かった(風に)伝えてから、早退させて貰った。

 事態を聞いたウチの両親は旅行を切り上げて今すぐ帰って来るらしいとの旨も伝えられた。

 

 俺は今、家に帰って自室のベッドに死んだように力無く寝っ転がっている。

 

 今日個人的に一番優しさを感じたのが蛾の魔物に思えてきた。

 いや、ガラスを割って友人達を傷付けて、学校や街を混乱させたのは許せないが、『俺に対して』という観点のみだと相対的にアイツが一番俺に手心を加えてくれていたように思えてしまう。

 今回に関しては人死にも出ていないし、体内の毒素とやらも放出できるか分からないが初手で出してないし。

 

 「いやいやいかんだろ…魔物と魔法少女比べるのは……」

 

 ここまで魔法少女達をボロクソにけなしたが、別に彼女達の事は何も知らない。

 状況が状況だ。彼女達なりの正義にのっとって行動しただけなのだろう……優先順位は誰にでもある。

 だがクール気取ってるあの計4名の魔法少女共は、話を聞かず即行動に出るの勘弁して欲しい。

 

 「魔法少女こえーよ……」

 

 もうこの世界から意識を切り離そうと布団を覆い被って、眠りに就こうとする。

 

 ズゴオォオオオオン……

 

 俺の家の目の前で起きた衝撃によってデジタル時計が落下し、俺の目の前まで転がってくる。

 

 時刻は23:59。

 

 本日最後の悪運がギリギリで滑り込んできたらしい。

 

 「ほわああああああああ!!

 

 俺はもう自身の制御が効かず、いつの間にか腹の底からキチゲ解放していた。

 

 一体今度はどこのやからが暴れ始めたのか知らんが、『お前今から撮影して晒しスレに投稿してやろうか!?』と忠告する事を心に決めて、窓を荒々しく開く。

 

 が、既に事態は収束に向かっていた。

 

 蛙らしき両生類特有のブニブニした皮膚を持つ10m級の魔物が横たわり息絶えていた。

 その喉元には少女らしき人物が何かを突き立てている。

 他の近隣住民も一様に窓を開け始めると同時に蛙の魔物が消滅し、煙がそこら中に吹き渡る。一転、住民達は警戒して即窓を閉め始め、俺もそれにならって煙を遮ろうと窓に再び手を掛けたその時。

 

 眼前にまで迫った煙の中から、しなやかな手が伸びて俺を押し倒す。

 窓はパタリとひとりでに閉められ、それが魔法によるものだと押し倒して来たその人物が少女だったので魔法少女と結論づけ納得した。

 

 「貴様、その刻印は何だ…!?答えろ!!」

 

 「花子ぉ〜!だめだりゅ〜!一般人に手を出したら御法度ごはっとなんだりゅぅ〜!!」

 

 「どう考えても普通の人間では無いだろう…!」

 

 ピンク色のヒヨコ型モフモフ精霊が『花子』と呼んだその少女は薄紅にほのかに光る刀を俺の首に突きつけながら鬼気迫る勢いで問いただしてくる。

 

 「いや、こっちが聞きたいんですけど…被害者なんですけど…」

 

 「あくまでしらを切るつもりか!異形にも程がある刻印に魔力の残滓……ただ魔物との闘いに巻き込まれたでは説明がつかん、貴様は組織のたぐいか、復活した魔神の化けた姿だろう!」

 

 詰めてくる花子とやらのこれもまた黒いロングストレートの髪が俺の顔にかかり、翠玉の瞳が覗く。

 まさか悪の組織の一員とでも思われているのだろうか。申し訳無いが全て一方的に押し付けられたんだよ……

 

 「花子〜…!ホントにその人は被害者なんだりゅう〜…刻印が異形に感じるけど、一つ一つ重なっているみたいなんだりゅ〜!」

 

 「刻印が複数重ねられている!?」

 

 花子とやらは俺のTシャツをめくって刻印を確認しようとするが、何処へ行ったのやらあの4人に刻まれた刻印は消えている。

 

 「あれ、刻印消えてるじゃんか!やった。」

 

 「違う。この刻印は一般人……いやそれどころか並の魔法少女ですら視認も感知も出来ないようになっている……リュリュ、分かるか?」

 

 「多分、高度な消失機能が構築されているんだりゅ……しかもこれ全部『封印式』なんだりゅ……」

 

 「!?!?」

 

 花子とやらは、俺から完全に意識を逸らしてリュリュなる精霊の言葉に目を見開き呆然としている。この封印式というのは愕然する程凄かったのだろうか。

 あの人達、精神使うとか言いながら雑貨店のボールペン試し書きする感覚で刻んで行ったんですけど…

 

 「…にわかに考え難い。魔法刻印の中でも最も高位の格に位置する『封印式』を重複している者など……」

 「やはり魔神の類をその身に封じているのかッ!?」

 

 先程よりも乱れた息遣いで再度刀を首に当ててくる花子、僅かに手元が震えているので此方が下手に動くと当たりそうだ…

 

 「ま、待ってりゅ!花子!機関の魔法少女達の魔力が近づいて来てるんだりゅ〜!!」

 

 「くっ………また来る!その封印式…とにかく無理にいじるなよ!」

 

 彼女達は窓を開けるとそのまま闇夜に飛び出し、消えて行ってしまった。

 機関の魔法少女を警戒したという事は、荒くれ者の野良魔法少女なのだろうか。怖い…

 

 しっかり取り締まって欲しい気持ちもあって機関に連絡しようと思ったが…

 逆に、機関へ連絡する事によって高等技術っぽいこの封印式がバレたらどうかるだろうか。

 

 「いやいや連絡するべきだろ…」

 「でも待てよ…研究対象みたいにされたら面倒だな……」

 

 なんか億劫おっくうになってきてしまった。機関は色々都市伝説あるし……あの娘は何か知っているみたいだったし、少し情報を聞いて自分の解決出来る範囲でやってみるか……

 

 

 翌日。

 機関魔法少女の派遣によって修復魔法が施されて校舎が授業を行える状態まで戻ったらしく、両親と学校側に通常通りに通学する事を告げて歩き慣れた道を昨日の疲れと共に確かにしっかりと歩んで行く。

 

 「アンタ本当に疫病神ね」

 

 鋭く刺す低い声音。

 

 「その、2度と会わないんじゃなかったっけ…」

 

 あの時は暗い空間だったので分からなかったが、目元はアイシャドウを常にしてるみたいにハッキリでまつ毛が長く非常に整っている。

 左側の目元にはほくろが2つ点在。

 ケバくは全然無く若々しいし、かと言って少女かと言われると大人び過ぎている、やはりもう完全に魔法少女じゃなくて魔女の色気だ。

 

 「それ」

 

 彼女はそう言って俺の胸に向かって指をさす。

 

 「最悪。私の封印式が上書きで緩和されてる」

 

 肩幅が緩やかなダークワンピースをたなびかせ昨日のようにズカズカと迫り、俺の胸に指を当てるが、次の瞬間にはその顔をしかめた。

 

 「誰よ、これをやったのは……新しい条件を結ぶのもかなり面倒になってるわ……」

 

 彼女は腕を組み眉間に皺を寄せて数秒黙っていたが、今度は睨みつけるように俺を鋭い視線で刺す。

 

 「もういい。この際、これをやった全員の封印式を緩和してやる」

 

 「えっと、つまり何がしたいの…?」

 

 「決まってるでしょ」

 「アンタにもう一度封印式を刻む。」

 

 俺はトリプルアクセルでも決める勢いで素早く振り返り大声でお巡りさんを呼ぼうとしたが、彼女が俺を取り押さえる方が早く防犯カメラの無い物陰で昨日よりじっくりしっかり封印式を刻まれてしまった。

 

 





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