魔法少女世界で俺のエンカテーブルがクール系に偏り過ぎてるんだが   作:TSから逃げるなぁぁ!!卑怯者おぉ!!

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 番外編の今話ですが1話以前の時間まで戻ってます。
 主軸も別の魔法少女です。



番外編:まだまだクールとは言えない新米魔法少女の活動記録(前編)

 

 『なってる…!わたし、魔法少女に変身できてる!!』

 

 『かえでいちご、ミーの見込み通りデス!イマドキは魔法少女の高校生デビューも珍しくないデスからね!』

 

 次元の狭間ゲートや瘴気による自然発生まで、様々な形で出現し人々に災厄を振り撒く『魔物マヴィラン』。

 その脅威に対抗する為、この世には『魔法少女』が存在する。

 

 わたし、そして周りの皆も小さい頃から魔法少女へ漠然とした憧れを抱いていた。メディアや動画サイトを始めとした映像媒体で、カッコよく戦い、時には可憐に振る舞う彼女達の姿を幾度となく見てきたから。

 

 ある日、その憧れが自分の夢として確かな形になった切っ掛けが、10年前に起きた『螺旋スパイラル 大河エクストリーム 事変』。

 レベル大河級魔物が東京都心上空に多数螺旋を描くように出現し東京全土へ展開の後に襲撃を開始した異常事態。

 その規模は大きかったけど、当時の機関所属魔法少女達によって迅速な対処が成され、人的な被害は極めて少人数に抑えられた。

 

 あの日、額から血を流してでも崩壊する建物からわたし達を守り、避難させてくれた魔法少女の勇姿は忘れられない。

 

 他にも歴史的な事件はあるけど、範囲の広さについては最も大きい部類だと思う。

 だからこそわたしみたいに魔法少女に脳を焼かれた娘も相対的に多かったのか、そこから1年は魔法少女の契約数も目に見えて伸び、時流に乗ってわたしも魔法少女になるんだって心に決めていた。

 

 でも精霊は幾ら待っても現れる事は無く、わたしは一般的に魔法少女契約の資質があるとされる第二次性徴期の契約適正期14歳を過ぎてしまった。

 その時はわたしに契約の機会は巡って来なかったのだと悟った。

 

 『螺旋大河事変は魔法少女機関にとっては良いパフォーマンスでしょう。あれで無闇に憧れる少女が増えるのは如何なものか』

 

 『常人より遥かに強いとはいえ、積極的に魔物がいる戦場へ駆り出されるのは家族として心配』

 

 そんな魔法少女に対して否定的な声。当時は到底認められる事の出来なかった発言を……いつしかわたしは自分の夢を諦める為に受け入れるようになってた。

 魔法少女達に対する感謝の念は勿論あったけど、あれだけ焦がれた夢に届かないという事実に向き合うのは辛かったから。だから理由として使ったんだ。

 

 そして都立の高校に入り1ヶ月、夕暮れの通学路での事だった。

 

 『ユー、素質があるデス!今はミー達も機関に話を通さなきゃいけないけれど、面倒に感じなければ契約しマスか?』

 

 まるでデフォルメされたような黄色い毛を纏ったポニーの可愛らしい生き物。

 

 その精霊は『ミータロ』と名乗り、わたしの目の前に現れた。

 あれだけ諦めろって自分に言い聞かせていたハズだったのに、最も欲しかった言葉で声を掛けられた。

 

 『なり…たい……』

 『わたしも魔法少女になる…!!』

 

 そして現在、無事に契約の成立と魔法少女化を終え……わたしは両肩の空いたスリムなカットアウェイショルダー服と、下半身はミニスカートと腰回りに中央が開ける形でコルセットスカートを纏った魔法少女のコスチュームに心躍らせていた。

 白地にところどころ黄色いラインが入っていて、昔思い描いていた理想の自分とピッタリで忠実な再現具合に少し恥ずかしさを覚える。

 

 「ちょっと童心が反映され過ぎてるかな〜…」

 

 「とってもお似合いデス!スタイリッシュでカッコイイ!」

 

 「えへへ。色合いはキュートを意識してたけど構造自体はクールに寄せようって思ってて…」

 

 「魔法少女の服は心の中の自分が映し出す鏡。ありのままの自分の姿なのデス!ってリュリュ大先輩も言ってマシた!」

 

 「『ありのままの自分』……か……」

 

 そのワードが、どこか胸に引っ掛かる間隔を覚える。

 しかし次の瞬間には、脳内に刺すような別の禍々しい感覚に塗り替えられた。

 

 「っ!これって…!」

 

 「マ、魔物デス!こんな魔法少女になりたてのタイミングで…」

 

 「その魔物、どれくらい強いの!?」

 

 「ン〜っ、ミーの感知だとレベルアーリィの中でも低い程度デスが……」

 

 それを聞いて反射的に禍々しい感覚の方へ身体を向けて走り出す。

 

 「なら、武器の出し方を教えて!」

 

 「えぇっ!?このまま戦闘に入る気デスか!?」

 

 「教えるついでに機関へ連絡も入れて欲しい!食い止めるぐらいの事は……したいの!」

 

 届かないと思って、自分に嘘をついてまで諦めていた夢。でも今は……

 願ってもないそのスタートラインに立てたんだから、尻込みなんてしたくない!

 

 よし。行くぞ。

 

 

 「小手こてめん!」

 

 確かな手応え。

 竹刀しないを振るった腕の反動の強さ、そして周囲のどよめきが会心の一撃を物語る。

 

 「ぷはっブシュルル……いちご!滅茶苦茶調子いいね」

 

 礼を終え、場から離れるとむつみ先輩がリードを外し終わった飼い犬みたいに面を取り首を軽く振って、声を掛けてきてくれた。

 

 「やっと先輩相手に一本取れました。この後も遅れを取らないように頑張りますね…!」

 

 小さい頃、剣道クラブで一緒だった彼のお姉さんを経由して知り合い、中学時代には同じ学校という事で同部活に。

 中性的な見た目で丸っこいショートボブが愛嬌を醸し出す、学校内でマスコットキャラクター的存在の先輩。

 でも中身はちゃんと良識があり、沈みがちだった中学生の時には大変頼りにさせて貰った。

 

 正座で整列、顧問の話を聞き、部活動が終了。

 ロッカー室で着替え、剣道バッグに道具を仕舞っていく。

 

 「あれ…」

 

 普段はたれどう、面と小手、道着とはかまの順に仕舞うハズが……どこかぼーっとしていたのか、順番を間違えてしまった。

 

 【ミータロ。いる…?】

 

 契約を交わした精霊は、普段から有事に備えて『リンク状態』という魔力の粒子になって外界から魔法少女側の任意で意識を切り離し纏われるか、それでも気にする娘は精霊をなるべく近くに浮遊させて待機させたりする。

 お互いまだ気心が知れていないというのもあり、ミータロには学校の外で待機して貰って、テレパシーで呼ぶという形を取っていた。

 

 「やはり魔法少女は不安デスか?」

 

 「うん……昨日の戦闘で分かったんだけどさ……」

 「私、剣道部なのに槍使いだなんて聞いてないよぉ!」

 

 昨日の魔物との闘いは会敵前は慣れない故に苦戦を強いられるんだろうなとは予想していたが、まさかわたしの手元に出て来たのが剣や刀の斬る主体の武器じゃなく、槍だった時は流石に驚いた。

 笹穂ささほ槍の形状だったので何とか斬れはするものの、普段の形から入る事が出来ず、機関の魔法少女が来るまで食い止める程度に留まった。

 

 「この際、竹刀でも良かったのに…」

 

 「『固有武器』も同じく心の反射デス。何か心当たりはありマスか…?」

 

 魔法少女独自の『固有武器』。

 わたしが心の奥底で望んでいたものって槍だったの…?

 

 『大丈夫か!?』

 

 心当たりと言われ即座に思い浮かぶ。崩壊した建物の破片からわたし達を守り負傷している筈なのにあまつさえ心配を掛けてくれた………螺旋大河事変の『槍を使う魔法少女』だった。

 

 「うん、ある……魔法少女ってホントに心の内を映し出してるんだ……」

 「………ありのままの自分かぁ…」

 

 「?…まだお悩みありデスか?」

 

 魔法少女の事はじきに学校の皆にも知られるだろうけど…

 

 これは誰にも相談出来ない事。

 

 先輩はわたしの魔法少女姿を見た時、どんな反応をするんだろう。もっとクールなのが好きだったらどうしよう…

 

 ありのままのわたしを否定されたら、流石にショックかも…

 

 

 「近くに来ると迫力が凄いなぁ…」

 

 わたしとミータロは東京の『元』錦糸町〜押上にあたる、『東京復旧第2区画』まで足を運んで来た。螺旋大河事変とはまた別の重大インシデントで強力な魔物によりこの辺り一帯は焦土と化してしまった。かつて日本一の高さを誇った東京スカイツリーも中ほどから半分に折れてしまい、戒めの象徴として敢えて残されている。

 

 そのかつての更地に、復旧計画の手始めとして建設されたのが現在の『中央魔法少女管轄機関本部』の本拠地。スカイツリーから徒歩10分とすぐ近くに行ける所にある。

 遠目からは200m級のビルが最初に目につくけど、その地上〜低階層に併設された魔法少女の訓練施設等を複合内蔵した有名どころのドーム球場5倍ほどの面積を誇るガラス張りの巨大建築物に目を見張る。

 

 「ガラス張りなのは、単一素材なので修復魔法ですぐに直せちゃうからなんですよー。」

 

 本拠地の入口に突っ立っていたら突然のほほんとした声で解説を入れられる。振り返ると、昨日呼び掛けに応じて駆けつけて魔物を討伐してくれた魔法少女の『水音そら』さんがふわふわとした髪を携えて細目ながらもにこやかな笑顔で迎えてくれていた。

 

 「あっ!昨日は本当にありがとうございます!」

 

 「いえいえー、それにしても契約した瞬間に魔物の応戦に向かうとは驚きですー。」

 

 「あっ…その節は申し訳ありませんでした……やっぱり今回はお叱り受けちゃいますかね…?」

 

 「んー…そこまでキツくは詰め寄られないと思いますけどねー…」

 

 「そら!ふんわりとした言い方はその娘の為にならないよ!機関に所属するか、野良で行くかの話を機関に通さないで戦闘行為をするとすっごく怒られるんだから!ミータロ、君もちゃんと止めないと!」

 

 「ソーリーデス……」

 

 そらさんのパンダ型マスコットが事の深刻さを告げる。

 今日ここまで足を運んだのは、昨日の戦闘後に機関からの通告を受けた為。

 やっぱり、やっちゃってたかぁ…わたし……

 

 

 まず呼び出し場所に指定されていた中央機関ビル内の20階に行くと早速、無断魔法行使の件について説明を受けた。今回の行為は機関を通さない『把握外野良不穏分子』扱いになってしまい、発見次第、事情聴取や危険人物として監視下に置かれてしまったり、最悪保護という名目で特定施設にて隔離されてしまう可能性があったとの事。

 はい……あの時は最高に気持ちが高ぶってました……反省……

 

 その後、わたしは機関所属の魔法少女になる旨を述べて、下階かかいの魔法少女施設棟へ移動。性格検査と簡易的な魔法少女についてのテストを受けて無事クリア。

 

 次は白いドーム状の部屋へ移動し、いよいよ魔力検査試験。

 

 「変身!」

 「で、ミータロ……試験官さんの前で本当に詠唱しなきゃいけない感じかなぁ…」

 

 「デスね…いずれは人前で披露する事にもなりマスし……」

 

 「……昨日は誰もいなかったから大丈夫だったけど…」

 「うぅ……我…黄金の穂が揺らぎし…穏やかなる時を……黄昏の如く燃ゆ焔で…煌々と照らさん……りっ『熾火の葉刃リーフ・シェイプ・フレア』あぁ……」

 

 手に持った槍先から、黄色い炎がポッと出る。

 わたしの属性魔法は火。

 

 それに対してわたしの頬は火柱が出そうなくらいボッと火照り散らす熱を感じた……

 

 試験は無事合格。

 

 は、恥ずかし〜っ!!こんなの先輩の前で唱えられないよぉ!!

 

 

 機関の備考書類に目を通す時間と、体力の回復も兼ねて2日間の猶予を貰った。

 

 書類には試験結果の記載もある。

 わたしが最も気にしていたのは魔力Magical power総括SummaryアベレージAverage……通称『MSA』。いうなれば対象の魔力の強さを、経験値による魔力の先鋭化や現時点での潜在能力推測等も含めて数値化したもの。

 魔法少女の戦闘ランク、魔物のレベルもこの数値をもとに決められる。

 

 「これが今のわたしの強さの指標…」

 

 わたしのMSAは『10』、戦闘ランクは『E』。

 

 契約したばかりの初期MSAは大体『1〜20』が相場。ここからどんどん強くなってMSAが上がる場合もあるけど、測定は正確で変動はしにくい。

 

 戦闘ランクについてはおおまかに2つに分けられる。

 

 『E(1〜10).D(11〜20).C(21〜30).B(31〜40)』の任意ランク。

 

 『A(41〜50).Sまたは特S(50以上75以上から特別級)』そして最上級の『国家特別管轄ランク』の直轄ランク。

 

 40以上になるとAランク以上の上位者扱いになり、個人機関や国からの要請を受けて出動する案件が回ってくる。

 

 「Eランクじゃまだまだ力不足かなぁ…」

 

 「契約してすぐにEとDの境界線ならいい線いってマスよ!潜在能力のグラフも平均より上デス!」

 

 「じゃあまだ伸び代があるって事かぁ…」

 「よぉし!このまま経験を積んでって皆を守れるくらいの魔法少女に…」

 

 「でも魔物がいても余程のことじゃない限り、2日は手を出しちゃいけマセんからね…」

 

 「うっ、はい…」

 

 2日猶予を貰ったとは言っても、最初のやらかしが響いてその2日は活動の自粛を言い渡されていた。

 

 その間はミータロの感知に魔物が引っ掛かりもしたが、手を出さないように機関の人から言付けされていたので、もどかしさを感じながらも反省期間として出撃は自制。

 

 

 そして当日、午前5時。

 

 「いちご…いちご…!」

 

 「んぅ…ミータロ……どうしたのこんな時間に…わたし肌荒れ嫌だよぉ……」

 

 「ゴメンナサイ……それが今日は『招集』扱いになったみたいなんデス!」

 

 「………」

 「えっ」

 

 機関所属魔法少女の魔物討伐は基本『Bランク以下は任意』だ。

 所属すると色々保険が掛けられるので、長期間一切魔物と戦わなかったり又は魔物を感知して報告する作業を怠る等の不労をしているとお叱りを受けるらしい。

 それでも機関は無理強いをしない。基本、対処可能なランクの魔法少女が戦闘を行うという基本指針があるからだ。世間体もあるのだろう。

 

 ランク毎に序列があるように感じられるが『任意』のおかげで、自分のレベルに合わせた魔物と戦う事が出来たり、高レベル帯には機関の連携を挟んでチームとして複数の魔法少女と組むので意外と結束力は高い。

 なによりランク関わらず魔法少女になる人達は人間的に出来ているので、軋轢を生むことが少ない。

 

 しかし『招集』は別で、重大インシデント発生の可能性がある際に魔法少女を集めて予防や対処にあたる特殊事項だ。

 

 「いっ急いで準備しなきゃ…!」

 

 「集合は8時デス!慌てず支度して!ミーにも手伝える事があったら言ってクダサイ!」

 

 「あーっ、えーっと……父さんと母さんに説明!」

 

 「分かりマシた!」

 

 父と母も眠い目を擦って起きて来てくれて早めの朝食を摂り、わたしを見送ってくれた。

 この時間、電車はラッシュなので折角なのだから魔法少女に変身して基礎ステータスの暴力で爆走………という訳には勿論いかず、ぐっと我慢。

 

 「でもいきなり招集って……最近何かと話題に上がってる『魔の災厄』かなぁ…?」

 

 「ミーも思い当たるのはその噂デス。精霊国でも怖がる者達が沢山デス。」

 

 「貴女、魔法少女かしら」

 

 え?私?

 

 誰かに声を掛けられたと思って足を踏み込み、急ブレーキ。『魔法少女』かと確かに問われた。女性の声だ。

 左右を振り返ると、右側川沿いの並木からスッと殆ど音も無く少女らしきシルエットが姿を表す。

 

 姿を表したのに影のように包まれた…まさにシルエットと表現出来る謎の黒い迷彩機能。

 

 「きょ、強力なジャミング魔法デス…!」

 

 ミータロが怯えながらも性質を見抜く。何者か分からない以上、警戒は最大限にして敵意があるかどうかを確かめなければいけない。

 

 「争う気は無い、ただ1つ…」

 「忠告しておくわ。貴女達、機関の魔法少女では今回の魔物は手に負えない。無駄死にをしたくないのなら、足立区からなるべく離れる事ね。」

 

 私が呼び止めて確かめる前に黒いシルエットはまた木の陰に隠れる。

 駆け寄って木の裏を覗いてもみたけど、そこには既に誰もいなかった。

 

 

 不思議に思いながらも再び機関本部施設へ行き、待合場所の指定ホールでそらさんと合流。

 ホール内には大画面モニターも設置されており、雰囲気としては小規模な映画館と言ったところ。

 

 「普段はこのホールを開放しないんですけれども、ちょっと事情がありましてねー。」

 「ではではー、今日は私といちごさんで初回指導も兼ねまして足立区付近の魔物の警戒にあたるとしますかー。」

 

 そういえばモニターに足立区の図面が映っているけど…

 

 「足立区…ですか…?わたしの地元です!」

 

 「おやー、じゃあ話が早いですー。」

 

 

 電車でもと来た道のりを戻って行き、一旦降車。別の駅のホームへ乗り換えに向かい歩く。

 今日は機関からの招集という事もあり、特別に欠席許可も貰えて通学時間帯以外の電車の新鮮さをちょっと楽しめた。

 その代わり欠席許可を通す為、学校と親しい友達には魔法少女になった事を伝えたので近い内に噂になってしまうだろうか…

 

 「いちごさんにとっては二度手間になってしまって申し訳ないですー。しかしまあ、最初が招集任務ですとはねー…」

 

 「『魔の災厄』、ですか?ここ2日、クラスメイトの皆も話に挙げてました。噂程度ですけど…」

 

 「本当に噂なら良いんですけどねー……陰陽道第一人者の『晴明』さんまで出張って来たものでしてねー……機関がここまで人員を動員してるのも結構その災厄が発生するのが固いと考えているからでしょうねー……はぁ、やだやだー……」

 

 それまであっけらかんとしていたそらさんが、声を落とし始める。

 

 「私達の今日の役目はですねー、異変が無いかしらみ潰しにしていく事ですー。」

 「退屈だと思って油断してはいけないし、もし『魔の災厄』が出ても立ち向かう蛮勇なんて出さないでくださいね。1日目で仲間を失いたくないので。」

 

 思わず息を呑む。

 細目の瞳の奥と、間延びしない言葉の結びは、これまでに経験したであろう先輩魔法少女としての重みがあった。

 

 

 乗り換えた先で八潮駅に到着。降車して指定の場所へ向かって探索する。足立区というより埼玉との境目だ。

 

 「今日は人手を欲しがっている状況ですけどー、いちごさんは契約して数日なので担当地区は中心から離れている危険性の少ない場所ですー、肩の力は抜いてくださいー。でも油断はせずにー。」

 

 「はい!」

 

 徒歩10分ぐらいで足立区と他地区たちくの境界線にあたいする一級河川の支流に差し掛かり、それに沿って魔物の気配や瘴気を探して行く。

 

 探索の間はあれこれ話し、そらさんが魔法少女歴では3年先輩だけどわたしと同い年な事にも驚きながら、今朝体験した事についても一応聞いてみた。

 

 「ジャミング魔法を掛けた何者かから忠告をうけたー…と?」

 

 「はい、声の性質的には大人びた女性という印象で……少し高めなのを聞くにまだ若いと仮定すると魔法少女が変装をしていたんじゃ、と思って。」

 

 「……」

 「実はですねー、私の同僚や他の後輩ちゃん達の内から何人か同様に声を掛けられたらしいですー。」

 

 まさかのわたしだけじゃなかった。

 内容を説明すると、いずれも同じようなものだったらしく足立区から退避する事を勧める忠告との事。

 

 「まあ野良の魔法少女としましてー、愉快犯か分からないですしねー、真に受けない方が良いですよー。」

 

 ごもっともな回答を受けて、不穏な忠告への胸のつかえが払拭される。

 

 「そら!でも今日だけは気が抜けないのは事実だよ!新人達!足立区内は魔物の出現数が増加傾向にあったのに、今日はパタリと出てないみたい!」

 

 「今は引き潮というやつデスか…?」

 

 「そうだよミータロ!この後にドバーッと!押し寄せて来るかもしれない!螺旋大河事変とケースが似てるんだ!」

 

 「!」

 

 ただ、それとこれとは別。そらさんの精霊が一喝を入れてくれて再び身が引き締まった。

 

 「こらこらー、油断させちゃいけないのは分かりますけどー、不安にさせるまではやっちゃいけな」

 

 瞬間、たしなめようとしたそらさんが言葉を切って川の護岸されたコンクリート帯を覗き込む。わたし達も同様だ。

 

 禍々しい感覚。黒と濃い紫のオーラ。

 『瘴気』が橋の下の影で揺らめいていた。

 

 「変身。」

 

 「変身!」

 

 そらさんはフード付きジャケットにショートパンツという、穏やかで可愛らしい顔つきに反してボーイッシュな魔法少女服に身を包み、精霊を取り込んでリンク状態に。

 わたしもミータロを取り込み、初めてのリンク状態に。魔法少女服で身を包み戦闘態勢に入る。

 

 「私はここから川に降りますー。いちごさんは水に濡れるのが嫌でなければ私とは反対の橋の向こう側から挟み撃ちにする形でお願いしたいのですがー。」

 

 「勿論です!」

 

 コンクリート帯は足場が無い程に草木が生えているため勝手に薙ぎ払うわけにもいかず直接川に入る事に対して、そらさんは気遣ってくれたのだろうか。

 でも、水に濡れる事を嫌がりながら魔法少女の世界に足を踏み入れたつもりはない。だって憧れの魔法少女は血に塗れてでもわたし達を助けてくれたんだもの。

 

 そらさんはBランクの実力者。魔力の扱いに慣れているので水面につけた足から魔力放出を行い滑るように橋下へ近付く。でも、それにしてはあまりにも波を立てていない。魔法少女の水面移動ってもっと航行みたいに飛沫しぶきを立てながらだったような…?

 わたしはまだまだ不器用なので腰まで浸かって泳ぐ形だけど、魔法少女のステータスの暴力で常人の5倍ぐらいは早く動ける。

 

 未だ慣れないハイスペ状態での身体の動かし方を覚えながら瘴気へと接近。

 

 『瘴気』は魔物の自然発生の温床おんしょうとなるドス黒いもやだ。

 常人が近寄れば精神に支障をきたすが、この瘴気はサイズが小さく影響が少なかったのだろう。まるで息を潜めているみたいに…

 

 『息を潜めているみたいに』…?

 

 勘というものだろうか。

 

 右端の躯体くたいの陰に、ほんの少し目を凝らさなければ分からない赤く仄かな光がいていた。

 

 「そらさん!」

 

 わたしの呼び掛けにそらさんが気付き、わたしの視線の先を見遣る。

 

 その時には既にその魔物は飛び掛かって来た…!

 

 「キシィッ!」

 

 脚部が異常に発達した蝙蝠コウモリ状の魔物。

 

 鋭い爪を突き立ててそらさんに襲いかかる。

 

 「なるほど瘴気を囮にしたんですねー…!」

 

 しかしここは先輩魔法少女。

 ヨーヨー型の固有武器を既に展開して、魔力を纏った糸で爪を絡め取るようにガード。

 

 態勢を崩した蝙蝠の魔物に、形勢逆転とばかりにヨーヨーを器用に飛ばし連続して殴打を食らわせる。

 

 「キキシィッ!!」

 

 しかし中々タフな魔物、翼をはためかせて態勢を整え再び攻撃に転じようとした。

 

 バシュッ!!

 

 「ギィッ!」

 

 「いちごさん…!」

 

 でもそれはわたしがさせない。

 固有武器の槍を投擲して翼に命中。蝙蝠の魔物はよろめきながら橋の上にがろうとする。

 

 わたしは投擲されて宙に舞う槍を消し、リソースを減らした分で手元にまた槍を呼び戻すような形で生成。

 

 「はっ!」

 

 声を上げて気合いで槍を水面に叩きつけて橋上までジャンプ。

 そのまま着地して、よろめく蝙蝠の魔物を視界に捉える。

 

 「我!黄金の穂が揺らぎし穏やかなる時を黄昏の如く燃ゆ焔で煌々と照らさん!!『熾火の葉刃リーフ・シェイプ・フレア』!!」

 

 笹穂型の刃先にこれまでで最も大きい魔法の火が灯る。

 蝙蝠の魔物は圧されたのか、橋の欄干らんかんに足を掛けようとしたが…

 

 「キキッ!?」

 

 思い切りズルッと滑って、傷ついた翼で何とか羽ばたこうとする。

 

 その隙をつく…!

 

 踏み出して接近。槍を振るう。

 

 炎を纏った笹穂槍の軌道跡には黄色い火がなぞられ、蝙蝠の魔物は攻撃を躱すものの後退する一方。

 

 カシュッ

 

 8撃目で遂に攻撃が掠った。

 

 すると、まるでマッチを擦ったかの如く蝙蝠の魔物が燃え始める。

 こ、こんな効果あったっけ…?

 

 「ギギャギイイィッ!!」

 

 叫んでいる辺り、相当堪えているハズ。

 もはや反撃に転じず今にも落ちそうなボロボロの翼を動かすが、ここは確実に仕留める。

 

 「やぁっ!!」

 

 蝙蝠の魔物の左胸を一突き。槍が背中すら貫いていった。

 

 「ギギ……」

 

 そのまま黒い塵になって消えていく蝙蝠の魔物。

 討伐完了だ。

 

 「センス良いですよー、お疲れ様ですー。」

 

 振り返るとそらさんが既に橋上きょうじょうのぼっていて、わたしを迎えてくれる。

 

 「いやはは……そらさんの迎撃が流石だったからです、それで蝙蝠の魔物も態勢を崩したり、偶々炎の魔法が威力を増したのか身体全体に燃え移ってくれたりで形勢が向いて来たんです!」

 

 「それはそらの固有能力のおかげだよ!」

 

 「『固有能力』…?」

 

 リンク状態を解いてそらさんの精霊が注釈を入れてくれたが、『固有能力』とやらについてはわたしに見識は無い…

 

 「いちご!『固有能力』は固有武器とはまた別の自分だけの能力の事デス。発現させるにはたぐいまれなセンスか、相当な鍛錬が必要デス!」

 

 「そ、そうなの!?そこらへん魔法と混同してた……まだまだ知らない事たくさんあるなぁ…」

 

 「そうだよ!そらの固有能力は『油』!魔力を消費して固有武器のヨーヨーに油を纏わせたんだ!」

 

 蝙蝠の魔物が欄干を掴もうとして滑らせたのは、ガードした時に油を爪に塗っていたから、わたしが炎の槍を掠らせただけで全身が発火したのもヨーヨー攻撃の際に油をくまなく塗っていたから。

 確かにあの違和感は、油の作用だと考えれば納得出来る…!

 

 「あと武器だけじゃなくて身体全体からも」

 

 「はいはいー。誰がアブラギッシュな女ですかー。そんな女の子が魔法少女じゃいけませんかねー?」

 

 「ご、ごめん」

 

 そらさん結構気にしてるんだ……精霊の頭をむんずと掴み、リンク状態にして此方に向き直る。

 

 「いちごさん、先程は立ち回りが特に良かったですー。一点物の槍を投擲して手元に武器が無い状態から、呼び戻すように投擲後の槍を消して手元に再生成する流れは到底契約数日だとは思えませんー。」

 「魔法少女、お好きなんですねー…?」

 

 「いえいえそんな、魔法少女好きを名乗るのも烏滸おこがましいです!あれは動画サイトで昔見た魔法少女の戦闘から偶然着想を得ただけです、固有能力の事だって全然……」

 

 「本気で好きっていう気持ちは自分に嘘をついてないという事ですー。つまりネガティブな感情を抱えずに済みやすいんですー。」

 「基本、魔力が高くても魔法少女っていう『ヒーロー』を通して行くには負の感情に対してめげず、初心を見失わないのが必須ですからー。ホントですよ?」

 

 名前通りの空色の瞳がわたしを覗き込んで、再び彼女は語尾を間延びせずに告げてきた。

 

 そらさんが何を体験してきたのかはまだわたしには分からない。

 でも多分、途中で挫折してしまった娘や、魔法少女としての活動に意味を見出みいだせず病んでしまう娘なんかを見てきたんだと思う。わたしだって一時期は夢を諦めていたから。

 やはり彼女の言葉の節々には重みが感じられる、そらさんは辛い状況でも魔法少女が大好きで諦める事はしなかった人なんだ、きっと。

 

 「あー、えっとー…覗き込んだのは此方なんですがそこまで熱心に見つめ返されると恥ずかしいものがー…」

 

 「あっ!?ご、ごめんなさい…?」

 

 此方の粗相そそうでそらさんを困らせてしまったようだ。反省…

 

 「さてー。実力の方も申し分ないですー。いちごさんのMSAはどれくらいでしたっけー?」

 

 「10です!」

 

 「そう考えるとー、蝙蝠の魔物のMSAはどれくらいですかねー?ミータロさんー?」

 

 正式なMSA数値は機関の魔力測定機があるので最終的にはそっちの数値がデータとして用いられるけど、現場においての即時判断は魔力感知に長ける精霊が担う。数値は大体魔力測定機と同じぐらいに正確だ。

 

 「蝙蝠の魔物のMSAは15はありマシた!」

 

 「そ、そうだったの…!?危なかった……」

 

 魔物にも勿論MSAは適用され、その強さを測る指標になっていた筈だ。

 

 魔物は通常レベル毎に『アーリィ(20まで)、ミドラー(35まで)、ハイ・クラス(50まで)、大河エクストリーム(51 以上)』に分けられる。

 そして。レベル大河では到底形容出来ない強さの魔物……レベル『破天フォーリング・ダウン』。一度出現すれば畏怖という意味合いで歴史上に名を残し、単体で螺旋大河事変等と同列に語られる災厄だ。

 

 「でもあの時点ではいちごに十分勝機がありマシた!」

 

 「これが連携の賜物ですー。機関魔法少女の強みですねー。」

 

 初めて魔物の討伐が上手くいって、しかも相手は格上だった。

 出だしの良さに思わず頬が緩んでしまう。

 

 

 ピリッ

 

 そんな和気わき藹々あいあいとした雰囲気から、一瞬でわたし達は固まった。

 

 突如として信じられない程の寒気が襲って来たから。

 

 そらさんはすぐに自分の精霊を通して機関に連絡を入れていたが、わたしは何かしようと思っても鳥肌が立ちっぱなしですぐには動けなかった。

 

 「本当に来た…!」

 「いちごさん!機関から『レベル大河』の魔物出現報告がなされました!これから避難誘導と避難ルートの安全確保を行います!」

 

 今までに無いそらさんの緊迫した呼び掛けに硬直が解ける。

 そうだ、魔法少女が怖気おじけづいては誰が市民の安全を守るんだ。

 

 「いちごさん、事態は最悪ですが今日は私のそばについて緊急時の動き方をしっかり見ていて下さい!」

 

 「はっはい!」

 

 「いちご!ミーを暫くリンク状態にしないでクダサイ!このまま浮遊して市民の動向に混乱が見られないか確認しマスので!」

 

 「うん!分かった!」

 

 「助かりますー!」

 

 レベル大河の魔物。ここからでもピリピリとその禍々しい魔力が感じ取れる。

 一体何処に出現したのか…?

 

 「あっ、あの!レベル大河の魔物の出現場所は…?」

 

 「都立花畑高等学校です!足立区の正に真ん中に位置する学校です、ここからは離れてますけど…」

 

 え

 

 「…」

 

 「いちごさん!!立ち止まって一体どういう……」

 

 「花畑高校はいちごが通ってる学校なんデス!!」

 

 「!?」

 「まじかー……」

 

 足が止まってしまった。

 震えも段々と始まり、恐怖が全身を蝕んでくるのが分かる。

 学校の友達、先生、近くには親だって住んでいる。

 

 「先輩…」

 

 何故か彼の姿を思い浮かべる。

 何を考えているんだ、わたしは。

 彼は一般人。そして今わたしは魔法少女。

 今のわたしはもう『先輩が何とかしてくれる』なんて甘えられる立場じゃない。

 

 「行かなきゃっ…!!」

 

 「待って!!」

 

 一瞬、誰に止められたのかも分からなかった。それ程にそらさんから出た声とは思えない等身大の女の子の声。

 

 「レベル大河はあまりにも次元が違うんです…!!」

 「今はグッと堪えて……その正義感は後に取っておいてください…!!」

 

 そらさんがわたしの手首を強く握り締める。

 その優しさを振り払う事なんて出来る訳が無い。

 

 でも、あそこには大切な人が沢山いる。

 わたし…どうすれば……

 

 「2人とも!守屋みゆりが向かったようデス!」

 

 「『守屋みゆり』…」

 

 最近の魔法少女界隈で知らない者はいない超新星。私が契約をする数日前には特Sランクに上がっていた機関の最高戦力の1人だ。

 

 「ふぅ…彼女なら大丈夫ですー……」

 「いちごさん。私達も目の前の役目を全うしましょう。」

 

 「……取り乱してごめんなさい。はい、行きましょう…!」

 

 よりによって魔法少女としてはまだ雛もいいところの契約数日目で、大切な人達が危険な目に晒されている。

 『今すぐにでも助けに行きたい。』そんな葛藤を抱えながら皆の無事を願って、今は担当地区の避難誘導に勤しんだ。

 





◎糸を紡ぐ蛾の魔物(マルガレーテ・グレートヒェン)
 平均個体に於いても、レベル大河の中で最上位クラスの魔物。
 元は太古の地球で生まれた蛾型の魔物が星間飛行能力を身に着け他の惑星で繁殖したのが始まり。
 羽根の紋様からなる魔力光波推進能力で惑星間を移動、または応用で光線の拡散、収束が可能。6本の脚で厚い結界又は光の壁(上位個体のみ)を組める。
 環境適応に長けており、生態系によって其々の固有能力を有している。懐柔も可能であり、古来より各異星人によって大量使役され宇宙戦争に駆り出された好戦的な個体、異星人が飼育環境を整え魔力を帯びた粘糸を取り出して文明発展に貢献する温厚な個体と多岐に渡る。
 例として好戦的な個体は万を超える拡散光線、光の壁をぶち抜く収束光線を己の固有能力を乗せて放つ。温厚な個体から取れる魔力を帯びた粘糸は惑星間移動用宇宙船の繊細な部分のパーツとして組み込まれたり、高度な技術による硬質化で各異星の其々異なる重力下や魔力環境下においても対応可能な建造物の主要構造部と成り得る。

 守屋みゆりが交戦した蛾の魔物は平均個体である。ナニカの命を受け渋々降り立ち、暴風や神経毒を撒いたものの「地球めっちゃいいとこだな」「神経毒撒いた位で効果てきめんとか地球人ってめっちゃ軟だなぁ…確保面倒くさいけど手を抜くと後で怒られるしな…」「やばっ戦闘態勢整ってないんですけど」「ここでもっと強い毒使うとこの綺麗な星駄目になるくね?」「あーもうだめ結界得意じゃねーよ」など優柔不断な個体であったので、もう少し獰猛であればみゆりに対して優位に戦闘を展開して確実に勝利出来ていた。
 

 昨日から骨折した親族が家に転がり込んで来たのでまーじで創作時間無くなってる状況です、とほほ…
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