限界社畜おじさんが、猫耳Vtuberになって世界をかわいく征服する   作:双葉 鳴

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第一章『おじさん、Vtuberになる』
ドロップアウト


「ぐぉ、ふぁあ、今日もノルマ完了ぉっと」

 

 

 見送った20000本のポーション瓶を眺め、立ちあがろうとしたところで転んで頭を打つ。

 三日寝てない上にろくに食事をしてない。

 無理が祟ったのだろう、僕はそのまま意識を落とした。

 

 

 

 

 再び目を覚ました時、そこは清潔なシーツで周囲を囲む空間。

 僕はベッドに寝かされ、腕に点滴が刺さってた。

 びっくりするくらい大きなパックが三つぶら下がっている。

 

 

「知らない天井だ……」

 

「あ、ようやく起きましたね?」

 

 

 僕の言葉に、カーテンが開けられてそこから現れたのはよく見知った顔だった。

 

 

「後輩じゃないか、久しぶり。元気してた?」

 

「そうですよ〜後輩の望月ヒカリです。元気してた? じゃありませんよ、先輩こそどうして研究室で倒れられてたんですか?」

 

「僕が?」

 

 

 なんとなく、覚えてる様な覚えてない様な。

 

 

「ああ、なんとなく記憶にあるな。確かポーション制作の追い込みをかけてたんだ。ノルマがその日まででね。少し間に合いそうもなくて睡眠防止に強めの興奮剤を服用しててね。副作用でぶっ倒れたんだろう。それはそうとポーションはどうなった? あれは無事に他の部署に行き渡っただろうか?」

 

 

 ポーションは我が子のように可愛いものだ。

 しかし僕はこれが仕事。

 別れは惜しいが、ノルマを満たせたのならそれで仕方ない。

 

「先輩、三日間も意識を覚まさなかったんですよ?」

 

「へ?」

 

「このまま死ぬんじゃないかって、いてもたってもいられずでした」

 

「3日も眠ってただって!? まずい、来週分のポーションノルマが!」

 

 

 居ても立ってもいられず、僕は飛び跳ねるように起き出す。

 しかし後輩によって僕の両肩は再びベッドに押し付けられてしまった。

 ぐ、くそぉ。

 

 非力な自分が憎い。

 

 

「ダメですよ、今言った様に栄養不足と寝起きなんです。ワーカーホリックがすぎます!」

 

「だって僕がいないと誰がポーションの生産をするというんだ? 部下は全員辞めちゃったんだぞ? 僕だけでも取り掛からないと!」

 

「あ、こら。起きちゃダメですってば」

 

「はーなーせ!」

 

 

 暴れる僕に、後輩はナースコールで救援を頼む。

 僕にとって錬金術とは人生の全てであり、生涯を賭けてもいいというほどの存在だった。

 

 

「うぅ、ポーション作らせてー、おねがーい」

 

「泣き落としは通用しませんよ? まずは体を治しませんと。それにポーションなんて製作難易度1の初心者向けレシピですよ? いくら先輩が凄腕だからって全部一人でこなす必要はないんです。大手(オオデ)製薬にも錬金術師が3000名居ます。先輩が頑張る必要なんてないんです!」

 

 

 後輩にそこまで巻くしたてられ、それもそうだなと思いとどまる。

 

 

「それよりも今は身体を治すのが先決です」

「ぶー」

「大の大人がみっともない。それよりもなんで倒れるまで錬金術を使ったんですか? それに部下が辞めるほどのシフトは組まれてないはずです。週のノルマはせいぜい5000本だった筈ですよね?」

「まぁね」

 

 

 その通り。

 10人体制で一人当たりのノルマは500本。

 

 一日約72本作ってお釣りが来る。

 僕だったらもっと作れるんだが、何如せん。

 

 部下たちの熟練度が釣り合わずに「こんな部署にいられるか!」と辞めていった。

 

 せっかく大手に勤めたのに製作難易度1の製品ばかり作らされてたら一生を棒に振る。

 そう思ったのだろう。

 

 気持ちはわかるので引き留めなかった。

 しかし人数は減ってもノルマが変わるわけではないので、後はそれを理由に辞めていったよね。

 

 

「それがさー、大塚や富野、鷹取から相談を受けて」

 

「先輩の同僚の方ですよね? それぞれ専門部署が違う様に思いますが?」

 

「うん、まぁあれだよ。自分の作った薬品の薬効が低いから僕のポーションと合わせて水増しできないかって提案が来て、面白そうだから乗った」

 

「バカなんですか!?」

 

 

 後輩はご立腹だ。

 

 待て待て、これは僕も了承したもので、向こうから押し付けられたわけではないんだぞ、と弁明する。

 

 最初は薬効くらいどうとでも増やせるだろうと気分も悪かったが、よく考えたらどうなるのか気になって仕方がなくなったので了承したのだ。

 

 全部僕が悪い。

 

 

「しかしなぁ、レシピ同士で組み合わせたらどうなるかって気になるだろ? 錬金術師っていう奴らはどいつもこいつも錬金バカだ」

 

「本当にバカですねぇ」

 

「最初こそ笑い話だったんだ。でも僕のスペックに部下がついてこれず、一人当たりのノルマが1000本に達したあたりで脱落者が出てな」

 

「そのノルマって月ですか?」

 

「ううん、週♡」

 

「バ・カ・なんですか!?」

 

 

 わざわざ錬金のスキルを取得して、企業に勤めてるのに僕ほど錬金バカが居なかった。

 たったそれだけの理由さ。

 

 

 完全に自業自得というやつだ。

 部下や後輩が怒るのも無理はない。

 

 しかし僕は錬金に関しては寝食を忘れるほどの集中力を持つ。

 だから一人でやる分にはよかったんだが、部下に回したら次々と辞めて、最終的に自分一人になった。

 

 週に2万本。

 好奇心と探究心を止められなかった僕も悪いんだ。

 

 

「しかし週2万本を切らさずに提供できてた先輩も大概ですよねぇ」

 

「後輩の錬金チャンネルが癒しだったんだぜ。あとはめっちゃ薬効強いポーション作って薄めたり苦労はしたけど楽しかったなー」

 

「あの高額スパチャニキ、もしかして先輩だったんですか?」

 

「癒し赤スパニキの正体は僕だ! ふはははは、驚いたかね?」

 

 

 癒し(50,000円)が視聴した際の挨拶だった。

 自分で無理なノルマ作ったおかげで、外に出かける時間や遊ぶ時間も食事する余裕や睡眠時間まで削ったからね。

 

 お金ばかり積み上がるからお布施で投げるよね。

 

 毎日、配信の度にコメントしてた。

 疲れた時の癒しが彼女だ。

 

 僕より一つしか年齢が違わないのにいまだに大学生と見間違うほどの美貌を持つ。おかげで弊社でも広告塔にされて専用の錬金術チャンネルまで用意されてしまうほどだ。

 

 

「あの投げ銭、9割も会社が持っていくんですよ? 確かに機材の提供とかは会社で、私は社員ですがレシピなんかは全部私で顧客作りも全部私の努力の賜物なのに、信じられません。旨みゼロどころじゃないです」

 

「いいよ、僕のは気持ちだから。それで少しは君の懐に入ったんでしょ?」

 

「ボーナスに少し色はつきましたけどー」

 

 

 あまりに旨みがないと嘆く後輩。

 製薬会社に来たのに配信以外で錬金をしてないとまで愚痴を聞かされた。

 

 

「実はその件で先輩にお知らせがあったんですよ」

 

「ほうほう。こんな状態でよければ聞くよ?」

 

「実はですね……」

 

 

 後輩はたっぷりと間を開けて口を開く。

 それは弊社を辞めて独立する道を選ぶという決意だった。

 こういう時、なんて言葉をかけていいのやら。

 

 

「おめでとう、独立しても配信は続けるんでしょ? 応援してる」

 

「それでですね、先輩にも一緒に手伝って貰いたくて。直々に引き抜きにいったわけです」

 

「ああ……」

 

 

 それで研究所で頭から血を流す僕を発見した訳か。

 そりゃ相談どころじゃないね。

 ほんと、悪いことをした。

 

 

「しかし僕は自分で言うのもあれだが、不良債権だよ? ポーションの制作に関しては一家言あるけど」

 

「いやいやいやいや、ないです。先輩程の人材が不良債権だなんて」

 

「いやいやいやいや……」

 

「いやいやいやいや……」

 

 

 お互いに謙遜しながら時間だけが過ぎる。

 言葉を切ったのはどちらが先か。

 謙遜合戦は看護師さんが献血パックを取り替えるまで続いた。

 

 

「正直ですね、今の私があるのは在学時代に先輩が遊びで作ったこのレシピのおかげなんです」

 

「懐かしいね、それ!」

 

 

 彼女が持ち出したのは「むくみが取れるポーション」と「徹夜明けのハイな状態を回復させるポーション」、「眼精疲労を解消させるポーション」だ。

 

 特にこれらは研究で長時間座りっぱなしの研究員になくてはならない代物だった。

 

 

 当時を思い出し、懐かしむ。

 しかし彼女の語りはそれだけにとどまらない。

 

 

「実はこのポーション、まだどこにも出回ってない新種のレシピで、私のチャンネルでレシピを取り扱ったらですね。いろんな会社から引き抜き案件が来るほどでして」

 

「後輩のアピール力の賜物だな」

 

 

 僕の中では没レシピ。

 もうどんなものかすら覚えてない。

 

 それが脚光を浴びたのだ。

 それはつまり後輩の売り込みによる成果だろう。

 

 

「私抜きでレシピの発見者に提案が来てるんですよね」

 

「あれ……でもそれ大した薬効なくて没にした奴だよ?」

 

「10年前はそうでしたね」

 

「でも現在では違うと?」

 

「このむくみをとるポーションですが、なんと若返りの効能があることが発表されました」

 

「うっそだー」

 

 

 僕は笑う。

 後輩は冗談がうまい。

 きっと今回もその類だと思って笑い飛ばしていたが、彼女はずっと真顔のままだ。

 

 

「本当です。正直話が大きくなりすぎて私だけは扱えなくなってきて。最初は友好的だった企業から、どんどんレシピ開発についての発案、ひらめきについて問われる様になって、怖くなって」

 

「製作者の僕に頼ろうと?」

 

「まぁそんな感じです。先輩のレシピなんですから責任とって先輩が公開してください。そして自分のレシピが実際に世間でどう思われてるかを知ってください」

 

「それで配信にねー」

 

「ちなみに先輩、解雇されてるので今現在無職ですよ?」

 

「……聞いてないんだが?」

 

「今言いました」

 

「説明を詳しくプリーズ」

 

「流血沙汰から始まり、先輩が不在の間に業績低下、要はワンオペできてた先輩が抜けたのが原因で会社側で同量のノルマを達成できなかったとして探索者協同組合からクレームが来て、いつもの尻尾切りで責任者の首を切ったと言うことです」

 

「とばっちりじゃないか!」

 

 

 他の部署の人たちがノルマをこなせてたら首は着られずに済んだのに。

 くそぅ、また再就職し直さなくちゃだ。

 

 

「そもそも、会社側も先輩に任せきりで全然人材を回さなかったのが問題なんです。なんで一人でやれてるからって技術の高さを重宝しないのか、そう言うところも不誠実でした!」

 

「まぁ、ホワイトとも言い切れないけど、僕にとっては過ごしやすい場所だったよ」

 

「まさか再就職するつもりですか?」

 

「可能であれば」

 

「ちなみに先輩は社名に傷をつけたとして大手製薬では煙たがれてますよ?」

 

「それも僕のせいになるの?」

 

「なりますねぇ。所詮研究員なんて企業にとってはトカゲの尻尾です。と言うことで暇になったことだし、一緒に配信しましょう? 可愛い側も作っておきますし」

 

「側って何だ?」

 

「独立して、ヴァーチャルDチューバーになるんですよ」

 

「うげぇ」

 

 

 どこで対応を間違えてしまったのか。

 

 こうして僕は外堀をしっかり囲まれてヴァーチャルDチューバー『先輩と後輩の錬金チャンネル』の謎の天才錬金術師の『先輩』として運営のお手伝いをすることになった。

 

 解せぬ。

 

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