限界社畜おじさんが、猫耳Vtuberになって世界をかわいく征服する 作:双葉鳴
『決着をつける時が来たようだな、オービル。オレの大切な巫女を攫った上に卵を産ませようとする行為。タダでは済まさん』
コアパパはぼきぼきと指の関節を鳴らし、殺意を周囲に振り撒いてる。口調は怖いんだけど、可愛い子が怒っても可愛いんだよね。
可愛さが増してるだけというかなんというか。
『フン、まんまと拐われて卵を産ませる直前に気がついてソレ? 巫女の管理がなってないのをウチの責任にするとか。どうやら生まれたお国が違うようどすなぁ?』
対してオービルはうちの娘と同様、エセ京都弁を巧みに操るタイプか。
嫌味と煽りが日常動作に組み込まれてるので聞いてるだけでは相手の言葉の意味を捉えきれない。
コアパパはほら、馬鹿だから。
言われても気づかないっていうか。
まさか毒竜って言葉にも毒を仕込んでるのか?
こわっ。
僕と一緒にいる時は普通なのに、やっぱり部族長同士て仲悪いんだなぁ。
『パパー頑張ってー』
スペアに入り込んだ僕が応援を送る。
もう僕で喧嘩しないでよ! って意味合いも込めておく。
『ああ、そこのクソドラゴンを殺して、未来栄光爆炎竜の世界を築くぞ』
『いうてくれはりますな、弱火のおチビちゃん。そんな曖昧な夢、ウチの猛毒の霧でグズグズに溶かして見せますわ。そちらの巫女はウチらが可愛がってやるさかい。安心してしんどくれやす』
『殺す』
『どうぞ、ご自由に』
殺意ムンムン。
スペアからの情報では、周囲のダンジョンが震えてて、みんな怖がってるらしい。
『その前に、パパたちにお願いがあるんだー』
『なんだ、真栗?』
『どうしたんどす? 巫女はん』
やっぱり僕の言葉には意識を傾けてくれる2匹。
可愛いは正義だっていうけど、やはり得だな。
僕が意識を逸らしてる間に、後ろから忍び寄った母さんが精神分離剤を使って2匹の魂を誘拐。
帰るべき肉体を肉体保管庫に封じた。
さー、ここからが勝負だ。
『パパ、パパ! 大丈夫?』
『う、うーんオレは?』
『オービルの汚い罠だよ』
『やっぱりか』
コアパパを分断し、二人きりの状態にしたので悪口を言いたい放題だった。
そして己の状態に気づく。
『なんだ? いつもより力が出ない気がする』
『それはきっとオービルの麻痺毒が原因だね。僕も手足を痺れさせてナワバリから抜け出せないようにさせられてたの』
『あいつめ、口では自由意志を尊重していたと言っておきながら、狡い手を使いおって!』
『意思は自由だよ。でも体の自由を奪われちゃって。パパはそれでも僕の為に勝利してくれるって信じてるけど。負けないよね? 信じていいよね?』
『当たり前だ!』
はい、チョロい。
僕はコアパパと別れてオービル選手の控え室に意識を飛ばした。
『お姉ちゃん、起きた?』
『ウチは……なんどす? 体の動きが鈍いわぁ』
『コアの手下による怪しげな機械だよ。僕が話しかけてる隙に、あんな手段を取るなんて。僕、怖くてもう向こうのナワバリに戻れない。守ってくれる?』
『あのカス。自分の自由にならないからとウチらごと始末しようと動いたんどすか。はぁ、やはり同じ部族長としてあまりにも知恵がおくれとります。やはりここで一度掃除しておいたほうがよろしおすなぁ』
『でもその機械をまた使ってくるかもしれないよ? 僕はお姉ちゃんが心配だ。この怪しげな空間も、あいつが仕掛けたに違いないんだ。この勝負やめようよ。絶対罠だよ』
『それでもな、巫女はん。女には逃げられない時があるんどす。ウチかてドラゴンの部族のトップを張らせてもらってるんやわ。罠であろうともろとも毒霧でグズグズにして見せるさかい。巫女はんはそこで応援してくれたらよろし』
『うん、無理はしないでね』
『お姉ちゃんの勝利を信じとき』
うーんちょろい。
こっちは一見賢そうなんだけど、所詮はドラゴン。
相手が人類なら見向きもしないが、それが僕という名のお宝を前にして、相手が同じ部族のドラゴンだったら仕留めに入る行動理念。
そして面白いのは、こっちのオービルは性自認が女であること。コアパパは男なのに、これは一体どういうことだ?
多少なりとも性格面が深く関わってくるのかも。
とりあえず、僕は居間でゴロゴロしながら応援させてもらうとするか。
久しぶりにポテチとか食べたいな。
部族長をVR空間に拉致できたんなら、元の肉体に戻す事もないでしょ。
機を見て大塚くんと合流するだけでりゅう族補完計画はミッションコンプリート。
根っこにあった問題は、いつ大塚くんを保護するかぐらいだったんだよね。
彼には長い間コアパパのご機嫌取りに徹してくれたから、どこかで労うチャンスがないか伺ってたんだ。
あとはそうだな、たまに生息域に迷惑行為をしたプレイヤーを放り込むくらいでいいか。
コアパパもオービルお姉ちゃんもその強さを知ってもらうのが一番だからね。
ついでに国民に登録っと!
ウチの息子たちの相手もしてもらうかんね!
「先輩、選手のエントリーが完了しました」
「おっし、第二回添い寝杯開催するよー」
「それじゃあ配信始めちゃいますねー」
「よろしくー」
後輩に頼むだけであとは自動で始まる算段だ。
接続開始。
配信画面が明るくなり、いつもの挨拶を済ませる。
「ハロハロー先輩だぞ」
「後輩でーす」
「それでは皆さんお待ちかね、第二回添い寝杯を開催しようと思います」
「いえー!」
<コメント>
:お?
:始まった
:本当に急に始まるな
:まだミニ企画の途中でしょ!
:ていうか、エントリーにりゅう族おらん?
:そりゃりゅう族はいるでしょ
:最初からそういう選定で
:いや、長
:は? それは話が変わってくる
:ほんとやん、あのちっちゃい子! あれ長だよ
:じゃああのド派手な着物を着こなしてる幼女は?
:わからん
:知ってるのはピッチピチのエロ民族衣装を着こなしてる幼女だけだし
:じゃあもう片方はどこの誰なんだ?
「どうやら皆さん困惑してるようですね! 実は今回、思わぬ方がエントリーしてくださいまして! それが爆炎竜のコアさんと毒霧竜のオービルさんです!」
「半分騙し討ちみたいな形で精神分裂させたあと、焚き付けて試合会場に運びました!」
「お二人とも、先輩のかわいさにメロメロでしたね?」
「まぁね。可愛いすぎるのも罪なんだって最近知った」
<コメント>
:オォオオオオオオオオイ!
:やっちまったな、先輩
:じゃあ、これ人類勝利?
:いや、確かりゅう族の部族長って4匹いなかった?
:りゅう族が収めなくなったら違う種族が台頭してくるだけ定期
:それなぁ
「彼女たちはダンジョンを支配してると思い込んだまま、僕の自国のダンジョンを守護するドラゴン、つまりにゃんにゃん王国民になってくれたわけです。その代わり、優勝したら僕がどっちかの卵を産まなくちゃいけなくなるので、みんな頑張ってね!」
<コメント>
:他力本願で草
:まさに先輩をかけた勝負な訳か
:本来は先輩は添い寝するだけで挑戦者が勝手に自国民を産むけど
:今回に限っては先輩も産む側か
:そもそも添い寝するだけで生まれるってなんだよ
:そういう生態系としか言えないな
:待って、今重要なこと聞き逃した気がする
:なんかあったっけ?
:りゅう族がにゃんにゃん王国民になった話?
:それ!
:それの何が問題……あ!
:何を気がついた?
:今後政府が王国にログインするときに遭遇する可能性が?
:そうやん!
「なきにしもあらず」
「一応、隔離しておきますけどね」
「お仕置き部屋は隔離部屋付近に設置するね!」
「大丈夫、死ぬほど恐怖はしますけど、スペアボディなので安心です!」
「頭からかじり殺されても生き返れるのって素晴らしいね!」
<コメント>
:先輩、笑顔でそんなこと
:何回死ねばその領域に辿り着けるんだ?
「なんか失礼なコメント見えなかった? まるで僕が何度も死んだみたいにさ」
「あー、先輩を理解しようとしちゃダメですよ。先輩は自分が死ぬのはちっとも怖くないんです。なんだったらその知能を失うほうが怖いまであるので。それでなんとしても生き延びるのを選択するんですよね」
「そうそう。後輩はよくわかってるね」
<コメント>
:そりゃ、その頭脳は人類の至宝ですから
:そういう死生観もあるのか
:そもそも先輩は生まれた時から人類じゃないから
:そうだった
「最近開き直りつつある僕がいる。生えてても関係ないんだってね」
「先輩はその不要なもの、いつとってくれるんですか?」
「だーめ。これは僕のアイデンティティなんだから。君も息子たちに強要しちゃダメだよ?」
「ちぇー」
<コメント>
:これはする気満々だったか?
:先輩で懲りてないのか、この人
:そう返ってくるって知ってて反応を楽しんでるんだぞ
:愉悦勢じゃったか
:でも卵は産めるんですよね?
「産めますね」
「僕はまだ本体で産んだことはないけど」
<コメント>
:産めるという事実さえわかればいいです
:いやー、捗ってきた
:これは薄い本が量産されますな
「その本書いた国とは距離置こうかな」
「じゃあ私が個人的に購入するのは?」
「関与しないよ」
「ヨシッ!」
<コメント>
:これ浮気じゃない?
:先輩の本だぞ、純愛だよ
:夫の痴態を良しとする妻ってなんだよ
:そういう界隈もあるから
:人類の業の深さ、ですかねぇ
やっぱり人類は一度滅ぼしたほうがいいのでは?
だなんて思いながら添い寝杯がスタートした。
今回は僕が寝るだけどころか父さんのスペアに入った僕が産む側も兼任してる。
なんとしても勝ちたいところだよね!