限界社畜おじさんが、猫耳Vtuberになって世界をかわいく征服する   作:双葉 鳴

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マスコミ対策

 ついに恐れていたことが起きた。

 

 いや、相棒は未だ健在ではあるが、恐れていたのはそこじゃなく、下着まで女性物に置き換わっていたことか。

 

 後輩のことだから捨てたとかじゃなく、作り替えたんだろうなぁ。

 どことなく面影があるのがまたより絶望を深める。

 

 サイズ的にこんな薄い布でどうしろと?

 それともさっさと男を諦めろって遠回しに言ってる?

 

 どれだけ僕を女の子にしたいのさ!

 僕は絶対に男で居続けるもんね!

 

 とはいえ、これをどうするべきか。

 

 こう、本来ぶら下げるものを締め上げる効果でもついてるんじゃないかと心配で仕方がないが、ノーパンというわけにもいくまい。

 

 スラックスならともかく、今回は割と丈の短いスカートだ。

 僕コレ苦手なんだよね。

 履き慣れてない以前に足元が落ち着かない。

 

 胡座をかくこともできない。

 よりによって何でこのチョイスなのだろうか?

 まぁ白衣は着せてもらえるので、それで何とかカバーさせて貰おうか。

 

 外に出られるようになったら、私服の購入を検討しよう。

 

 せめて下着は男性用で、スラックスを履かせてもらえるように訴え掛ければ……ダメだ、後輩を説得できる未来が見えない。

 彼女に財布を預けたのがここに来て仇となったか!

 

 

「先輩、お着替え終わりましたー?」

 

 

 ガチャ、と扉が開く。

 ねぇ、せめてノックなり何なりして?

 ブスッとした顔で振り返る。

 

 

「親しき者にも礼儀ありって言葉知ってる?」

 

「生憎と、私の辞書に載ったり載ってなかったりするやつですね!」

 

「今すぐ書き込んで!」

 

「はいはい。やっぱり私の見立ては間違いなかったと確信してます。先輩は地味なやつより多少攻めたピンク色のあざとい系が似合う気がしてたんですよ!」

 

「ねぇ、せめて僕に着させる前に相談して?」

 

「相談したら論外だって突っぱねるじゃないですか。ダメですよ? 人類に先輩のかわいさを堪能してもらうために今の生活を選んだの忘れました?」

 

「こんな事になるなんて知ってたら会社辞めなかった!」

 

 

 辞めたのは僕の責任でも何でもないけど、気がついたらクビになってたんだよね。

 

 おかしいなぁ。

 そんなわけで自責の念は日に日に強くなっていく。

 

 勤務時より楽だし、黙ってれば出てくるご飯。

 錬金術のお話で盛り上がれる環境は新しい知見が得られて僕をより前に向かせてくれる。

 

 しかしながらその代償が重い。

 今まで気にしてこなかったルックスをコレでもかと前面に押し出すスタイル。

 

 

 何でVなのに中の人もルックスに拘らなきゃいけないの?

 

 こういうのって中の人はむさいおっさんだったりするんじゃない?

 おかしいよ! 

 

 ダラダラ不満を述べてると後輩は優しく背中から抱き留めてきた。

 わっ急に何? 柔らかいものが背中に当たってるんだけど。

 

 

「ごめんなさい先輩。私が至らないばかりに苦労をかけさせて……」

 

 

 後輩は稀に暗い顔を覗かせる。

 やたら責任感が強いのはそういう家庭環境で育ってきたからだという。

 一人っ子なので失敗も許されなかったとか何とか。

 

 彼女の過去話は陰鬱を極めていた。

 

 これを出されると一般家庭で育った僕は申し訳なさから同情してしまう。

 彼女の癒し的な存在になれるなら、それで良いじゃないか。

 

 この性癖にだけ目を瞑れば、ある意味で理想の環境だ。そう思うことにした。

 

 

「そんなわけで新衣装は今日のお洋服をそのまま反映させました。スカート丈が短くなってるのにいつもと大股びらきで行動をしないようにお願いします」

 

「僕そんなに大股?」

 

「太ももはピチッとしてる方が好ましいですね!」

 

「それ君の趣味じゃない?」

 

「全人類の共通の趣味です!」

 

 

 本当かなぁ?

 疑わしげな視線を送るも、さらっと流されてしまった。

 

 話はファッションから今日の配信で流すレシピへと移行する。

 

 配信の裏方は全部彼女がやってくれるので、僕は予定したレシピと、料理番組でもお馴染みの事前に作り置きしていた素材の準備を始めるだけだ。

 

 今回提供するのは若返りポーション。

 通称トランスポーションだ。

 

 制作難易度は【80】

 若返る代わりに性別も稀に変わるこれは、ヒートホークの肝を起点にハイポーション品質Sを15個、超濃縮アロエ品質Sを15個、超濃縮ポーション品質Sを15個を錬金窯1%で祈る事で出来上がる。

 

 品質によって多少成功に傾きやすくなってるけど、99%失敗するのはいつものことだからね! 錬金術なんて特に多くの犠牲の上に成り立ってる。それは多くの生産に言える事だけど。失敗=消失なのがまぁ痛いよね。

 

 

「先輩はよくよそ見しながら融合成功させられますね」

 

「慣れてるからね。予備の準備だってしてるよ?」

 

「それも慣れてるから?」

 

「そうだね。基本的に失敗ありきで取り組んでるから、それで心の余裕を保ってられるんだ」

 

「わかります! 自分の見立てが失敗した時用に先輩に似合うお洋服を想像の中で来させるのと同じ事ですよね?」

 

 

 僕の瞳から光が消えた。

 

 

「あれ、違いましたか?」

 

「全然違うけど、全く違うとも言い切れないね。準備は大事だよ、うん」 

 

 

 この子、僕のこと以外で頭使ってないのか?

 そんなわけで配信開始。

 彼女に何を売っても伝わらないのは今に始まった事じゃないからね。

 

 

「はいはーい。最近私服が謎の失踪を遂げていく先輩と!」

 

「壁の中にいる! 先輩の私服を魔改造していくのが趣味の後輩の錬金チャンネル! 11回目! 始まるよ〜!」

 

 

<コメント>

 :やんや、やんや

 :どんどんぱふー

 :きtらあああああああ

 :きちゃあああああああああ

 :いよ、待ってました!

 :先輩可愛くなってる!

 :新衣装似合ってますね!

 :猫耳かわいい!

 :尻尾? 尻尾もついてる!

 

 

「え、ほんとじゃん?」

 

「本日は正式に米国に所属が決定した記念に新衣装と猫尻尾付きの先輩が拝めます! 皆さんの衣装代を注ぎ込んだ集大成! とくとご覧あれ!」

 

 

<コメント>

 :またしても何も知らない先輩

 :後輩ちゃんが教えないんやろなぁ

 :頭錬金だから、先輩は

 :何で事前告知しないんだ?

 

 

「それを先に言ったら新鮮な反応が拝めなくなるからですねー。私だって皆さんと一緒に拝みたい! その気持ちを大切にしてます。皆さんあっての当チャンネルです!」

 

 

<コメント>

 :※マスコミは除く

 :※ユニコーンは除く

 :※ガチ恋勢は除く

 :スパチャニキにのみ許されるユートピア

 :可愛くてついてるんだ、お得だろ?

 :お得って何?

 :もう俺先輩でも良いや

 :中身おっさんなんだよなぁ

 :だから良いんだろうが!

 :それ! ロリコンでも中身がおっさんなら犯罪にならない!

 :十分犯罪だろ?

 :お巡りさん、この人です!

 :この人お巡りさんです!

 :だめだこの国、終わったぁ

 

 

「それはさておき、本日のレシピを発表していきます!」

 

「と、その前に大事なお知らせがあります」

 

「今言う事?」

 

「実はマスコミに配布した品質Cの中に品質Sが混ざってたってお知らせだったんですが、別に言わなくても良い気がしてきました。狙ってC作るのも大変なんですよね。それに数だけはやたら多いのでこれからは外注しようと思います。以上、後輩からのどうでも良いお知らせでした〜」

 

 

<コメント>

 :まあまあの殺傷力あって草

 :マスコミのみんな、見てる〜?

 :頼む、売ってくれ!!!

 :マスコミなんて欲の塊だろ? 相場の何倍で売るんだ?

 :無料で手に入れられて丸儲けとか許せん!

 :うっかりで俺に送ってくれても良いんですよ!?

 :むしろ自分で使って記事にするだろ

 :それなぁ!

 

 

「で、実際に品質Sはそうだけど君があえて公表するからにはもっと何か裏があるんでしょ?」

 

「失礼な。私だって間違うことくらいありますー」

 

 

<コメント>

 :言 い 方www

 :後輩ちゃん、先輩から信用されてないじゃん

 :過去が背後から突き刺してきましたね

 :先輩にとっての嫌な実績が多すぎるもんな

 :あの純粋な先輩が……いや、仕方ないな

 :まぁ品質Sとは言ったけど、むくみ取りポーションのとは言ってないしな

 :そうじゃん!

 :実は毒消しポーションの品質Sだったとか?

 :だったら面白いな!

 :どっちみち送りつけられた方は自分で飲んでみるまでわからんでしょ?

 

 

「でもちゃんと、若返り効果はありますよ!」

 

 

<コメント>

 :ヨシ、言い値で買おう

 :そう言うので良いんだよ、そう言うので

 :ねぇ、俺頑なにむくみ取りポーションって言わないのちょっとだけ怖い

 :考えすぎだろ?

 :現状で若返り効果を持つのなんてむくみ取りポーションくらいだろ?

 :そうそう

 :むしろむくみだけ取れるポーションでも需要はあると思うぞ?

 :けど出せても数千円だなぁ

 :美肌効果は普通に化粧品買え! で済む話

 :でも後輩ちゃんは美肌って言ってなくね?

 :若返りってどう言う?

 

 

 コメント欄に期待が高まってきている。

 なるほど、うまいやり方だ。

 

 今日のレシピは最後の最後までデメリットを隠していくんだな?

 それで実際に被害に遭ってるマスコミ達も同様に、送りつけられたポーションを誤飲したと言う動線を作ってるのだ。

 

 たった一言差し込むだけで世間の注目はマスコミに向かう。

 

 今まで僕たちに向けられていた好奇心は、マスコミが無料で手に入れられたかもしれないと言う思い込みからくる嫉妬で沸き立つのだ。

 

 こう言う時、登録者数の多さが火を吹くのだ。

 

 

「それでは先輩、今日のレシピを発表しましょうか!」

 

「そうだね、みんな僕のレシピで驚いてくれれば良いな」

 

 

 反応は思った通りのものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、米国はこっちの足元を見るように値踏みしてくる! また日本の宝があの国に奪われたんだぞ! あの邪智暴虐を絶対に許してなるものか!」

 

 

 内閣総理大臣、安倍川望夫(あべかわもちお)は荒れていた。

 

 思い返すだけでも忌々しい。

 鬱憤をぶつけるように蹴り上げたゴミ箱は中に入っていた資料を撒き散らしながら部屋の中を転がった。

 

 それを拾い上げながら大塚は過去は振り返るだけ無駄ですよ、と宥めた。

 

 

「大塚君、もう君だけが頼りなんだ」

 

「あとは俺に任せてください。錬金熟練度180のこの俺に」

 

「君はくれぐれも海外に逃げ込まないでくれよ?」

 

「あんな売国奴と一緒にしないでくださいよ。日本人たるもの、日本に恩返ししてなんぼでしょう?」

 

「その通り! 君は高潔な日本男児そのものだ!」

 

 

 嘘で塗り固めた男は、実績すら虚構で総理大臣に取り入っていた。

 仕事を失い、家族を失い、全てをなくした男、大塚晃。

 

 あとは通勤時代に掠めとった実績をうまく使って立ち回ればうまいこと金を巻き上げることができると確信していた。

 

 

(槍込のレシピは理解不能だが、今はこいつを元手に荒稼ぎ出来る。そう言う時代になってきた。熟練度180? そんな人間この国にはごまんといる。どこかの配信者が熟練度を底上げしてくれるおかげでな! だから実際に俺が作る必要はないんだ。あとは黙ってても金が入ってくる。これが上手い立ち回りってもんだぜ、槍込?)

 

 

 大塚は落ちぶれるところまで落ちていた。

 

 一度楽をした旨みを忘れられず、いかに働かずして稼ぐかを本気で考えている。

 

 だから失職したのだと言う事実を忘れ、もう一つの待ち合わせ場所に肩で風を切りながら向かった。

 

 

「待ってました、大塚先生」

 

「得ダネがあるって聞いたから来たんだぜ? これで肩透かしだったら飯代はそっち持ちな?」

 

 

 ケチ臭いな。

 これが内閣総理大臣お抱えの錬金術の姿か? 

 

 記者の男は大塚を頭からつま先まで流し見て、尊大なのはそれだけ自信がある証拠だと結論づけた。

 

 

「それで、実は私どもに送りつけられた品質Cのむくみ取りポーションの中に品質Sが混ざってる件をお伺いしたくて、今回鑑定をしていただくのはそちらになります」

 

「確か熟練度50の商品だったか? 雑作もない」

 

「さすが先生!」

 

 

 実際は熟練度32しかない大塚だが、会社の金を流用して買った鑑定の魔導具があるのは本当だった。

 

 それで鑑定を試みるも、登録商標のないレシピであることが確認される。

 所詮魔道具。

 

 中身からレシピを抜き出し、それを登録商標の有無を調べるしか機能しない。

 そもそも品質の差異を見比べるものではないのだが、それを馬鹿正直に教えてやるのはそれこそバカのやることだ、と嘲笑う。

 

 

「まず最初に、これはむくみ取りポーションではないな」

 

「品質Cではないと言うことですか?」

 

「ああ、おそらく全く別のものだ。ヒートホークの肝だなんて俺は見たこともないぞ? 出所は知ってるか?」

 

「ヒートホークの肝? もしかして……」

 

 

 軽いカマかけをしたら案の定記者に思い当たる節があった。

 

 例の配信チャンネルの生放送がちょうどそのレシピを使ったポーションを作っていたと言う。

 

 

「ならばその品質Sが届いたと?」

 

「けど美肌効果はないのでお値段は据え置きでしょうね」

 

「アホか貴様」

 

「いくら先生でもお言葉がすぎます」

 

「なら訂正しよう。君は馬鹿か? 美肌効果なんて若返り効果に取って代わられるに決まっている。熟練度80のレシピなのだろう? 価値が下がる訳ないだろう。5000万か6000万。下手をすれば億の金が動くぞ?」

 

「これが、億!?」

 

 

 予想を上回る金額にビビり散らす記者。

 

 だがそれらは机上の空論。実際にその値段がつけられたわけではない。

 取らぬ狸の皮算用で、実際にその額を手にしたつもりになる二人組。

 

 

「そうだな。詳しく解析をするためにもこれは俺が預かろう」

 

「だめです! これは私に送りつけられたものですから! ここの店は私の奢りで結構ですから!」

 

 

 これは実績になる、と記者から奪い取ろうとした大塚。

 

 しかし記者はこれを死守すべく守りを固めた。

 居酒屋での押し問答でそれらは宙に舞い、まるでスローモーションのように床に吸い込まれて──

 

 

 

 カッシャーン!

 

 

 

 瓶は粉々に砕け散った。

 中の薬液も当然床のシミとなる。

 

 加工された木目の美しい床板が、徐々に年輪を縮めていった。

 そこだけ急激に窪んだこともあり、内装工事をする必要が出てきたと店主が頭部を叩いた。

 

 そこから先の二人は目に見えてわかりやすいほどの罵詈雑言のオンパレードで罵り合う。

 

 ついには殴り合いの喧嘩にまで発展し、仲良く店から追い出された。

 

 

(あれは本物だ! 本物の若返り薬だ)

 

 

 思えばこの地位に着くまでに随分と老けてしまった大塚は、そのポーションを知らず知らずのうちに追いかけてしまう。

 

 それにどんなデメリットがついているかも知らずに、内閣総理大臣お抱え錬金術の権力を傘に、大塚は怪しい行動を繰り返す記者を中心に声をかけて回った。

 

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