限界社畜おじさんが、猫耳Vtuberになって世界をかわいく征服する   作:双葉 鳴

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うさ族との取引

 相手の意図はわからないが、それでも僕を思っての労いの品だ。

 造形に目をやればこだわりのルーン文字がそこかしこに刻まれていた。

 

 機能はともかく、その芸術的センスに惚れ込む。

 どうも僕のは悪趣味が過ぎるようだから。

 

「あ、そうだ。念のためこれ渡しとくね」

 

「こちらは?」

 

 それは懐中時計だった。

 首から下げるタイプで、当然中身には時計。

 しかしもう反対側に鏡が設置されており、そこに仕掛けがしてある。

 

「ウッ意識が……これは?」

 

「もうちょっとじっとしてて。ヨシ、意識の取り込みは成功したかな?」

 

「いったい何を。体が全く動かないのじゃが」

 

 僕は理解の及ばないローディック師に種明かしをした。

 

「これは洗脳防止のギミック付き懐中時計でね。開いて鏡を見た分だけ意識と記憶をいつでも取り出すようにしたものだよ。慣れないうちはめまいを覚えるけど、慣れたらこの通りさ」

 

 僕は手元でそれを何度も開閉し、扱ってみせる。

 ローディック師は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。

 

『洗脳対策! しかし今私の体が動かないのは?』

 

「それは僕が体の制御権を支配してるから。今こうしてお話ができているのは、僕とあなたの意識が繋がっているからだよ」

 

 懐中時計のダイアルを回し、信号を合わせることでコンタクトが可能と説明する。

 一見してただの懐中時計なのも含めて偽装だ。

 

『なんと、そこまでご用意が』

 

「用意というか、日常的にメモをかき散らかしてる身としては、どこかに書いて丸めて捨てた理論を取り出しておきたいときってあるじゃない? その記憶のセーブ保管所を何かに記録できないかって開発したのがこれなのさ。人にこうして渡すのは初めてだけど、もし体に何かされた時は活用してみてよ」

 

 体の支配権を返し、懐中時計を開くように意識で指示する。

 すぐに肉体の支配権が戻ってきて、緊張が解けて汗がどっと噴き出ていた。

 今までにない不思議体験をした結果だろう。

 

「いやはや、ここまで知識に差があることに驚きを隠せませんぞ。また腕を上げたのではないですか?」

 

「こんなのは序の口さ。そしてうさ族はこれ以上の技術を見せてくれるんでしょ? 僕は今からワクワクが止まらないんだ」

 

 興奮を隠しきれないように述べる僕に、ローディック師はどこか寂し気な視線を向けてくる。わからなくもないが、こんなところで足踏みしてもらいたくない。

 あなたは僕のライバルなんだ。胸を張って、これ以上のものを作ってもらわなくちゃ。

 

「あいにくと僕の専門は錬金術でね。あなたにはこの発展系の開発に着手していただきたくて託すんだ。僕は自分のためにしか使えないが、あなたならではの発想があるだろう? それを僕に見せてほしい。さっき言った洗脳対策という話、もっと詳しく聞かせてよ」

 

 僕はそんな扱い方思い浮かべもしなかった。

 記憶の保管庫。それくらいの認識を、彼はそう捉えた。

 だからこそ面白い。

 

 そしてもう一つ、切り札を託す。

 話を聞いた彼は真剣にその企画書に目を通し、世の中にはこんな発想をする人物がいるのかと目を丸くする。

 だが、驚いてばかりもいられないとばかりに頭を振り、真剣に打ち込んだ。

 

「軽い雑談のつもりでしたが、まさかこちらが手土産をいただく側になるとは」

 

「本当だったら魔法のコンパクトケースで満足して欲しかったところだけど……」

 

 男で化粧に詳しい奴がその業界の重鎮にいるわけないもんなぁ。

 僕にだって心当たりがある。

 だったら、当人の得意分野で興味を引くであろうアイテムを託した方がまだ進歩がある。

 

 それが記憶保管庫と、もう一つの切り札。肉体バックアップ保管庫だ。

 記憶と違って複製したボディは寿命が短い。

 遊ぶ上ではこれでも良かったが、彼がこれにどんな手を加えるかを僕は今から楽しみにしている。

 

「ちなみに今、僕と後輩はそれを使用してここにきている。死んでもいいように準備はバッチリさ」

 

「ははは、これは一本取られましたな。最初から死ぬつもりなんて全然ないと?」

 

「まだまだやりたい研究はいっぱいあるからね。なんでこんなところで命を落とさなければいけないのさ。と、いうことでそろそろ本拠地に向かおうか。お互いの憂いも晴れたところでね」

 

 軽く種を明かし、防衛対策はバッチリだと明かせば彼の引き止める手は背中を押すのに変わっていた。

 まだ化粧談義に花を咲かせていた後輩とエミリーさんと合流し、大体の話を聞いたからと目的地に向かう。

 

「ローディック、どこまで話を」

 

「全部じゃ。話すも何も先輩は全部知っておったぞ? その上でとんでもない土産を持たせてくれた。私は会合を終わらせたら早速これに着手せねばならん」

 

 どこか落ち込んでいた顔色が、今は喜色満面になっているローディック師。

 対するエミリーさんもそれを聞いて憂いは晴れたかと安堵する。

 と、いうよりもコンパクトケースの供給が止まったら困るのは自分だ、という顔である。

 後輩ったらどんな手管で丸め込んだんだろう。

 

 それはさておき、ダンジョンへは転送陣などは使わずにエレベーターで地下まで降りる方式だった。

 早速現れる幾何学模様の遺跡群に僕は興奮が止まらない。

 

「何これー、見たことない素材! ちょっと解析してからでいい?」

 

『流石に後にしてくれないか?』

 

 僕の投げかけた話題に答えてくれたのは後輩でもましてやエミリーさんでもローディック師でもなかった。

 白衣を身に纏い、そのうえでよれたシャツを着ている顔色の悪い少女。

 頭の上にはふわふわなうさ耳を備え付けていた。

 

「どちら様?」

 

「サルバ様! どうしてこちらへ」

 

『ああ、ミリーか。その後どうなったか確認を兼ねて伺った。客人は来たか?』

 

「それがそちらにいる方が、該当者です」

 

『ふむ、見れば見るほど顔つきは似ているな』

 

 なんの話?

 僕は壁をくり抜く手を止め、サルバと呼ばれた人物に向き直った。

 

「この度はお招きいただきありがとうございます。僕は槍込聖」

 

『槍込、やはり。お前はミザリーの関係者だな。彼女は息災か?』

 

 なんだろう、この流れ。

 知ってて当然だろ、みたいな話し方。

 

「後輩は知ってる? ミザリーさん」

 

「知りませんね」

 

『何? お前は槍込なのだろう?』

 

「ええ、槍込ですが」

 

『ならなぜ知らん!』

 

 憤りが限界を超えたのか、サルバさんはその場で地団駄を踏み始めた。

 かわいい。

 ダウナー系美少女って感じか。

 

 メイクしたら化そうな余地を残すが、僕と同じで研究一筋って感じだ。

 メイクとか今まで考えたことないんだろうな。

 

「はいはい、そんなに癇癪起こしてたらお肌に悪いですよー」

 

『こら、何をする!』

 

 後輩は魔法のコンパクトケースを巧みに操り、顔色の悪いうさ耳少女の顔を血色の良いカラーで塗りたくった。

 髪をまとめ、ルージュを塗って完成する。

 そこには生まれ変わった姿に困惑する少女が手鏡を前にうっとりしていた。

 

 うーん、なんだこの茶番。

 元々顔の造形は良かったのだろう。

 だからここから更に手を加えようとする気持ちが一ミリもわかなかった?

 

 生まれながらにして持ち合わせてる美貌を磨くこともせず、なんだったら磨かなくてもいいという考えから長年ケアを放棄してきた結果が今の姿らしい。

 後輩はそれが見ていられず、ついつい世話を焼いてしまった。

 ブラシで髪まで漉いて、やり切った顔で額の汗を手の甲で拭っていた。

 

「かんせーい」

 

「わーサルバ様、垢抜けましたねぇ!」

 

『なんだこれは、私は今何をされた?』

 

 攻撃らしい攻撃ではない。

 どころか滅入っていた気持ちが右肩上がりに回復していっている感覚さえある。

 これがメイクの効果なのか?

 さっぱりわからないが、肌の調子が良いとこんなにも景色が違って見えるのかと感動している。

 僕には沸かない感情だ。

 

 そこへ、サルバさんとは異なる研究員が集まってきた。

 皆が皆、生まれ変わったサルバさんへ羨望の眼差しを送っている。

 まさかそんなことが起こるなんてね。

 

 もしや後輩はこれを予見していた?

 振り向けば、飴ちゃんを持ち出してきた。

 

 違う、そうじゃない。

 まぁ舐めるんだけどね。

 カロカロと口の中で転がして味を堪能する。

 おいちい。

 

『なんですかこれは、あのボロボロな肌が!』

 

『まさかこれが延寿の秘薬?』

 

『所長、ついに完成したのですね!』

 

『あの女に共同研究者を奪われたときはどうなることかと思いましたが、完成おめでとうございます!』

 

 何やら集まってきてワイワイ言ってるね。

 延寿の秘薬って何?

 うさ族はみんな10代に見えるくらいに若いというのに、何か問題が見つかったのだろうか?

 なんもわからん。

 僕らは完璧に話題に置いていかれていた。

 

「皆さんメイクを待ち望んでいたんでしょうね! 興味津々みたいですよ!」

 

 「さすが先輩です」と後輩は持ち上げてくれるが、絶対に違うと思う。

 とりあえず一番情報に詳しそうなエミリーさんに尋ねる。

 

「で、これは何?」

 

「実は我々、寿命が年々短くなっていく恐怖に争うべく一つの研究をしてたんですよね」

 

「それが延寿の秘薬?」

 

「はい。そこで地上から有能な科学者を引き入れてはそちらの研究をしているところに、件のミザリー氏がやってきて」

 

「その人を横から奪い去った?」

 

「はい」

 

 それ以来研究は頓挫。

 肌の衰える恐怖に研究も手がつかず、しまいには鏡を見るのも怖くなって今の今まで手入れすら忘れてこの始末。

 長年のサボりが肌年齢を加速化させたんじゃないの?

 知らんけど。

 

 そんなわけでその拐かした犯人を見つけ出してボコボコにし、共同開発者を取り戻すのに躍起になっていたとか。

 相当恨まれてるじゃん、その人。

 それはそれとして、

 

「で、なんで僕が疑われてたの?」

 

「攫われた研究員が槍込真栗という人で、攫った本人がミザリーというにゃん族という話です。要はその苗字を名乗るにゃん族が現れたということで今回先輩に白羽の矢が刺さったのかと」

 

「完全に人違いで草」

 

 今回は後輩の希望でNYAOのコスプレをしている。

 この耳だって薬の効果に過ぎない。

 まぁそのリアルな耳のおかげで疑われたんだろうが。

 

「それでも上は可能性を潰しきれないから、一応確認をしたいということですね」

 

 結果、違った。

 けれど目的は達成され、万々歳といったところだ。

 寿命はなんら伸びてないけど、肌さえ回復すればいいのか。

 訳のわからん種族だな、うさ族。

 しかし、ここにきてエミリーさんのメイク狂いの理由が明かされたな。

 後輩のは知らん。

 

「じゃ、僕への要件はこれでおしまい?」

 

 さっきの壁に戻って採掘していいかの確認を入れる。

 

『客人よ、先ほどの非礼を詫びよう。改めて礼をさせてくれないか?』

 

 踵を返そうとしたところで、結構強めに肩を掴まれた。

 ちょっと、痛いんですけど。

 僕は言っておくが非力なんだぞ、このやろー。

 

「えー、そっちの要件は終わったんでしょ? 僕は珍しい鉱石の採掘に今忙しくて」

 

『なんだ、そんなものでよければいくらでもくれてやるぞ。お前は我々うさ族の恩人だからな』

 

「え、タダでくれるの?」

 

 なら詳しく話を聞こうか。

 乗り気になる僕に、やはり血は争えないという顔をするサルバさん。

 だからその人と僕は血の繋がりはないんだってば。

 ことあるごとに僕の顔を覗き込んでは、記憶にない思い出を語る彼女に、僕はうんざりしながら我慢した。

 

 最後にたまに顔を見せにきてくれたら素材は渡すと約束を交わし、商談は成立。

 ついでにそのミザリーという相手を見つけ次第連絡をよこしてほしいという。

 

 なんだかんだで恨みは募ってるし、一発殴らなければ気が済まないようだ。

 そういうのは僕に関係のないところでやってよねって思った。

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