テウルギア   作:水無月むに

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 暇なので書いたやつ。
 とりあえず一章分は書き終えたので投稿。
 たぶん面白いよ。
 とりあえず明日の六時と十二時に投稿します。


「君に光あれ」と天使は笑う

 

 それは魂に刻まれた一枚の絵画。

 滲む視界。小石が肌に食い込む痛み。焼けるような光が天上から降り注いでいる。

 擦り切れても褪せない記憶。砂塵吹き込む洞窟での出来事。

 

「──君が、私の適合者か?」

 

 銀髪の少女が問う。

 問いかける少女に少年は答えない、応えられない。

 彼を打ちのめす衝撃。

 時が止まったようだった。

 胸の奥で暴れるナニカ。少年はそれを表現する言葉を持たない。

 ただ、綺麗だと思った。

 確かなのは彼女が美しいということだけ。

 

「まあ、わかりきったことを訊いたな」

 

 すまない、とぼやく少女。

 両手を広げ、語る。

 

 ──君に力をやろう。

 ──君に栄光をやろう。

 ──君に財宝をやろう。

 

「私に君は何を望む?」

 

 少年は今度ばかりは答えられそうだった。

 

「…………なあ、つかぬことを訊くけど」

 

 望みなんて決まっている。ありふれていて、皆が欲しがるもの。

 

「オレは誰なんだ?」

「……なぬ?」

 

 彼には自分自身(アイデンティティ)が無かった。

 

 

「ううむ、君の体は酷いな。見回す限り、欠損・欠陥だらけだ」

 

 少女は、少年の周りをぐるりと回る。

 痩身の少年だ。白い貫頭衣を着ていて、裸足だった。

 何より目を引くのは右腕だろう。その右腕は肩から失われている。それに左の視界は無く、呼吸は浅い。内臓が無いのか、歪な痩せ方をしている。また肌に大小含め、216箇所の傷跡があった。

 もはや死人同然。生きていることが奇跡、異常とも言える状態。脳に関しても何らかの支障をきたしていると少女は判断した。記憶喪失もその影響だろうとも。

 

「それに、これは……」

 

 少女は眉を顰め、ふと緩めた。

 

「君に提案をしよう、少年。私が君の欠損を癒してやる。代わりに君が私の宿主となれ」

 

 ──はて、宿主とは?

 名も無き少年には少女が寄生虫の類には見えない。何らかの比喩であろうことは理解したが、やはり話が見えない。

 

 まぬけ面を晒す少年に、ああ、と声を漏らす。

 

「私が人間でないのは理解しているな?」

 

 その言葉に彼は頷く。

 少女は太陽を浴びているというのに、影が無い。それに足音や匂いすら無いのだ。少年の知識に該当するのは人間ではなく、幽霊だった。

 

「きみは幽霊なのか?」

「ふうむ、半分当たりだ。私は実体を持たない精神体だからね。幽霊と言っても相違無いだろうよ」

「半分?」

「ああ、半分だよ。私の本体はあっちだからな」

 

 少女が指差すのは、台座に安置された翠緑の宝石。

 不思議な、蠱惑的な光を照り返し、今まで認識できていなかったことが疑問であるくらい少年には美しく映った。

 

「私は分割された神の遺体が一つ、仮名(かりな)を《虹霓の冠(レインクラウン)》。光を統べる神骸装(テウルギア)だ」

 

 君は神の依代になるのだと少女は言う。

 

「さあ、選ぶといい、名も無き少年よ。ここで死に絶えるか、あるいは地獄を見るか。

 ──(かみ)はどちらでも構わない」

 

 少女は手を差し伸べる。

 まるで天使か、悪魔のようだった。

 この契約はあまりに甘美で、あまりに醜悪だ。

 彼女の手を取れば、後戻りはできないと直勘した。きっと後悔すると自分の何かが囁いている。

 でも、体は自然と動いていた。こちらを見つめる彼女(あくま)の手を取る。感触は無かったが、確かに触れている。

 

「──よろしい」

 

 ふわりと少女は笑う。

 

「ここに契約は成立した。我が名はタルトゥ。神骸装(テウルギア)に宿りし天使が一。君に光をもたらそう」

 

 その笑みは慈愛に満ちていて、悪意に満ちていて、タルトゥと名乗る天使はきっと悪魔だった。

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