君の弾き語りが聴きたい   作:待ってください

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分割した二話目です。承認欲求モンスターが楽しかった(小並)

これまで自分視点の回が半分もない主人公がいるらしい。


『ある日の結束バンド~その2~』

 しばらく休んで、リョウの体調が落ち着いた頃。

 

 ぼっちちゃんが良さそうな場所を見つけたというので付いて歩くと、コンクリートに花のストリートアートが描かれた壁があった。

 

 確かに、うん。上手く言えないけど「なんかよさげ」感がある。

 

「悪くない。それ以上にもう歩きたくない」

「あ、あはは……。でも私もシモキタっぽくていいと思います!」

「決まりだね、じゃあ準備して撮影始めよう」

 

 身も蓋もないリョウのコメントはともかく、喜多ちゃんもここは気に入ったようだ。ぼっちちゃんのお手柄だね。

 

「水木君もご苦労様、からかっちゃってごめんね」

「いいえ。しかし、これだけ連れ回したからには報酬は期待させて頂きますよ」

「はいはい、任せといて」

 

 意趣返しはさておき、彼も頑張ってくれたからね。おかずはちょーっと豪勢にしちゃおうかな。

 

 

 

 ということで、必然的にカメラマン役は水木君が務めることになるんだけど。普段スマホを持たない彼は、慣れない操作に手を焼いている。

 

「いつも思うけど、スマホがなくて不便じゃないの?」

「むしろ私達のほうが不便なんですよねえ。こっちから連絡しにくいから……」

「貴女方以外に連絡を取る相手もいませんし、僕には無用の長物です」

 

 練習スケジュールの調整が面倒なのよ、という苦笑まじりの文句も彼にはあまり響かない様子。

 あと同類を見つけて密かに目を輝かせるぼっちちゃんも、それはそれでどうなの。

 

「イソスタ……は想像できないとしても、音楽を聴くぐらいしなかったの?」

 

「合間時間に課題曲を聴く程度しか許されませんでした。それに母はGPSで位置情報などを逐一追跡して来そうな人でしたので」

「ええ……」

 

 なら初めから無いほうがマシです、と瞳を濁らせながら吐き捨てた水木君の闇。あたしもなんで彼が一人暮らしを始めたのか、なんとなく分かっちゃったよ……。

 

 き、気を取り直して、各々の楽器を構えて一枚パシャリ。

 撮れた写真を覗き込むも、うーん。いや、バンドっぽさは出てるとはいえ……。楽器がある以上、バンドでしかないんだけど。

 

「分かりやすいと言えば分かりやすいですが、記号的過ぎて少々陳腐にも見えますね」

「あー……」

 

 言われてみればバンドマンが楽器を構えるなんて当たり前で、斬新さに欠ける。あたし達ならではの特徴というか、目を引くような写真になってないんだ。

 水木君には悪いけど、楽器を持って来たのがかえって仇になっちゃったのかな。

 

「お困りのようだな。なら、「バンドマンのお手本たる存在」こと私の表情を真似してみて」

「その自信はどっから出て来るんだ」

 

 写真を前に困ってしまったあたし達に、傍観していたリョウが割り込んでくる。キン○マンの決め台詞じゃないんだから。

 

「でも、リョウ先輩の言う通りにすれば間違いなんてないわよね! ね、後藤さん?」

「は、はい」

「僕が重荷のまま連れ回される羽目になったのは、どなたの思い付きのせいでしょうか」

「先輩の言う通りで間違いなかったじゃない」

 

 その謎のドヤ顔も喜多ちゃんには効果抜群だったらしい。ぼっちちゃんを従えた彼女は、水木君の呆れと怨恨が籠った指摘にも満面の笑みを返していた。

 

 まあ、元々喜多ちゃんはリョウの追っかけだったみたいだしね。減るもんでもなし、一回やってみるか。

 

「……なんかお通夜みたい」

「駄目だ。これじゃ私じゃなくて水木じゃないか」

 

 その結果がこの、ガールズバンドとは思えない重く澱んだ雰囲気の写真である。流石にアレだと思ったのか、リョウは水木君に責任をなすり付けようとしている。どっちでも同じだわ。

 それを不服として仏頂面でメンチを切り合うダウナー系美男美女。コイツらは放っておくとして、ぼっちちゃんはふと何かに気付いたらしい。

 

「あれ、でもどこかで見たような……」

 

「先週末の喜多さんか。初心者に6時間突貫の規律・訓練(ディシプリン)を強いるのは無茶でしたよね」

「鬼! 悪魔! 後藤ひとり!」

「ええっ!?」

 

 6時間突貫っておいコラ。無意識に身体が動くようになるまでぶっ続けで練習させられていたら、そりゃあんな目にもなる。

 

「い、いつも通りの練習だったと思うんですけど……」

「ご自身の水準を、他人に無暗に当て嵌めないほうがいいですよ」

「お前が言うな」

 

 喜多ちゃんからの思わぬ非難に愕然とするぼっちちゃん。でも他人を型に嵌めようとする奴が言えたことか。あとそもそも、練習の話はナシって言ったでしょ!

 

 ……というか「いつも通りの練習」って、ぼっちちゃんも素でそういうノリかよ。自分を棚に上げて引いている水木君も大概だけど、二人の相乗効果で練習が更に苛烈になっているらしい。

 

「うわーん伊地知先輩! 指南役が海兵隊とジャック・ハ○マーなんです!」

「あーよしよし、そのうち良いこともあるよ」

 

 目を写真よりも更に更に深く濁らせ、あたしに泣き付いた喜多ちゃん。海兵隊はともかく、流石に一日三十時間の鍛錬は要求されない……と思いたい。

 知らぬ間に修羅の巷に踏み込んでしまった喜多ちゃんを慰めつつ、いくつか撮った写真を覗く。

 

 さっき撮ったのは論外として、あれ以外は喜多ちゃん、すっごい可愛く撮れてるよねえ。

 

「そうですか? でも、イソスタに写真上げてるから、その分写真慣れはしてるかも。ほら」

「ヴっ」

 

 あらら、今度はぼっちちゃんが倒れてしまった。どうやら「イソスタ」、女子高生らしいキラキラした趣味が「青春コンプレックス」なる彼女の弱点に引っかかってしまったらしい。

 ぼっちちゃんは手を独特な形に曲げ、全身を極度に逸らしたままビクンビクンと痙攣している。

 

「ぼっちちゃん顔ヤバいって。女の子が外でしていい顔じゃないから」

「除脳硬直。実物は初めて見た」

「なんでみんなそんなに冷静なんですか!?」

 

 付き合いが短いせいか、明らかな異常肢位を取るナマモノに動揺する喜多ちゃん。当然の反応ではあるんだけど、この子の場合毎度の事だしなあ。

 必死の介抱も虚しく、ぼっちちゃんのエクトプラズムは空の彼方に飛んでいく。彼女はブツブツと過去の悲しい回想を呟きながら、UMAへの連想ゲームを始めた。

 

「私は下北沢のツチノコ……」

「後藤ひとり改め、ツチノコぼっちか。おお、可哀想に……」

「可哀想は可愛い」

 

「水木君がまたキマッたみたいな顔してる! 怖い! 後藤さん戻って来て!」

 

 ツチノコぼっちへ変態を遂げた少女の痴態を、気色悪いくらい興味津々に観察する変態。口先だけは白々しく哀れみの言葉を掛けているけど、場違いに爛々とした瞳は隠せていない。「らんらん」ってそういう擬音じゃないから。

 先程以上の異様な事態に喜多ちゃんはドン引きしているし、何ならツチノコぼっちも引いている。弾き語りといい、彼は女の子が不憫な目に遭っているのを見て喜ぶ性癖でもあるんだろうか。最低だよ。

 

「いっそ、ぼっちちゃんもイソスタやってみたら?」

「そ、そうですね! バンド活動するなら個人のアカウントもあったほうがいいと思うし。ツチノコ、ノコノコ〜ってのも一周回って可愛いかも!」

「それはそれでいいんか喜多ちゃん」

 

「ハッ!?」

 

 その途端、ツチノコぼっちの体がバグったポリゴンのごとく激しく点滅! 人のモノとは思えない声を上げながら、更に変形し始めた!?

 

(私がアカウントなんて持ったら……)

 

(根暗の癖にバンドで人気者になろうとしてる拗らせ人間なのに、SNSなんて始めてしまったら……!)

 

 

 下北沢のツチノコの前に突如として舞い降りた、情報化社会の叡智。けれど。

 

 ──人類の果てしない欲望。

 ──氾濫する偽情報、過熱する狂躁。

 ──青い鳥を奪い去った投資家の横暴。

 

 他者より強く、他者より先へ、他者より上へ!

 

 暴走する対戦型(PvP)コミュニケーションが、ひとりぼっちの陰キャ少女を怪物に変えた!

 

 

 生まれてしまう! 承認欲求モンスター!!

 

 

「いいねくれー!」

 

「いいねくれー!」

 

 人類の業と煩悩、そして愚かさが生み出した、本来誰の心にも巣食う名前のない怪物。 彼女は承認欲求に駆られるがまま下北沢の街を踏み砕き、目に見える景色全てを自己顕示欲の炎で焼き尽くす。

 

 跡形も無くなった街にかかる夕陽。残照に照らされ、怪物は一人膝を抱える。膨れ上がった承認欲求は彼女のすべてを破壊して、怪物の周りにはもう誰もいなくなってしまった。

 

 彼女は今、何を思うのだろうか……。

 

「私には動画サイトだけあればいい……」

 

 ──情報化社会の負の側面。誰もが気軽に情報発信できるようになった反面、自らの欲望を正しく理解し、適切に統治しなければ、自己顕示欲の炎は現実にすべてを焼き尽くしてしまうのだ。

 

 承認欲求モンスターは、貴方の心にも潜んでいる。

 

 

 ……なにコレ?

 

「特殊撮影作品はあまり見たことがないんですよね。まあしかし、現代にあふれる炎上騒動への風刺としては、なかなかよくできているのではないでしょうか」

 

「表現に作者の私怨が混じっている気もしますが」

「メタ発言やめろ。お前スマホ持ってねーだろ」

「言っとる場合か! ぼっちちゃーん!」

「後藤さーん! SNSはもういいから戻ってきてー!」

「……はっ!?」

 

 ぼっちちゃんの謎の妄想を、映画鑑賞感覚でほくほく楽しむクソ野郎。コイツのことは置いといて、承認欲求モンスターことぼっちちゃんはひとしきり暴れて満足したのだろう。ようやっと周囲の風景が元に戻った。

 

 ……いやマジで何だったのコレ?

 

 

 

 そんな感じで散々に迷走したアー写撮影。

 

 「ジャンプしてみたらどうか」という喜多ちゃんの提案をダメ元でやってみた所、スマホを構えた水木君はなぜか数秒の間硬直。

 

 目を閉じて溜め息を吐きつつ、こちらにスマホを差し出して来た。

 

「……伊地知先輩」

「ん? あっ、ジャンプしたからブレちゃった?」

「いや、そうではないのですが。写真の消去をお願いできませんか?」

「ハイハイ、貸して」

 

 写真の消去もできないのね……。機械オンチってのは水木君の意外な弱点なんだけど、経緯が経緯だけに下手に弄ると何が出てくるやら。

 

 別に後から消せばいいんだけどなあ、なんて思いながら画面を覗くと、あれ? 別に悪くないじゃん。

 

 ジャンプによる勢いと躍動感が加わり、ふわりと浮いた楽器や衣服が視覚効果のエッセンスとして中々いい味を出している。特にぼっちちゃんの鼠蹊部から覗く、意外にも可愛らしい白い肌着が……。

 

 

「ってコラーッ!? 何撮ってんの!」

「だから消去を頼んでいるのではないですか」

 

 ふわり、どころか捲れ上がったぼっちちゃんのスカート。結果、彼女の下着は丸見えになってしまっていた。

 思わず非難の目を向けると、水木君は面倒くさいと言わんばかりにそっぽを向いた。いやまあ、不可抗力ってそりゃそうだけど。

 

「ぼっちのパンツ見れて嬉しいんだろ。このムッツリスケベが」

「はい。それが何か?」

おい

「本能的な欲望を否定しても仕方がないでしょう。それを認めて、適切に制御してこそ理性的な人間というものです」

 

 あたしの手元を覗き込んで事情を察したらしいリョウ。案の定お決まりのネタで水木君を弄ろうとするも、彼は彼で謎の屁理屈で居直っていた。

 何でそんな無駄にエラそうなんだ、パンツ見たいだけだろうが。

 

 いっそ清々しいまでに太々しい水木君とは逆に、ぼっちちゃんはしゅんと面目なさそうに身を竦ませる。

 

「あっ、その、む、無価値なものを写してしまい申し訳ありませんでした……」

「いいえ。地味なジャージ姿から垣間見える、その可愛らしいショーツの意外性が素晴らしい。眼福でした」

「ひぇっ」

 

 

 おいコラァ!

 

 

「痛ッ、痛い痛いッ。伊地知先輩、僕は無価値ではないと伝えたかっただけで」

「じゃあそう言え! このセクハラクソ野郎!」

「オープンにすればいいってもんじゃねーぞ」

 

 ぼっちちゃん直伝アームロックに身をよじり、わざとらしく悶絶する水木。そのクソ野郎の頭めがけて、リョウもバシバシ手刀を落とした。

 

 どこが理性的な人間じゃ! 全然制御できとらんじゃないか!

 

 

 

 ハプニングと、あと有言不実行の不届者は居たものの、方向性は悪くないはずだ。スカートに気を付けつつ、もう一回。今度は水木君も軽く頷いている。

 

「おおっ、バンド感に青春っぽさがプラスされたね!」

「写真のデータ貰ってもいいですか?!」

「やはりきららジャンプするアニメは神アニメ」

「それは全然意味分からんけど」

 

 彼が差し出したスマホを見れば、うんうん。さっきのような視覚効果はもちろん、ジャンプしたことでみんなの動きに統一感が出たと思う。跳ね方にそれぞれのらしさも表現できているしね。喜多ちゃんお手柄!

 

 みんなも今回は気に入ったようで、写真を覗き込んで目を輝かせている。これで人気バンドへの夢にまた一歩近付いたよ!

 

 夏までに曲作って(未定)ライブ!(未定)デモCD配布!(未定)今冬ファーストミニアルバムリリース(未定)! 下北沢発祥、エモエモなエモロックバンドになる予定なのだ!

 

「確定情報が何一つないですね?!」

「ガバロックバンドはさておき、曲作りですか。その辺り、担当は決まっているのですか?」

「曲は私。作詞はぼっち」

 

 喜多ちゃんはともかく誰がガバロックバンドじゃ。

 あたしの夢想を無情に切り捨てた一方、作詞担当に目を爛々と輝かせる水木君。だから「らんらん」ってそういう擬音じゃないから。

 

「後藤さんが作詞ですか。それは楽しみだ」

「い、言っておきますけど、あの弾き語りみたいなひどい詩、書きませんからね」

「楽しみにしていますね」

「前もこんなやりとりしましたよね?! 話を聞いてください!」

 

 彼独特の執着に浸るように目を細める唐変木。じっとり半目を向けたぼっちちゃんにも暖簾に腕押し、彼女は顔を真っ赤にした。まーた意地悪するんだから……。

 

 呆れたヤツではあるものの、彼をぽかぽか叩いてじゃれているぼっちちゃんも何だかんだ楽しそうだ。彼女も大分あたし達に馴染んだけど、最初の友達は水木君だしね。

 彼が執着するのと同じように、ぼっちちゃんのほうも水木君に何か思い入れがあるんだろう。

 

 ……彼のあのエキセントリックな振る舞いのせいで、距離感バグってるだけな気もするけど。

 

 

 何にせよその様子を微笑ましく眺めていると、喜多ちゃんがいいことを思い付いたと手を挙げた。

 

「折角だし、水木君も一緒の写真も撮りませんか?」

「賛成! 水木君もあたし達結束バンドの仲間だしね!」

「は、はいっ。私も……」

 

「僕はバンドに加入した覚えはありませんが」

「コラそこ、水臭いこと言わない」

 

 みんなが乗り気な中、なぜか水を差すクソ野郎へ白い目が集まる。写った写真を見れば、みんなも同じ気持ちだったようだ。

 

 窮屈そうに身を屈め、顔を顰めた水木君。

 彼がどこかに行かないよう、フンスと腕にしがみついたぼっちちゃん。

 後ろで彼の肩に手を置く、というかやっぱり逃げないように押さえ付け、喜多ちゃんは物理的に輝く笑顔でピースサイン。

 そんなわちゃわちゃした後輩三人の隣。一人ドヤ顔でベースを構えて見守るリョウ。

 

 今更何を言って混ぜっ返そうが、君はバンドメンバーの前に友達で、仲間なんだからさ。

 

「信用まるでなくてウケる」

「仲間に対してなんて言い草だ。それはそれとして、伊地知先輩は可愛い(顔映ゆし)ですね」

言い草はお互い様じゃ

 

 そしてあたしはリョウの反対側で、結局ドラムスティックだけを両手に侘しく佇んでいたのだった。

 

 チクショウ。

 

 

 

 

 ドラムセットをSTARRYに返してからの帰り道。情報端末がないから、とプリントしてもらった先ほどの写真を手に取る。

 

「やれやれ。伊地知先輩はいいとして、これまた酷い写真だな」

 

 その写り具合に苦笑は禁じ得ない。

 あの修学旅行を病欠したようなアーティスト写真──実際には喜多さんは無断欠席だったのだが、ともかくそれを笑えない程度には締まらない集合写真。

 

 確かに気乗りはしなかったものの、逃げること前提の信用の無さはまったく心外である。それ以前にもう少しこう、なんとかならなかったのか。

 リテイクを言い出す気にもならなかったが、伊地知先輩以外の彼女達には殊の外好評だったのも少々気に入らない。

 ドラムセットの件といい、好き放題振り回してくれたものだ。

 

 とはいえ、今回の僕はあくまで()()()。喜多さんも訓練の気晴らしにはなったようだし、いつもより少しだけ明るくも見える後藤さんのはにかみ。

 

 もしも、僕にしがみつくことでそうなれたのなら。

 

「まあ、……それでいいか」

 

 

 しかし、誰かと写真を撮るなど何時ぶりだろうか。──口振りとは裏腹に、僕も舞い上がってしまっていたのかもしれない。

 

 少し記憶を巡らせて……ああ、巡らせてしまった。そしてやはり、あの人に行き着いてしまった。

 

 

 あの人と撮った記念写真。

 

 一応は金賞を取ったというのに、贈られたのは彼女からのたった一束の花束だけ。僕の人望の無さが知れるというものだが、その一束をどうにも持て余してしまい、羞恥と動揺を隠し切れない僕の姿。

 

 その隣の彼女は彼女で、似合わない礼服などを着て来るから、いかんせん服に着られている感は否めなかった。

 コンクールに観客側のドレスコードなどないというのに、無用な見栄を張るからああなる。普段は少女趣味の奇矯な格好をしていた癖に……。

 

 お互いまったくサマにならない、可笑しく、いとおしく、そして痛みを伴う追憶。

 

 

 何度も捨てようと思って、破ろうとさえして……結局、捨てることはできなかった。形になった数少ない思い出。それさえなくしてしまうのが怖かった。僕が壊してしまった癖に。

 

 左手の傷跡が軋む。

 ぎちり、ぎちり。機械仕掛けの嘲笑い。

 

 

 今回といい、僕はどうにも写真写りが悪いらしい。

 

 つまらない感傷を、くだらない失笑で押し流した。




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