聖剣機兵カリナ ―魔王を倒した少女勇者は、AI戦争の未来世界でも人類を救う― 作:美風慶伍
天蓋ベッドの少女勇者 ―少女は魔王討伐の瞬間を夢に見る―
そこは天蓋付きのベッドの中だった。
1人の少女がまどろみの中で夢を見ている。
髪は美しい金髪、流れるような腰の長さまでの長髪が、朝の光を浴びて輝いている。
そのブルーアイの美しい瞳は、彼女がまだ寝ている故に開かれてはいない。
上質なシルクのネグリジェをまとって健やかに寝息を立てていた。
彼女は夢を見ていた。
栄光の夢を。
長年の悲願が形になる瞬間を。
彼女――、少女であり勇者である彼女は、魔王討伐の瞬間を、栄光のその一瞬を、思い出すように夢を見ていたのだ。
§
そこは戦いの最後の場所だった。
魔王ヴァルガリアスの居城であるダークフォージ城の謁見の間であった。
そこはまさに魔の支配者の空間、その一番奥に玉座が据えられ座していたのはまさに魔王ヴァルガリアスその人だ。
漆黒で肌、どす暗いオーラ、黄金色のフルプレートアーマーを身につけ、ネジ曲がった右の角、褐色の髪が乱雑に伸びている。眼光鋭く赤い光を放っていた。
剣は下げておらず、その持てる魔力そのものが彼の武器だ。その鋭く伸びた両手の爪からは有り余る魔力が火花を散らすようにほとばしっていた。
それと対峙するように佇むのは、魔法剣士装束の少女剣士――
騎士風のサーコートにホーズズボン、胸に金モールの装飾のついた
その、少女剣士の――カリナはそこで激戦の末に魔王と対峙し、最後の戦いの最中にあった。
魔王城の謁見の間、そこにそびえる魔王の巨躯を前にして、カリナは心のうちに畏れを抱かずにはいれられない。
――これが、魔王――
魔王もまた勇者を名のる少女を前にして全力を尽くしていた。
「そろそろ終わりにしてやろう、勇者カリナ」
そうつぶやきながら両手を握りしめる。絶大な魔力が両拳から溢れて火花を散らす。
――バチィッ!――
その火花にカリナは思わず歩みを止める。腹の底に恐怖が湧いてくる。
だが、歩みは止めなかった。なぜなら、すぐ近くに仲間が居る。背後に、軍団の部下たちが居る。数多くの戦友たちが居る。
――そうだ、私は一人じゃない――
そう思い至った時、震えが止まった。
「魔族ごときにやられはしない!」
恐怖を追い払うようにカリナは叫び、魔王は不快そうに口元を歪める。
「永劫に渡るこの戦い! 今こそ決着をつける! エリュシオ! 英霊召喚!」
『心得ました、マスター』
カリナの呼びかけに聖剣は答えた。
聖剣レギオンブレイドの中に宿る偉大なる精霊〝エリュシオ〟だ。
勇者を支える者として、少女カリナのそばに常に寄り添っていた。
『英霊召喚に備え、ソウルサモンズゲートを開放いたします』
「ありがとう、エリュシオ!」
聖剣に組み込まれた人工精霊エリュシオが聖剣に秘められた機能を開放する。そしてカリナは魔法呪文を詠唱した。
「〝
詠唱とともにレギオンブレイドは光り輝いた。そして、まるで天界の門が開いたかのようにカリナの背後に数多の過去の勇者たち、その仲間たちが魂となりて現れたのだ。その数、総数200柱。かつてない規模の大規模召喚だった。
魔王は、200柱の英霊たちの持つ魂の輝きの前に身動き一つできなくなっていた。
今の状況を見て巨大なバトルアックスを抱えた髭面の老齢の勇者が語る。
『どこに招かれるかと思えば、よもやここは魔王城!』
まだ少年といって差し支えないあどけない容姿の若い勇者が語る。
『と、言う事はここは最終決戦の地!』
腰にバスタードソードを帯びた、いかにも剣士風の麗女が語った。
『現世の勇者殿がついにたどり着いたということか』
全身総鎧の騎士勇者が語る。
『なればここは現世魔王ヴァルガリアスの居城! 最後の覇王の軍勢が終焉の時を迎えるということだな?』
その彼らに若き魔道士風の勇者は告げた。
『いかにも! 現世勇者カリナ・ウイングス卿がついになし得たのです! 魔族と人間の長きにわたる戦いもついに終局!』
黒き衣装の剣士勇者も告げる。
『勇者諸衆! 各々方も戦列に加わられよ!』
その言葉に英霊たちは自ら武器を構えた。英霊たちの列の中央に立ついにしえの魔導士風の姿の麗しき老女の勇者がカリナに語りかけた。
『勇者カリナよ! 今こそ人間と魔族の決着の時! 我ら歴代の英霊、総力を上げて汝に力を貸そう』
「恐悦至極! 英霊諸衆! 戦列構築を! 絶対防御陣展開!」
『おう!!!!』
カリナの掛け声とともにレギオンブレイドは輝き英霊たちは叫びを上げ隊列を組む。その光景に驚愕したのは魔王だった。
「馬鹿な? 歴戦の勇者たちのすべての魂だと?!」
「そうよ! それが我らがレギオンブレイドの力です! あなたたちが100年足らずと侮蔑する人間の魂が生きてきたその証をこの聖剣は記録し続けるのです! そして時を超えて平和をもたらすために力を与えてくれるのよ!」
魔王を睨みつけながら、カリナは汗ばむ手で聖剣を必死に握り直す。聖剣に宿るエリュシオに向けて彼女は叫んだ。
「エリュシオ! 攻撃発動!」
『了解、アサルトエフェクト発動します』
「行きます! 抗魔斬撃! 無限刃列発動!」
レギオンブレイドのさらなる輝きのもとに歴代の偉大なる勇者たちが一斉に剣を抜いた。そしてその剣の力はレギオンブレイドに一つに重なる。
長年の間、共に戦場を駆け抜けた重装騎士にして戦士長のエルリックが叫んだ。
「カリナ今だ!」
カリナが率いる軍団アルカナヴァンガードの魔法の最大の要にして、偉大な魔法使いであるソフィアも告げる。
「ヴァルガリアスの魔力が再活性化する前にとどめを!」
全てを見抜く戦場の目であり、弓や銃を持つ兵たちを率いる斥候兵長のミリアも叫ぶ。
「全ての命に自由を!」
「いざ尋常に! 勝負!」
その言葉を得てカリナは、足元を踏みしめると、ひときわ高く舞い上がった。その姿に魔王は驚愕の表情で防御魔力障壁を展開した。
「おおおおおおぉ?! おのれぇ!!」
だが、カリナのレギオンブレイドはそれを易々と突き破る。
「魔王ヴァルガリアス! 覚悟!」
「人間ごときがぁああ!」
それが魔王の最後の叫びだった。無限に近い聖なる力を宿したレギオンブレイドは魔王の体を真っ二つに切り裂いた。そしてそれはあまりにあっけない魔王の最後だった。
――ザンッ!!――
確かな手応えが返ってくる。そして、左右に切り裂かれた魔王の体はそれきり動くことは無かった。レギオンブレイドを一振りし血糊を振り払うと鞘に納め背後を振り返った。
「偉大なる先輩たる皆さん」
そこにカリナを見守るように立っていた幻影はこの長い戦いの途上にて倒れた歴代の勇者であり戦士たちだった。一人一人が感慨深い表情を浮かべている。
「ついに悲願は果たされました。今日まで助力いただいた皆さんのおかげです。心より感謝致します」
それらの英霊たちを代表するように、カリナに向けて、黒き衣装の剣士勇者がねぎらいの言葉をかけてきた。
『君もよくやった! 単に魔王を倒したというのではなく、人間と魔族の数千年にわたる対立の時を終結に導いたのだから』
若き、青年魔道士の勇者は告げた。
『願わくば、この時が永遠に続くように!』
カリナは答える。
「誓います、平和な時を1分1秒でも長く守り続けることを」
そして、十字架を掲げるように聖剣の柄を上にして掲げる。
『ソウルサモンズゲート、帰還ルート、解放します』
レギオンブレイドは再び輝きを放った。その光に送られるように英霊たちは一人また一人と天へと帰っていく。すべての英霊たちが帰還したときカリナは聖剣を左腰に収めた。
戦いの疲れを感じさせない力強い歩みでエルリックが歩み寄ってくる
「カリナ! ついにやったな」
「はい!」
魔道士のソフィアもカリナに寄り添ってその頭を撫でる。
「長年の苦労がついに報われたわね」
「はい――」
カリナの目元が潤んでいる。泣きそうになっている彼女に斥候のミリアが支えるようにその肩に手を触れた。
「涙はまだ早いわよ。これからやっと平和が訪れるのだから」
「ええ、そうですよね」
そして、右手に握りしめてきた聖剣のレギオンブレイドをさやに納めて顔を上げて歩き出した。
「行きましょう! この戦いを支え続けてくれた戦友たちの元へと」
カリナは仲間たちと共に、彼女が率いる軍団に参加してくれた戦友たちのところへと歩き出した。
§
それは夢だった。
かつての栄光の夢、
魔王討伐の瞬間の夢だった。
カリナはその夢から、今こそ目覚めようとしていた。
……スター、マスター――
カリナをまどろみの中から呼び出す声がする。
「――エリュシオ?」
シルクの寝具の上で眠りについていたカリナの枕元に、聖剣レギオンブレイドが横たえられていた。
『おはようございます。マスター』
カリナを目覚めさせたのは、あの戦いにおいても共に歩んでいた精霊のエリュシオだったのだ。
カリナとエリュシオの休むことない一日が、今日も始まろうとしていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
『聖剣機兵カリナ』、ここから少女勇者カリナの新たな戦いが始まります。
第2話は、このあと30分後に投稿予定です。
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聖剣、英霊、魔法、機兵、そしてAI戦争――。
異なる二つの世界を越えて戦うカリナの物語を、引き続きよろしくお願いいたします。