勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
魔王城、前衛地〝ドラゴンの墓場にて〟 ―少女勇者カリナ、軍団を率いる―
今、決戦の時。
魔王城の前衛地、通称〝ドラゴンの墓場〟にて〝彼ら〟は集っていた。
その中の一人、一人の少女が先頭を切って歩きだすと、何者かへと語りかけようとする。
「行こうか、エリュシオ」
そして〝エリュシオ〟と呼ばれた存在は妙齢の大人の女性の声で姿を見せずに答えた。
『はい、カリナ――、長年に渡る戦いを終結させるために』
「そして、みんなに平和と自由をもたらすのよ」
『えぇ、それこそが一千五百年の時を経て受け継がれてきた聖剣レギオンブレイドを引き継ぐ〝勇者〟にして〝聖剣の巫女〟たるあなたの役目なのですから』
そこに佇むのは一人の少女だった。
そのカリナに話しかけるのは人間ではない。聖剣レギオンブレイドの十字鍔にはめ込まれた宝珠クリスタルに宿る精霊〝エリュシオ〟である。
「エリュシオ――、あなたの力も貸してもらうわね」
『おまかせを、聖剣と精霊は勇者とともにあるのですから』
二人はまさに一心同体――、6歳で運命に導かれて出会ってから、いつでも共に歩いてきたのだから。
カリナは、決意を胸に聖剣レギオンブレイドを左腰に下げて歩き出す。するとドラゴンの墓場の苔むした大地に同化するかのように眠っていた古の魂が呼びかけてきた。大地に響くような重く力と威厳に満ちた声だ。かつてはこの戦乱の大地を支配していた竜皇大ドラゴンの御霊である。
『勇者カリナよ――』
「これは、偉大なる大ドラゴン」
『行くか、魔王の伏城へ』
「行きます、不毛な戦いを終わらせるのは今をおいて他にないのですから」
『強いなお主は、戦うことに迷いがないかのようだ』
「いえ、現世勇者と呼ばれる私でも、怖いと思うことはあります。戦いの前夜は眠れない事もあります」
『ならば、なぜ戦場に向かう?』
それは悠久の時を見守り続けた大ドラゴンの亡霊だからこその疑問だったのだろう。
『お主のような小娘が――年端もゆかぬ愛らしいお主がなぜ?』
それはまるで無謀な孫を不安に思う祖父の様でもある。だが、カリナは言う。
「もうだれかが死ぬところを見たくないんです。私自身、父と母に死なれているので」
そして、カリナは一瞬だけ立ち止まった。
「死に別れることの寂しさは嫌と言うほど知っています」
それは天涯孤独であるからこそ抱いた思いだった。その言葉を残してカリナは再び歩き出す。その背中に古の大ドラゴンの御霊はそっと祝福を投げかけた。
『天上の神よ、この心優しき勇者に勝利をあたえたまえ』
カリナは振り返り、心からの笑顔を向ける。
「ありがとう――、必ずやまたお会いしましょう」
その言葉を残してカリナは日の出前の戦場へと向かったのだ。
§
その世界は〝ソルスター〟と呼ばれた。太陽の女神を母とし、星の男神を父として、その交わりから生み出された世界だ。
そのソルスターにおいて、はるか太古、光と魔法による神の祝福を受けて生み出された大地があった。それが偉大なる大地アストラルである。
そのアストラル大陸の南を〝セプタリア〟と呼ぶ。人間をはじめ、様々な知性種族が生きる命の大地だ。
そこに光国ルミナリアをはじめとする8つの国が勃興し、発展し、時には争い合っていた――、
§
そして、戦場へと臨む平地の片隅にて、カリナは毅然として背筋を伸ばし背後を振り返る。その視線の先には彼女を慕い、忠誠を誓い、ともに血を流しながら戦い続けてきた親愛なる〝戦友〟にして〝仲間〟が居た。
戦場の空から雷光が地上を照らし勇者カリナ・ウィングスの姿を壮麗に浮かび上がらせる。そしてカリナは麗しきその長い金髪を風に舞わせながら聖剣レギオンブレイドを高く掲げ、戦友たる者たちに呼びかけた。
「親愛なる仲間たちよ、この大地を我々の手に取り戻す時が来た! 力を合わせ、魔王を討つのだ!」
「おおおっ!」
カリナの言葉に気合を持って答えるのは一千数百余人に及ぶ精鋭軍団――、魔法剣士騎士団アルカナヴァンガードである。
その彼らの前にたたずむカリナは、魔法剣士装束に身を包んでいた。
その衣装は明らかに泥にまみれて傷ついており、様々な戦場を営々と転戦してきたであろうことがよくわかった。
カリナは今こそ直下の魔法剣士騎士団アルカナヴァンガードの精鋭たちと、その隷下の全ての軍勢に突撃の掛け声を告げる。
「炎を放て! アルカナヴァンガード! 前進せよ!」
「おお!!」
勇壮な戦士たちの雄叫びが轟く。魔法剣士騎士団アルカナヴァンガードと、それに従うソルスター自由連合軍の誇りをかけて、彼らは団長である勇者カリナと共に魔王城に向かって進撃を開始した。
§
光あれば闇がある。
アストラルの大地にも驚異は襲ってきた。
―― 北西より脅威は襲い来る ――
闇の世界、冥府の世界と通じた異境があった。世に〝ノクティル〟と呼ばれる領域――、魔の世界の影響を色濃く受けており、太陽の光も力の及ばない闇と魔力に支配された大地だ。そこに生まれた種族こそが忌まわしき命〝魔族〟である。
光に溢れ、人間が繁栄を極めるセプタリア――
闇に支配され、魔族が権力を握るノクティル――
険峻なるシャドウクレスト大山脈を境界として、魔族と人間との間で〝戦い〟が始まった。
そして、数千年より前のはるか太古より、幾度も、幾度も、様々な〝魔王〟が現れ、軍団を率いて、諸々の種族を脅かした。
数多くの砦や魔城や暗黒都市が築かれ、魔王と魔将軍たちはセプタリアを襲った。
だが、魔の力に抗い立ち向かう者たちは必ず現れる。過酷な運命に抗い、光と命ある世界を守ろうと立ちあがる者たち、それを世に〝勇者〟と呼ぶ。
魔王が世界を脅かし、幾人もの勇者が現れ、魔王を討ち、つかの間の平和を取り戻す――
力を絶対と信じる獰猛な魔族と、愛と心を信じ助け合うことを是とする人間たち――、
両者は決して相入れることはなく、戦いは数千年の長きにわたって繰り返される。
長命の魔族と、短命の人間種族との間で一進一退の戦いが続く。それこそが永々と重ねられてきた現実であり世界の理だった。世界はそうして巡っていたのである。
§
アルカナヴァンガードの軍列は、総指揮官カリナのもと、戦士系軍団長エルリック、魔道士系軍団長ソフィア、技能系軍団長ミリア――、
彼らが率いる諸部隊が緻密に連帯して魔王城ダークフォージ城へと着実に進軍を続けていた。
カリナは軍馬に乗馬しつつ進軍を続け、側近の一人として付きそうエルリックに語りかけた。
「エルリック、8大国諸軍団の動静は?」
「ルミナリア以下、諸国軍団は作戦通り、順調に決戦地に到達予定だ」
「エルフやドワーフ、ドラゴン種族などの諸種族は?」
「問題ない、各攻略地点を陥落させつつ進軍中だ」
「重畳ね、作戦通りだわ――、ソフィア、敵陣地の魔導結界への対策は?」
その問いに答えるのは、当世最高の革新派魔道士と呼ばれるソフィアだった。
「飛行魔道士部隊エーテルウィングスの偵察と事前工作により、敵の魔導結界網はすでに破壊完了とのこと、ドラゴン種族の活躍もあり、諸軍団・諸種族との連携も破綻無く進行中よ」
「相変わらず見事ね! 敵の伏兵も考えられるわ」
「まかせて! 対策は抜かりないわ!」
自信家のソフィアだったがカリナは彼女を信頼していた。
「ミリア、先行偵察部隊からの報告は?」
カリナが問いかけたのは、自らが優れた斥候兵で、弓部隊、銃砲隊、工兵部隊と言った技能派を率いるミリアだ。
「順調よ。敵防御網の穴は掴んだ、諸軍団、諸種族が想定通りに結集すれば、一点突破で敵本城へと突撃できるわ」
「ありがとう、それでこそ私が信じたミリアだわ」
「ふふ、おだてても何も出ないわよ」
長年に渡り共に戦場を歩いた〝始まりの4人〟――彼らの信頼の絆は強固で絶対に揺るがなかった。
そして、そこに魔導通信兵が駆けつける。
「報告!」
「話しなさい!」
「はっ!」
ミリアの言葉に通信兵は地面に片膝を付き、うやうやしく述べ始める。
「八大国諸軍団、および十代種族兵軍! 作戦通り、本日未明に決戦地到着とのよし!」
その言葉にカリナが湧いた。
「来た!」
「いよいよね、カリナ!」
「えぇ!」
ソフィアの言葉にカリナは不敵な笑みを浮かべて告げた。
「諸軍団・諸兵軍に、想定通りにアルカナヴァンガードに同期して突撃と伝えなさい!」
「はっ!」
カリナのこの言葉は大軍団全てへと一斉に伝達される。そして――
「今こそ、ときは来たり!」
カリナは左腰からレギオンブレイドを抜刀した。
「アルカナヴァンガード! ソルスター自由連合軍! 現時刻を持って攻撃を開始する!」
その言葉にアルカナヴァンガード千数百名が一斉に動いた。
「いざ! すべての命の自由を!」
「すべての命に自由を!」
カリナは胸に息を大きく吸い込むと、轟くように叫んだ。
「全軍!
「おおおおぉぉぉぉぉっ!」
魔王城周辺領域にカリナ率いるソルスター自由連合軍の総兵数万人が様々な進軍路を突破し、この地に集った。
そして、カリナの号令のもとで一斉に突撃を開始した。無論、魔王城側も死にものぐるいで抵抗するだろう。
まさに、この魔王城の地に〝死山血河〟を築きながら……
ここに歴史に残る、魔王城決戦は、ついに始まったのである。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
『聖剣機兵カリナ』、ここから少女勇者カリナの新たな戦いが始まります。
気に入っていただけましたら、ブックマーク・フォロー等で応援いただけると励みになります。
聖剣、英霊、魔法、機兵、そしてAI戦争――。
異なる二つの世界を越えて戦うカリナの物語を、引き続きよろしくお願いいたします。