勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
カリナは逆に尋ね返した。どうしてもわからないことがあるからだ。
「こちらからも聞かせてください〝ID〟とは何ですか?」
知らないものは答えられない。当然の道理だ。
カリナからの問いかけに5体の人型は沈黙した。その内部で何が行われているのか知る術もない。
だが、中央の1体は右手の巨砲の砲口をカリナから反らしながら数歩進み出る。そして、その胸部が上へと開いた。まるで棺桶が開くように。
――プシュッ、シューン――
空気が漏れる音がする。中から現れたのは――
「どうやら、仮装パーティの参加者でも、ショーパブのダンサーでも無いようだな」
濃緑色のズボンにシャツ、ポケットが無数に付いたベスト、さらには装飾のない丸い兜をつけている。その他にも色々と身に付けているがカリナには理解不能だ。
「この世界での個人の存在証明を知らないとなると行動の自由を認めるわけにはいかねえな」
カリナを照らす明かりの中、逆光となっているため分かりづらかったが、髪は金色で短く刈り込んでいる。一見するとカリナと同じ人間種族だ。彼はカリナを見下ろしながら自らを名乗った。
「俺は傭兵独立部隊サイファーブレイクス隊長、レオン・ストライクだ。IDとはこの世界における最も重要な個人証明だ。人間なら誰もが持っている」
「人間なら?」
「そうだ、その意味がわかるな?」
「はい、それを持たない場合、人間として市民として公権が認められないということですね?」
つまり、人間で無いモノにはIDは存在しないのだと知った。レオンは右腰から黒光りする鉄の塊を取り出しカリナに突きつけた。それは片手用の短銃に見えた
「かなり、しっかりとした教育を受けているようだな。だが個人としての証明ができないなら、お前を拘束し然るべきところに引き渡す。抵抗すれば射殺する」
一切の温情の無い声だった。カリナは一言だけ問い返した。
「なぜそうなるのですか?!」
わずかに不満を浮かべたカリナにレオンは憮然として答えた。
「人間でないモノを認めるほどこの世界に余裕は無い」
レオンはこの世界の情報は何も示してくれなかった。規則と規律に縛られた冷徹さが垣間見えるだけだ。カリナは思わずつぶやいた。
「――これが鋼の世界」
その言葉を胸の奥に飲み込んで毅然としてレオンに向かい合う。一つだけ理解できた事がある。
「ここは〝戦時下〟の世界なのですね?」
その言葉にレオンは答えてくれなかった。ただ、カリナのその冷静な言葉に、レオンがかすかに驚いたように見えたのだった。
カリナが憮然としてたたずむ中、レオンの乗っている機械のその隣、同じ形状の人形機械の胴体上部が開いてもう1人別な人物が姿を現した。
「隊長! ちょっと待ってくださいよ」
こちらも薄暗がりの中の逆光なので初めは目鼻立ちはよくわからなかった。最初に声をかけてきた人物とは異なり幾分若い声なのはよくわかった。
「なんだ、ジェイ」
「もう少し優しく扱ってあげましょうよ。なんせうちのAIドローン、回収してくれたんですから」
「ふむ……、それもそうか」
するとそこに、どこか物陰でも隠れていたのか、あの2つの小さな飛行体が姿を現しジェイと呼ばれた若い男のところに一直線に向かったのだ。
「よーし、アリエス、タウラス――ご苦労だった」
2つとも、そのままジェイの手に収まるのが遠くからもよく見えた。まるで飼い主のところに帰る愛犬か伝書鳩のようでもある。
そして、その人形機械の胴体の上面からワイヤーフックのようなものが降りてくる。ジェイはそれに捕まって上から下へと降りてきたのだ。
「隊長、この娘さん俺に任せてくれませんか?」
「世話係をやるというのか?」
「ここいらの戦闘はだいたい終結したから構わんでしょ?」
「〝こいつ〟はどうする?」
隊長と呼ばれたレオンという男は視線でジェイが乗っていた機械を右手の親指で指し示していた。
「こっちの方で預かってもらっていいですか?」
レオンはジェイとカリナを交互に見ながら少し思案していた。そして右手で握りしめていた武器のようなものを腰のあたりにしまって明確に指示を下した。
「よし、そいつは預ける。イスタンボールの治安当局に引き渡してこい。現時点では我々にそれ以上の処遇は決められん。戦時規定に乗っ取り捕虜として扱え」
「了解!」
そしてレオンはそれ以上カリナのことを取り立てて騒ぐこともなく、また、あの機械の中に収まって仲間たちを率いてどこへと向かうのだった。
あとに残されたのはカリナと、ジェイと呼ばれた男性である。