聖剣機兵カリナ ―魔王を倒した少女勇者は、AI戦争の未来世界でも人類を救う―   作:美風慶伍

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カリナ、収容される。 ―路上の夜の夢―

 移動車両は、道路沿いにある壊れたコンクリート製の建物の中に入り込むとそこで動きを止めた。

 

『今から朝の5時までここで停車する。それまでゆっくり休んでくれ』

「はい。分かりました」

 

 ジェイの指示でシート下から毛布を取り出すそれにくるまってなんとか寝る場所を探す。初めはシートの上で横になろうとも考えたが微妙に寝づらかったので、毛布がまだ2枚くらいあるのに気づいてそれを床に敷いて寝そべった。

 

 ずっと緊張が続いてたからだろうか、カリナは落ちるようにあっさりと眠りについた。そうして寝付きが浅いまま夢を見たのだ。それは今の状況をそのまま心に反映させたような夢だった。

 

 カリナは夢を見ていた

 懐かしい夢だった――

 

 それはソルスター世界時代の記憶――

 広い大地の上をどこまでも仲間たちと一緒に武器を持って聖剣を携えて、カリナはひたすら駆け巡る。

 

 その彼女の背中を追うのは、八つの国の軍団と、十の種族の集団――

 彼らを率いて、カリナは先頭に立って突き進んでいた。、

 

 だが――、

 十の種族が遠くに行ってしまった。

 驚いて、振り向いた

 

 八つの国の軍団が〝一つ〟また〝一つ〟と遠ざかっていく。

 周囲は暗がりの中に落ちていく。まるで敵の罠にはまるかのように。

 

 次いで、自分の大切な親衛軍団であるアルカナヴァンガードが、一人また一人と離れて、最後はカリナと始まりの仲間である三人を四人組だけになってしまった。

 

 最初に優れた斥候兵であったミリヤが背中を向けた。カリナが声をかけても反応はない。

 次に、魔導師のソフィアが姿を消した。いつでも頼りになる姉のような存在だった。

 そうして最後――、戦士長のエルリックなカリナを突き飛ばした。

 

 衝撃とともに、暗い空間の中を、どこまでも――、どこまでも――、落ちていく。

 まさに奈落に落ちる感覚、その不気味な空虚さ――

 

 カリナはその、落ちる感覚の恐怖に思わず目が覚めた。

 

「うわぁあああああっ!」

 

 たまらず、大声で叫んだ時、スピーカー越しにジェイの声が聞こえた

 

『どうした?』

「ごめんなさい、悪い夢を見てしまって」

『どんな夢だ』

「……私の周囲から誰もいなくなる夢」

 

 その言葉をジェイは気のせいだとは言わなかった

 

『環境が激変してるからな。ましてや、完全に見知らぬ世界に飛び込んできたとなればなおさらだ。移動した先に医療施設もある少し相談するといい』

 

 とても理性的で優しい言葉だった。下手な慰めでないからこそ、余計に安心した。

 

「はい――」

 

 車両の中に据えられた時計を見れば、今深夜の3:00まだ眠れる時間はある

 香里奈は毛布にくるまって、また眠りにつくのだった

 

「早く悪夢を見ないようになるといいな」

 

 だとしても、彼女を守るものは、あまりにもなかっ少なかったのだ

 

 そこからさらに一昼夜。車両が急に揺れなくなる。そして、停車すればすでに建物の中だった。

 ジェイの姿を探したが、彼はすでにいなかった。代わりに、施設の職員と思わしき、制服姿の男性たちに囲まれて誘導される。

 男たちは詰め襟の制服に制帽をしている。その気配から刑務官のような存在なのだろうと、カリナは推測した。

 

 ジェイの事を尋ねたかったが、そこはこらえた。彼はあくまでもカリナを移送しただけなのだ。この施設にはこの施設のルールが有る。そう考えれば彼が別れの言葉も残さなかったのは当然だった。

 

 カリナは手枷をつけたまま、外の風景を一切見るとこなく施設を歩かされる。

 そして窓に格子の嵌った部屋に案内され、そこでようやく手枷を外してもらえた。着衣はそのままだったが所持品は預けることになり胸甲鎧(キュイラス)も外して布の服だけとなる。

 

「指示有るまでこの部屋で待機しろ」

「はい」

 

 男たちはそれ以上のことは何も教えてくれなかった。ひどい連中だとは想わなかった。

 

――彼らは彼らの役目を全うしているだけだもの――

 

 着いたのが夕暮れだったが、夜になり別室に案内され、見た目30代ほどの女性の係員により身体検査をされた。

 見たこともない器具で詳細に調べられ、血も少量抜き取られたが必要なことだと諭された。

 

「頭痛や熱や吐き気と言った不調はある?」

「いえ、今のところは大丈夫です」

「生理の出血は?」

「半月前にありましたが、もともと不揃いなんです」

 

 カリナの言葉に係員の女性は思案する。

 

「生理不順か――、痛みとかは?」

「時々ひどい痛みがありますが、今は大丈夫です」

「そう? でも始まったら申告して。手当してあげるから」

「はい」

 

 女性であるカリナの事情に配慮してくれるのはありがたかった。だが辛かったのは尋問だ。機械の端末越しに声だけが聞こえる。

 

「名前を」

「カリナ・ウイングス」

「出身地は」

「ルミナリア光国」

「所属組織は」

「魔法剣士騎士団」

「地位は」

「前騎士団長、現栄誉団長です」

「年齢は?」

「満年齢で17歳です」

「ご身分は?」

「元平民、孤児で魔法戦士階級を経て、現在は終身栄誉貴族です」

「なぜ、あの場所にいたのですか?」

「落雷を受けて吹き飛ばされたら、戦場のど真ん中に倒れていました。落雷と転移の原因については全く心当たりがありません」

 

 おそらくはあの暴走魔法陣が関連しているのだろうが、いまこここでその事を明言しても意味は薄いだろう。

 

「あなたが〝この世界〟に移動してきた理由は」

「分かりません。情報不足で推測することもできません」

 

 同じことを複数回問われる事もある。だが抵抗と反発は状況を悪化させる。従順に隠さずにソルスター世界と魔法についても語った。無論、魔族についても。

 尋問が終わると個室に移動する。換気用の窓があるが鉄格子がハマっている。入口のドアは施錠されている。完全に牢屋だ。

 

「でも、ベッドはちゃんとしてるし、トイレはちゃんと隠れるし」

 

 最低限、人として扱ってもらえている。なによりこちらの世界には〝拷問〟が無いようだ。

 

「戦争中だから敵か味方か判別できないと処遇を決められないんだろうな」

 

 食事も人間らしいものがきちんと出された。パンにスープに加工された肉、果汁を固めたゼリーもある。なにより驚いたものがある。

 

「わ、すごい、氷菓だ!」

 

 その日の夜にはシャーベットも出てきた。カリナの世界では冷凍された菓子はその手間から超高級品だ。

 

「美味しい! オレンジの果汁がこんなに濃いなんて!」

 

 多分にして人工甘味料や人工香料も入っているのだろうが、さすがにそこまではカリナにはわからない。白砂糖すら高級品だからだ。だが、そのシャーベットを食べきった時にあることに気づいた。

 

「そうか、文明そのものが違うんだ」

 

 そのことに気づいたとき、あらためて心細さがカリナを襲った。今は彼女を慰めるエリュシオも居なかった。

 ここがどこなのか、これからどうなるのか、検討もつかない。脳裏をよぎるのは信頼する仲間たちの顔だ。

 

「〝みんな〟どうしているかなぁ――」

 

 みんなとはかつてともに魔族と戦ったエルリックたちの事だ。どんな辛いことがあっても彼らが必ず一緒に居てくれた。だから寂しくなかった。でも今はカリナは〝一人ぼっち〟だ。

 

「ぐすっ――」

 

 思わず涙が流れる。やっと次の目標を見いだせたと思った矢先だ。これからどうなるのか見当もつかない。

 

「どうしてこうなるんだろう」

 

 気持ちを紛らわせようと視線を窓に向けたが、窓にハマった鉄格子が月明かりにくっきりと浮かんでいるだけだ。それでも今は耐えるしかない。そう自分に言い聞かせてカリナはベッドの中に潜り込むと眠りに落ちていったのだった。

 




新話をお読みいただき、ありがとうございます。
引き続き『聖剣機兵カリナ』をよろしくお願いいたします。
30分後に次話公開です
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