勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
カリナは独り言をつぶやいていたが、不意に結論にたどり着いていた。
「今上陸しようとしている不審な存在こそが内部侵入の本命ではないかしら? まてよ? 今、どれだけの戦力が――」
そこまで気づいた時、カリナはルーカスに告げた。
「ルーカスさん、その偵察部隊以外に迎撃打撃可能な戦力はどれだけ残っていますか?」
ルーカスは顔を左右に振った。
「ほとんど残っていない。かねてから定員不足だったからな。アーセナルコマンドを完全に吐き出してしまうと都市の治安維持にまわせる戦力がなくなる。そうなれば内乱や大規模騒乱が起きた時に抑え込めない」
その言葉を耳にした時、カリナの表情は恐ろしく冷静だった。
「エレナさん、この子、空を飛べますか?」
「できないことはない。コイツは電磁プラズマのブラスト噴射機能を持ってる。それで飛行推力を発生させて飛ぶことは可能だ。ただ、そうとう強力なAIの補佐が必要だけどね」
その時さらに声がした。エリュシオだ。
『エレナ様、私がこの機体に介入するようにはできませんか? 私がAIの代理として補佐することができれば可能かと』
「そうか――その手があったか。たしか、アンタに言われた
そしてさらにカリナが尋ねる。
「この子の操縦方法は?」
「マスタースレーブ方式と言ってね、両手に専用のデーターグローブを嵌めて、操縦者の上半身の動きをそのまま再現する。下半身はスライド式のペダル制御。慣れは必要だが、あんたならすぐに扱えるだろう」
「わかりました。すぐに使えるようにしてください」
「おい待て! 何を言ってる? お前が出る気か?」
「はい、戦力不足の現状を打破するためには、それしかありません。状況的にその不審船がいわば『偽装の木馬』であり、その内部にアイアンオーダーの戦力が入り込んでいる可能性は高いです。イスタンボールは旧都イスタンブールを中核とした典型的な城塞都市、城塞都市撃破の常道は内部潜入しての城塞の破壊と都市開放を誘発することです。偵察などと悠長なことを言っている段階ではありません」
「それはそうだが――」
カリナの言葉はあまりにも理路整然としていて隙がなかった。まさに勇者としての面目躍如だ。
「想定される上陸部隊の規模は? 集められる戦力は遠距離攻撃主体ですか?」
「不審船の大きさから言って、ヴァンガードと同格の機体が10機は現れるだろう。残存機体は確かに殆どが遠距離攻撃主体の銃砲撃型だ。近接に持ち込まれたら圧倒的に不利になる」
「ならば――」
カリナの目が光る。左手でレギオンブレイドの柄を握りながら告げる。
「上陸前に阻止するしかありません。海岸からの遠距離攻撃、そして、わたしが飛行して直接打撃に向かいます」
「何を言ってる!」
ルーカスが叫んだ。ここで否定するのは当然の反応だ。
「君はアーセナルコマンドライセンス正式取得前だ! それに戦場参戦経験もない! そんな危険な行動認められるわけがないだろう! 死ぬ気か!」
「ではどうするのですか? すでに洋上の海峡ルートと言う〝裏口〟はこじ開けられてしまい、内部に入りこまれている状態です! 一刻の猶予もないんです!」
そこにエレナが告げた。
「ルーカス、アンタが動きな。ブレイブハーツアライアンスとピースセーファーに連絡、交渉――。育成カリキュラム正式取得前のアーセナルコマンド候補者から志願兵が出たので承認してほしいってね」
「だが、それでも危険すぎる! なによりエリュシオもこの世界の戦場には慣れていない! リアルタイムにヴァンガード戦闘の経験者による補佐が必要だ」
「それさえあれば認めてくれるのですね?」
カリナは明確に言葉を突きつけた。そして――
「エリュシオ、英霊召喚はこちらの世界の英霊なら可能でしょ?」
『はい、可能です。あなたがそうおっしゃると思い、すでに準備を進めておりました』
「やるわよ、英霊召喚」
『承知しました。英霊召喚、実行します』
今こそカリナは、かつての勇者としての経験から〝切り札〟を切ろうとしていたのである。