勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
攻撃は失敗した。頭部を両断できず目を潰しただけに過ぎない。敵が目以外にも、こちらの位置を把握する可能性を考え即座に身を引いた。
攻撃が失敗し、一旦身を引いたカリナに気づき、エリュシオは声をかけた。
『マスター! ご無事ですか?』
「怪我はないわ。でも、レギオンブレイドでも斬れない! 単なる鉄や鋼ではないわ! あの時の敵とは一味違うわ』
『ここは急いで離れてください! 敵は視覚以外にもこちらの位置を認識可能なようです。それよりここから8時の方向に向かってください! 人間と思わしき存在を探知しました。あの小さな飛行体も一緒です。彼らと接触して保護を求めましょう』
「〝鋼の世界〟の人間かしら? でもそれに掛けるしかない!!」
素早く走り敵との距離を取る。そして、エリュシオに指示された方向へと走っていく。敵は残された2本の脚と身体全体を使って這い回るように追いかけてくる。その巨体ゆえに鈍重かと思われたが――
「随分と器用ね。あの状態で移動するコツをもう掴んだようだわ」
『恐るべき適応力です。私が知っている魔獣をはるかに超える生命力があります』
「そのようね、とんでもないところに飛ばされてきたわ」
不安を吐露しながらもカリナは走った。その背後を馬の小走りのような速度で敵は追いかけてきた。
「追ってくる!」
『このまままっすぐ全力で駆けてください! そこに人間の生命反応があります!』
そして駆け出すカリナの視界の先に見えてきたのは5つの人影だった。
「見えた!」
『助けを求めましょう』
「えぇ!」
かすかに希望が見えてきたかに見えた。だが――
「あれ? なんか大きさが変だわ? 巨人?」
今、カリナの目の前に現れたのは5つの人形のシルエットだ。それもまるでまるで魔導で作られた巨大ゴーレムか巨人の如きだ。それも5体。先程の戦闘の爆発音で見えた巨人のシルエットに似ていた。
「これは夕暮れに見た鋼のゴーレム? まさか? これも敵?」
背後から追ってくる鋼の獣の同類だとしたら? その時は挟み撃ちになる。人形のシルエットが更に近づけば、2足歩行の巨大な鋼のゴーレムの如しだ。それが5体横列になり、陣形を組んで迫ってくる。それは巨大なだけでなくまるで統率の取れた兵士のごとくだ。中央の1体が隊長格で、左右に並ぶ4体が隊員だろう。そして、その手には小銃のようなものが携えられている。
「武器を使う? 鋼のゴーレムが?」
夕暮れ時の茜色の光の中、夕日の逆光を浴びていて正体は全く見えなかった。だが、5つの影は一斉にその巨大な小銃を一列に構えた。まさに軍隊の砲列陣形のごとくに――
「まさか!」
そこでカリナはとっさに脇に逃れた。攻撃の射線上で巻き添えを回避しようとしたのだ。急ぎ、物陰に駆け込めば、その背後を5条の黄金色の光が矢の如くに空を切り裂き攻撃を仕掛ける。
――ヴュォオオオオッ!――
空間を震わせる振動を伴いながら、その光は確実に敵を破壊した。カリナを襲ったあの1つ目の鋼の獣をである。
――ドォオオオオンッ!――
その直後に爆発と爆風が起きる。敵は確実に仕留められたようだ。
「爆発? 獣が? どういう事? それより――」
生身の生き物が敵の攻撃で爆発するということがあり得るだろうか? 普通はありえない。そんな事を疑問に思いつつもカリナは意識を切り替えた。敵か、味方か――
「果たしてどちらかしら」
驚きと恐れを感じずには居られないが、それでもカリナはそれを飲み込んだ。敵か、味方か、それすらも判別できない状況下ではいたずらに敵意を示すのは命取りだからだ。不用意に怯えず、武器を抜かず、悠然として構えて相手の出方を待つ。
「落ち着いて、敵意を見せてはダメ」
『そうです。まずは人間か魔族か、そこから判断しましょう』
「えぇ」
この極限の状況においてもエリュシオは優秀な従者だった。的確にカリナの心を支えていた。
今、カリナに迫ってきたのは黒灰色に鈍く輝かく機体の人型の巨人だ。手足と頭が揃っていて、人間の背丈の5~6人分はあるだろう。その胸部全面の各部にランプのような装備があり、それがカリナを照らしていた。
「まるで、人間の兵士のような統率」
隊列を組み、右手にはフリントライフルを巨大化させたような巨砲が携えられている。まるで、そのまま装衣戦士を巨大化したかのようだ。カリナは意を決して自ら彼らに近づこうとする。
「あの――」
だが、5体のうちの中央の1体がカリナに警告した。
『止まれ』
人間の肉声、それを巨大なホーンを通して拡大したかの様に大きく響く。素直に従いカリナは足を止める。
『現在ここは戦闘作戦地域だ。一般人は退去が命じられている。身元確認をする。姓名・所属・IDを示せ。提示できるものがない場合、口頭で答えろ。武器所持が確認されるので反応次第では拘束する』
命令と同時に巨体が抱えた砲口がカリナに向けられている。発言や行動から推察するにこの地を警護する軍事関係の者たちだろう。そしてそれはこの巨大な人型の中に隠れているのだ。カリナにとっては理解を超えた状況だ。だが、彼女とて勇者とまで称された人物だ。理解を超える事態にどう接すればいいかは分かっていた。
「私は――姓名、カリナ・ウィングス、所属、ルミナリア国魔法剣士騎士団団長、魔法剣士です」
凛とした声で堂々とカリナは答えた。交渉という名の新たな戦いのはじまりだった。