勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
宴が始まった。
バンドたちの音楽が始まり、バーの店の中のあちこちで酒杯がかわされた。
カリナも度の薄いカクテルをにこやかに微笑みながら傾けている。
彼女の周りには様々な人々が集まっていた。
レオンの率いる傭兵集団サイファーブレイクスの面々、カリナがこの世界に訪れた時に最初に彼女を保護した人々だ。そして、あのジェイのチームメイトでもある。
次いでルーカス、カリナのお目付け役として顔を合わせることが今なお多い。医療施設で世話になった女医のヒルトの姿もあった
当然、エンジニアのエレナも傍らにいる。悩めることが多いカリナの師匠的な役割を担っていた。
入れ替わり立ち代わり、色々な人々が声をかけてくる。その一つ一つを大切にしながらカリナは言葉を交わしていった。
酒盃のカクテルも3杯目となる。歳若いカリナにバーテンダーのマーチンが特に薄めに作っているためので悪酔いはしていないがほんのりとした酔い加減になっている。カリナ自身もいい気分にほぐれてきた時だ。
店の外が慌ただしくなった。
「お、なんだ?」
「トレーラーか?」
「ヴァンガードの運搬用のハンガートラックじゃねえか」
ハンガートラック、通常サイズのヒト形シルエットのヴァンガードを仰向けに寝かせたまま運搬可能な専用トラックだ。荷台が二重構造になっていて、上の段が仰向けから垂直に90度起き上がる構造になっている。
荷台の上には2脚歩行人型シルエットの中規模程度のヴァンガードが横たわっていた。色は黒く艶光りするガンメタリックシルバーで、まだ傷ひとつ無い。
「なに載せてんだ?」
「顔に保護シート被せてるって事は新品だぜ?」
「随分気合の入った新品のヴァンガードだな」
事情を知らない者たちが口々につぶやく。それに対して半数近くのアーセナルコマンドとエンジニアのエレナたちは気づいていた。
「やっと来たね」
「ああ、いい頃くらいだ」
エレナとルーカスが話し合う。カリナは疑問に思い2人に問いかけた。
「一体何が届いたんですか?」
カリナのその言葉に周囲の何人かは意味深な笑みを浮かべていた。カリナは狐につままれたような心持ちだった。
「でも、あれもしかして――」
ハンガートラックに載せられた機体のシルエットにはどことなく見覚えがあるのだ。
その時、店の外にもう一つまた新たに高級タイプの2人乗りの乗用車が駆けつけた。そこに乗っていたのはオリーブ色の褐色の肌の鍛え上げられた体を持つ美形の長身の男性だった。イスタンボールの地元出身者に多いトルコ系の人種だろう。長い髪は黒く丁寧に後方へと撫で付けられている。白いズボンに襟付きシャツをそつなく着こなしている。その傍らには、同じトルコ系の女性の秘書を連れていた。
「お? エミルじゃねえか」
「アリーナのミドルチャンピオンだぜ」
「ヴァーストライクアリーナの王者が何でここに?」
男たちが疑問の声をあげる中、居合わせた女性たちの中には驚きと共に好意的な目線を向けているのがよくわかる。
店に居合わせたアーセナルコマンドの男たちとは似た雰囲気もあれば全く違う雰囲気もある。自然にカリナの視線も彼の方へと注がれる。一番最初に語りかけたのはルーカスだった。
「お久しぶりです、チャンピオン・エミル」
「久しぶりだな、ルーカス。元気だったか」
「ええ、気の抜けない毎日が続いていますが」
「それは知ってる。最近色々と街の外が騒がしいからな」
そう語りながら懐から1枚の電子キャッシュカードを取り出すとバーテンダーのマーチンに投げ渡す。
「みんなに一杯ずつ」
「太っ腹だなチャンピオン」
「当然だろ? 街の命が救われためでたい席だ」
「あんたは何を飲む?」
「アイシングカフェで」
「ああ、いつも通りだな」
チャンピオンという肩書きを持つ男の余裕なのか。バーに居合わせた者たちに気前よくおごり始めた。そして彼はカリナの方へとあゆみ寄ってきた。