勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
両腕を緩やかに下に下げた状態で両足のペダルをゆっくりと前へとスライドさせる。機体は静かに前へと歩き出し、ハンガーからある程度離れたところで右手を動かして左腰にある巨大剣ギガントブレイドを握りしめた。そして左手を添えながら巨大剣を引き抜いて正面に大きく掲げた。
「おおおっ!」
「すげぇ! 迫力あるし何より動きが自然だな」
「ああ、レバーコントロールのファンクションプログラム方式とは違って、パイロットの動きがそのまま反映されるからな」
「でも、あの勇者の彼女、剣も使えるだろ?」
「これは期待できるな。アリーナ競技には持ってこいなんじゃないか?」
足元の人々の声を聞きながらカリナはゆっくりとその場を一周する。そしてハンガーに機体を戻すと興奮した感情を抑えながら操縦席から降りてくる。
ハンガーのはしごを降りて地上に戻ると自然に感謝の言葉を口にした。
「ありがとうございます! 本当に最高です!」
そして振り返り周囲の人々に告げた。
「皆さん本当にありがとうございます!」
新しいヴァンガードを確かめ終えたカリナが、またハシゴを使って降りてくる。
そこにチャンピオンのエミルが改めて近づいてくる。
「気に入ってもらえたようだね」
「はい! とても」
「それは良かった、でも今の君はまだまだスキルを磨かなければならない」
そう語るエミルの視線はそれまでになく真剣だった。その鋭い視線にカリナは思わず息を飲んだ。
「えっ? どういうことですか」
「なに簡単なことさ。新しい武器を手に入れたら使いこなすために鍛錬が必要なように、ヴァンガードは機体それぞれ一つ一つ特性も操縦方法も異なる。それらを確実に身につけて習熟するためには必要なものがある」
その指摘にカリナは気づいた。
「実戦経験ですか?」
エミルは頷いた。
「その通りだ。しかし、いちいち戦場に出ていては命がいくらあっても足りないだろう」
「おっしゃる通りです」
「そこでだ、技を磨くためにも君に勧めたいものがある」
「それは一体?」
2人のやり取りを周囲の者たちが興味深く眺めている。視線が集まる中でエミルは答えた。
「ヴァンガード疑似実戦競技【ヴァーストライクアリーナ】」
「あっ! 先ほど話に出てきた」
「そうだ。俺がチャンピオンの座を守り続けているものだ」
「アリーナ競技?」
カリナは気づくものがあったらしい。
「観客の見守る中で、ヴァンガードどうしで戦い合うのですね?」
「そうだ。命のリスクがないとは言わないが、確実に戦闘スキルは磨くことができる。なにしろ強者ぞろいだからね」
その言葉を裏付けするのは、王者であるエミル自身の気迫に他ならなかった。
「今の君はいずれ必ず防衛都市の外の戦場へと戻らなければならないだろう。だが、今の君ではまだまだ経験も技も足りない。ならば今この段階においてその新しい機体で参戦する価値はあると思わないかい?」
答えに窮したのかカリナは戸惑いの表情で沈黙したままだった。
「即断はさすがにできないだろうが、じっくり考えるといい。君がアリーナにやってくるというのであれば俺はいつでも受けてたとう」
エミルは力強く答えた。
「ミドルリーグ・現チャンピオンとして」
そして背中を向けて歩き出す。
「まずは新人の登竜門のエントリーリーグを突破することだ」
自らの車に乗り込む際に再び視線を向けてくる。
「待っているぞ」
そして車を走らせて悠然と去って行った。
それを見送りつつもカリナは戸惑いを隠せなかった。だが彼女の肩をそっと叩く者がいる。ルーカスだ。
「今ここで即答する必要はない。アリーナ競技に出るとなれば準備するものは色々あるからな。エレナさんも競技には詳しい。ゆっくりと相談するといいさ」
そうだその通りだ。軽率に即答するよりじっくりと考えた方がいいだろう。
「そうですね。明日1日考えてみようと思います」
ルーカスは再びカリナの肩を叩いた。
「もちろん僕も応援するよ」
「はい!」
そして人々は宴に戻って行ったのだった。