勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
それから宴は進み時計の針が深夜1時を過ぎる。さすがに人の数は減り、翌日に仕事を抱えている者たちは自らのねぐらへと帰って行く。
エレナはマイクと共に先に引き上げていったが、カリナは無理をせずバーの近くにあるホテルに泊まることとなった。
いつでも寝れるという安心感もあったのか、宴が終わるまでなんとなしにバーに居続けたが、同じように最後まで残った人間が何人かいる。
カウンターの片隅に腰を下ろしているその中の一人にカリナは声をかけた。
「レオン隊長」
「カリナか」
「隣よろしいですか?」
「ああ」
そう答える言葉のニュアンスには受け入れる優しさが滲み出ていた。
「今回の新機体の件、本当にありがとうございました」
「あれか、俺なりの礼だ。ジェイが世話になったからな」
レオンは絶対に得意げにならない。つねに慎重なのだ。その彼が言う。
「エレナからの話で小耳に挟んだんだが、お前〝作られた勇者〟だそうだな」
その言葉はカリナに少なからず緊張を与えた。
「はい――、そのとおりです」
不安げに答えるカリナにレオンは優しく諭す。
「勇者とか英雄なんて肩書は全て他人から押し付けられた代物だよ。戦場において成果を上げたからこそ、他人がそれに理由づけするんだ。成果が先か肩書が先かの違いはあるが、そのあたりの辻褄を合わせられるだけでも十分立派だよ」
その言葉はカリナの心に強く響いた。
「カリナ、自信を持て」
「はい」
それは信頼と言うに値るするやり取りだった。カリナはあえてレオンに問うた。
「実は意見を聞きたいことが」
レオンは少し沈黙していたが口を開く。
「アリーナ競技についてか?」
「はい」
「そうだな。俺の口から言うとすれば、ハマって欲しくはないが、今だったらやるべきだと思っている」
奇妙な言い方だった。
「どういう意味ですか?」
「言ったそのままだ。アリーナ競技は勝ち続ければいくらでも金儲けができる。それはチャンピオンのエミルの振る舞いを見ればわかるだろ」
確かに思い至るところがあった。
「それはなんとなくわかります。そういう状況に至ることができたら戦場に立たずに生きていけますよね」
「そういうことだ。それを俺たちの界隈では『アリーナにハマる』と言って侮蔑の対象になる。実際、戦場に立たない方便としてアリーナ競技を優先するやつは少なくないんだ」
ガラスの中のバーボンを飲みながら言葉を続ける。
「誰だって命は惜しいからな。しかし、この世界を守れる戦う意志のあるやつは1人でも多いほうがいい。それもまた現実だ。だからこそ戦場とアリーナ、この2つをうまく使いながらやっていく必要がある」
レオンはグラスの中のバーボンを飲み干した。
「ちなみにアリーナ競技ではレギュレーションの問題から近接戦闘の方が有利だ。剣による白兵戦を得意とするお前ならばなおさら有利だろう」
レオンはグラスをカウンターに置く。
「最後に一つ忠告しておく」
「何でしょう?」
「お前が戦場で様々なタイプと都市近郊で出くわしたように、今戦場では色々な予想外の事態が多発している」
その言葉にカリナはピンときた。
「まさか〝戦局〟と〝戦況〟の変化ですか?」
「そうだ。今までにない敵の攻撃が増えてきている。今までの戦場は俺が率いている部隊のように、遠距離攻撃主体のヴァンガードが主流だった。
だが、それは敵も距離を置いての銃砲撃やミサイルと言った遠距離攻撃主体だったのが理由だ」
その言葉にカリナは頭の中にピンとくるものがあった。
「まさか、アイアンオーダーの機械たちが進化して人間の様に剣を使うようになってきた?」
「剣だけじゃない。人間のような白兵格闘を身につけたクロムハウンドが徐々に確認されているそうだ。それがより広がればアイアンオーダーと人間の戦いは劇的な変化を起こす」
そこで立ち上がり、レオンはカリナを見つめた。
「お前が元いた世界で魔法の普及によって戦局が一気に変化したようにな」
その指摘にカリナは臓腑を掴まれたような恐怖を覚えた。カリナは過去の記憶を掘り起こした。
「新しい価値観と戦闘手段は戦場を一気に塗り替えます。驚くほどあっという間に」
「記憶に心当たりがあるようだな」
「人間と侵略者の立ち位置が逆になりますが。向こうでは人間が魔法と科学を組み合わせる手段を身に着けたことで、魔族と人間の力関係が一気に逆転しました」
「そういうことだ。残された猶予は極めて少ないということも頭の片隅に入れておけ」
そしてレオンは店の外へと向かう。カリナも後を追う。その時、レオンが背後を振り返った。
「そうだ――、ジェイの墓前に華を添えてくれたそうだな」
「はい、彼からはアーセナルコマンドとしてのすべてを叩き込んでいただきました」
「そうか、それならお前が戦場で戦うことで、あいつの存在証明になるだろう」
それはレオンの偽らざる本音だった。