勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
対してジェイは先ほどの親しさを隠すことなくカリナに歩み寄ってきた。
笑うと、浅黒い頬にえくぼが浮かぶ。陽焼けか地肌か判別のつかないその肌に、東と西の血が同居していた。
上下分けのパイロットスーツに革製ブーツ、襟元にはヘッドセットが引っ掛けてある。人懐っこい笑顔が印象的だった。
漆黒の巻き毛を手ぐしでかき上げながら、彼は気軽に手を振ってきた。異国の風をまとうような男だったが、笑顔は妙に親しみやすい。
「名前は――カリナと言ったね?」
「はい――」
敵か味方が明確にならない現状ではカリナはどうしても硬くなった。それでもジェイは自然体のままだった。
「そんなに緊張しないで。別にとって食うわけじゃないんだから」
笑いながらそう語りかけてくると流れるように名前を名乗る。
「俺はジャミール・カラユズ、レオン隊長の部下の1人だ。これから君を保護してしかるべき場所へ移動させるので大人しく従ってくれ。その間、身の安全は約束する」
「カリナと言いますよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
そしてそこでジェイの口調が少し真面目になった。
「うちのAIドローンを保護してくれたのは君だね? 3機のうち1機は残念だったが」
「申し訳ありません。敵からの突然の攻撃だったもので」
「ああ、分かってる。ドローンから映像や音声が届いてる。ただ重要な画像は機体の中の記憶装置に保存されているから、そっちの方が重要だったんだ」
カリナはその時ある光景を思い出した。両手を胸の前で合わせて告げる。
「あ! 亡くなった子の体の中から何か取り出してました」
「本当か? それは気づかなかった。どっちの機体だった?」
どっちと問われても外見に違いはないので区別しようがない。だが行動パターンは明らかに違う。積極的に前に出る方と、少し後ろに引いて状況を観察する方、その違いはカリナにもある程度つかめていた。
「ええと、すぐに後ろに引っ込む方――ですか」
「というと……、アリエスの方だな。後で調べてみるか」
カリナはジェイに尋ねた。
「名前があるんですか?」
「ああ、識別用にそれぞれ名前をつけている。教育・育成の結果で個性が出るんだ。タウラスは危険を承知で積極的に前に出る。アリエスは警戒心が強くて安全策を優先する。初対面には絶対になつかないんだ。それがここまで道案内をしたんだ、そうとう気に入られたぞ」
「本当に意思を持った人間みたいですね」
「AIってそういうもんさ。今回の作戦に連れてきたのは全部で12体。そのうち3体を広域偵察に飛ばしてたんだ。そしたら君の存在が分かったんだ」
「私がですか?」
「ああ、作戦行動が終わったら迎えに行く予定だったんだ。何しろあのあたりは1ヶ月前に敵の大規模攻撃が行われた場所だった。ところが本来、人がいないはずの領域で人間が発見された――、作戦本部と情報総括本部では、蜂の巣突いたような大騒ぎだぜ。それで本部の方からも最優先で回収救助命令が出ていたんだ」
つまりいずれはカリナのところに彼らがやってくる可能性があったのだ。それは安堵させられる事実だった。しかその安堵も長く続かなかった。
「そしてここから先の話だが、君は戦闘捕虜として扱う。大人しく従ってほしい」
ここでまた戦争の現実がカリナに突きつけられようとしていた。
「俺があんたを近くの大きい街まで送る。その後は上の連中の判断を待つ事になるが、悪く思わないでくれ、俺たちにはあんたの処遇を決定する権限がないんだ」
「――わかりました」
するとどこか別の場所から装甲車両が現れた。中で人が操っているのがわかる。全体的に装甲が分厚く防御能力が高いということはカリナが見てもよくわかる。
それと同時にジェイはカリナに右手を差し出した。
「まず悪いがその腰の剣を預けてくれ」
「どうしてもですか?」
「どうしてもだ。戦闘において捕虜とした人間を武装解除するのは常識だろう? ただ敵意がないのはわかってるからいずれ所持品も返されるはずだ」
レギオンブレイドは、そしてそこに宿るエリュシオは、カリナにとって家族に等しい存在だ。これと離れるということは心理的にもかなり厳しいものがある。
『カリナ様、 少しばかりの辛抱です』
カリナにエリュシオからの声が聞こえ、その声に諭されてため息混じりに、ジェイへとレギオンブレイドを託した。
無意味な抵抗をしなかったカリナを彼は好意的に見ていた。不安げな心情を隠しきれていないカリナに彼は慰める。
「大丈夫だよ。必ず君の手に帰ってくるから」
「はい、わかりました」
そして、ジェイは装甲車両の最後部の扉を開く。乗り込みやすいように昇降ステップもひらいていた。
「さ、乗ってくれ」
事ここに至ってはカリナも諦めるしか無かった。