勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
女性侍従たちがすぐに茶の用意をする。応接用のソファーに座り4人は久しぶりに心を許せる会話を始める。
「最近はどう?」とカリナが尋ねれば、
「変わらずだ。君から引き継いだ魔法剣士騎士団の次期団長として、若い連中の育成に毎日汗を流しているよ」
カリナはどうやら、アルカナヴァンガードの団長の地位をエルリックに譲ったようだ。
「魔族に荒らされた森の緑の再生も順調に進んでいるわ」
ミリアは彼女の悲願である、故郷の山河の再生と森林保護再生に心血を注いでいた。
「毎日楽しいわよ。国際魔法アカデミー機関で優秀な人材と研究三昧ね」
ソフィアは戦場から離れて、魔法機関ウィザーズオブワールドの名の有る立場に収まり、さらなる研究の毎日だ。
「そうかぁ。皆それぞれの道に進んでいるのね」
「たまに戦場が恋しくなるがな」
「それは我慢してよ。せっかくの平和の時なんだからさ」
「分かってるとも」
4人は笑い合う。多忙な日々にわずかに許された憩いの一時だ。だが、3人も、今のカリナの姿に感慨深い思いを抱いていた。
エルリックが言う。
「君がアルカナヴァンガードの団長から名誉団長になり、軍団運営から離れてから心配だったのだが――」
「気にしていただいてありがとうございます。今は、軍務の方より、アルカナヴァンガードの運営の更に上の方に関わっています。皆となかなか会えないのは寂しいけど」
ソフィアはさらに心配が深かった。
「今のあなたは、名実ともに世界の偉人――、アルカナヴァンガードの名誉団長にして、終身栄誉貴族の名士――、あらゆる方面から注目される時の人、いつか足元を救われるんじゃないかっと思って」
「それは――不安になるときもあるけど、私には優秀な相棒が居るから」
カリナはそう言いつつ傍らの聖剣レギオンブレイドにそっと手を触れた。
「えぇ、判ってるわ」
ソフィアはエリュシオがカリナを支え続けてくれると納得しているようだった。
更にその傍らでミリアが、カリナに問いかけた。
「ねぇ、カリナ。もしかしてまた髪の毛伸びた?」
その問いかけにカリナはため息交じりに答える。
「はい、側近の彼女たちが髪の毛を切るのを許してくれないので」
「え? どうして?」
髪を切る、ただそれだけなのにかなり深刻な事情が、カリナのため息から垣間見えた。
「それが――『高貴な方の髪の毛は、切れ端ですら取り合いになるので。厳重に管理した上でないと切ることができません』って言うの」
エルリックがあきれたようにため息をついた。
「聞いたことがある。カリナのほつれ毛が一本落ちていただけで有力貴族同士で取り合いになったということがあるそうだ」
ミリアが呆れて嫌そうな顔をした。
「えぇ? たかが女の子の髪の毛1本でしょう?」
「困ったことだが、 それだけ、カリナと言う存在が神格化されてしまってるんだよ」
ソフィアも呆れ気味につぶやく。
「これ放っておいたら、そのうち彼女を教祖にして教団でも作られそうね」
その話にカリナは真っ青な顔を左右に振った。
「そんなの嫌です! 今でも窮屈なのに!」
だがソフィアはカリナを慰めるように言った。
「大丈夫よ。私たちが守ってあげるから」
「ああ、その通りだ」
「私たちは仲間よ」
そこにはカリナがどんな立場になっても変わらぬ信頼があったのだ。
その時さらに部屋の扉がノックされた。
「はい!」
部屋の外から護衛官が語りかけてくる。
「カリナ様にご面会希望者です。カリナ様もご存知の方々でらっしゃいます」
「そう? なら構わないわ。お通しして」
「承知いたしました」
現在のカリナの地位だと彼女に会うのに、一面識も無い人物の側からの目通りはまず叶わない。最低限、知った仲であることや地位ある者の紹介がカリナと会うための必要条件だった。
「失礼いたします」
そう告げられながら部屋のドアが開く。そこから現れたのは懐かしい顔ぶれだった。
大ドラゴンの分身体のマルセウスを筆頭に諸種族の代表者たちが訪ねてきてくれたのだ。
「カリナ卿、少しお時間よろしいか」
その言葉に笑顔でカリナは答えた。
「はい! 大歓迎です!」
その声に応じて追加のソファーが用意される。カリナたちは輪になり、茶を手にしながら語らいあいが始まった。