勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
そこにはカリナの勇者としての苦難と苦闘をともにした、様々な種族の仲間達が顔を並べていた。
彼らを見るとカリナも、あの戦いの日々を思い出さずにはいられなかった。
全エルフ部族の代表を務める女性貴族ヴェネラはエルフの村の再建に力を注ぎ、
リザードマン種族の族長を務める老将ケラブノスは魔族残党との戦いを続けていた。
ドラゴン族のマルセウスは、位階第九段の竜王となり名実ともにドラゴン種族の代表を務め、
獣人種族代表の牡鹿のアーンスランドは、山羊獣人のノマと結婚報告をする。
狼獣人のゲオルグは、牙狼騎士団を率いて治安維持活動にはげみ、
豚の容姿のグローム族の族長ブルータスは、同胞を率いて土木工事と建設業で財を成していた。
トロールは山岳地方の故郷を同族たちと慎ましく暮らし、ゴブリンは魔導師たちの間で優秀な助手として役目を得ていた。
変わったところでは――、
エルフとドワーフの伝統的な対立が再燃し、両者間であわや戦争と言うところまで至ってしまい、グロームのブルータスが仲裁したということもあった。
ドワーフの族長のアルブレヒトのため息に、誰もが同情したのは言うまでもない。
懐かしさと新しさに安堵し、言葉と言葉を重ねて盛り上がる。彼らの語る事実にカリナは実に嬉しげだ。
「やっと〝新しい時代〟が始まったんですね」
「そう言うことです。それもこれも全て、カリナ様、勇者であるあなたが切り開いたのですよ」
マルセウスのその言葉に誰もが頷いていた。だがカリナは顔を左右に振る。
「いえ、この新たな時代は、みんなで力を合わせて切り開いたのですから」
カリナは得意にならずに、いつでも仲間たちと共にあることを心においていた。なればこそ、もっと語りたいこともあるだろう。カリナは皆に向けて問いかけた。
「皆さん、久しぶりにお会いできたのですから、みんなで酒宴でも催しませんか?」
否定する者は居なかった。
「いいな。付き合おう」とケラブノス、
「喜んで」とヴェネラはその傍らで頷いている。
「お前らも来るよな?」とゲオルグ、
「もちろんです!」とノマ、アーンスランドも同意見だ。
「いいのか? 樽ごとあけるぞ?」とアルブレヒト、苦笑しつつもブルータスも同意見だ、
「ドワーフとグローム、底なしだからな」
「いいんじゃないか? こう言うときくらいは」とエルリック、
「私も同道させて頂きましょう」とマルセウス、
「あなた達も来るわよね?」とソフィアはゴブリンたちに向けて語りかける。
「ギャッ!」
ゴブリンたちも嬉しそうに頷いていた。そしてミリアがまとめるように告げた。
「いいお店を知っています。手配いたしますね」
「お願いね」
そう答えながら立ち上がる。そして、夕暮れの街へと彼らは繰り出していく、
だが――
あれだけ語り合った、仲間たちは遠くに行ってしまう。
〝一人〟また〝一人〟と遠ざかっていく。
周囲は暗がりの中に落ちていく。まるで敵の罠にはまるかのように。
10の種族の仲間たちが消え失せた。
次いで、自分の親愛なるアルカナヴァンガードの、始まりの仲間である三人とカリナだけになってしまった。
最初に優れた斥候兵であったミリアが背中を向けた。カリナが声をかけても反応はない。
次に、魔導師のソフィアが姿を消した。いつでも頼りになる姉のような存在だった。
そうして最後――、戦士長のエルリックがカリナを突き飛ばした。
§
衝撃とともに、暗い空間の中を、どこまでも――、どこまでも――、落ちていく。
まさに奈落に落ちる感覚、その不気味な空虚さ――
カリナはその、落ちる感覚の恐怖に思わず目が覚めた。
「うわぁあああああっ!」
カリナは思わず大きな悲鳴を上げた。
飛び起きると慌てて周囲を眺めて、確かめる。
「ここは……ルミナリア……じゃない」
夢で見た光景と、今の光景そのギャップが彼女をなおさらに痛めつけた。
「誰もいない、私だけ? エリュシオ?」
常に一緒にいるはずのエリュシオはいない。
「剣……ないんだった」
そう呟くと毛布をギュッと握り締める。カリナのその頬に涙がにじむ。
あの夢の中で見た光景はもうありえない。
聖剣とエリュシオすら傍らにない現実が、あれは夢だとカリナに思い知らさせるのである。