勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
次の日の朝が来た。寝たり覚めたりを繰り返していてカリナの頭はすっきりしなかった。
「最悪――」
部屋の環境が気力を奪っているのかもしれないとカリナはおもう。朝の光も間接的にしか見ることができないから、時間の感覚が無くなりそうになる。
でも、希望はまだ捨ててはいなかった。
「〝あのとき〟とは違うのは誰もまだ私を〝殴って〟いない」
この世界に来てから、まだ誰からも暴力を振るわれていない。行動の自由が無いだけで人としてちゃんと扱ってもらえているのだ。
「私の話を否定せずに最後まで聞いてくれてるのはありがたかったな」
ただそれを信じてくれているかはまだわからないが。
朝食を終えたが午前中は何も起きなかった。休息を命じられて体を休めるだけだ。そしてお昼。パン食とスープと新鮮な野菜と言う人間的な昼食と一緒に差し入れが入ってきた。
独房の入り口を閉ざす鋼鉄製の扉には物の受け渡しのための小さな引き出しが備わっている。昼食の乗ったトレーと一緒に折りたたまれた手紙が載せられていた。
「誰からだろう?」
当然ながら、こちら側の世界に知り合いは居ない。連絡を取る相手も居ない。第一――
「こっちの世界の文字って読めるのかしら?」
手紙をひらいたがそれはカリナも慣れ親しんだアルファベットだった。
「良かった、文字が同じだ!」
読めるとなれば、当然、誰が送り主なのは当然気になる。
――ジャミーユ・カラユズ――
視線が辿った先に、送り主の名前があった。その名前はカリナの心の曇りを一辺に晴らしてくれた。
「ジェイさん!」
カリナは夢中で手紙に視線を走らせた。
――――――――――――――――――――――――
カリナへ、
今、勾留施設の中で尋問の真っ最中だと思う。
無意味に思える質問が繰り返され、話し相手もなく、心が擦り切れそうになるだろう。
だが、今が正念場だ。
良いか、よく聞け。
その尋問は〝お前が真実を話しているかどうか?〟を見極めるための物だ。
理解されるかどうかではない。
荒唐無稽な内容でも、真実を話していると伝われば、お前という人間を信じてもらえるはずだ。
お前がこの世界で自由を得られるまであと少しだ。
未来に希望を持て。
ジャミーユ・カラユズ
――――――――――――――――――――――――
手紙の中のその言葉は、何よりもカリナの心を強くしてくれた。
「ジェイさん――」
信じてくれる人が居る。理解してくれた人が居る。それだけで、カリナの心は暖かくなる。
そして――
「うん、大丈夫だよ。私は折れないよ」
カリナはこれからの希望を取り戻したのである。
そして、その日の午後も、また待機が続いた。
対話も、質問もない、独房の個室の中でひたすら待つだけだ。
ただ待つと言うのも心が擦り切れそうになるものだ。そして、夕方近くにようやく呼び出しがかかり、尋問室にカリナが移される。
これから、また機械越しの尋問かと思うと憂鬱になる。
「でも、ジェイさんは、自由が得られるまであと少しって――」
そう、考えながら、おとなしく席について待っているとドアがノックされる。
「入るぞ」
「は、はい」
丁寧な声掛けの後に扉が開いた。
「えっ?」
年の頃は20代後半くらいだろうか? 金髪の端正な顔立ちの男性が三つ揃えのスーツ姿で現れた。目の色は青系で、比較的短めの髪を整髪料で丁寧に整えている。
「始めよう」
「あっ、はい――」
舞台歌手のようなよく響く声が耳に心地よい。その彼に見惚れそうになりながらも、カリナは着座のまま頷いた。男性は歩き方、立ち振る舞い、ともに端正で落ち着きがあり優雅だ。雰囲気から言って軍人や戦士と言うよりも、政治官僚や貴族の上級侍従のような落ち着き払った雰囲気があった。
身につけているスーツの左胸には、その組織の紋章のようなものなのだろう丸い星を背後に翼を大きく広げた鷹のエンブレムの徽章が付けられている。
――鷹の紋章?――
カリナが知る限り鷹を紋章として取り入れているのは、貴族や騎士団でも由緒ある高位の家系である事が多い。
――鷹は、国土防衛や国家守護に貢献のあった高位貴族に許されるものだわ。組織としても、都市や国家の治安維持や犯罪取締りを目的とした憲兵組織や軍警察が用いるもの。今までの人たちとは明らかに違うわ――
カリナはそのシンボルに彼の出自と所属の確かさを感じた。なにより、その男性からは、これまでこの世界で出会ったどの人物よりも威厳を感じる。彼は胸元から1枚の小さな板を取り出す。板には顔写真と名前が長い数字と共に刻印されている。それを示して青い目でカリナを見つめながら名乗った。
「公的機関、平和維持ネットワーク『ピースセーファー』情報管理官エージェントのルーカス・アイヴァーソンだ。君の処遇に対して伝える」
非常に理知的な語り口だった。自然と丁寧な返答が口を出た。
「ご丁寧に恐縮です。カリナ・ウィングスです。よろしくお願いします」
机を挟み向かい合わせに椅子に腰掛けて対話が始まる。
「尋問や様々な検査を行ったが、全ては君が何者なのか? と言うことを確定するためだ。身体検査を兼ねて精神状態も調査した。それらの検査結果をもとに総合的に判断、発言には嘘や作為的な部分がなく事実を話しているものと判断した」
ルーカスは一呼吸おいてカリナに告げた。
「次元の壁を超えて異なる別世界から転移漂着した人間であると認識する」
その一言はカリナにとって何よりもホッとする言葉だった。
「信じてもらえて何よりです。感謝いたします」
「実は君を別の世界の人間と認識した理由はもう1つある」
「え? それは一体?」
ルーカスは懐から何か手のひら台の機械を取り出すとそれに向けて話しかけた。
「例の剣を」
その時、尋問室の扉が開き1人の男性がカリナの愛剣のレギオンブレイドを携えて現れた。無論、危険がないように透明なフィルムでくるまれていた。
「私の!」
カリナは思わず立ち上がりそうになる。その様子を見てルーカスは冷たく言う。
「落ち着け、所持許可はまだ出ていない」
「あ、はい――」
意気銷沈するカリナにルーカスは告げる。
「この剣の中にエリュシオと名乗る意識体が有る事が確認され、〝彼女〟に対しても尋問を行った。その結果、人間と同等の人格を有すること、この地球世界には存在しないものであると判断された。そして、それを所持していた君も、エリュシオと同じように、別次元世界の存在であると類推し、これが了承された」
一枚の書類が渡される。書かれている文字は奇しくもソルスター世界の物とほぼ同一だった。
「――処遇決定通知?――」
「発言、情報、精神状態も考慮し、私たちはあなたを保護しこの世界において生活が営めるように支援すると決定した。この剣も貴方の所持物として後ほど返却となる」
「はい! ありがとうございます!」
相手が誠意をもって対応してくれているのだ、礼儀をもって応じるのは当然だろう。カリナの言葉にかすかに微笑みながらルーカスは手のひらより小さい板を取り出した。カリナの顔写真が貼られ様々な文字が刻印されている。
「これを支給する。身分証明用のIDだ」
〝ID〟と言う言葉にピンとくる。
「それ、戦場で部隊長の方に提示を求められました!」
「ならば速い。この世界で必要な個人番号を証明するものだ。紛失は絶対にするな」
「絶対にですか?」
「あぁ」
断言する声にその重要性を知らずには居られなかった。
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