勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
壊れるカリナ ―ジェイはカリナを抱きしめ励ました―
「エルリック――、ソフィア――、ミリア――」
幼い頃からずっと一緒だった3人。カリナにとっては仲間以上、家族のような存在だった。それが夢に出てきたのだ。
「あれは〝未来〟の私――、こっちに来なかったら起きていたであろう未来――、平和になったソルスターを見守っていたはずの私だ」
カリナは体を震えさせ始めた。
「今向こうには、私がいない。世界をまとめる〝勇者〟がないんだ」
その事実はカリナを恐怖させた。
「壊れちゃう――、世界が壊れちゃう――」
滲んでいたはずの涙は、大粒の涙となりカリナの頬を伝った。そして膝を抱えるようにしてカリナは号泣し始めた。
「帰りたい! 帰らなきゃ――」
カリナのその声が聞こえたのだろう。スピーカー越しにジェイの声が聞こえた
『どうした? 何かあったか』
カリナは答えられなかった。そればかりか、うわ言のようにつぶやくばかりだ。
「世界が壊れちゃう……また戦争になっちゃう……」
そのつぶやきの内容から、ジェイも、カリナが尋常じゃない状態にあると察したのだろう。スピーカー越しではなく扉を開けて中に入ってきたのだ。
「おい! カリナ! どうしたんだ?」
肩を掴まれて大きな声で話しかけられる。すぐそばに人がいるその事実がカリナはハッと冷静にさせた。
「ごめんなさい、悪い夢を見てしまって」
「どんな夢だ?」
「平和になった世界で私は勇者としてその世界を見守ってるの。難しい政治の世界にも参加して、仲間たちもそれぞれ地位を得て立派になって、平和な世界で楽しく暮らしてるの――」
それは言葉だけを聞けば楽しい夢のように聞こえる。でもジェイはその夢の残酷さを即座に理解した。
「君がこちらの世界に来ることがなかった時の未来か?」
カリナは泣き顔で視線を伏せながらゆっくりと頷いた。
「今向こう側には私がいない。世界をまとめる勇者がいない――、国と国とが――、人と人とが、別々の方向を見るようになってしまう。そうしたら世界は――」
だがジェイはそこでカリナを強く抱きしめた。その上でカリナの髪をそっと撫でたのだ。その上で意外すぎる言葉でカリナをたしなめた。
「思い上がるな」
その言葉にカリナはハッとなった。ジェイの言葉は続く。
「世界は、人間達ってやつは、1人がいなくなったからって簡単には壊れないよ。俺たちの世界を見てみろ、毎日何人の人間が死んでると思う?」
「毎日――」
「そうだ。でもなカリナ、これだけは覚えとけ。それでも世界は回っているんだ。生きるために、それこそみんなが幸せになれるようにと、1人が倒れたら他の1人がまた手を出す。そしてお互い支え合う。世界はそうやって回っている」
そこでカリナはある事実に気づいた。
「まだ向こうに仲間たちがいる――」
「そうだ。お前が背負ったものを、代わりに背負ってくれる仲間がいるんだろう? だったら何も恐れるものはないよ」
「はい――」
ジェイはカリナが夢を見たのは気のせいだとは言わなかった
「環境が激変してるからな。ましてや、完全に見知らぬ世界に飛び込んできたとなればなおさらだ。不安が不安を増幅させている。移動した先に医療施設もある少し相談するといい」
とても理性的で優しい言葉だった。下手な慰めでないからこそ、余計に安心した。
「はい――」
「出発するにはまだ早い。もう少しゆっくり眠っていろ」
車両の中に据えられた時計を見れば、今深夜の3:00――まだ眠れる時間はある
カリナ毛布にくるまって、また眠りにつくのだった。
毛布の上に横たわりぼんやりとしたまま目を閉じる。
「早く悪夢を見ないようになるといいな」
ないものはない。カリナの周りから1つの世界が、手が届かないところに行ってしまったのだ。
「みんな、後は頼んだからね」
それが今のカリナに出せる唯一の言葉だった。
そして再び簡易的な眠りに落ちていく。だとしても、彼女を守るものは、あまりにも少なかったのだった。