勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
ジェイは人員輸送車から降りて後部の扉を閉じると再び施錠した。
そして運転席へと戻りながら手のひらサイズの通信端末を取り出しレオンへと通信をつないだ。相手をコールするメッセージが表示された。
時刻は深夜だからこそ、真剣な内容であると向こうも察したようだ。
『ジェイ、何があったか?』
電話の向こうの相手はレオンだった。
「隊長、ちょっとやばいです。彼女のメンタル、ガタガタですよ」
『――情緒不安定か?』
「はい、仲間も戦友も何もかもいない状況になって、心の支えがなくなっているようです。自分がいなくなったことで故郷の世界が戦争になってしまうとまで呟いてます」
『単なる思い込みか? それとも不安神経発作か? パニック障害か?』
「少なくとも単なる思い込みではないですね。判断材料はまちがっていないようなので、状況の激変による不安神経発作が一番妥当でしょう」
『安定剤の投与は現時点では妥当ではないな』
「分かってます。不用意に神経系の薬を与えてかえって状況が悪化することもありますから」
『その通りだ』
レオンのその言葉にジェイはレオンにあることを許可を求めた。
「隊長、あの娘にあの剣を返していいですか? あれは彼女にとってアイデンティティを支える一番重要なアイテムです。彼女、自分自身を支えきれなくなってるんです」
『その考えを否定はしない。あの剣が彼女にとって唯一無二のものであるということも同意する。だが、現時点で彼女の剣の返却はできない』
レオンの判断は冷静そのものだった。
『あの剣が、十分な殺傷能力を持つと判断される以上、公的な許可なく返却することはできない。戦闘状況のログをチェックしたところ、敵クロムハウンドの残存機体と交戦しあの剣で敵の頭部を破壊しているところが確認できた』
「えっ? アイアンオーダーのクロムハウンドを相手に? ただの剣で?」
『こちらの世界の金属工学から考えて想像もできん結果だ。分かるか? それだけの攻撃力を持つ武器を返却するということの意味を』
ジェイは思わず息を飲んだ。
「確かに許可なしに返却は不可能ですね」
『そういうことだ』
だがレオンは判断をそこで止めなかった。
『1つ言っておく。ジェイ、俺がなぜお前があの娘を送るのを許可したか? その理由を考えろ』
「俺が送る理由?」
『そうだ。本来ならば治安維持組織のピースセーファーのエージェントに現地で引き渡して終わりだ。それをあえてお前に送らせた』
それだけで十分な説明だった。
「わかりました。俺が彼女との対話役となり、不安を取り除く努力を継続します」
『ああ、彼女に敵意がないのは分かっている』
「はい、彼女が適切な処遇が得られるように努力します」
『頼んだぞ』
そう言ってレオンの通信は切れた。
運転席に乗り込むとモニターをそっと立ち上げて監視カメラ越しにカリナを見る。
「寝付いたか――」
そう呟いてレオンも仮眠を取った。
「もう少し安全な場所で外の空気を吸わせてやるか」
ジェイはカリナをそっとみまもり続けるのである。