勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
そこからさらに一昼夜、途中の休憩を挟んで走り続ける。
車両が急に揺れなくなる。そして、停車すればすでに建物の中だった。
ジェイの姿を探したが、彼とは最後に一度だけ会うことができた。
「俺ができるのはここまでだ。しかし君に敵意がないのわかってる。悪い処遇はされないはずだ」
「はい」
そしてジェイはカリナの肩をそっと叩いた。
「あの剣は、いつか必ず返却される。それまでの辛抱だ」
「はい」
彼の言葉がカリナにはとてもありがたかった。
ジェイから施設の職員と思わしき、制服姿の男性たちに引き渡され誘導される。
男たちは詰め襟の制服に制帽をしている。その気配から刑務官のような存在なのだろうと、カリナは推測した。
ジェイの事をさらに尋ねたかったが、そこはこらえた。彼はあくまでもカリナを移送しただけなのだ。この施設にはこの施設のルールが有る。そう考えれば彼の別れの言葉はぎりぎりだったのだろう。
カリナは外の風景を一切見るとこなく施設を歩かされる。
そして窓に格子の嵌った部屋に案内された。着衣はそのままだったが所持品は預けることになり
「指示有るまでこの部屋で待機しろ」
「はい」
男たちはそれ以上のことは何も教えてくれなかった。ひどい連中だとは想わなかった。
――彼らは彼らの役目を全うしているだけだもの――
着いたのが夕暮れだったが、夜になり別室に案内され、見た目30代ほどの女性の係員により簡単な身体検査をされた。
見たこともない器具で詳細に調べられ、血も少量抜き取られたが必要なことだと諭された。
「頭痛や熱や吐き気と言った不調はある?」
「いえ、今のところは大丈夫です」
女性であるカリナの事情にも配慮してくれるのはありがたかった。だが辛かったのは尋問だ。機械の端末越しに声だけが聞こえる。人としての情ある対応とは到底言えなかった。
「名前を」
「カリナ・ウイングス」
「出身地は」
「ルミナリア光国」
「所属組織は」
「魔法剣士騎士団」
「地位は」
「前騎士団長、現栄誉団長です」
「年齢は?」
「満年齢で17歳です」
「ご身分は?」
「元平民、孤児で魔法戦士階級を経て、現在は終身栄誉貴族です」
「なぜ、あの場所にいたのですか?」
「落雷を受けて吹き飛ばされたら、戦場のど真ん中に倒れていました。落雷と転移の原因については全く心当たりがありません」
おそらくはあの暴走魔法陣が関連しているのだろうが、いまこここでその事を明言しても意味は薄いだろう。
「あなたが〝この世界〟に移動してきた理由は」
「分かりません。情報不足で推測することもできません」
同じことを複数回問われる事もある。だが抵抗と反発は状況を悪化させる。従順に隠さずにソルスター世界と魔法についても語った。無論、魔族についても。
尋問が終わると個室に移動する。換気用の窓があるが鉄格子がハマっている。入口のドアは施錠されている。完全に牢屋だ。
「でも、ベッドはちゃんとしてるし、トイレはちゃんと隠れるし」
最低限、人として扱ってもらえている。なによりこちらの世界には〝拷問〟が無いようだ。
「戦争中だから敵か味方か判別できないと処遇を決められないんだろうな」
食事も人間らしいものがきちんと出された。パンにスープに加工された肉、果汁を固めたゼリーもある。なにより驚いたものがある。
「わ、すごい、氷菓だ!」
その日の夜にはシャーベットも出てきた。カリナの世界では冷凍された菓子はその手間から超高級品だ。
「美味しい! オレンジの果汁がこんなに濃いなんて!」
多分にして人工甘味料や人工香料も入っているのだろうが、さすがにそこまではカリナにはわからない。白砂糖すら高級品だからだ。だが、そのシャーベットを食べきった時にあることに気づいた。
「そうか、文明そのものが違うんだ」
そのことに気づいたとき、あらためて心細さがカリナを襲った。今は彼女を慰めるエリュシオも居なかった。
ここがどこなのか、これからどうなるのか、検討もつかない。脳裏をよぎるのは信頼する仲間たちの顔だ。
「〝みんな〟どうしているかなぁ――」
みんなとはかつてともに魔族と戦ったエルリックたちの事だ。どんな辛いことがあっても彼らが必ず一緒に居てくれた。だから寂しくなかった。でも今はカリナは〝一人ぼっち〟だ。
「ぐすっ――」
思わず涙が流れる。やっと次の目標を見いだせたと思った矢先だ。これからどうなるのか見当もつかない。
「どうしてこうなるんだろう」
気持ちを紛らわせようと視線を窓に向けたが、窓にハマった鉄格子が月明かりにくっきりと浮かんでいるだけだ。それでも今は耐えるしかない。そう自分に言い聞かせてカリナはベッドの中に潜り込むと眠りに落ちていったのだった。