聖剣機兵カリナ ―魔王を倒した少女勇者は、AI戦争の未来世界でも人類を救う―   作:美風慶伍

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目覚めの朝と勇者のスケジュール

 少女の目がうっすらと開いた。まだ半分まどろみの中だが、目覚めはすっきりとしていた。

 

『マスター、よく寝られましたか?』

 

 声をかけてきたのは聖剣の中に宿る精霊エリュシオだ。

 カリナは聖剣をベッドの枕元に横たえておいた。その聖剣からエリュシオの聞こえる。

 

「おはようエリュシオ、ええしっかり眠ることができたわ」

『なんだか嬉しそうですね、良い夢でも見ましたか?』

「うん――、とても懐かしい夢。仲間たちと一緒に平和を取り戻した時の夢よ」

『そうですか、良い夢を見られたのであれば何よりです』

「うん。」

 

 ベッドの上で上半身を起こして、周囲を見回すとベッドサイドテーブルに置いたベルを鳴らす。

 そのベルの音に導かれたように、数人のエプロンドレス姿の侍女がドアを開けて入ってくる。

 カリナは彼女たちに告げる。

 

「朝の着替えをお願いいたします」

「承知いたしました。カリナ様」

 

 そして彼女たちはカリナがベッドから降りてくるのを待って朝の準備を始めた。

 寝室の隣にある沐浴室に移り、お清めの沐浴を兼ねた入浴を行い、体に法儀礼済みの香油を丹念に塗り込む。

 さらにムダ毛のお手入れ、体の拭き上げ、髪すき、シュミーズ下着の着付けと続く。

 こうして体の手入れが終わると、勇者としての着付けへとうつる。

 身につけるのは愛用の戦士衣装一式――

 騎士風のサーコートにホーズズボン、胸に金モールの装飾のついた胸甲鎧(キュイラス)をつける。腰に愛用の剣を下げ、頭に銀のサークレットを付け、肩から背中にマントをなびかせて出来上がりだ。

 

 ドレッサールームの壁一面には姿見の鏡が張り巡らされている。

 それに映る勇者姿の自分自身を見てカリナは自問自答する。

 

――本当に私で良かったのかな?――

 

 窓の外からの光が一筋、鏡に飛び込んだときにのきらめきにあるビジョンが見えた。

 今まで歩んできた苦難の道、6歳で聖剣の運命に囚われ、独裁国家で過酷な軍事訓練を受けさせられた。そして戦場に出て聖剣の勇者として覚醒し、仲間たちを得て精鋭軍団を率いて今日に至る。その日々の光景がフラッシュバックする。まるで昨夜の夢をリフレインするかのように。

 

――キィィイイン――

 

 不意に耳鳴りがして鏡の輝きの向こうに見えたビジョンが歪み、不穏な光景が映る。

 暗く閉ざされた空、大空を切り裂く光、そして、大地を踏みしめる轟音――

 

「うっ!」

 

 カリナは思わず目を閉じて鏡から目をそらした。

 

「カリナ様?」

 

 傍らに控える侍女が語りかけてくる。

 

「大丈夫ですか?」

「えぇ、少したちくらみがしただけ」

「そうですか? このところご公務がご多忙のご様子ですからお疲れなのでは?」

「えぇ、解ってるわ。魔王討伐の事後処理もあと少しだから、そうすればひと息つけるわ」

「はやく、そうなられるとよろしいですね」

 

 その侍女がカリナが愛用している聖剣を差し出してくる。。

 

「カリナ様――、どうぞ」

「ありがとう」

 

 カリナは剣を受け取る。

 この聖剣レギオンブレイドは、カリナに力を与えた存在であると同時に、カリナを戦いの運命に引きずり込んだ存在でもある。

 だが恨みはしない。エリュシオには感謝しか無い。

 

『マスター――、なにかご不安でも?』

 

 エリュシオは敏感だった。カリナとは一番近い距離にある存在だ。まるで母娘のようにお互いの思いを理解できるのだ。

 

「――うん、すこし不穏なビジョンが見えたから」

『過去の戦いの記憶では?』

「そうだといいのだけど――」

『その剣については、後ほどお聞かせください』

 

 エリュシオはカリナを強く問いたださない。ただ、いつでも傍に寄り添い、その声をじっと聞いてくれる。だからこそ、エリュシオの存在がカリナには何よりもありがたいのだ。

 

「ありがとう、エリュシオ」

『はい、カリナ』

「今日もよろしくね」

『無論です。私はあなたをお支えするためにともに歩んでいるのですから』

 

 そして左腰に鞘とともにレギオンブレイドを下げた。

 

「魔王軍との戦いは終わったけど、勇者としての役目はまだまだ続くわ」

『平和を取り戻し、大いなる戦いは終わりました。ですがこれからは平和を守り抜く戦いが始まります』

「望むところよ!」

『では参りましょうか』

「ええ!」

 

 力強い声を発するとカリナは屋敷の外へ向けて歩み始めた。

 出立準備を終え、邸宅の大廊下を外へと向けて歩く。

 そんなカリナに寄り添うように女性侍従の長であるクレオール女史がローブドレス姿で今日の予定を説明する。

 

「カリナ様、本日は王宮にて第3王女、第4王女様とお茶会となります。王宮登城の途中にて王都警備軍の将校の方々と朝食を兼ねたご会談も催されます」

「判ったわ。その際に王宮の侍従長様経由で第1王子のモーガン様に言付けのお手紙を送っておいてほしいの。文面は書いておいたわ」

「承知いたしました」

「よろしくね」

 

 カリナの邸宅に男性はほぼいない。クレオール女史が他の邸宅における執事や家政婦のような役目を果たしているのだ。

 

「いってらっしゃいませ」

 

 彼女の声がカリナの背中に向けてかけられた。

 カリナは勇者としての装いに身を包み出立した。朝日がまだ登りきらぬ早朝だった。

 

「さあ今日も行こう!」

 

 昨夜までは日頃の胃にもたれるような面倒な業務に押されて弱音を吐いていたカリナだったが、今は別人のように元気いっぱいに歩いていた。

 カリナは、早朝の爽快な風の中を邸宅の敷地を歩き、使用人たちに見送られながら歩き公務用の馬車に乗り込む。

 

「どうぞ」

 

 馬車を操る馭者の補助を受けながら馬車に乗り込み、お付きの女性侍従ともに最初の目的地に向かう。まずは王都警備軍の将校用の上級官舎だ。そこの応接ルームでの朝食会に招かれたのだ。

 

「行って」

「はっ」

 

 カリナの声に馭者が答えて馬車を走らせ、王都郊外にある邸宅から一路王都への道をひた走る。カリナの邸宅の周囲は緑の木々と水辺に恵まれた豊かな自然の残る場所だ。そこから舗装された石畳の道をひた走り、王都へと一路向かうのだった。

 




第2話までお読みいただき、ありがとうございます。

少女勇者カリナの物語は、ここからさらに大きく動き出していきます。

第3話は、このあと30分後に投稿予定です。

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聖剣と英霊、そして鋼の機兵が交差する物語を、引き続きよろしくお願いいたします。
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