勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
一歩一歩、足元を踏みしめて歩き、カリナは周りを眺めながら、エリュシオに情報を求めた。
「エリュシオ――あなたの方で何かわかることはある?」
『はい、マスター。先ほどから周囲を探索していますが人間の気配は、ほとんどありません』
「生物は?」
『知性体もいなければ、食料になりそうな動物すらいません』
「人家は?」
『居住不可能な破壊されたものが、まばらに』
「助けを求めることも無理そうね」
『着実に長距離を移動することは避けられないかもしれません』
「うん――」
そう呟くと力なくうつむいて唇を噛みしめた。
だが少女は、カリナはうつむいたままではいなかった。
無意識のうちに、乱れた髪を右手で整えるとゆっくりと歩き始めた。
「情報不足だわ。少し歩いて別の場所を見てみましょう」
『かしこまりました』
そしてカリナとエリュシオはその場を離れて歩き出した。
歩けない場所ではない。ただ緑が何もなく、岩と
「本当に何もないわね」
『無人の荒野――、そう形容するより他はありません』
「でも絶望するのは早計だわ。太陽の状態から今は夕暮れ遅く。この状態では何も見えないのは当然」
『では朝を待ちますか?』
「身を隠せる場所があれば」
『探しましょう、まずはそこからです』
2人は結論を導き出す。
冷静を絶対に崩さない姿なき声のエリュシオ、
左腰に西洋風の剣を下げた、剣士風の装いのカリナ、
2人はこの絶望的な状況を乗り越えるために、気高く、力強く、確実に、その一歩を踏み出した。
「行くわよ、エリュシオ」
『はいマスター』
2人は言葉を交わしあうと歩き出したのだった。
§
それからどれほど歩いただろう。カリナは気丈さを失っては居なかったが、その表情は険しいままだった。
「せっかく、戦いを終えて、平和を掴んだというのに――」
『申し訳ありません。あの暴走魔法陣を私が早期に察知していれば』
「いいえ、あなたが悪いわけではないわ。冷静さを欠いてあの女性魔族を追いかけていた私も迂闊だったのよ」
カリナはエリュシオを責めなかった。
『お心遣い痛み入ります』
「エリュシオ、まずは生き残りましょう。それが先だわ」
『そうですね。朝を迎えて、ここがどこで、今がいつなのか? を突き止めることを目標にしましょう』
お互いをいたわる2人だったが、それでもカリナの表情から寂しさは消えない。
「エルリックは――、ミリアは――、ソフィアは――どこに行ったのかしら? やはり〝向こう側〟に居るのかしら?」
それはおそらく仲間の名前だろう。
『あの暴走魔法陣から移動してきたのは私たちのみです』
「そう――」
信頼する仲間は近くに居ない。話し相手になるのは姿無き存在のエリュシオのみ。事実上、無人の荒野にカリナ一人だけなのだ。
それも周囲に何があるかわからないような、夜の闇がカリナを包み込もうとしていた。
その状況がどんな事態を引き起こすのか? カリナにも、どんな事態が起こり得るかは予想できていた。
「岩砂漠で夜になれば、温度が下がる――、手元が見えなくなる前に身を隠せる場所を見つけないと――」
その不安を払ったのはエリュシオだ。
『マスター、建築物の残骸があります。そのまま前方へと進んで下さい』
「もう、見つけたの?」
『はい、遠隔視で――』
「さすが、エリュシオね」
少しだけカリナの表情に笑みが戻った。そして、しばらく歩くと荒れ果てた道が見つかった。その道を歩けば、先に崩れ落ちた建物が見えてくる。
「あった――石造りの人家?」
『そのようです。石積みの作りと金属の柱が組み合わせてあるようで』
「でも――、2階から上がなにかに吹き飛ばされたような感じね」
まるで数階建ての建物が爆破されたかのような状況だ。
「夜露が避けられるだけでも幸運だけど」
カリナがそんなふうにホッとした瞬間だった。
――ヴォン!――
――ヴゥウウウウウン――
建築物の背後から唸りを上げて〝何か〟が宙に浮きながら移動してくる。
「なにかしら?」
『生物や魔族では無いようです。手足のない四角い浮遊物――、生命体ではありません』
「魔導兵器?」
『我々の知識では、その認識が近いかと』
それは3体ほどで、大きさは手のひらから少しはみ出る程度と小さく、本体の四隅に円形の回転物があり、その力で浮いているようだ。
正方形の物体にガラス製のレンズがはめ込まれていて、3体ともカリナをじっと見つめている。
それが〝AIドローン〟と呼ばれるものであるとカリナが知るのはずっと後のことである。