勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う―   作:美風慶伍

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カリナの未来都市チャレンジ ―着替えを見られたのハプニングです―

 そして社会訓練開始から30日目、カリナ一人で携帯情報端末の地図データをもとに一日かけて公共交通機関を3ルート使って一周してくるテストが行われた。ハイブリッド電動バスで鉄道ステーションに向かい都市内電車に乗りかえ3駅目で地下鉄に乗り換えて医療施設に戻ってくるテストだ。その際に昼食を自力で購入する事もテストに含まれた。

 

「頑張れよ! お前ならできる!」

 

 ジェイの励ましの声が何より嬉しかった。服装はロングのシフォンスカートに、ボタンブラウスに、布シューズに、と言うコーデで、頭にはフリジア帽をつけて髪の毛を抑えた。街に出ても違和感の少ない装いで揃えて、カリナは街へと繰り出していく。

 電子マネー装置で料金を支払うのがカリナの苦手だが、それも今やスムーズだ。

 

「そうか、この中に〝お金の要素〟がネットワーク経由で入っててそれを他の機械とやり取りするのか」

 

 ようやくに情報通貨と言う概念の肝を理解した瞬間だった。

 

「で、ステーションにここで乗り換えて」

 

 電子マネーのコツがわかったことでチケット購入もスムーズだった。電車の発車時刻も分刻みで動く慌ただしさに惑わされずに冷静に把握できた。

 

「うん、やっとわかった〝時間の使い方〟が」

 

 それまでの世界では時間と言う概念は一時間刻み程度がせいぜいだ。この世界での分単位の行動というのが分からなかったのだ。

 

「お昼はここにしよう」

 

 ステーション内に喫茶店があった。オーソドックスなパスタのランチセットを購入、これもクリアだ。

 

「なんだ、そういう事だったのか。うん、もう怖くない」

 

 彼女に失敗を繰り返させていたのは〝未知なる物への恐怖〟だった。列車に乗り3つ目の駅で降りて地下鉄に乗り換える。混み合う人混みの中でも自分の居場所を見失わなかった。そして、医療施設近くの駅で降りると改札をでて地上に向かう。電子地図で施設に一番近い出口を探しすぐに見つける。

 

「ここから出れば」

 

 そこでカリナを待っていたのは彼女が寝起きをしている医療施設だった。その玄関入り口でジェイが待ってくれていた。

 

「おかえり!」

「只今戻りました!」

「もう大丈夫だな?」

「はい! やっと躓いていたことがわかりました。〝時間の流れ〟と〝お金の要素〟と〝情報の把握〟もう怖くありません!」

 

 カリナは今、やっと情報社会であるこの世界に適応しようとしていたのだった。

 

§

 

 だが、こんなトラブルもあった。

 

「服装の身に付け方はもう大丈夫かい?」

「はい」

 

 ボタンのない文化のカリナだったので支給された服装がボタンやベルトありきなため多少の不安はあった。しかしカリナはすでにこの世界の服装文化に適応していた。

 

「前の世界にも同じようなものがあったのか?」

「いえ、初めて見るものが多いです。でも、構造と要点さえ分かれば、なんとかできますから」

 

 その一言にカリナと言う人間のスペックの高さを感じずにはいられなかった。さらには、ジェイはカリナの美しさに心を奪われる出来事があった。

 

 ある日のことだ、その日の予定の変更を伝えようと、いつもより早い時間にカリナの病室を尋ねたことがあった。普段ならノックをしてから開けるのだが、その日に限ってノックし忘れた。

 

「カリナ、今日の予定だけど――」

 

 そう言いながらドアを開けた時だ。

 

「きゃっ!」

 

 可愛らしい悲鳴が上がった。同時に最悪の状況が起きていた。

 

「す、すまん!」

 

――バタンッ!――

 

 お詫びを口にしながら慌ててドアを閉める。だが、時すでに遅しだ。ジェイの眼にはほぼ裸体のカリナの肉体美が余すところなく焼き付いていた。

 

「ノックくらいしてよ!」

 

 ドアの向こうから大声が聞こえる。そしてすすり泣く声も。

 

「本当にごめん!」

 

 重ねて謝るが返事は還ってこない。ジェイはよりによって、カリナが病院支給のパジャマを脱いで下着を着替えている最中にドアを開けてしまったのだ。朝の強い光を浴びて体の陰影に至るまでくっきりと浮かび上がっている状態だ。一糸まとわぬカリナの姿を目の当たりにしてしまったのだ。

 

「すげぇプロポーションだったな」

 

 カリナの体の感想を思わず口にする。とにかく、この世界の女性にはない野生的な美しさがあった。

 剣と魔法による戦闘により極限まで絞り上げられた肉体美、肌理(きめ)細かい白くて美しい素肌、無駄な贅肉の一切ない絞り上げられたスタイル、髪の毛は神話の絵画のミューズ(女神)の様に長く煌めいて美しかった。そして、その吸い込まれるような青い瞳。

 それを目の当たりにしたのだ、目に焼き付いて離れないのが当然だろう。

 でも、部屋の中からは返事は帰ってこない。途方に暮れながらもその場を一旦離れた。

 

 施設内の休憩室に逃れてこれからの対応を考えていたところに、ルーカスがむっとした表情でやってきた。

 

「おい! ジェイお前何やらかした!」

「あ――」

 

 取り繕っても仕方ない。事実を素直に話す。

 

「間違ってノックせずにドアを開けたんだ。そしたら着替え中でよ」

 

 その答えにルーカスは大きなため息をついた。

 

「まったく! 彼女の今までの生活習慣とか考慮しろ! 洋服にボディラインが出るだけで気にするような子なんだ! 中世の女性たちと同じなんだ! 素肌をまともに見られるのがどれほど大事(おおごと)なのか分かるだろ! 彼女泣いてたぞ!」

「うわ、やっちまった――」

 

 時代によって、女性が貞淑と慎ましやかを重んじて配偶者以外には素肌すら見せないと言うのは決して珍しくない。カリナの場合、故郷の文化がまさにその通りなのだ。ジェイは自分がとんでもない地雷を踏んでしまったことをあらためて思い知らされた。

 

「と、とりあえず今日の予定は明日以降に延期しよう。今日は一日休憩にすると伝えてくれ」

「わかった。それで?」

 

 少し沈黙した後につぶやく。

 

「なにか〝お詫び〟の品物、探してくる」

 

 ジェイはとぼとぼと病院敷地をあとにした。

 病室ではヒルトがカリナを慰めていた。

 

「見られた――、全部見られちゃった――」

「大丈夫よ。それぐらいであなたの尊厳は失われないわ。あとでちゃんと謝罪させるから」

「うん――」

 

 そもそも、着替えや身の回りの世話は、侍女や部下の女性の手を借りていたカリナだ。異性に肌を見られると言うのがそもそもありえないのだ。

 カリナはヒルトの胸の中で少女のようにすがりついていたのだった。

 結局、このことについては――、ジェイによる正式な謝罪と、お詫びの品として化粧箱いっぱいの高級チョコレートの詰め合わせが送られた。

 

「本当に申し訳なかった」

 

 いつもの軽口はどこへやら。真面目に謝るジェイにカリナは告げた。

 

「謝罪は受け入れます。ですが当面の間は入室を禁じます」 

 

 やや威厳のある硬い言い回しに、カリナのお怒りのレベルが滲んでいた。

 明くる日、謝罪を受け入れて機嫌を直したカリナに、社会適応のレクチャーが再開されたのだった。

 




今回は、カリナが未来世界の常識や技術に向き合う回でした。
勇者として強かった彼女も、この世界ではまだ知らないことばかりです。
一歩ずつネクシスドメインに適応していく姿を、見守っていただけましたら嬉しいです。
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