勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
カリナは世界地図を目の当たりにしながらも、早くもかつての救世勇者として資質を見せようとしていた。
「敵であるアイアンオーダー軍の勢力は、まずは西部中部のヨーロッパを制圧、そこに存在した国家群を喪失させた。そして、海上にも侵攻し北大西洋を制圧しアメリカ大陸にも到達。アメリカ大陸の東岸に集中していた国家機能を破壊するとアメリカ大陸にも勢力圏を得ることに成功、こうして海を挟んで巨大な勢力範囲を得て、現在に至っている――と言うことなのですね?」
「さすがだな、情報量の多さに混乱するかとも思ったんだが、予想違いだったようだね。概要としては君の理解でほぼ間違いない」
だがジェイはさらに、カリナがただの17歳の少女ではないと、その非凡さを思い知らされる事になる。
「ではもう一つ、ヨーロッパ大陸主要部が彼らの勢力範囲だとして、同じ海を挟んだ対岸でありながら、アメリカ大陸東岸が侵略を受けたのに対して、アメリカよりヨーロッパに近い北アフリカや北欧地域が無事なのはなぜですか? 距離的にもアメリカが遥かに遠いのに、なぜ大洋を挟んだ別の大陸が陥落したのでしょう?」
「なぜ、そこに疑問を持つんだい?」
「単純な移動距離の問題と考えるなら、より近いほうが侵略侵攻を行いやすいはずだからです。ですが説明いただいた勢力エリアのデータからは、その通りでない。つまりこの世界での対アイアンオーダー戦闘は物理的距離だけにとどまらない戦闘上の難易を左右する要素があるのでは? と思ったんです。たとえば――」
そこでカリナは真剣な表情で世界地図の北アフリカエリアを指さした。
「この北アフリカですが、地形図の描写から判断して、背後に広大な砂漠領域を抱えており、居住可能な緑化地域は海岸線にごく僅かです。環境的に乾燥が酷く、また水資源にも恵まれないはず。アイアンオーダーの活動はそう言う環境が不利にはたらくのでは?」
「そこまで理解できるのか、君は――」
ジェイは完全にあっけにとられてしまった。眼の前に居る少女が、ただの女の子ではなく戦歴を重ねたバリバリの実践派なのだと痛感せざるを得なかった。
「アイアンオーダーの勢力域であるヨーロッパよりはるかに遠い北アメリカ方面が陥落したのはいくつかの理由がある。まず1つ、アイアンオーダーには海上勢力もあり、陸よりも海の方が遠い場所まで移動できるんだ」
「古くから洋上のほうが船という手段で用意に遠くまで移動できました。陸上は敵対者が居た場合、なおさら進軍速度は低下します」
「そのとおりだ。次に、アメリカは当時、世界の最先端だった。高度な電脳システムを保有し、政治・経済・教育・医療・軍事・商業・物流――あらゆる人間生活が電脳に委ねられていた。そこにアイアンオーダーと言う未知の電脳勢力が出現し、都市機能を――否、国家機能を麻痺させられてしまった」
「私がもといた世界のソルスターの考えで言うなら、魔法に多大に依存して国家を営んでいたとして、その魔法そのものが一気に乗っ取られた――と言う状態でしょうか?」
ジェイははっきりとうなずいた。
「その考えでほぼ正しい。何しろ、アメリカと言う国家が世界に覇を唱える最大の〝力〟だった電脳技術が一気に妨害・掌握されてしまったんだ、国家のあらゆる機能が麻痺をきたしたと言って良い。さらにだ。アメリカは国家中枢機能はヨーロッパに近い東海岸に集中させていた」
カリナは世界地図を見ながらいぶかしがる。
「東に国家機能を? なぜ?」
「ヨーロッパにはアメリカの同盟国が多かったからな。同盟を結んだ者たち同士で近づこうとするのは当然の行動だ。だがその同盟国があるはずのヨーロッパがアイアンオーダーに陥落すると言う異変を起こした」
「あっ!」
カリナはなにかに気づいたようだ。
「〝味方〟が突然〝敵〟に変わってしまった!」
「その通り。しかも電脳への侵略と、海を越えた物理的な侵略に同時にさらされたことで、国土の防衛はままならなかった。アメリカ国土内でも大規模な混乱が生じ、国土の東側はアイアンオーダーに掌握された」
そして、ジェイはアメリカの最大の山脈であるロッキー山脈を指さした。
「このロッキー山脈を自然の要害として防衛線とすることでね」
「なるほど――」
「これに対して、北アフリカは元々戦争が多い地域で軍事的な活動が活発だった。北欧も極寒の環境下で活動できる防衛軍を有し科学技術も発達していた。そこにヨーロッパの諸国が消滅し、その生存者が難民として到達してきた。アイアンオーダーの実情と言う重要情報を携えてね」
「難民から重要情報がもたらされるのはよくある事です。それに事情が許せば、組織的な抵抗に協力してくれる場合もあります」
「その通りだ。ヨーロッパと言う故国を追われた人々が避難先の地域の人々と協力し合い、あらたな抵抗活動の拠点を生み出すに至った。そしてそれが――」
カリナは気づいた。
「それが〝防衛都市群〟!」
「そうだ」
ジェイは真剣だった。
「ヨーロッパを中心として、防衛都市群は全てで5つのブロックに別れている。
1つ、北欧ブロック、2つ、トルコ・中東ブロック、3つ、北アフリカブロック、4つ、ロシア・東欧ブロック、そして――」
「北アメリカ西海岸ブロックですね?」
「そう言うことだ、ちなみにイスタンボールが存在するのはトルコ・中東ブロックだ。これらがアイアンオーダーを巡る地理的な位置関係になる」
「なるほど、侵略者の支配域を5つの勢力群でかろうじて包囲して居る状態なのですね。その包囲が破られたときが敗北の始まり」
その言葉にジェイは頷いた。
「まさに薄氷の平穏というわけさ」
「その薄氷を踏み抜いたら一巻の終わりと言うことですね?」
「そうだ。そのためにも今は少しでも戦いの担い手がほしいという状況なんだ」
それを耳にした時、カリナはある事に気づいた。
「つまり『自由を得たいなら戦う意思を見せろ』とはそういう事なのですね?」
「そうだ。戦ってくれるなら俺達は支援を惜しまない」
「なるほど、わかりました。私で良ければ全力を尽くさせていただきます」
それは明快で力強い答えだった。ジェイはカリナに右手を差し出す。
「ありがとう。その言葉が聞きたかった」
二人は固い握手を交わした。カリナへの社会レクチャーはこれで終りを迎えたのだった。