勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
医療施設からの出立 ―世界の成り立ちを聞く―
一日、休息をおいていよいよ、カリナが借りの居場所だった医療施設から旅立つ時が来た。支給された衣類を整理し大型のトランクに詰め込み、私物をリュック形式のバッグに仕舞う。ここから持っていかないものはこの施設に預ける事にした。
その日の服装はいつもと違う。
ゆったりとした作りのワーキングズボン。ハイネックの半袖シャツ。そこに襟の高い綿入りのジャケットジャンパー。ソックスに仕事ブーツという組み合わせだ。長い髪は後頭部でリボン紐でまとめた。一般作業に向いた服装がしたいと、カリナ自身から申し出があったのだ。
朝食を終えてから、カリナは施設の主だった職員一人ひとりに挨拶した。無論、一番世話になったヒルトにも。
「本当にお世話になりました」
「元気でね」
シンプルな言葉だったがヒルトは別れ際にカリナを思い切り抱きしめてくれた。本当に親身になってくれる優しい人だった。思わず泣きそうになるが最後笑顔で別れようとぐっとこらえた。
皆に見送られながら建物の中を歩いて地下へと向かう。そこに様々な走行車両が置かれている。ジェイはその中の一つを選ぶ。
「荷物は後ろに」
「はい」
車高の低い2ドアのセダン、この時代では一般的なプラズマバッテリーと言う機関を使った電動車だ。手荷物を積み4つある席のうち前右の席に腰を下ろすとジェイが扉を閉め、彼は左の席に乗り込んだ。
「じゃあ行こうか」
車が静かに走り出す。床下から軽い唸り音が聞こえる。駐車場のフロアから出て螺旋スロープを上がっていく。高さを稼ぐと道はまっすぐになり走った時に建物の外になる。その時カリナはあることに気づいた。
「道が宙に浮いている?」
「〝ハイウェイ〟だよ。地上から見えてただろ?」
「はい、ここを走るのは初めてです」
「そうだったな、ならば君がこれから生きていく世界をしっかりと見るんだな」
2人を乗せた車両が外に出る。道は地面から離れ、空を舞うように多数の足場に支えられどこまでも伸びている。そこから見回す周囲の光景は絶景だった。
「すごい、風景!」
それまで暮らしてきた市街区のそびえるようなビル群から離れて、周囲を広い海に挟まれた細長い陸地の上を進む。海の上には大型船舶もあり、武装した船も見える。それを見てカリナは尋ねる。
「海上でも戦いがあるのですか?」
「そう多くはないがな、海上戦も珍しくない。むしろ、海路から迂回して上陸を試みる連中も居るからなおさら気が抜けないんだ」
日が昇って行く青い空の下を車両は北西へと向かう。後ろを振り返ればそれまで世話になっていた街の建物が見える。
「あの街、夜になると明かりが宝石箱のように綺麗なんですよね」
「やはりそう思うかい?」
「はい、元いた世界にはあそこまで明るい夜はありませんでしたから」
するとジェイはカリナにある事を語り始めた。
「この世界でも昔から暗闇の克服は人間たちの悲願だった。人間はそのためにまず火という力を手に入れた」
「文明の始まりですね」
「あぁ、火だけで飽きたらなくなった人間は、電気という力を手に入れた。電気の力で夜の闇を克服し、その後は石油を燃料として力を発生させる内燃機関を生み出した。人間が使える火力の規模はさらに大きくなり巨大な鉄の板を大量に生産し、火薬の力を際限なく強化して銃を強化し爆薬を進歩させる。ついには電気の力で離れた距離で会話することを覚え世界の距離は近くなった。そして様々な文明の力が社会を発展させていく。
さらに人間は、人間自身の手で行なっている作業を代行させることを覚えた。〝通信ネットワーク〟〝電脳〟そして人間自身の体を模した〝ロボット〟それらが様々で形を変えて社会のあちこちに入り込む。人間の社会はさらに規模を巨大化させた」
ジェイの語りをカリナは真剣に聞いていた。
「そしてとうとうあの日がやってきた。人間は
「
頷くルーカスの表情は暗かった。
「遠隔地同士をつなぐ巨大なネットワーク、膨大な情報を処理できる電脳、そして人の意思を代行できる人工知能。この3つが組み合わさりさらに進歩発展したことで文明の利器は人間の手から離れて行った。そして突然歴史の闇の向こうから姿を現してきたのが――」
それらの話からカリナはあることに気づく。
「【アイアンオーダー】!」
「そうだ。彼らは俺たちは作り上げた文明世界のシステムの裏側に潜みながら襲いかかる時を待っていた。それに気づくことなくこの世界の人間たちは文明の力に溺れて、壊滅的な力を持つ侵略者を自ら生み出してしまったのさ」
ハイウェイは海の上を走っていた。ヨーロッパ側とアジア側、それぞれの領域から腕を伸ばすように2つのエリアが繋がっている。その腕のエリアを両サイドに異なる海を眺めながらヨーロッパ側にたどり着いた。
「彼らは世界中に張り巡らされた情報ネットワークも巧妙に乗っ取った。ネットワークや電脳の力に依存していた人間は何もできなかった。国という国が崩壊し、人間はアイアンオーダーに負け続けた。多くの土地が奪われ、多くの人々が死んだ。逃げ惑う人々はそれでも連帯して生きるための場所と戦うための力を求めた」
「その1つがこの防衛都市――」
車両はヨーロッパ側エリアをひた走り、伸びていく道の向こう側に巨大な防壁が見えてきた。その防壁で人間の住む世界と戦場を隔てている。道の至る所に以前カリナが出くわした巨大人型歩行機械が闊歩している。
光に満ちて華やかだったアジア側エリアと異なり、ヨーロッパ側のエリアはまさに軍事基地そのものだった。
そうした殺伐とした風景の中をカリナを載せた車両は、街の一角へとたどり着いた。そこは巨大なガレージとその附属設備だった。
「ここですか?」
「ああ」
車両から降りると2人はそのガレージの中へと向かった。