勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う―   作:美風慶伍

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技術屋エレナ ―カリナ、新兵として弟子入する―

【エレナズ・ヴァンガード・ギアフォージ】

 

 そう記された古びた感じのコンクリート製のビル、大型シャッターのついた作業ガレージと、付随する事務所兼住居の5階建てのビルだ。

 ガレージの中へと入っていくがそこに目的とする人物はいなかった。

 

「居ないなぁ、婆さん」

 

 カリナには〝婆さん〟と言う言葉が引っかかった。

 

「え? 女性の方なんですか?」

「あぁ、凄腕の技術屋だよ。俺もレオン隊長も世話になってるんだ」

 

 二人が佇む場所の前には、いかにも職人が作り上げたような工場と作業場が立ち並んでいた。鉄とオイルと火花の匂い――が鼻を突く。

 

「まるで刀鍛冶みたいな場所ですね」

「ドワーフの職人たちか?」

「はい、頑固な人が多いんですけどね」

 

 軽口を叩いて笑い合う。

 

「レオン隊長から話が繋がっているはずなんだが」

 

 ジェイは数歩歩くと大声で叫んだ。

 

「エレナさーん! ジェイです! 居ますかー?」

 

 声が響いて、奥から足音がする。近づく気配と同時に、奥から老齢の女性の強い声がした。

 

「誰かと思ったらレオンのところの若造じゃないか。どうした? サイファーブレイクのメンテかい?」

 

 声の主の姿を見ればそこに佇んでいたのは男性並みに身長の高いつなぎ姿の白髪の初老の女性だった。歳の頃は50前後だろうか? 長い髪を後頭部で丁寧に束ねている。ただ老いは一切感じさせず眼光鋭く男顔負けの気迫があり、咥えタバコが印象的だった。

 

「オレじゃないですよ、エレナさん。ルーカスから新兵のインストラクションの連絡、行ってませんか?」

「あぁ、あの件かい」

 

 タバコを左指でつまんで紫煙を吐き出す。いかにも場離れした雰囲気にカリナは圧倒されそうになる。逆にエレナは、カリナを睨むように問いかけてきた。

 

「それで――? あんたはここに何をしに来たんだい?」

 

 重い一言だった。ただその言葉にカリナは逃げなかった。

 

「この世界で戦う方法を身につけるために来ました」

 

 吸いかけのタバコから灰が落ちる。熱さをものともせず指でタバコを潰して火を消す。彼女の口から言葉が続いた。

 

「事情は聞いてるよ。あんたが、よその世界の勇者様だってこともね」

 

 そして彼女はひときわ鋭くカリナを睨んだ。

 

「けど私は技術屋だ。自分の目で見たものしか信じない」

 

 その気迫に思わず息を飲んだ。

 

「あんた剣を持ってるそうだね」

「はい」

「見せてみな」

 

 やり取りをジェイが不安げに見守る中、カリナは聖剣をカバーの中から取り出すと鞘ごと渡した。

 エレナは鞘から剣を抜くと注意深くそれを観察する。様々な角度から剣を見つめていたが、傍らの机に置かれた打検ハンマーを握り聖剣を軽く叩いた。

 

――キィーーン――

 

 音を確かめ、軽く一振りする。刃が風を切る音がする。そこでエレナの表情が緩んだ。

 

「驚いたね。これほどのものを作れる奴がいたなんてね。カリナと言ったね。あんたの世界じゃ金属の武器は鍛冶屋がやるのかい?」

「はい、完全に職人の世界です。武器製作だけは他人が口出しできるものではないので」

「これを作ったやつは知ってるかい?」

「1000年以上前に作られたと聞いてますが伝聞でしか伝わってません」

「1000年――」

 

 その言葉にエレナが圧倒されているのが解る。

 

「それだけの年月を戦場で過ごしたのに刃毀れ一つない。刃に曇り一つない、どうやって作ったんだ――」

 

 エレナはため息をつきながら剣を鞘に納める。

 

「鉄はね矛盾したものなんだ。固くすればもろくなる、丈夫にすれば硬さがなくなる。剣を作るには硬くしてやる必要があるが、そうすれば実戦で使った時にあっさり折れちまう。折れないように丈夫にすれば硬さが足りず鋭さが落ちる。職人はその矛盾を解決するために知恵と技を振るうのさ」

 

 エレナは感心したようにレギオンブレイドを見つめていた。

 

「しかもこの剣は刀身のど真ん中に水晶のような物を組み込んでいる。こういう中空構造は明らかに強度が落ちる。だが、使い込み具合から考えても相当な数の実戦をこなしている。こんな狂気じみた仕上がりは並みの技術屋にはできない芸当さね」

 

 剣をカリナに返そうとしながらエレナは告げた。

 

「疑って悪かったね。本物だと認めよう」

「ありがとうございます」

 

 カリナはエレナに対して笑顔を浮かべた。だがそこで驚きの声を上げるものがいる。

 

『マスター一体何があったのですか?』

 

 剣の中に宿るエリュシオ本人である。

 

『強い衝撃がありましたが、何か危険でも?』

 

 エレナに打検ハンマーで叩かれたことで休眠状態から目を覚ましたのだ。対してエレナはレギオンブレイドに関しておおよその概要は聞いていたから特別驚きはしなかったが――

 

「おや、剣の中に何かいたようだね。悪いね起こしてしまって」

『いえ、急に衝撃を感じたので何か戦闘でも始まったのかと思いまして』

「ああ、そりゃ私だよ。あんたの剣としての仕上がりを確かめるのにハンマーでちょっと叩いたのさ。私はエレナ、この世界で機械職人をやってる」

『なるほどそういうご事情でしたか。聖剣レギオンブレイドに宿るエリュシオです。お見知りおきを』

 

「ああ、よろしく」

 

 そしてエレナはカリナにレギオンブレイドを返却した。

 

「いいだろうあんたたちに戦う術を教えてやるよ」

 

 カリナはゲームを受け取りながら礼節を持った答えた。

 

「ご理解いただき感謝いたします。お名前を聞かせください」

「メカニックエンジニアのエレナ・シルバーウィンドウだ」

 

 そう答える言葉は気概に満ちていたのだった。

 




今回は、カリナを支える技術者たち、そして未来世界の機械技術に触れる回でした。
魔法とは異なる力を前に、カリナが何を学んでいくのか。
続きも見守っていただけましたら嬉しいです。
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