聖剣機兵カリナ ―魔王を倒した少女勇者は、AI戦争の未来世界でも人類を救う― 作:美風慶伍
この国の名はルミナリア――、光あふれる大地セプタリアに存在する八大国の筆頭であり、カリナの生まれ故郷でもある。魔王軍との長い戦いで中心的存在となり、繁栄の時代を謳歌していた。
その中心となる王都ブライタリア、カリナの馬車はそこへとひた走る。
王都へと向かう道の左右には、郊外型の邸宅や、街道筋の街並みが広がり、さらには豊かな農地も広がっていた。
「本当に平和なんだわ――」
カリナは道沿いの光景を眺めながらつぶやいた。人々の顔に憂いは無く、明るい表情とともに、平穏を満喫しているのがひしひしと伝わってくる。
農地を耕す農夫がカリナの馬車に気づいて頭を下げ、道沿いでは子どもたちが遊び手を振ってくれる。それはカリナへの敬意の表れである。
カリナも窓越しに思わず手をふる。笑顔と笑顔の交換である。
馬車に同乗している侍女がカリナに問いかける。
「うれしそうですね。カリナ様」
「そう?」
「えぇ、とっても」
カリナは侍女の言葉に微笑みながら窓の外を見た。
「この国の人々が戦火に怯えずに暮らしているの――、人々が待ち望んだ平和と自由がやっと到来したのよ」
カリナがそう語ることには馬車は王都に差し掛かっていた。窓越しに、往来に見えるものが有る。
都市の中央広場に広がるのは、商人や農民たちが品物を持ち寄って屋台の店を並べている光景だった。
野菜やら、果物やら、加工された肉やら、酒瓶やら、衣類やら、様々な物が売られている。
「カリナ様、〝市〟ですわ」
「朝市ね!」
そう――市民市場だ。
『戦争が終わって、経済が復活しているのです。人々が豊かに暮らせるのです』
「素晴らしい時代だわ」
エリュシオを含む馬車の中の3人は声を上げて笑ったのだった。
すると、馬車がその速度を落としつつあった。侍女が馭者に、のぞき窓を通じて声をかける。
「どうしました?」
「街の子どもたちが手を振っております。こちらに呼びかけているようで」
窓の向こう、道の少し先で子どもたちが数人集まって手を振っている。その手に何かを持っているようだ。
「いいわ、お相手しましょう。停めてちょうだい」
「はっ」
カリナは馭者に命じて馬車を停めた。そして、馭者が馬車の扉を開け、タラップをおろした。子どもたちが息せき切って駆け寄ってくる。
「勇者様!」
「聖剣の巫女様!」
子どもたちは口々にカリナの尊称を口にする。カリナは少女たちに笑顔で応じた。
「おはよう!」
「おはようございます!」
「なにか御用かしら?」
にこやかにそう問いかけるが、子どもたちは緊張している。〝あの〟勇者たるカリナに話しかけるのだ、緊張して当然だろう。
子どもたちの中で一番の年長の少女が手にしていた籠を差し出す。
「これをカリナ様に」
籠の中身には布を被せてあるが、カリナは籠を受け取りつつ少女に尋ね返す。
「何かしら?」
「カリナ様に、ぜひ召し上がっていただきたくて」
布をめくれば中には焼き立てのパンが色々と詰まっていた。まだ湯気が立っているから焼き上がったばかりだろう。
「お父さんとお母さんがパン屋を始めたんです。私もお店を手伝い始めました」
「パン屋をご家族で?」
「はい!」
少女は思いっきりの笑顔で答えた。
「戦争が終わって、お父さんが軍隊から帰ってきたんです。それで」
「お店を始めたのね」
「はい!」
戦争は子どもたちから父親を奪う。死ぬこともある、容易には家族の元へ帰ることすらできない。
家庭が引き裂かれる悲劇をカリナは知っていた。
だが、少女が渡してくれた焼き立てのパンが、悲劇の世界は終わったのだとカリナに教えてくれる。
それは何物にもまさる喜びであり宝物だ。
「ありがとう! 大切にいただくわ」
「はい!」
少女が笑顔で頭を下げてくる。そして、子どもたちは丁寧に頭を下げながら家族の待つ場所へと帰っていくのだった。
「素晴らしいわ」
『はい、戦った甲斐がありましたね』
「えぇ」
戦いの苦難を身を持って知っているだけに、少女が手渡してくれたパンを巡るドラマには、カリナも心を熱くさせられた。
だが、ささやかな平穏な朝にも、不穏な影は差すのである。
第3話までお読みいただき、ありがとうございます。
ここまでで、少女勇者カリナの運命が少しずつ大きく動き始めました。
この先、彼女はさらに未知の世界と戦場へ向かうことになります。
第4話は、このあと30分後に投稿予定です。
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引き続き『聖剣機兵カリナ』をよろしくお願いいたします。