勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
その〝小さき者〟からは敵意は感じられない。カリナはそれと似たものを知っている。
「なんか、物陰から現れた妖精みたいね」
『えぇ、居ましたね。いたずら好きで怖がりな
その言葉が意味深に聞こえるように、カリナの装いは、まるでファンタジーの物語の中の女性剣士の戦闘衣装そのもののようだった。
装甲付きのロングブーツを履き、左腰に金色の大剣が下げていた。
その衣装は明らかに泥にまみれて傷ついており、様々な戦場を営々と転戦してきたであろうことがよくわかった。
『我々を見るだけで攻撃はしてこないようです』
「敵ではなさそうね」
『危害行動はありませんが確定はできません』
「ならば、こちらから動くだけよ」
そう答えるとカリナは飛行体に手を伸ばす。
『カリナ様? 危険です』
「いいえ、こちらから声をかけなければ相手の意図はわからないわ。彼らの〝声〟が聞きたいの」
そう言いつつ、敵意の程を図るため手で触れようとした。だが、その飛行体は触れられることを嫌がるかのようにそっと距離を取る。
「あっ――」
『嫌われたようです』
「そのようね。でも、つかず離れずで敵でないのが判ったわ」
その言葉の通り飛行体は離れもしなかった。距離を取ってじっと見つめるままだ。それがカリナには奇妙にホッとさせられた。
「それに――、この世界にも〝誰か〟が居る。無人の世界じゃない。それが判っただけでも僥倖だわ」
『はい、彼らを作った人物がどこかに居ます。それを手がかりにすべきでしょう』
「それを次の目標にしましょう」
そして〝彼ら〟に見つめられながら、腰を下ろす場所を見つけようとしたときだった。
――ズビュゥウウウウッ!――
突然のことだった。どこか遠くから赤熱した光が一条の矢となって撃ち放たれた。そして、3つの飛行体の一つを撃ち抜いた。
――ヴォオオン!――
爆発する間もなく、飛行体の一つが火花を散らして落下した。敵の攻撃だ。
「エリュシオ! 周囲警戒!」
『了解です』
そう語りつつ立ち上がり、カリナは〝彼ら〟の方へと駆けだした。カリナの目の前では、一つは破壊された仲間をたしかめ、もう一つは、赤熱の光が飛んできた方を見ている。
仲間を確かめる一体は、その胴体の下部から小さな手を伸ばした。そして、撃ち抜かれ落下した機体に触れると作業を始める。
「直そうとしている?」
電子音が微かに鳴り、救助する機体が必死の作業をしている。だが、撃たれた機体は飛行するための回転する翼を数度回したが、ついに飛ぶことはできなかった。
――ピーーーッ!――
甲高い音が響いて、それっきり撃たれた機体は沈黙した。
「だめだったんだわ」
『そのようです』
カリナにはそれが〝死〟に見えた。救助を試みた機体は手を離すと、撃たれた機体の一部を開き、その中から指先ほどの大きさの黒い板を取り出した。それを自分の内部へと取り込もうとする。
「まるで、戦死した仲間の遺品を回収するかのよう――」
その姿に人の心の痛みをカリナは見ていた。
「仲間を救おうとし、もう一人は攻撃者を見る――」
そして、無意識に左腰に下げた剣を抜く。
「戦いを知っている〝人の意思〟だわ」
その瞬間、カリナの勘が働く。腰に下げた剣を抜くと一気に飛び出す。
『カリナ様? なにを?』
「戦う! 今はそれしかない!」
カリナの中の剣士として、勇者としての、一番大切な部分が激しく動いていた。
再び赤熱の光がその飛行体の生き残りを撃とうとするのを、カリナは聖剣の輝きの一閃で見事に弾いた。さらなる犠牲を見事に回避し、飛行体たちに声をかける。
「〝あなた〟攻撃者を見つけて! 私が対応する」
カリナの声に同意したのか、カリナと一定距離を保ちながら動き始めた。そうして、誘導するかのように建物の瓦礫から少し離れた場所に移動する。
「アレは? 鉄の獣?」
『ですが、手足がありません、車輪のような構造で自走する機械のようです』
大きさはイノシシ程度。長方体の構造の上部に小型の砲塔があり、複数の車輪で走行しているようだった。その上部砲塔で、あの小さな飛行体を撃ち抜いたのだ。
「あれね? ありがとう!」
カリナは飛行体に礼を言う。言葉は発せなくても、そこに人の意思を見たからこそカリナはそれを無意識に仲間だと思うのだ。
それがカリナと言う人間だ。彼女は今、未知の敵と戦おうとしていた。