勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
トレーラートラックの車内、カリナはマイクに声をかけた。聞いてみたいことがあったのだ。
「ねぇ、マイク君」
「なに?」
「この仕事親父さんから引き継いだんですって?」
「うん、6歳からずっと手伝ってたから。8歳から親父に運転を教えてもらって11の頃には1人で仕事を任されてた。仕事のいろはは親父に叩き込まれたよ」
「へぇ、いいお父さんだったんですね」
「教え方は荒っぽかったけどね。ミスするとすぐゲンコツが飛んだし」
マイクは屈託なく笑った。
「でも、親父にはかなわない。親父の最後の仕事の時、本当にそう思った」
カリナはあえて尋ねた。
「なぜ?」
「戒厳令が出た状態での城外都市への緊急物資搬送。誰もが断る中で親父は2つ返事で引き受けた。『飢えてる奴にしっかり食わせてやるのが運び屋の仕事だ』って言ってね。それが親父の姿を見た最後だった」
そう語るマイクは真剣だった。
「3日後、回収されたトラックと一緒に親父は傷跡だらけの亡骸になって帰ってきた。その時前線で戦っていた傭兵が教えてくれた。『親父さんの運んだ食い物が、城外都市で籠城する市民と傭兵たちを助けたんだ』って」
思い出を口にするマイクにカリナは問う。
「マイク君、お父さんの事、今でも好き?」
「もちろんさ。俺はああいう人になりたい。だからこの仕事をやってるんだ」
そう語るマイクは自信に満ちた表情をしていた。
そうしている間にも防衛都市の外殻を成す巨大な〝壁〟はカリナの目の前にそびえ建ち迫ってきた。
「で、デカい――」
「防衛都市の一番外を守るように建っている壁だよ。高さは約70m地下の基礎構造体は深度30mまで食い込んでる。厚さは最大で30m、一番薄いところでも12mある。核兵器の直撃食らっても壊れないよ」
高いだけでない、大きいだけでない。天を衝くようにそびえているそれは世界を分断する【戒め】そのものだった。近づくに連れて独特の風の渦巻きが生じているのが解るほどだ。
「都市外殻絶対防壁が正式名称で、軍事作戦上の略称コードは〝W.O.C.〟っていうんだ」
「WOC?」
「
「戒めの壁――」
壁の周囲は独特の冷気が漂っている。太陽の光を遮ってしまうため、日照が足りないからだ。
その巨大な威容を眺めながらも、トラックは巨大防壁のゲートを通過する。ゲートの周囲には多種多様な形状のヴァンガードが待機していた。
係員のチェックを受けてゲートを通過して外に出る。意外とあっさりと通過できたことにカリナは驚いた。
「簡単に通過できるんですね」
「うん、軍事作戦の関係者ならね。でも、一般人は特別な許可がないと無理」
そこから緑と荒れ地がまだらに広がる世界をひたすら走る。防衛都市から離れれば離れるほど人間の生息している気配は薄れ荒れ果てた戦場に変わっていく。その光景にカリナが抱いた感情はひとつだ。
「懐かしい」
「え?」
「本当は秘密なんだけど、私、この世界の人間じゃないの」
「どういうこと?」
「実は別の世界から飛ばされてきた人間、ルーカスさん達に保護されたのよ」
「じゃ、向こうでは何をしていたの?」
その問いかけに迷うことなく答えた。
「人間の世界を救う勇者」
「え、勇者ってマジ? 本当に」
さすがにマイクもなんかの冗談だと思ったのだろう。だがカリナは続けた。
「6歳の頃に軍隊に拉致されて、ずっと戦場に関わってきたの。聖剣の担い手として鍛えられて、各地を転戦してきた。こう言う戦場はイヤというほど見てきたわ」
その時、マイクは呟いた。
「6歳か――、俺もこの仕事に関わったのはそのころだけど、カリナ姉ちゃんと一緒だとは言えないかな」
マイクは謙遜する。だが、カリナはその謙遜を否定した。
「でも、戦場に関わって生きて、生き残るだけでも立派だと思うわ」
「そう? なんか照れるな」
そう答えてマイクは笑った。その笑顔がカリナには微笑ましいと思うのだった。
§
やがてトラックは3時すぎに目的地に着いた。防衛都市から離れること60キロの地点にある外部駐屯基地だ。圧倒されるような数のヴァンガードが整然と並びその操縦士のアーセナルコマンド達が行き来している。カリナはその光景を感慨深げに眺めている。
マイクのトラックは基地内を走り倉庫区画へと向かう。
食料を収めたコンテナをおろした後、回収物を納めたコンテナを載せるのだが、その作業は一般作業用のヴァンガードが用いられるため力仕事は皆無だ。
「マイク君、私は何をすればいいの?」
「うん、カリナさんはトラックの見張りをして。俺1人だと目が行き届かないし、トラックにイタズラしたり部品を盗んでいく奴がいるんだ。傭兵の中にもたちが悪いのはいるから」
「そういうことね。分かった、ここで待機してるわ」
「頼むね。時間はあまりかからないはずだから。それじゃ」
そう答えるとマイクは手続きのためにどこかへと行った。見張りということなら武器を携行しても問題ない。カリナは左腰に愛用の聖剣を下げるとトラックの近くに立ち、周囲に視線を配る。
すると、カリナに視線を向けてくる人影があったのだ。