勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
カリナの単独行動テストの成功を、ジェイはルーカスと情報共有していた。資料施設の中、二人のために用意されている控室で二人は語り合う。
「ルーカス、カリナ嬢の日常生活適応訓練、所定の工程をほぼ完了したぜ」
「ご苦労、特段問題になるようなことはなさそうだな」
ルーカスはこれまでの報告データに目を通しながらつぶやく。
「あぁ、取っ掛かりの理解で躓くことが多かったが、いちど飲み込み始めると吸収速度が抜群に早い。都市内の交通システム、情報機器の操作、電子マネーなどの
金銭管理、習得まであっという間だ」
「その割には30日間たっぷりかかったようだが?」
「それは俺が、わざと時間をかけたからだ」
「なに?」
ルーカスはジェイの意外な言葉に訝った。だが、ジェイは語る。
「飲み込みが早い事と、それを肌で理解し体得できているかは別なことだ。戦場に出ることのある身ならわかるだろう? 早飲み込みと浅い理解は大怪我のもとだって」
「それはどうだが――」
「だろ? ましてや彼女はこの世界の戦場に出る気まんまんだ。都市の立体構造と、時間感覚、情報システムへの適応理解と、この地球世界の〝自由〟という感覚――、それをしっかりと体と神経に覚え込ませてこそ〝次〟がある」
そして、ジェイは真剣な表情でルーカスに告げた。
「いいか? もう、次の訓練ステージへの準備は始まっているんだ」
その言葉がルーカスの表情を変えた。
「そう来るか――」
「当たり前だろ? 俺達の世界の戦いは一対一の白兵戦が基準じゃない。広い戦闘フィールドに飛び交う情報を立体空間と時系列の中でいかに正確に掌握するかどうかだ」
ルーカスははっきりと頷いた。
「あぁ、お前は正しい。――それで、彼女の戦闘適性はどうだ?」
それがこの二人がこの訓練でカリナに見ている視点だった。
「陸軍上がりの俺から言わせてもらうなら――、ほぼ合格だな、ただ不安点はある」
「不安?」
「あぁ――、戦場に出るときの彼女と、平時の彼女、そのギャップがなぜ生まれたのか? それを見抜いて第3者から見た不安を払拭できるのか? それが最大の
壁になるだろう」
「つまり、弱い彼女と、強い彼女――、戦場での彼女がどちらなのか? という事だな」
「そうだ」
そこにルーカスは私見を述べた。
「ジェイ、こう考えろ。彼女は〝うさぎ〟だ」
「うさぎ? 可愛らしくて臆病ってか?」
「あぁ、ただ――危機が迫るとその限りじゃない。うさぎは弱い。食物連鎖の最下位クラスだ。だが、危機を感じ、覚悟を決めると、その弱さは裏返る」
「うさぎってそんなに強かったっけ?」
「あぁ、強い。凄まじい勢いで戦場を駆け抜け、ときにはその強靭な後ろ足で敵を蹴り殺すこともある。そうした内的な強さが果たして彼女にどれだけあるか――」
「それをどれだけ引き出せるかだな」
そして、ルーカスはひと呼吸おいて答えた。
「いや――、彼女自身がそれを自覚できるかどうかだ。過去経験からの惰性だけで戦えるほどこの世界の戦場は甘くない」
それを聞きながらジェイはたちあがる。
「わかった、頭の片隅においておこう」
「頼むぞ」
ルーカスに、ジェイは背中を向けて片手を振りながらその部屋を出ていく。
「ならばなおさら――理屈で押し付けても〝あいつ〟はうごかない」
そして、1人つぶやく。
「カリナに一足先に〝この世界の戦いの現実〟を見せてやるとするか」
何かを考えついたジェイだった。