勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
場の雰囲気がほぐれた時だった。店の入り口が開いた。
「邪魔するよ」
聞こえてきたのは女性の声だった。それも、かなり戦場で経験を重ねたベテランの雰囲気だった。お上品なニュアンスは微塵もなかった。彼女の方へと視線を向ける。そこに佇んでいたのはまさにつわものという雰囲気の女性だ。
「イリスか?」
ジェイが名前を問えば彼女は答えた。
「久しぶり、ジェイ! 休暇か?」
「いや、内地の教育任務だ」
「もしかしてそちらのやたらと腰の据わった彼女がそうかい?」
そう言いながらイリスという彼女はカリナの隣の席に座った。
レザーパンツにタンクトップ、その上に革ジャケットを羽織っている。人種は黒人で長い髪の毛を丹念に編み込んでいる。身長は高くカリナよりげんこつ2つ分は大きい。見下ろしてくるような迫力がある。
「はい、カリナ・ウィングスです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。イリス・ストームウィンドよ」
握手を交わし合うと、長年の友人であるかのようにいきなり初対面の壁を乗り越えてきた。
「可愛い顔してるけど、結構戦歴長いんでしょ?」
「分かりますか?」
「あぁ、雰囲気でだいたいわかる。女の傭兵って侮られることが多いんだけど、同じ女だと、無理して顔だけ強そうに見せてるのか、本当に戦場を渡り歩いてきたか、分かっちゃうんだよね。戦歴は大体10年くらいでしょ?」
イリスはいきなりカリナの戦歴を言い当てた。
「それもかなり上の指揮官もやってきたんじゃない?」
「その通りです、ピーク時には直接には数千人規模の軍団を率いたこともあります」
「話だけ聞くと冗談に聞こえるけど。本当なの? ジェイ?」
ジェイもカリナの言葉を否定しない。
「本当だ。ついでに言うと彼女はこちらの世界の人間じゃない。ゆえあって流れ着いた別世界の人間だ」
イリスは傭兵として強者だった。ジェイのその言葉でカリナについて全てを悟ったのだ。
「それで教育任務――なのね?」
「そういうこと。一般生活の適応訓練が終わって、これからこちらの世界の情勢や戦争に関する事情をレクチャーすることになる」
「なるほど――、それでこの世界の戦争事情を知ってる私たちみたいな傭兵に話を聞きに、この店に来たってわけね?」
「そういうことだ。その道のプロに聞くのが一番だろ?」
カリナもジェイがなぜこの店に自分を連れてきたのか? よく分かったのだった。
「この世界のことについては分からないことだらけです。よろしくお願いします」
「ええ、いいわ何でも聞いて」
まさに2人はお互いが求め合うように相性は最高だったのだ。
傭兵たちが見守る中、イリスはカリナに、この世界の戦いについて説明を始めたのだった。
イリスはカウンター席に着くと、バーテンダーの彼にオーダーする。
「ボイラーメーカー」
するとバーテンダーの彼はロングのタンブラーグラスを用意するとそこにビールを注いで、バーボンウイスキーを注いでステアする。
元は労働者が手っ取り早く酔うために、ビールをバーボンで度数を上げたのが始まりと言われる。
酒に酒を注ぐというやりかたにカリナは興味津々だった。
「面白い飲み方があるんですね」
「あら、こう言うの初めて?」
「はい、元の世界だとエールが主流ですし、ブランデーのような蒸留酒は貴族の飲み物でしたから」
するとその話にバーテンの彼が食いついてきた。飲み屋の店主だから当然だろう。
「酒の歴史で言うと、糖分を含む素材が、その土地々々の状況に応じて様々な発酵種が作られた。麦が採れるところからはエールが、ブドウが採れるところからはワインが、リンゴなどの果実が採れるところからは果実酒が、牧畜が盛んな地域では乳から作られる乳酒なんてのもある」
「わかります、養蜂が盛んなところだと、
「例えば?」
「そうですね、騎馬軍隊が発達しているところだと馬畜が盛んですから馬乳酒なんてのもありました」
すると1人の傭兵が反応する。中央アジアのカザフスタン辺りの風貌の男性だった。
「クミスか――、懐かしいな。あれを知っている奴が居るとはな」
「馬乳酒を飲んだことが?」
「あぁ、俺の故郷はカザフスタンなんだが、中央アジアは馬文化だからな。生産量は少ないが、今でも作られているよ」
「わぁ、一度飲んでみたいです」
「いいだろう、今度取り寄せてやるよ」
「はい!」
そのやり取りを見た傭兵の一人が言う。地元、トルコ系の男性だった。
「嬢ちゃん、意外とイケる口みたいだな」
「はい、酔わない程度に嗜んでました。遠征で水代わりに携行することもあったので」
老バーテンが言う。
「水はそのままでは腐りますからね。こちらの歴史でも長期行軍や外洋船には薄い酒が当たり前に飲まれてたんですよ」
「何処も同じなんですね」
カリナは故郷の世界と、この地球世界とのつながりを感じて、笑みを浮かべていた。