勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う―   作:美風慶伍

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魔王は時空の狭間にて悪意を残す ―平和の訪れに、英霊たちは護衛役を名乗り出た―

 その時、カリナは現実世界と時空の向こう側の世界の間で揉まれていた。

 時空流離の渦の中、魔王の思考の残渣が響く。

 

――勇者カリナよ、お前の戦いはコレで終わると思うな――

 

「何を言うの? 魔王!」

 

――魔族は滅びぬ。お前の名の下、服従を強いられ、人間たちへの同化をたどるだろう――

 

「それが、戦いを終わらせるということ、戦闘の放棄は平和の絶対条件!」

 

――甘いぞ〝ワシの後を告ぐ者〟が必ず現れる――

 

「なんですって?」

 

――ククク、企みはすでに始まっている。長い、長い、年月の果てにな――

 

 そのとき、ソフィアたちが紡いだ聖なる力がカリナをとらえた。

 

――ほう? 歴代勇者が小細工を……、だが、ゆめゆめ忘れるな、お前は孤独と蹉跌の末に、新たな戦いに飲まれるだろう! お前は永劫に戦いの運命から逃れられぬのだ!――

 

「私が、永劫に?」

 

――そうだ! それがお前の受けるべき〝罰〟なのだ! ハハハハ! さらばだカリナ! さらばだ聖剣の勇者よ!――

 

 そして〝元魔王〟ヴァルガリアスの魂は、時空の向こう側へと完全に飛び去り引き裂かれていった。その瞬間、カリナの体を聖なる力が強力に引っ張り、時空流離の魔力の渦の中から救い出されようとしていた。

 

『これで助かります、カリナ』

 

 エリュシオの言葉にカリナは一瞬安堵する。だが――

 

「あれは?」

 

 時空の壁の向こう――、空間の裂目の向こう――、そこに別世界の光が見えた。そには別世界の戦場が垣間見えていた。

 

「なに? 金属の魔獣? 鋼のゴーレム?」

 

 その別世界では、猛烈な光が一条の光の矢となって戦場を飛び交っていた。また、火薬ではありえないほどの爆炎がほとばしり、鉄と鉄がぶつかり合い火花を散らしていた。そこに人間の姿はない。鋼の獣と、鋼のゴーレムや巨人が、隊列を組み、戦陣を従え、戦場でぶつかり合っているのだ。

 それが何だったのか、知ることもできない。ただ、エリュシオは言った。

 

『カリナ、今は帰還を目指しましょう! ここから戻る強い意志をお持ちください』

「判ったわ!」

 

 そして、カリナが迷いと不安を断ち切ったとき、その体は現世へと引き戻された。魔王の残骸から生まれた時空の穴は閉じ、そして、カリナは気づけば、魔王城の外の戦場の真っ只中に放り出された。

 

――ドサッ! ズザザァッ!――

 

 戦場の大地の上を転がりながらも無事に生還を果たした。

 

「こ、ここは?」

『ご安心を、ソルスターの大地の上です。まだ魔王城の周辺領域ですが』

 

 カリナは体を起こして立ち上がると、周囲を見回す。するとそこには――

  

「カリナ!」 

 

 戦いの疲れを感じさせない力強い歩みでエルリックが歩み寄ってくる

 

「無事か?!」

「はい!」

「ついにやったな!」

 

 駆け寄るとカリナの肩を叩く。魔道士のソフィアもカリナに寄り添ってその頭を撫でる。

 

「長年の苦労がついに報われたわね」

「はい――」

 

 カリナの目元が潤んでいる。泣きそうになっている彼女に斥候のミリアが支えるようにその肩に手を触れた。

 

「涙はまだ早いわよ。これからやっと平和が訪れるのだから」

「ええ、そうですよね」

 

 そして、右手に握りしめてきた聖剣のレギオンブレイドをさやに納めて顔を上げて歩き出した。

 

「行きましょう! この戦いを支え続けてくれた戦友たちの元へと」

 

 カリナは仲間たちと共に、彼女が率いる軍団に参加してくれた戦友たちのところへと歩き出した。

 そして、今こそ、300年続いた〝魔族大戦〟は終結した。

 ソルスターに平和は成就したのである。

 

 

 

§

 

 

 

 戦いは終わった――

 魔王城の外部の戦いも終結していた。大魔王傘下の幹部級の魔族もことごとく打ち取られた。周辺の支城も猛攻の末に陥落を果たしていた。

 無論損失もある、倒れた兵士は数えきれない。 

 

 現地にて戦死者の霊を弔う葬送の儀式を略式で行う。

 カリナ自身が巫女となり、葬送の聖句詠唱と、戦死者の魂の天界葬送の儀式を行う。

 

『黙祷』

 

 全軍が沈黙を捧げることで葬送の儀式は終わった。

 そして次にやることといえば一つだ。

 

「帰りましょう、戻り道もおそらくは魔王軍の残党が一矢報いようと、悪あがきをするかもしれません。でも我々はここに至るまで多くの勝利を積み重ねました。なればこそあとひと踏ん張りです」

 

 アーヴァインと言うやや老齢の魔導剣士がぼやいた。

 

「そのあとひと踏ん張りってのが面倒くさいんだがな」

 

 そのぼやけに笑いが思わず漏れた。柔和な空気の中、意外な人物たちが協力を申し出た。

 

『現世勇者の軍勢の諸君――』

 

 カリナ率いるアルカナヴァンガード、そしてソルスター自由連合軍。彼らの前に現れたのは200柱の歴代の勇者の英霊たちだ。

 話しかけてきたのは、500年前の英霊である、壮年の甲冑姿の剣士の勇者だ。

 

『我ら歴代英霊、ここから先の戻り道の護衛をしたい』

 

 意外な申し出だった。

 

「どう言うことですか?」

 

 驚くカリナに英霊の一人、切り札の剣士ブレイズがいう。

 

『特別なことではないさ』

 

 風の魔道士エアリスも笑顔で語る。

 

『戦いが終わったんだ。みんな、まだ地上の風景を見ていたいのさ』

 

 エルリックが笑顔でそれに相槌をうつ。

 

「そうだな。英霊も人間だったのだから」

 

 カリナも納得する。

 

「英霊も人の子……、ですよね」

『そういうことさ』

 

 ブレイズの笑顔に歴代勇者の誰もが頷いていたのだった。

 

 

§

 

 

 魔王城から光の領域であるセプタリアへの道のりは一月半ほどの工程だった。本来ならそれだけの期間を200柱の英霊を地上に召喚したままと言うのは難しいものがある。だが――

 

「カリナ、英霊の長期召喚ってだいじょうぶなの?」

 

 ソフィアの心配をよそにカリナは言った。

 

「はい、この領域を魔族に支配される前に領地にしていた、ドラゴン種族の歴代の竜皇の御霊が、大地のマナを連続提供してくださってます」

「竜皇の御霊が?」

「えぇ、この地を開放してくれた礼だと言ってました」

「ええ」

「でも、竜皇大ドラゴンが何でそのような」

「思うところがあったのかもしれません、今はありがたく、お力添えを頂こうと思います」

「そうね、ありがたく助けてもらいましょう」

 

 また、英霊たちと子孫との語らい合いもあった。

 現世のドワーフ族と、1000年前のドワーフの大戦士が、帰路の途中の野営で焚き火を囲んで〝鉄〟と〝技術〟について語り合っていた」

 

『ほう? 今はこれほど複雑な仕組みの鉄の道具を鍛えられるのか』

「あぁ、若い連中が失敗を恐れず新しい試みを続けているからな」

『無謀を試すのは若いうちにしかできん。伝統は老いぼれが守ればいいのさ』

 

 彼らの語らい合いにカリナは思わず声をかける

 

「楽しそうですね」

『あぁ、勇敢なる同胞たちとの血肉の通った語らい合いだ! 天界ではなかなか望めんよ』

「俺たちも偉大なる先達の言葉を聞けて、光栄だ」

『それはありがたいが――、できれば酒の一杯とも飲めたらな。まぁ、魂だけの俺達では、望むべくもないが』

 

 英霊は死したる存在である、肉体はもうない。だからこその嘆きなのだろうが。すると、ソフィアが言葉を添える。

 

「影膳を据えれば酒杯にこもった霊気を取り入れることはできるわよ?」

『何? 本当か?』

「えぇ、でも――ほどほどにね」

 

 そう聞くが早いかドワーフたちは野戦用の気付けの酒ボトルを開けた。先祖と子孫彼らは思いの丈を酒に込めて語らいあったのである

 

 

 かたや、エルフは太古に光のミッドエルフと闇のダークエルフに袂を分かったが、800年前と720年前と500年前のエルフの大魔導師が過去を懐かしんでいた。

 800年前の老エルフの大魔導師と、720年前の女性の魔導剣士が、現世エルフと語り合う。

 

『光と闇の分裂は確かに悲劇だった。だが、エルフが伝統を守るか、人の世に飲まれるか……その瀬戸際の決断だった』

『始まりを同一にするものが対立するのは後の世を見ていて心苦しかったです』

「ですが、この戦いでエルフは一つの種族に還りました」

「これからはお互いに支えあって生きていこうと思います」

 

 そして、500年前に精霊王の名を冠した、大精霊師の男性エルフが祝福した。

 

『対立は試練だった。だが、試練は成長を生む。エルフはこれからも続くだろう――、子孫たちに永久の祝福を』

 

 悲劇が確かに終わったのだと誰もが知った。

 

 帰路において魔王軍残党が襲いかかってくることもある。

 それを察知したのは、730年前と570年前と350年前と120年前の傭兵あがりの勇者の英霊たちだった。

 傭兵あがりの勇者は魔導には長けていないが、戦略と戦術と武術には優れたものを持っていた。帰路の途中も歩哨を買って出てくれたのだった。

 

『敵襲! 魔王軍残党! 騎兵部隊50騎! 歩兵1000人! 確認!』と、730年前の傭兵の男性

『魔道士は確認できないが、火薬を使った武器を装備している』と、補足したのは570年前の傭兵部隊隊長の老戦士だ。

 

 それを120年前の銃火器部隊を率いた狙撃傭兵がたしなめた。

 

『先輩、それ〝銃〟って言うんすよ』

『うるせぇ! 俺の時代にゃ無かったんだよ!』

 

 そのやり取りに誰もが思わず笑い、350年前の女性傭兵が語る。

 

『火薬が戦争に出てきたのは私の時代からだな』

 

 今の時代の銃火器兵が反応して問いかける。

 

「もしかしてサーペンタインですか?」

『よく知ってるな? 扱いづらくてなぁ。よく当てるより暴発のほうが多かったものさ』

「今は銃火器だけの部隊もあります。習熟訓練は必須ですが」

『そこだけはいつの時代も変わらぬな』

 

 そして、570年前の老傭兵が発破をかけた。

 

『雑談はそこまで! 客人たちを出迎えるぞ!』

「はいっ!」

「全員、起こし! 緊急迎撃!」

「全員、起こーし!」

 

 叩き起こされた現世兵士たちが起き上がり武装を身に着けて隊列を組むと、英霊たちをけしかける。

 

「先輩! 英霊の戦術を見せてください!」 

『まかせろ!』と、120年前の英霊が言い、

『当時の魔王に一泡吹かせた戦術だ!』と、730年前の大傭兵が言い放った。

『気合い入れてついて来い!』と、350年前の女性傭兵が叫んだ。

『野郎ども! キ○タマ握って気合入れろ!』と、570年前の老傭兵が気合を入れた。

「おおお!」

 

 出自の国も、種族も様々な兵士たちが、太古の傭兵たちの英霊たちと共に迎撃を開始する。

 

『かかれぇ!』

「おおおつ!」

 

 こうして彼らは、魔王軍残党へと立ち向かっていった。

 

 カリナは帰り道の隊列のその先頭において、英霊たちと現世兵士たちの心の交流をそっと見守ったのである。

 




第4話までお読みいただき、ありがとうございます。
あえていうなら、英霊とて人の子です。彼らの切ない思いを感じて下さい。

引き続き『聖剣機兵カリナ』をよろしくお願いいたします。

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