聖剣機兵カリナ ―魔王を倒した少女勇者は、AI戦争の未来世界でも人類を救う― 作:美風慶伍
喜びを噛み締めながら、少女たちの後ろ姿を見送っていた時だった――
『マスター!』
「エリュシオ? どうしたの?」
精霊のエリュシオの切迫したような声が聞こえた。
『魔族の反応があります。感情色彩は〝敵意〟――数は複数――』
「遠隔視します」
『かしこまりました』
カリナは聖剣を抜いて、地面に片膝をつくと、剣の鞘を額に当てた。エリュシオは遠隔で遠くのものを見極める力を持つ。これを共有する形でカリナ自身も遠隔視能力を得るのだ。
「居る! 人間の市民に偽装しているけど3人――一塊になって何かを運んでいる!」
冒険者風のマントを頭まで目深に被った男たちが3人見える。だが、あまりに異様なので周囲から浮いている。あまりにも怪しい。
場所も把握した。カリナは馬車内の侍女たちに命じる。
「あなた達はここで待機して。もし、身の危険を感じたら、独自判断で移動して!」
「かしこまりました」
「それと王国正規軍に連絡を!」
「はい!」
速やかに行動判断を伝えてカリナは走り出した。攻撃すべき相手はすでに見極めている。
敵は市民の群れの中に紛れ込んでいるつもりだが、カリナを甘く見ている。
「エリュシオ――あの3人、おかしいわ」
『どのように?』
カリナが視線で指し示す先には、頭からフード付きマントを被った男らしきものたちが3人佇んでいる。その彼らを見てカリナは言った。
「3人のうち2人の視線が――一点に集中している。市場の中央広場の真っ只中よ」
『残る一人は?』
「時折、後ろを振り向いてる」
3人は一塊になったまま、市場の広がる中央広場を歩いている。だが、彼らが歩く先には特段何もない。
『屋台も、時計塔も、休憩のベンチもない――、そんな場所に何を真剣な顔で向っているのでしょう?』
エリュシオの言葉にカリナは気づいた。
「何かを――置きに行く、あるいは回収――」
『この朝市の場で?』
「そうね――、そもそも人は、何かを目的にしていると周囲に目を配る余裕はなくなるものだわ」
そう言いつつカリナは足音を潜めつつ歩き出す。
『カリナ様、慎重に――』
「えぇ」
そう言いつつ、聖剣をいつでも抜刀可能な状態に柄を握りながら、その不審な男たち3人に近寄っていく。
「貴様ら、そこで何をしている」
その力強い声に男たちは振り向いた。
「か、カリナ・ウィングス――」
「な、なぜここに?」
フードの中には特徴的な顔立ちの男たちが居た。金色の目、有角――、犬歯が鋭いのも特徴だった。彼らは魔族である。
魔族の男たちは驚愕の表情を浮かべていた。あっさりバレたことが意外だったようだ。
「バレないと思った? 勇者として戦場を駆け巡った私を甘く見ないことね!」
カリナが大声を上げていることに気づいた巡回中の警備兵が多数駆けつけてくる。ズボン姿に軽装鎧と、青いマントを羽織って、都市の治安を守る軍警察兵である。
「カリナ卿!」
「聖剣の巫女様! いかが成されました?」
「不審者です。敵意の反応があります。所持品検査を」
「はっ!」
警備兵が腰の剣を抜刀しつつ、魔族の男たちに迫っていく。すると追い詰められたと悟ったのか、魔族たちは懐に隠していた剣を抜く。
「構わん! あれを炸裂させろ!」
3人のうち二人が前に出て威嚇し、残る一人が小さな丸いものを懐から取り出した。
「炸裂――?」
その言葉にカリナはピンときた。もはや猶予はない。
「一斉制圧! 殺傷許可!」
「了解!」
王都の治安を守る警備兵である。戦闘は卓越している。複数が一気に二人の警備兵を取り囲み、引き剥がし取り押さえる。多勢に無勢、一人あたり三人の警備兵に抑え込まれたらひとたまりもない。魔族の男たちの装備も貧弱で、手にしていたのはナイフと変わらないショートソードのみだ。
おそらくは戦いの最前線から逃げてきた元逃亡兵だ。
職を得られず、糧もなく、追い詰められて徒党を組み、暴徒と化して犯罪に手を染めた――と言うところだろう。落ちぶれ魔族の成れの果てである。
「くそっ!」
「人間ごときが!」
叫ぶ魔族に警備兵は真っ向から言い換えした。
「黙れ! 魔族には生存権を与えている!」
「大多数の魔族は今の社会に適合している!」
「お前たちのようなはみ出し者が許されると思うな!」
地面にあっという間に押し倒されて後手に縛り上げられた。
だが、残る一人はその場から逃げようとして走り出す。その両手に持つ丸い物体――それを大事そうに抱えている。
「炸裂と言ったからおそらくは爆弾ね」
『その可能性が高いです』
「追うわよ!」
その場から逃れて走り出す残る一人を追ってカリナも飛び出す。その速力は圧倒的にカリナが早く、すぐに捕まる。
「はっ!」
――ザクッ!――
逃亡魔族兵を背中から軽く威嚇として斬りつければ、魔族の男はもんどり打って倒れた。その背中を踏みつけにして彼が手にしていた爆発物であろう物を視線で負う。それは路上に転げていく。確かに爆発物――それも導火線がなく、魔導機構にて点火する形式の物だ。
「きゃぁあ!」
女性の悲鳴が響き渡り、母親が子供を抱えて走り出していた。また、ある老人は突然のことに手にしていた杖を手放して転げてしまっていた。
商人たちは店どころではない。のどかな朝市が、一気に戦場の空気に飲まれたかのようだ。
爆発物の球体表面上には複雑な呪術文様が描かれている。それがほの赤い光を放って明滅している。市場に居合わせた市民たちが騒然となる。
そこかしこで、パニックが広がる中、一人カリナは逃げること無く爆発物の方へと一気に駆け出す。
「市民の避難を!」
「はっ!」
警備兵たちに指示を出し、カリナは爆発物への対処を始めた。
「ここから離れてください! 危険です!」
その声に市民たちは速やかにこの場を離れていく。その間にも球体の明滅はさらに進む。
「まずい、爆発する! エリュシオ! 球体周囲に結界を張って爆発を封じ込めるわ!」
『かしこまりました。封印結界発動します』
「封印結界! 作動!」
カリナが聖剣の剣先を上にして垂直に構えると、意識を眼前の爆発物に向ける。すると、レギオンブレイドの十字鍔の中心の宝珠クリスタルが輝いて結界が発動する。それが、爆発物を中心にして球形の魔導結界を形成した。あとは魔導を維持するために意識をどれだけ集中させられるかである。
――ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……――
球体表面の魔導呪文が音を鳴らす。その球体をカリナが張り巡らせた結界が封じる。
その状態で冷や汗をかきつつ、カリナは意識を集中させ続けた。それから数分後――
――ピピピピピ――ピーーーーーーーーーーッ!――
ひときわ甲高い音が鳴り響いたかと思うと――
――ドッ、ゴォオオオオオンッ!――
封印結界のフィールドの形がゆがむほどの爆発が起きた。周囲に軽い振動が響いた。音響がとどろき、閃光が広がった。
第4話までお読みいただき、ありがとうございます。
第5話は、このあと、30分後に投稿予定です。
引き続き『聖剣機兵カリナ』をよろしくお願いいたします。