勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
「――というわけでこれがあなたの体の今の現状よ」
カリナはヒルトから丁寧に症状の説明を受けていた。病室のベッドでくつろいでるところで、体の慢性的な痛みについて相談をしようとしていたときだった。ヒルトから見せられた検査結果データを見て目を丸くしていた。
「ここまでわかるんですか?」
「えぇ、こちらの世界では体の内部についても詳細に判別することができるの。最初のレントゲン検査で長年の負傷の蓄積が判明したから、より詳細な検査を経て、複数の医師で調べ上げたのよ」
「ありがとうございます!」
「治療方針としては向こう2週間ね。その間に複数の科目の先生が同時進行で総合的に治療を進めるからしっかり直しましょうね」
「はい!」
そう語る彼女はまるで母親か姉のようにカリナに対して優しかった。カリナはしみじみと語った。
「それにしても、自分の体がここまでひどかったなんて」
カリナは無意識に左手の小指を触れていた。整形外科医が指摘した変形度合いが一番ひどい部分だ。
「寒いときなど古傷が痛むんです。これはもう治らないのかと思ってました」
「そうじゃないわ、これは、あなたの人生の足跡みたいなものよ」
「足跡――」
「ええ」
ヒルトはカリナを諭すように言う。
「体っていうのはね、人生そのものを体に刻み込んでいくものなの。穏やかな暮らしをしていれば穏やかに。無駄な暮らしをしていれば健康を損ねて体を無駄にしてしまう。逆にあらゆることに命をかけて立ち向かっている人は、困難や苦しみを体に刻み込んでいくものなの」
その言葉に強い感銘を受けながら、カリナは渡されたカルテをしみじみと眺めていた。その中で強く惹かれたのが左の小指の所見だ。
「左の小指、敵と戦っている時に大型の
「それでも曲がったままになってしまったと?」
「はい、なんとか握れるように修正はできたんですけど、物を掴む時に今でも痛いんです」
「やっぱり――、大丈夫よ、整形の専門の先生が治療方法を検討してくれてるから。痛みが残っているなら一つ一つ直しましょう」
「はい! よろしくお願いします」
こうして2週間という時間を使ってカリナはソルスター時代に体に溜め込んだ傷を一つ一つ直していく事となったのだ。
医療施設内にあっては、ヒルトは優しい女性だった。彼女もカリナを妹か娘のように大切に扱ってくれた。その安心感がなおさらにカリナを勇気づけてくれた。
「おくすりの時間よ、ちゃんと飲んでるわね?」
「はい」
カリナには投薬治療が並行して行われていた。感染症対策やワクチン投与も必要だったからだ。だらには精密検査では深刻な生理不順も確認された。医師たちはカリナが長年に渡り勇者としてカリスマ的立場に立ち続けたことで、過大なストレスを受けていたことが原因だと判断した。
「向こうの世界では生理の事はいい治療法が無くて悩んでいたんです」
「どんな治療をしていたの?」
「魔法です。治癒魔法をかけるんですが、生理不順は原因が掴めて無くて気休め程度でしたから」
「そう――、でも大丈夫よ。原因さえわかれば、おくすりで直せるから。生理のお手当ては何を使ってたの?」
「布を当てる程度ですね、あとはその――、そもそも、こちらの世界のショーツに相当する下着がないので」
カリナは恥ずかしながらも、ヒルトに打ち明けた。
「なるほど、それは辛いわよね」
そこでヒルトは生理用品のレクチャーも加えた。
「こんな方法があるんですね――」
「どちらにするかは使い分けて試してみましょう。まずはナプキンで」
「はい、使ってみます」
「生理は女の子には憂鬱なものだけど、ちゃんと管理できるように慣れば、気持ちは軽くなるからね」
女性として細やかな気遣いがカリナには嬉しかった。また、戦闘の傷の後遺症や、眼底出血なども、治療対象だった。
眼底出血を抑えるためレーザー治療が行われた。
「今日は目の治療をするわね」
「はい」
レーザーによる眼底治療は最優先だった。右目の眼底の出血規模が意外と大きかったためだ。
また、手足に慢性化した疼痛も確認された。戦場での負傷により、神経に障害が残ったためだ。
痛みの原因となっている箇所の除圧手術、小指の関節や骨の曲がりを矯正する牽引術、ビタミン剤などの投与による神経回復など計画的に進められた。
「カリナって、本当に長い間、戦場に立ってきたのね」
「え? わかりますか?」
「えぇ、体に戦いの痕が、しっかり残ってるのよ。外見的にきれいに見えてもね」
「やっぱりわかってしまうんですね」
「でも、大丈夫よ。そのために治療があるのだから」
同じ女性としてヒルトはカリナの心と体に優しく寄り添うのだった。
体の不調が、一つ一つ治っていくことで心の方も不安に襲われることが少しずつ減っていった。
眼底出血のレーザー治療、全身の骨格の歪みの矯正、左手の小指の歪み、ワクチン接種、外傷の治療など1つ1つ治療を成功させていく。その丁寧さにカリナはヒルトに思わず聞いていた。
「なぜ私にここまでしてくださるのですか?」
「その問いかけば無意味ね」
ヒルトは笑顔を絶やさずに答えた。
「あなたは今、全く未知の世界でゼロからやり直しをしようとしているわ。だったら再出発をより良いものにするためにも、元の世界で背負った痛みや苦しみをを減らすのは私たち医者の役目よ」
再出発――、その言葉がカリナの胸を打った。そして自分がここにいていいのだと心から覚えるようになっていた。そして2週間目、主だった治療はほぼ終わりを告げた。以前よりも痛みが無く、はるかに軽やかになった体をカリナは噛み締めていた。
「うん! 体が軽い! 痛みがない!」
「そうね、歩き方を見ても無理なく動けているもの」
「はい! 小指も無理なく動きます!」
カリナは左手を何度も閉じて開いてを繰り返した。
「嬉しそうね」
「はい! これなら、また位置からやり直せそうです!」
「その意気よ! あなたに何かが起きても私達が支えてあげるから」
「はい!」
カリナはこのとき初めて、この世界に来てよかったと噛み締めていたのである。」