勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う―   作:美風慶伍

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カリナ、終身栄誉貴族になる ―戦争の終わりを告げる焼き立てのパン―

 その時、古参の魔導剣士である中年男性のアーヴァインがぼやいた。

 

「にしても――帰参したら、諸軍団のお偉方や、王国の貴族やら、王族やら、各都市の名士や、豪商――そう言った連中が謝意を表すとか言って、面会に殺到するだろうなぁ」

 

 ソフィアもぼやいた。

 

「それがあったか……、王族へはこちらから報告に出向かないと――、あぁ、礼服の準備や馬列の同行者の選抜とか――、あ、体の手入れとかも必要――」

 

 と、そこまで言ってカリナをチラ見する。

 

「この3か月風呂なしで行軍してたから体の手入れはイチからやり直しね」

「は?」

 

 ソフィアの言葉に思わずカリナは変な声を上げた。

 

「なんでそうなるんですか?」

「なんでって……当たり前でしょう? あんた、魔王軍を滅ぼしたのよ? 歴史に残る偉業よ? それこそ終身名誉貴族の肩書くらいは硬いわよ? そこいらの貴族の上に立つのよ? 下着から髪の毛の一本まで徹底的に見直すからね!」

「え……ヤルんですか?」

「やるの! 変な匂いさせたままで国王に謁見するわけ行かないでしょ!」

 

 それこそソフィアは〝キーーー!〟と言い出しそうな剣幕である。

 

「終身栄誉貴族――、そうか、それがあるな」と、エルリックもうなずく。

 

 アーヴァインも言葉を漏らした。

 

「ルミナリア王家から、荘厳な邸宅が送られて、諸王国から終身年金が出される。国事儀礼にも引っ張りだこだ。それこそ国家の名誉そのものを生きることになるだろうぜ」

「え……?」

 

 アーヴァインの言葉にカリナは青い顔でげんなりしていた。すると通信兵が言いにくそうに近寄ってくる。

 

「申し上げます――、その件ですが、ルミナリア国軍総本部経由にて、カリナ団長あてに終身栄誉貴族授与が内定したとの報せ。よって帰参次第、軍本部に出頭せよとの事です」

「え?」

 

 唖然とするカリナの脇で、エルリックは努めて冷静に答えている。

 

「行軍工程を消化次第、軍本部に使者を送ったうえで出頭する――、そう伝えろ」

「はっ!」

 

 通信兵が去っていくその姿をカリナは呆然としてみている。

 

「軍本部まで動いてる――なんだか、すごい面倒そう」

 

 途方に暮れるカリナに、言いにくそうにソフィアは打ち明けた。勇者に対してこれでもかと、役目がのしかかってくるのだ。

 

「いいにくいけど、それ加えて政治の場にも担ぎ出されるわよ。きっと」

 

 貴族、軍本部、国事行為、そして、王族との付き合い――無惨なまでのお仕事予定が山積みである。

 ソフィアの忠告にカリナは涙目だった。

 

「なんでぇ!!?」

「だって――、それだけ〝箔〟がついてるのよ。なにしろ、世界を救った勇者ですもの」

「それもそうだな」と、エルリックは神妙に頷いていた。

「それに、俺たちも勇者とともに戦った〝家臣〟として、相応の武功が認められ、高い地位に昇ることとなる」

 

 ミリアも苦笑していた。

 

「そうなれば、今まで通りとは行かないわね」

 

 それらの話を聞いてカリナはげんなりしていた。

 

「なんだか全然嬉しくない――」

「大丈夫よ」

 

 ソフィアがカリナを抱いて慰めた。

 

「これでみんなバラバラってわけじゃないんだから!」

 

 魔王戦の時の気高さからは、想像もつかないほど繊細なカリナだったのである。

 

 

§

 

 

 カリナは隊列を率いてさらに街道筋を歩いた。更に日数をかけたが、ルミナリアの領土内では、各地の駐屯基地を野営地に使うので比較的快適だった。その途上においても、各地で大歓迎を受けたのであるが――

 そして、いよいよ王都に差し掛かろうかと言うときに、都市外縁の市民階級の人々の街角にカリナたちは差し掛かった。

 街角の中央広場に広がるのは、商人や農民たちが品物を持ち寄って屋台の店を並べている光景だった。

 野菜やら、果物やら、加工された肉やら、酒瓶やら、衣類やら、様々な物が売られている。

 

「カリナ――〝市〟よ」と、ミリアがつぶやき、

「昼市ね!」と、カリナも嬉しそうに答えた。

 

 そう――市民市場だ。

 

『戦争が終わって、経済が復活しているのです。人々が豊かに暮らせるのです』

「素晴らしい時代だわ」と、ソフィアも頷いていた。

 

 そこに憂いはない。

 街は活気づき、戦火の気配はない。もう戦いに駆り出される事もないという安堵感が国中に広がっているのがわかる。

 

「もう、戦う必要はないものね」

 

 カリナのつぶやきに誰もが頷いていた。

 そして、行軍の途上、ミリアが何かに気づいたようで、カリナは尋ねた。

 

「どうしたの? ミリア?」

「街の子どもたちが手を振ってるわ。こちらに呼びかけている」

 

 道の少し先で子どもたちが数人集まって手を振っている。その手に何かを持っているようだ。

 

「いいわ、お相手しましょう」

「そうね」

 

 カリナの答えに、ミリアたちは行軍に対して、一時休止の号令を出した。

 アルカナヴァンガードの隊列が足を止め、カリナは隊列から離れて子どもたちの方へと歩いていく。カリナの姿を見つけた、子どもたちが息せき切って駆け寄ってきた。

 

「勇者様!」

「聖剣の巫女様!」

 

 子どもたちは口々にカリナの尊称を口にする。カリナは少女たちに笑顔で応じた。

 

「ご帰還、おめでとうございます!」

「魔王討伐、本当にご苦労さでした」

「ありがとう!」

 

 噂というのは本当に早い。もう王都に魔王討伐成功の知らせが広がっているのだ。

 

「なにか御用かしら?」

 

 カリナはにこやかにそう問いかけるが、子どもたちは緊張している。〝あの〟勇者たるカリナに話しかけるのだ、緊張して当然だろう。

 子どもたちの中で一番の年長の少女が手にしていた籠を差し出す。

 

「これをカリナ様に」

 

 籠の中身には布を被せてあるが、カリナは籠を受け取りつつ少女に尋ね返す。

 

「何かしら?」

「カリナ様に、ぜひ召し上がっていただきたくて」

 

 布をめくれば中には焼き立てのパンが色々と詰まっていた。まだ湯気が立っているから焼き上がったばかりだろう。

 

「お父さんとお母さんがパン屋を始めるんです。私もお店を手伝い始めました」

「パン屋をご家族で?」

「はい!」

 

 少女は思いっきりの笑顔で答えた。

 

「戦争が終わって、お父さんが軍隊から帰ってくることになったんです。それで軍から俸禄が出たので」

「お店を始めたのね」

「はい!」

 

 少女は満面の笑顔で答えた。そこにはまさに〝幸せ〟があらわれていた。

 戦争は子どもたちから父親を奪う。死ぬこともある、容易には家族の元へ帰ることすらできない。家庭が引き裂かれる悲劇をカリナは知っていた。

 だが、少女が渡してくれた焼き立てのパンが、悲劇の世界は終わったのだとカリナに教えてくれる。

 それは何物にもまさる喜びであり宝物だ。

 

「ありがとう! 大切にいただくわ」

「はい!」

 

 少女が笑顔で頭を下げてくる。そして、子どもたちは丁寧に頭を下げながら家族の待つ場所へと帰っていくのだった。

 

「素晴らしいわ」

『はい、戦った甲斐がありましたね』

「えぇ」

 

 戦いの苦難を身を持って知っているだけに、少女が手渡してくれたパンを巡るドラマには、カリナも心を熱くさせられた。 

 だが、ささやかな平穏な朝にも、不穏な影は差すのである。

 




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