聖剣機兵カリナ ―魔王を倒した少女勇者は、AI戦争の未来世界でも人類を救う― 作:美風慶伍
見知らぬ大地へのいざない ―日没の鋼の世界―
今、時間は夕暮れ、地平遠くに太陽が沈む中、周囲は荒涼とした風景が広がっている。
その真っ只中にカリナは放り出されていた。かつては豊かな農地が広がっていただろうことは感じ取れるが、今残されているのは農作物ではなく戦いの爪痕たる荒れた大地と、打ち捨てられた鉄くずの数々だ。
それも見慣れぬ形状のものばかり。不安と恐怖が怒涛のように押し寄せる。そんな彼女の心情を察したのか人工精霊のエリュシオが語りかけてきた。
『マスター! 落ち着いてください! 頭の中から思い込みを排除してください。眼の前の現実を受け入れ、判断する〝材料〟を手に入れるのです』
「判断材料――」
『そうです!』
信頼するエリュシオの言葉にカリナは我に返った。自分の心が平静を失いかねない状況にある事を理解し、努めて自分自身に言い聞かせる。
「そうだ情報だ! 状況についての情報を手に入れないと」
そう唱えつつ、腰に下げている愛用の剣の柄をしっかりと握った。
今、カリナが身につけているのは元居たソルスター世界における戦士系職業の標準的な礼装衣装だ。ホーズと呼ばれるズボンを履き、その上に木綿地の丈夫なアンダーガウンを纏い、その上に
「ここ、どこなの? まだ早朝だったはずよ?」
焦る気持ちを抑えながら周囲を見回す。そこは明らかに人の営みに溢れた平和な都市部ではなかった。空に茜色がさし、地平線には薄っすらと星空がみえる。そして今のカリナの視界には異様なものが数え切れぬほどに転がっていた。
「鉄の塊? それにしては生き物っぽい――」
『生物と言うより魔獣に似ていませんか?」
「魔獣? 鉄の魔獣の死骸?」
それはカリナも散々見慣れた魔獣に酷似していた。まさに〝鋼の獣〟――、その死骸の群れを彷彿とさせる。
二脚歩行の人型、四脚歩行の獣、あるいは馬車などのように大型の車輪を備えたものもある。形状、種別、多種多様だ。
「たしかに――、生きている気配はないけど、姿かたちから見てもすごく似ているわ、〝魔王軍〟の配下の魔獣や兵卒たちに」
カリナは周囲を警戒しつつ歩いてさらに状況を見回し続ける。夕暮れの暗がりの中で逆光となり、その鋼鉄の遺骸は不気味な沈黙を守っていた。
「四脚歩行が〝重突撃型〟――翼のあるものが〝翼竜〟と同じ空からの〝警戒任務用〟、二脚歩行の人型が巨人や大型のゴーレム――、そう考えると無作為に集まったものではなく、ある意図を持って編成された〝軍勢〟と考えるべきだわ」
『軍勢? 魔王軍以外の?』
「えぇ、その可能性が高いわ、もっとも――」
カリナの視線は馬車や牛車のような車輪を持ったワゴンのようなものに向いている。
「この、ワゴン車両に大砲が据えられたような物は見たこともない。魔法アカデミーや各国の兵器工廠で作られていた話もない。だとするとここは――」
『まったく別な文明の支配する世界』
エリュシオの言葉にカリナは冷や汗をかきながら頷いた。エリュシオはさらに助言を与える。
『何が起きるか分かりません。十分にご注意を』
「もちろんよ」
お互いに注意し合いながら慎重に歩みを進める。そして、砲塔の付いたワゴン型の鉄塊が横転している箇所を通り過ぎる。
――フゥィィイン――
何かが唸るような音がする。
「えっ?」
音のする方に視線を向ければそこには――
「赤い瞳?
巨大な赤い隻眼の1つ目のバケモノが横たわっていたのである。
「まるで未知の鋼の化け物たちの溢れる世界だわ」
『言うなれば――〝鋼の世界〟』
「鋼の世界――」
カリナが腹の奥底が恐ろしく冷えるような感覚を味わっていた。
「とんでもないところに飛ばされてきたものだわ」
焦りとともにそう呟いた時だった。
――ヴォオンッ――
その隻眼はそれまで眠りに付いていたかのように静かだったが、カリナの気配を感じたのか目覚めるように赤い光を放った。そして――
「こいつ、動く?!」
その赤い瞳の巨体は横たわっていた体を起こし始めた。ただし、人型ではなく四脚歩行で獣のようなシルエット、それも獅子か豹を思わせる攻撃的な肉食獣タイプだ。
「エリュシオ! 戦闘準備!」
『了解、戦闘支援を望める〝英霊〟を探します」
愛剣である聖剣レギオンブレイドを抜刀して構えつつ、カリナは敵を凝視する。不測の事態に不安を感じていたが、それでも倒すべき敵の状況を冷静に判断する頭は残っていた。
「お願い! 鋼の肉体を撃破可能な魔法か斬撃能力が望める人を探して!」
そうエリュシオに語りつつ敵の状況を把握する。
「四脚歩行の肉食獣型――、しかし、左の前足と後足を負傷しているため移動力には制限があるわね。ならば頭部を、特に目を潰せば!」
――ブオオオオォオン! ギィィギギギギ――
敵は負傷した体を軋ませながら立ち上がろうとしている。人間に対する敵意をむき出しにするかのようにだ。
「この敵の手の内がわからない以上、一気に潰すほうが得策だわ!」
カリナがそうつぶやいたときだ。エリュシオが叫んだ。
『マスター! 大変です。〝英霊召喚〟ができません!』
「えっ? どういう事?」
『英霊が存在する霊的世界が見つかりません! 私が普段行使している〝霊的接続〟が繋がっていないんです! 英霊の存在を探索するのに必要な〝英霊神命簿〟にも
「そんな!? どうして?」
予想外の事態にカリナが不安を抱くと同時に、鉄の獣は残る脚を駆使して立ち上がり這いずるようにカリナに迫ってくる。まるで命を持つ者全てを敵視するかのようだった。
第2章第1話までお読みいただき、ありがとうございます。
本日も『聖剣機兵カリナ』を更新していきます。
30分後に次のエピソード公開です。
カリナの新たな運命と戦いを、引き続き見守っていただければ幸いです。