勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
エレナの工房のガレージ、そこにはヴァンガードを整備のために固定するハンガー設備が3台分あった。
その中の一つに歩み寄り、カリナはヴァンガードをみあげた。
「これに私が乗るわけですか?」
「そうさ。この世界におけるアイアンオーダーに対抗できる唯一の手段だ。今までの奴らとの戦いの中で必要な要素をたくさんの人間たちの手により積み上げてきた。
――シャドウスティール・ヴァンガード――
通称【ヴァンガード】、人類は皆、こいつに命をかけてるのさ」
「
カリナはヴァンガードを足元から見上げながらも不安げだった。そんな彼女にエレナは問いかける。
「中を見るかい?」
中とは操縦席のことだ。
「お願いします」
エレナはカリナを招いて機体定置用のハンガーの階段を上がっていく。機体の胸のところが操縦席となり胸の上面と頭部が持ち上がり口を開ける。中には人間が1人入れるだけの座席があった。
「これがヴァンガードの標準的な操縦シートさ」
興味深げにカリナは操縦席を眺めている。
「この機械の所有者は誰ですか?」
少しの沈黙の後にエレナは答えた。
「死んだよ。敵の攻撃の直撃を食らってね」
その言葉にカリナの表情は一瞬緊張した。
「しかし操縦席以外は無傷だったから回収して修理してたんだ。あたり一面に血糊と腐臭がこびりついていたが掃除した」
その話を耳にして思案していたカリナだったが言葉を返す。
「戦死者の持ち物を再利用しているのですね」
「当たり前だろ。負けられない戦争をやってる。物資も足りない。ならば使える物は死体から剥いででも使うさ」
それは当然の話だ。決して間違ってはいない。
「私も経験があります。物資不足で装備が足りない時、戦場の死体から鎧や武器を剥ぎ取って使うのは珍しくありません」
「いずこも同じだね」
「はい、戦場では勝とうが負けようが生き残ることこそが第一義ですから」
それはハイテク世界でも、魔法世界でも、決して変わらぬ真理なのだ。
エレナは感慨深げに息を吐いた。
「これは、久しぶりに肝の座った新兵が来たね」
「中に乗ってみていいですか?」
「ああ」
カリナは一歩一歩確かめるように操縦席の中に入っていく。シートに体を預けて視線を周囲に巡らせる。
「お嬢ちゃん、ハッチを閉めてみるかい?」
「お願いします」
エレナが外部操作で機体に火を入れると乗降ハッチを閉じていく。
ジェイもルーカスもそれを無言で見守っていた。
機体に電力が入る。アイドリングモードで制御システムが作動する。操縦席の中で様々な情報がモニターに表示され、機体のカメラから得られた外の風景が映し出される。
それを前にしてカリナは自分の心をどう落ち着けるべきか必死になっていた。しかし操縦席の中でついに操縦レバーに手を触れることはどうしてもできなかった。
それから5分間後にハッチが開いた。カリナは硬い表情のまま降りてきた。じっと見守るエレナにカリナは告げる。
「少し時間をください」
「どうしたビビったのかい?」
「いいえ」
帰ってきたカリナの視線は戦意を無くしてはいない。
「この機械に体を委ねて戦っている自分の姿が想像できないんです」
カリナはルーカスたちにも視線を向けたが機体を再び見つめた。
「私は剣と魔法の世界の人間です。せいぜい馬に乗る程度です。ましてや鎧を着るのとも違う。これに乗り戦場に出るということがどういうことなのか? 頭と心がついて行っていない。この世界のために戦う気概はあります。ですが――」
悩んでいるカリナの肩をエレナは叩いた。
「正解だよ」
「えっ?」
驚き振り返るカリナにエレナは言った。
「こっちの世界の人間だって初めて乗る時は覚悟がいるもんさ。安請け合いして戦場に出て一発で殺られたやつを腐るほど見てきた。何のために戦場に出るのか、どうしてこれに乗るのか、それが分からないやつにはこれを委ねられない。前の持ち主がそうだった。なまじ機械操作がうまくてやる気ばかりが空回りして、戦場で突っ走って狙い撃ちされたのさ。そう言うのは願い下げさ」
エレナは階段を降りていく。
「時間はたっぷりある。飯でも食いながら好きなだけ悩みな」
カリナも後を追い階段を降りていく。途中何度もヴァンガードの機体を見上げ己の覚悟を問うていた。